美化係の聖女様

しずもり

文字の大きさ
上 下
51 / 54
ラナダの町

異変 side ウィル

しおりを挟む
「なぁ、一体、どういう事なんだ?」

俺は咎める様な口調でに尋ねた。

「何がじゃ」

赤い瞳が愉しげに俺を見ている。

分かっている癖に!


「前に言っていただろう?お前のが勝手に漏れ出る、と。

だが、お前が来る前からあの町は、何であんなに ー 」

俺が言い切る前に笑い出したは俺の命よりも大切な息子リュシアンだ。は魔王の意識が表に出ているが。

リュシアンは本当に魔王の生まれ変わりだった。

二歳になったリュシアンは二語か三語の言葉を偶に口にするぐらいの無口で大人しい子だ。

しかし魔王の意識が表に出ている時は流暢に話す。愛らしいリュシアンの容姿で、少々年寄り臭い話し方で喋るのには違和感がある。
そうして俺はリュシアンの中に、リュシアンではない魔王何かが存在している事を嫌でも認めるしかないのだ。

リュシアンが魔王の生まれ変わりだと知った日。俺は夜の闇に紛れてあの村を出た。

魔王は日中、表に出てくることは無い。だからそのまま村で暮らすことも出来たかも知れない。

だが、村人たちのリュシアンに対する態度には我慢の限界だった。その上、リュシアンが怪我をしても直ぐに元通りになってしまうだと知ってしまった。

それを村人に気付かれでもしたら、リュシアンは正真正銘の魔王の生まれ変わりとして命を狙われてしまうだろう。

あの勇者村の村人たちは大昔の栄光に縋り続け、そして今度はがこの国の人々から称賛を受ける為に、リュシアンを殺そうとする筈だ。

まだ幼いリュシアンならば、容易に倒す事が出来る、と。

そう思ったら、村を出て行くという選択肢以外残っていなかった。

それからは魔王の言う通りにを目指し、なるべく人目を避けて旅をしている。
魔王本人は人間の作りだす料理に興味津々で村や町に寄りたがる。

特に問題が無ければそれでもいい。

だが魔王曰く、無意識の内に魔王の力が漏れ出てしまうのだそうだ。

魔王が言うには、魔王の持つ力が強すぎる為、人であり、まだ幼子のリュシアンには、それに耐え得る器が出来ていないという。

だから魔王は一日の殆どをリュシアンの中で眠っている。それでも知らずに漏れ出てしまうというのだから、魔王本来の力がどれほど強大なものだったのか、と考えるだけでも恐ろしい。


「まぁ、あれはなぁ。我が生まれた事に関係するのだろうな」

俺の焦りなど気にするでもなく、スープに入っているボア肉をスプーンで掬おうと必死に格闘している。

俺が見兼ねて、変な握り方をしていた小さな手からスプーンを取ると、椀の中のボア肉を掬って口へと運ぶ。

魔王コイツは嬉々として大きく口を開くが、口の中に入った肉の量の少なさに顔を顰める。

「子どもの体は不便だのう。美味しい料理を口一杯に頬張りたくとも、一度に入る量はほんの僅か。その上、直ぐに腹がはち切れそうになる。早く大きくなりたいものじゃ」

「そんな事よりさっきの話だ。魔王のお前がリュシアンとして生まれ変わった事と、あの町で魔素があんなに発生していたのはどう関係しているんだ?」


「お前はせっかちだなぁ。我の食事が終わるまで待てんのか。
だが、まぁ良い。このスープは美味かったからのう。お前、また料理の腕が上がったのじゃないか?」

俺を『せっかちだ』と言いながら、それでもまだ料理の話をする魔王こいつに苛々するが、気まぐれにしかに出て来ない事を考えれば、話し出すのを大人しく待つしかない。

それに今の中身が魔王だとしても、姿は可愛い我が子のままだ。むやみに怒鳴りつけるのは避けたい。

「あぁ、そうだった。そうだった。何、単純な事じゃ。

目的地に近付けば近付くほど、魔王に縁のある場所やは多くなる。

そしては、我がこの世に再び現れた事で敏感に反応しているのじゃ。

所詮、我は魔王の魂を持って、人として生まれ変わったに過ぎぬ。じゃがは魔王の力が強大であった証でもあるのだろうさ」

何が面白いのか、楽しそうに笑うに、噛み締めた奥歯がギリッと音を立てる。

あぁ、俺はこのまま魔王コイツの言う通りに、あの場所に行っても良いのだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」及びエールでの応援もありがとうございます。


承認不要との事で承認しておりませんが、嬉しい感想をありがとうございました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
恋愛
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

処理中です...