美化係の聖女様

しずもり

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旅の出会い

壁ドンッ、ならぬ・・・。

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グルルルルッ。


立ち上がった瞬間に聞こえてきた低い唸り声の方に目を向けると鬱蒼とした木々の中、赤く光る二つの目。


うん、たぶん目が光っているんだよね、アレ。


立ち上がった私よりも高い位置に見える二つの赤い目、という事はどれだけ大きい獣なんだろう。


マズイ!非常~にマズイ!


一目散に逃げ出したいけれど、こういう時って背中を向けて逃げ出しちゃいけないんだっけ?


音を立てない様にそーっと一歩、横に動いてみる。


ピキッ!


グルルァァ!


「うわっ!」

細い枝を踏んだ音に獣が反応して更に大きな唸り声を出す。
怖いけれど" 目を離したらダメだ!"という気がしてジッと赤い目を見続けていると、まだ昼間な筈なのに唸り声のしている方は真っ暗で今はよるなのかと思うぐらいに何も見えない。


ただ赤い目だけがユラユラと揺れて見えている。


ん、ユラユラ?


まさか、、、、こっちに近付いて来ている?


音を立てないように足を上げずに踵を浮かせてつま先で後ろへ一歩、交互に反対の足も同じように一歩下がる。まるで出来損ないのムーンウォークみたいに。


そんな状態を一、二メートル繰り返すと真っ黒な足らしきものがのっそりと暗闇の中から出て来た。


一歩、二歩とゆっくりと唸り声を上げながら暗闇の中から出て来たは獣のようでいて何なのか?


もしかして、、、魔獣?


目が赤くて、真っ黒なモヤが体全体を覆っていて、、、しかも今にも襲ってきそうな唸り声!


赤い目がある位置からすると象並みの大きさぐらいありそうなんだけれど、黒いモヤに覆われているので全体がよく分からない。


私の歩幅と魔獣の歩幅は大きく違っているからジリジリと距離が縮まって、前へ踏み出してくる黒い足はライオンとか虎のような足に見える。


象クラスのライオンとか虎に噛まれたら即死じゃない?



「ど、どうすれば、、、、。」


ソッと肩から掛けている魔法鞄ポシェットを手をあてて武器になりそうな物は無いかと考える。


箒とかハタキとか、、、、この魔獣相手じゃ戦闘力ほぼゼロだよね。


んんっ?黒いモヤ?


黒いモヤなら生活魔法綺麗にな~れで消えてくれる!?
悠長に唱えている間に捕食されそうだけれど、、、。



綺麗にな~れ!


一歩後退りながら心の中で唱える。


グルッ!?


魔獣の足が止まる。



綺麗にな~れ、綺麗にな~れ!


グッ。



連続して唱えたら、足が止まっただけでなくちょっと苦しみ出したみたい。


ゴメンね。別に苦しませようとしている訳じゃないんだよ。君に纏わりついている黒いモヤを消したいだけなのっ。


苦しみ出した魔獣に申し訳なくなって気が緩んだ瞬間ー。



グワァァアッ!!


突然、魔獣が大きな唸り声というか森中に響き渡るような咆哮をあげた。



マズイッ!怒らせた!?


そう思った瞬間に本能からか、魔獣に背を向けるとか直ぐに追いつかれてしまうとか考えずに思わず思いっきり走り出していた。


足元でバキバキとなる木の枝や落ち葉を踏みしめる間近の音よりも後ろから追ってくる音の方が耳元で聞こえる気がしてあっという間だった。


あっという間に私は地面に押し倒されて仰向けになっていた。


両肩には魔獣の前足が乗っていて痛みよりもメリメリと地面にめり込んでいくような感覚になる。


人生初の" 壁ドンッ "ならぬ、" 地面にドンッ "はトキメキよりも命の危機に心臓が鷲掴みにされたよう。


グルルルッ。


ポタリと魔獣の口からよだれが頬に落ちてくる。魔獣の足を押し退ける力は無いし助けも望めない状況に死を覚悟する。


こんなところで人生が終わるのかぁ~。



・・・・・・・。



嫌だっ!


恋人と親友に裏切られて、気付いたら訳分からない世界に来ててそれで魔獣の餌になって終わり?


そんな人生なんて嫌だ!!


両手を魔獣の前足に伸ばして触れる。掴めはしないけれど、太い前足のおかげでなんとか触れる事が出来た。



「綺麗にな~れ!綺麗にな~れ!綺麗にな~れ!


ついでにその真っ黒な体を洗ってピカピカにしてやるっ!!!」


大きな声で思いっきり叫んで、最後は八つ当たりなのか何なのか。とにかく黒いモヤを消したくて叫びまくっていた。


その時、暗い森の中が魔獣を中心にして一瞬明るくなった。


クゥンッ。


急に魔獣の前足の力が弱まって犬の鳴き声みたいな声が頭上から聞こえてきた。


と思ったら急な明かりに体勢を崩したのか、魔獣が私の上へとへにゃりと崩れ落ちてくる。



重っ!


「重い、重いっ、圧死するぅ~!!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ここまでお読み下さりありがとうございます。












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