美化係の聖女様

しずもり

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旅の出会い

先行き不安からの・・・・。

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乗合馬車の乗客は私一人だった。

え、少なくない?

って思ったけれど、考えてみればアサド村からガーナの街に来た時も乗客は一人だったね。


ガーナの街がアサド村よりも人が多くて賑やかだったからウッカリ忘れていたけれど、ガーナの街だって位置的にはこの国の最西端に近い場所だった。


 それよりも気になるのが御者さんが超無愛想な感じなんだよねぇ。
そりゃ、話に夢中になられても不測の事態が起きた時にすぐに対処出来ないとかあるだろうけれど、乗車賃を渡して挨拶した時も一言も話さなかったんだよね。


 ルーナさんから聞いた話だとトイレ休憩や食事休憩を抜かしたら次の町に着くまでに六、七時間掛かるんだって。
どおりで馬車の出発時間が早かった訳だよ。

乗合馬車はガーナと次の町クインズを往復しているそうで、町に着くと荷物を下ろして一泊し荷物と乗客を乗せてガーナに戻るらしい。
それもアサド村から乗った馬車と同じだね。


そんな感じで乗合馬車のそこそこ長い旅路で、乗客が私だけで全く会話が無いのは非常に気不味い。

何となくタクシー乗ったらめちゃくちゃ無愛想な運転手だった時に似ている感じだな。
そういうのが気にならないタイプの人間なら問題無いけれど、私は気にするタイプなんだよねぇ。


 何度か" 今日は天気が良いですねぇ。"ぐらいの言葉を御者さんに向けて話し掛けてみたんだけれど、軽くスルーされてからは大人しく黙って乗る事に決めた。
この御者さんは無愛想というよりかはやる気が無いとかこの仕事が好きじゃないとかなのかも知れないなぁ。


そんな感じで会話する事を諦めてしまった私は、最初のトイレ休憩を過ぎてから少しだけ後悔する事になる。



 ガーナを出発して二時間ぐらい経ったところで村というよりは集落と呼んだ方がいいのか、数軒の家がある場所でトイレ休憩になった。
ここでガーナの街から運んで来た荷物を幾つか届ける事になっていたようで、御者さんは荷物を持って一軒の家を訪ねていた。


そんな集落で"『公衆トイレなんてあるの?』と思うでしょ?

うん、無かったね。突然、家が幾つかある集落で馬車が止まったかと思ったら、座席の方にやってきて『便所はどっかの家で借りて。』と私の顔を見ずに言って荷物を持ってサッサと何処かに歩いて行ってしまったの。


後ろ姿を目で追いかけていたら、荷物を家に運んで何か立ち話をしてた、というなんとも不親切な対応で完全に会話をする事を諦めちゃったんだよね。


結局、トイレにも行かなかった。

だって、いくら小さな集落だとはいえ、外に誰もいないんだよ?
誰か居るのかどうかも分からないのに、家を訪ねて『トイレ貸して下さい。』と言うのは中々勇気がいるよねぇ。


まぁ、トイレに行きたい気分でも無かったからいいか、と思ったんだよ。

それで散歩するほどの広い場所でもなく家の近くをウロウロするのも気が引けて、座席に座って大人しく馬車が出発するのを待っていた時だった。


その集落は周辺を小さな林に囲まれているような場所にあったのだけれど、その林がなんとなく気になってしまった。


何か音が聞こえた訳でも無いし何かを見かけた訳でも無い。
だけどなんとなく気になって林の方をチラチラと見るけれど何も見えない。


何か嫌だなぁ、って気持ちだけ。


だから思わず早くこの場から離れたいな、って心の中で思ってしまったの。

" 無事に次の町に着きますように。"

コッソリと心の中で祈ってしまうぐらい何故だか不安な気持ちになってしまっていた。


私がトイレに行く素振り見せなかったからか、御者さんは荷物の受け渡しが済むと割と直ぐに馬車に戻って来て出発した筈だ。

でも私には待っている間が凄く長く感じて、馬車が出発した時にはホッとしてしまったんだよね。


その集落を離れればそんな気持ちも収まるだろう、と謎の緊張感から解放されたからなのか、馬車の揺れに眠気を誘われていつの間にかウトウトと眠り込んでしまっていた。


どれぐらい眠っていたのか、分からないけれどハッと目が覚めたら馬車は止まっていた。
両サイドに森が広がっているだけの何の変哲もない場所に止まっている馬車に首を傾げて前をよく見たら御者さんがいない!?


「え、何で?」


思わず独り言が出てしまうほど驚きなんですけど?


恐る恐る馬車から降りて馬車の前方に回ったら、道端に生えている木に適当に縄みたいので雑に括られている。

元々、乗合馬車は小さな荷馬車と変わらないぐらいの大きさで馬も一頭のみだった。
ちょっと歳のいっている馬なのか、若々しい力強さを感じない草臥れたような馬だったのでこんな結び方でも馬は動かないのかも知れない。


だけれど御者さんは乗客を置いてどこ行ってしまったの?


トイレ?急なトイレかな?


そういう事なら寝ている私を起こしてまで言う事は無いか、と馬車の周りでウロウロしていたけれど中々御者さんは戻っては来ない。


え?私、これどうしたら良いの?


一人で悩んでいたら不意に左側の森から嫌な気配みたいなのを感じた。
そう、あのさっきの集落の時に似た感じの。


「御者さ~ん。」


小さな声で森の方に向かって呼んでみる。でも反応なし。



グルルルッ。


何、今のっ!?


確実に御者さんではない何かの唸り声が左側の方から聞こえるんですけどっ。


「御者さ~ん、何処に居るんですかぁ。返事をして頂けると助かるんですけど~。」


さっきよりもちょっと情けない声になりながらもう一度呼んでみる。


グルルルルッ!


うん、唸り声が返事をしてくれている?


「うわぁぁぁぁぁっ!!!」


突然、左側の森から聞こえてきた叫び声に驚いたけれど、もしかして御者さんの声かな?
殆ど聞いた覚えは無いし叫び声だからよく分からないけれど、こんな人気の無さそうな場所で他に人が居るとも思えない。


「うわぁぁぁ、だ、だれかっ!助けてくれ。」

その声に思わず何も考えずに森の中に入ってしまってから焦る。

私が助けに入っても何も出来ないよね?


でも足が動いてしまったんだから仕方がない。叫び声は割と近くから聞こえてくる。

「大丈夫ですかっ?」

私が声に出したのと目の前に人が飛び出てきたのはほぼ同時でぶつかりそうになる。
目の前の人物はやっぱり御者さんだった。


「何があったんですか?」


御者さんが無事なのと一人じゃなくなった事に安心して声をかけた。


「お、俺はまだ死にたくねぇ!」

「へっ?」

御者さんの切羽詰まった声に間抜けな声が出た瞬間、私の横を通り過ぎる御者さんに背中を押されて前へと突き飛ばされた。


そのまま馬車のある方へと御者さんは走ってしまったけれど、無様に転んでしまった私はすぐには起き上がれない。


マジか。


何かの唸り声にビビったとしても女性を突き飛ばして一人で逃げ去るって酷くない?


流石の私でもムッとして『馬車に戻ったら絶対文句を言ってやる!』と思いながら立ち上がったところで、前方に何かが居る事に気がついた。


グルルルルルルッ。


あ、コレ、絶体絶命のピンチってヤツじゃない?



ーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。

更新頻度低めの当作品にお付き合いありがとうございます。
亀更新ですが、必ず完結はさせるので気長に広い心でお付き合いして下さると嬉しいです。
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