美化係の聖女様

しずもり

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ガーナの街にて

彼と僕のその後の話 side ウィル

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『彼と彼の話 side ????』の続きの話になります。

出産に関して少しだけセンシティブな内容が出てきます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


息子リュシアンは難産の末に生まれた愛する妻サーシャの忘れ形見だ。


そう、サーシャの体は回復せず、リュシアンを産んだ三日後に儚くこの世を去った。


リュシアン。


この名は出産後、まだサーシャの意識のあった時に彼女が付けた名前だ。


僕の髪は金色で青い目をしていて、サーシャは銀色の髪に空色の瞳だった。


けれどリュシアンの髪と瞳は二人のどちらにも似ていなかった。


黒髪に赤い瞳。


リュシアンを取り上げた村唯一の産婆は、サーシャが亡くなると同時にリュシアンの髪と瞳の色を村中に言って回った。


それを聞いた村人がどう思うか分かっていた筈なのに。


彼女は態々こう言ったのだ。


「半端者のウィルとよそ者のサーシャの子は、初代魔王と同じ黒髪赤い瞳の男の子だった。」


勇者の血筋を誇りとして生きる村人たちはという言葉にも敏感だった。


元々、村で浮いていた僕に村人ではないサーシャの子。


 生まれたばかりでまだ殆ど目が見えていないだろうけれど、リュシアンの瞳は赤い綺麗な宝石のようにキラキラと輝やいていた。
 それなのに黒曜石のような色合いの柔らかな黒髪でこんなに可愛いらしい子なのに、どうして魔王と同じだなんて言えるんだ?


 僕はサーシャを喪った悲しみに浸る事も出来ずに、嫌な目でリュシアンを見る村人たちに憤っていた。


産婆はただ自らの過失を僕に糾弾されない為にリュシアンの容姿を持ち出したのだ。

だってサーシャが産気づいてから彼女が僕の家にやって来たのは、既にサーシャの意識が朦朧としていたぐらいの長い時が過ぎてからの事だったから。


 最初に僕が呼びに行ってから彼女が来るまでの間、彼女が何をしていたのかなんて知らない。けれど呼びに行った時、彼女は村の仲間と宴の最中だった。孫娘の嫁ぎ先が決まったとかで。


 僕は何度も一緒に来てくれるように頼んだけれど、『腹が痛くなったぐらいじゃ直ぐには生まれない』、そう言って取り合ってはくれなかった。
長い間、サーシャを一人にはしておけなくて僕は家に戻り、出来る限りの出産の準備と彼女を励まし続けた。

 このままではサーシャも子も危ないのでは?と危機感を抱いた時、酒臭い息を吐きながら産婆はやって来た。
文句の一つも言いたいところだったけれど、それよりもサーシャの身が心配だった。サーシャの様子にもう出産する力が残っているようには見えなかったから。


流石に産婆もサーシャの様子に顔に焦りの色が見えた。僕は何度も何度もサーシャの名を呼び、励まし長い時間をかけてリュシアンはこの世に生まれてきた。


 僕は産婆を責める事はしなかった。それなのに彼女は僕に非難されるのを忌避したのか、まるでリュシアンの所為でサーシャが亡くなったかのように吹聴し始めたのだ。


確かに初代魔王は黒髪赤瞳だったと言い伝えられている。


だが、それがどうした。
サーシャが命を賭して産んだリュシアンが一体何をしたって言うんだ!?


 村では次第にリュシアンに対して"魔王の生まれ変わり"などという根拠の無い言葉がヒソヒソと囁かれるようになっていた。


そして迷惑極まりない事に、リュシアンが生まれて半年後、例の産婆が酔っ払って川に落ちて亡くなった。


それを聞いた時、僕は自業自得としか思わなかった。


だが村人たちは違った。


 産婆の死をの所為にした。それも生まれ変わりのリュシアンの所為だ、と暗に言っているのだ。


『リュシアンの所為だ』、『魔王の生まれ変わりなどと関わり合いになりたくない』などとそう言いながら、森で食用の魔物を狩って帰ってくれば『村では助け合いが重要なんだ』と当然のように言って肉を強請ってくる。


村の皆は認めないが、村で一番強いのも、狩りが上手いのも僕だった。


 リュシアンは全く手のかからない子で、狩りをする時も僕の背中でスヤスヤと眠る大人しい子だった。


 どれだけ僕が村に尽くしても、どんなにリュシアンが手の掛からない大人しい子でも、それでも村人たちはリュシアンを居ないもののように、けれど嫌な目つきでヒソヒソと何かを噂する。



もうこの村を出た方がいい。


やっと決心したのは今から半年前の事だろうか。


 二歳になったリュシアンは相変わらず大人しい子で口数も少ない。会話する事は殆どないと言った方がいいだろうか。

 単語を幾つか言えるようになったぐらいで、喜怒哀楽の感情表現も乏しい。しかし、僕の言っている事は理解しているし同じ年齢ぐらいの子どもに比べれば、理解力もあり格段に聞き分けの良い子だと言える。


そんなリュシアンだから自ら村の人たちに近寄る事も無ければ、子どもたちにさえ話しかける素振りもしなかった。


 ある日、僕がリュシアンを残して家へと彼の上着を取りに戻ったところ、すぐに庭先で子どもたちが騒ぐ声が聞こえてきた。


僕が慌てて戻ったと同時にゴンッと鈍い嫌な音が聞こえた。音の先を探せば庭でリュシアンが倒れている。垣根の外にいた子どもたちは僕の姿を見て慌てて逃げ去って行く。

「魔王を倒したぞ~」

「ちがう、ちがう!俺が倒したんだ~」


 リュシアンよりも数歳は大きいだろう子どもたちが口々に笑いながら言って去って行く姿に、何か言うよりもリュシアンの身が心配だった。リュシアンが倒れている側には大小様々な石が転がり落ちていたからだ。


駆け寄り抱き起こしたリュシアンは、こめかみ辺りから真っ赤な血をダラダラと流していた。


慌てて家へと運び、傷口を何度も水で浸した布で拭き取る。



どうしてリュシアンがこんな目に遭わないと行けないんだ!


怒りよりも哀しく、けれど今はリュシアンの身が心配で綺麗に傷口を拭いた後に常備していた傷薬を塗って布を巻いた。


真っ赤な鮮血がリュシアンの着ていた服を染めあげるように付着していたが、所詮は子どもの力で、そう強い力で投げられてはいなかったようだ。


ホッとしていた僕は翌朝、ある事に気付いて絶句した。


傷薬を塗り直そうと布を外し、傷口をもう一度綺麗にしようと濡らした布で拭くと昨日はリュシアンのこめかみに確かにあった傷がすっかりと無くなっていたのだ。


切れてはいなかったが、それでも血が流れ出る程の傷があったこめかみにはツルンとした瑞々しい肌があるのみ。


どうしてっ!?


思い返せば、あんなに血が流れていたのに傷口はそれほどでも無かった。もう既にあの時も治りかけていたのか?


何故?どうして?


まさかリュシアンは聖魔法がー?


その考えが頭を過ぎった時、その考えを嘲笑うかのような笑い声が聞こえてきた。


「クックック』


その笑い声は低い声とは到底かけ離れた高い声で、しかもどう聞いても大人の声では無かった。


「リュー?」


 腕の中のリュシアンに視線を戻せば、赤い瞳をキラキラと揺らめかせジッと僕を見つめているリュシアンと目が合った。


「まさかわれを石で目覚めさせるうつけがおるとはな。クックック』


およそ二歳児の喋り方とは思えない口調で、リュシアンの口からは更に信じられない言葉が出てくる。


我、とは?


「・・・リュ、シアン?」


どうしてもリュシアンに対して、" お前は誰だ? "などとは口にしたくなくて、絞り出すような声で名を呼ぶ。


「なんだ、父上?」

揶揄うような声で返事をしたのは、、、一体、誰なんだ?


気付きたくないのに、" もう答えは出ている "というようにニヤニヤと笑う僕の息子はー。


「この村の者は愚かだが、が我ののだろうなぁ。クハハハハッ。これほど愉快な事はなかろう?」


明らかに嘲笑する声色で、そして僕を挑発するように腕のなのリュシアンが笑う。


あぁ、サーシャ。僕たちの子どもは本当にー。



など本当にあるとはなぁ。面白いのう』




僕はその夜、リュシアンを連れて村を出た。
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