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ガーナの街にて
出発
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「もう少し泊まっていったって良かったんだぞ?
まだ何も礼が出来てないんだし。」
最初に会った時からは想像出来ないリカルドさんの態度に苦笑してしまう。
リカルドさんは本当に変わった。本来の姿に戻った、というのが正しいのだろうけど、生憎私は元のリカルドさんを知らないし、最初に会った時の印象が強かったから少しだけどう接したら良いのか迷ってしまうんだよね。
「本当よ。リカルドの事も食堂の事もリオには随分お世話になってしまったのに。」
名残り惜しそうに、そしてもう涙目になっているルーナさんに思わずギュッと抱きついた。
出会った時から泣いた姿を見ていたからルーナさんに泣かれると弱い。今は悲しみの涙ではない、と分かっていても。
でも本当に良かった。肩が良くなって本来のリカルドさんに戻ってくれたから、ルーナさんはもう悲しまなくて済むのだから。
今日、私はガーナを出発する。
リカルドさんに魔力を集中させた熱で治療した日の翌日、すっかり痛みが取れたと言っていたけれど、その次の日も治療は続けた。
そしてまだまだ体操を続けた方が良いし無理は禁物、ではあるけれど、すっかり元気になったリカルドさんを見て、もう大丈夫かな、と思った。
肩の痛みよりもリカルドさんがかつての自分を思い出してくれたから。
それでこれ以上は私が手助け出来る事はないだろう、とルーナさんに旅に出る事を告げた。
驚かれたし引き留められたりもしたけれど、私は私で旅を続けなければいけない理由がある。
空いた時間で図書館、というよりは小さな本屋さんで、魔法に関する本やこの世界に来てしまった事に関する本などは見つけられなかった。
実際問題、どうやって探せば良いのか分からないけれど、探した中にはそれらしき本が無かったのだからこの街には無いのだろう。
旅を始めたばかりでまだ定住するには探し尽くしていないのだから、気持ちに区切りが付いたのなら早く出発したいと思ってしまう。
なんとなく気が急いでしまうのはなんでだろうね。
次に何処に行くのかは決まっていないけれど、西の端に居たのだから取り敢えず東に向かうつもりだ。
終点を決めている訳ではないこの旅で、東へ向かって進む途中にどうやら王都があるらしい。
そこでじっくりと図書館通いをするのも良いかも知れない。
王都というのは元の世界でいうところの首都とか県庁所在地みたいなモノかな、と思えば、それなりに人も物も多く集まる場所だろうし色々な情報も集まる所だろう。
もしかしたら私みたいなウッカリ他の世界から来ちゃった人も集まってきているかも知れない。
そんな人たちが居たら是非インタビュー、、、じゃない、この世界に来てしまった原因と元の世界に戻れるのかを聞いてみたい。
「これ、やっぱりリオにあげるよ。餞別、にはならないかもだけど。」
そう言ってジョージ君は返した筈の初級者向けの魔法の本を手渡してきた。
「え、いいの?本当にありがとう!
ジョージ君には沢山お世話になったよね。中古で申し訳ないけど、コレ、私からのお礼だよ。」
毎度、不要品で申し訳ないけれど、と思いながら私はマコトがランニングの時に使うのだ、と私に強請ったウェストポーチを渡した。奴が使ったのは一度か二度ぐらいの新品に近い物だ。三日坊主かっ!
あ、でも私が買った物だからお礼として渡すのは有り、なのかな。
「ありがとうっ、リオ。大事に使うよ。親父の事も食堂の事もありがとなっ。」
ニカっと笑ったジョージ君の笑顔を見て初めてジョージ君が十四歳の男の子だって実感した。
日本人と比べて見た目も大人っぽく見えていたけれど、リカルドさんの事があったからお母さんを支えようと気を張っていたのかも知れないね。
いいなぁ、こういう家族。
自分と家族の関係をちょっぴり思い出して胸がキュっとなる。
「皆さん、お世話になりました。ご迷惑じゃなかったら手紙を書きますね。
それではお元気で。」
もう一度、ルーナさんにギュッと抱きついてそう言うと、今度はルーナさんもジョージ君によく似た飛び切りの笑顔になった。
なんだかよく分からない内にこの世界に来てしまった私だけれど、会う人、会う人みんな良い人たちばかりで恵まれているなぁ、って思う。
出来れば元の世界に戻りたい、と思う気持ちはやっぱり強いのだけれど、もしそのままこの世界で暮らす事になったら、またルーナさんの所にも遊びに来たい。
ブンブンと手を振って見送ってくれるルーナさんとジョージ君に、私も動き出した馬車から思いっきり手を振ってお別れをした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
お気に入り登録及びエールでの応援もありがとうございます。
リオ視点のガーナ編は今話で終わりですが、他視点で数話投稿する予定です。
まだ何も礼が出来てないんだし。」
最初に会った時からは想像出来ないリカルドさんの態度に苦笑してしまう。
リカルドさんは本当に変わった。本来の姿に戻った、というのが正しいのだろうけど、生憎私は元のリカルドさんを知らないし、最初に会った時の印象が強かったから少しだけどう接したら良いのか迷ってしまうんだよね。
「本当よ。リカルドの事も食堂の事もリオには随分お世話になってしまったのに。」
名残り惜しそうに、そしてもう涙目になっているルーナさんに思わずギュッと抱きついた。
出会った時から泣いた姿を見ていたからルーナさんに泣かれると弱い。今は悲しみの涙ではない、と分かっていても。
でも本当に良かった。肩が良くなって本来のリカルドさんに戻ってくれたから、ルーナさんはもう悲しまなくて済むのだから。
今日、私はガーナを出発する。
リカルドさんに魔力を集中させた熱で治療した日の翌日、すっかり痛みが取れたと言っていたけれど、その次の日も治療は続けた。
そしてまだまだ体操を続けた方が良いし無理は禁物、ではあるけれど、すっかり元気になったリカルドさんを見て、もう大丈夫かな、と思った。
肩の痛みよりもリカルドさんがかつての自分を思い出してくれたから。
それでこれ以上は私が手助け出来る事はないだろう、とルーナさんに旅に出る事を告げた。
驚かれたし引き留められたりもしたけれど、私は私で旅を続けなければいけない理由がある。
空いた時間で図書館、というよりは小さな本屋さんで、魔法に関する本やこの世界に来てしまった事に関する本などは見つけられなかった。
実際問題、どうやって探せば良いのか分からないけれど、探した中にはそれらしき本が無かったのだからこの街には無いのだろう。
旅を始めたばかりでまだ定住するには探し尽くしていないのだから、気持ちに区切りが付いたのなら早く出発したいと思ってしまう。
なんとなく気が急いでしまうのはなんでだろうね。
次に何処に行くのかは決まっていないけれど、西の端に居たのだから取り敢えず東に向かうつもりだ。
終点を決めている訳ではないこの旅で、東へ向かって進む途中にどうやら王都があるらしい。
そこでじっくりと図書館通いをするのも良いかも知れない。
王都というのは元の世界でいうところの首都とか県庁所在地みたいなモノかな、と思えば、それなりに人も物も多く集まる場所だろうし色々な情報も集まる所だろう。
もしかしたら私みたいなウッカリ他の世界から来ちゃった人も集まってきているかも知れない。
そんな人たちが居たら是非インタビュー、、、じゃない、この世界に来てしまった原因と元の世界に戻れるのかを聞いてみたい。
「これ、やっぱりリオにあげるよ。餞別、にはならないかもだけど。」
そう言ってジョージ君は返した筈の初級者向けの魔法の本を手渡してきた。
「え、いいの?本当にありがとう!
ジョージ君には沢山お世話になったよね。中古で申し訳ないけど、コレ、私からのお礼だよ。」
毎度、不要品で申し訳ないけれど、と思いながら私はマコトがランニングの時に使うのだ、と私に強請ったウェストポーチを渡した。奴が使ったのは一度か二度ぐらいの新品に近い物だ。三日坊主かっ!
あ、でも私が買った物だからお礼として渡すのは有り、なのかな。
「ありがとうっ、リオ。大事に使うよ。親父の事も食堂の事もありがとなっ。」
ニカっと笑ったジョージ君の笑顔を見て初めてジョージ君が十四歳の男の子だって実感した。
日本人と比べて見た目も大人っぽく見えていたけれど、リカルドさんの事があったからお母さんを支えようと気を張っていたのかも知れないね。
いいなぁ、こういう家族。
自分と家族の関係をちょっぴり思い出して胸がキュっとなる。
「皆さん、お世話になりました。ご迷惑じゃなかったら手紙を書きますね。
それではお元気で。」
もう一度、ルーナさんにギュッと抱きついてそう言うと、今度はルーナさんもジョージ君によく似た飛び切りの笑顔になった。
なんだかよく分からない内にこの世界に来てしまった私だけれど、会う人、会う人みんな良い人たちばかりで恵まれているなぁ、って思う。
出来れば元の世界に戻りたい、と思う気持ちはやっぱり強いのだけれど、もしそのままこの世界で暮らす事になったら、またルーナさんの所にも遊びに来たい。
ブンブンと手を振って見送ってくれるルーナさんとジョージ君に、私も動き出した馬車から思いっきり手を振ってお別れをした。
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リオ視点のガーナ編は今話で終わりですが、他視点で数話投稿する予定です。
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