美化係の聖女様

しずもり

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ガーナの街にて

黒いモヤは頑固な汚れ?

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夕方から食堂の仕込みを始めて今夜も食堂の厨房に立つ。けれど厨房に立つのは私だけではない。今日はリカルドさんも居る。


四十肩は昨日今日でいきなり治る訳ではないけれど、『今、自分に出来る事をしたい。』と私たちが仕込みをしている時にリカルドさんがやって来たのだ。


元々、何も出来なかった訳じゃない。心が荒んでお酒に走っていただけなのだ。給仕だって出来るし全く料理を作る事が出来なかった訳でもなかったからね。


ちょっと気まずそうに厨房に来たリカルドさんを見て、案の定、ルーナさんは涙ぐみ、ジョージ君は『やっとやる気になったのか。』というような表情をした後、小さく息を吐いた。

四十肩で思うように手を動かせなくなって自暴自棄になっていたリカルドさんに、ジョージ君は心配と怒りを感じていたのだと思う。

母親を悲しませてお酒に逃げている父親を見ているのは辛かった筈だ。見た目は立派な青年に見えるけれどまだ十四歳だ。不安にならない訳がない。


リカルドさんが前向きになってくれて本当に良かった。


良かったんだけれど、少し問題もあった。


新メニューも好評で離れていたお客さんが戻り始めたそうなんだけれど、そういうお客さんの中に黒いモヤ連れの人がチラホラ居たのだ。


今はないけれど、リカルドさんがよく座っていた席の近くの壁には黒いモヤがいた。そしてリカルドさんにも。


元々、この食堂に張り付いていたのか、リカルドさんに黒いモヤがついていたのか?
それとも他のお客さんが持ち込んで来たのかは私には分からない。


けれど折角、この食堂からもリカルドさんからも黒いモヤが消えたのだ。『黒いモヤ、再び!』は避けたい。

というか、黒いモヤはどうしてこの街に発生しているんだろうね。誰かが森に入って黒いモヤを連れて街に戻って来たのかな?それとも自然発生?


兎に角、やっと立ち直るきっかけを掴んで前向きになっているリカルドさんに、黒いモヤを再び取り憑かせる訳にはいかない。


毎回、体に触って黒いモヤを消失させる訳にもいかないから、相手を見て心の中で『クリーン』と唱えてみた。でも黒いモヤはユラユラと動いただけで消えなかった。


う~ん。ハタキでパタパタとはらってしまいたい!


でも人に向かってハタキを使う訳にもいかないからねぇ。


もう一度、以前にした時の様に『綺麗になれ~。』と唱えてみた。


すると、黒いモヤはスーっと消えていった。


やっぱり黒いモヤは汚れ認定?しかも強力にこびり付いていた頑固な汚れ系だった?


そこからは黒いモヤお連れ様と一緒のお客さんが来た時は、『綺麗になれ~』と心の中で唱えるようにした。
 勿論、お客さんが座った席は後でしっかり拭いて黒いシミ一つ残らない様に徹底的に排除した。


今日、街に出た時は気付かなかったけれど、ここに来る人以外にも黒いモヤ付きの人は居たのかなぁ。


不人気ナンバーワンの太古から生息しているGみたいに『一匹見たら、、、、。』な感じなのかな、あの黒いモヤは。


私はこの街に定住するつもりはないし、あと数日で次の場所に向かうつもりだから、気付いた分しか対応出来ないんだけどなぁ。人に話しても信じてもらえるとも思えないし。


どうしたものか、と悩んでいた翌日、出掛けた先で黒いモヤお連れ様付きの子どもに出会ってしまったのは偶然なんだろうか?

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