美化係の聖女様

しずもり

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聖女召喚は成功した、、、ハズ?

目覚めれば森の中

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「ん、眩しっ、、、。」


何やら顔の辺りが眩しい。カーテンを閉めずに寝ちゃったか、と薄らと瞼を開くと目線の先には何やら薄く金色に光っているけど景色全体は薄暗い。

あ、所々は『天使の梯子』(ん、階段だっけ?)的に光が差してる。



「え?いやいやいやっ、私の借りてる部屋1LDKだから!そんなに奥行き無いから!」



ガバリと起き上がればスーツ姿の私は収まりきれない程の何かを詰めた某市指定のゴミ袋の間でどうやら熟睡していたらしい。足元にはマイ掃除グッズが転がっている。

よくこの状態で熟睡出来たよね、私。体冷え切っているし。



暫く放心した状態でゴミ袋を見つめていれば昨夜の事を徐々に思い出してきた。

そうだ、実家の仕打ちにショックを受けつつ恋人のマンションに行ったらをかけられたんだっけ。

流石に飲まなきゃやってられなくて飲んで帰ってアイツを思い出させる物全てを断捨離したくて深夜の大掃除を始めたんだった。



「もしかして掃除が終わって森まで不法投棄しに来た?」



辺りの景色とゴミ袋の中身で謎は解けた!



「いやいやいやっ!うちの近くに森なんて無いって。どこまで歩いたの私!?」



ちょっと二日酔い気味で痛む頭を押さえていると、私を囲むように光っていた円がすーっと消えていった。



「え、何、今の?何で光ってたの?何か文字?絵?が書いてあったみたいだけど。・・・・てかここはどこ~?」



座ったまま叫んでしまったのは仕方ないよね。
 叫んだ瞬間、あちこちからバサバサバサって何かが飛び立つ音がしてビックリしたけれど。



見渡す限り木、木、木。そして暗い。正しく鬱蒼とした森の中に居る私。



「とりあえず森を出る?」


フリーズしていた脳内が通常運転を開始し始めたのを自覚して森をじっと見つめる。

さて、どうしようか?

草の上で眠っていたようでしっとりと湿り気を帯び皺くちゃになったスーツと足元を見る。このままじゃ森を歩けないよね?



見るのも嫌だなぁと思いつつ2つのゴミ袋を見る。
酔ってても『燃えるゴミ』と『燃えないゴミ』を分けて捨てていた自分に苦笑い。透明なビニール袋が『燃えるゴミ』、透けて見える青い袋が『燃えないゴミ』。中身はと言うと、、、、。



元恋人マコトは今思えば外面が良いだけの見栄っ張りで本当にみみっちい男だったな。

同棲していないのに私の家にヤツのスーツ一式が3組もあったのは、私の家に置いておくと私がクリーニングに出してくれる、と期待していたから。

出したくなかったけどね。でも一日中着て何回か過ごしたタイミングで週末に我が家に来て『そのまま出勤するかも!』とか調子良い事言って放置されていたんだよ?

臭うよね?消臭してもヤバいよね?仕方なくクリーニングに出してクローゼットに入れておくと嬉々として着て出社。

ええ、靴もちゃんと磨き上げていましたとも!


部屋着や普段着は『俺、さりげなくお揃いにするの好きなんだよね。俺の恋人~って実感出来て良いよね。』などと言ってお揃いで揃えさせる。

でも支払いは全部私だったけどね。と言うかに私の物も買わせてたよね、絶対。




しかも人の話に乗せられやすいタイプだったから色々な物に手を出していた。キャンプなんて知識もやった事もないのに『夏に2人でキャンプ行こうよ!』と言い出してキャンプ道具一式買わされた。

結局私の狭い部屋の不要なインテリアになったままだったし。どれだけ邪魔だったか!


うん、そんなたちがこのゴミ袋の中で主張してるわ。

とりあえず捨てるつもりで突っ込んであった私のジャージ上下とランニングシューズに履き替えるか。
 これはジョギングが話題になっていた時のペアルック・・・・一式3万円也。



不法投棄はダメ!絶対、だからとりあえず持ち運び易い様に袋の中身をごっそり出す。
マコトが好きだったアーティストのライブで買った限定トートバッグを広げる。二分の一サイズのアーティストが寝そべるようにプリントされているコレも買わされたんだよね。

自分ではお金を出したく無いけれどファンならいつも拝んでいたかったらしく、私の家のベッド横の壁に飾られていた。
 まるで私に添い寝しているような状態でにっこり笑顔のグラサン髭面のオッサンに気持ちの良い目覚めを何度邪魔をされた事か。


大きさはあるけれどその小っ恥ずかしいトートバッグにはとりあえずヤツの衣類系や生活用品を押し込む。そして某有名ブランドのリュックには私が使っていた衣類や小物を詰めこんだ。


私にばかり高額商品を買わせていた事に多少の罪悪感が有ったのか、デートや私の家に来る時にはちょっとした物をくれたんだよね。プチプラグッズばかりだったけれど。もう私の趣味はガン無視でその時々で目についた物を買ってきていたからそりゃあもう色々とチグハグだった。


キャンプグッズの入ったバッグにはあまり入る隙間は無かったけれどなんとか割れ物類などを押し込んだ。



私の部屋は殆どマコトに関わる物しか無かったのか、という様な大荷物にため息が出る。

何でこんなヤツと4年も付き合っていたんだろう?と思うが、ヤツも最初からそんな人間では無かったのだ。



会社の内定式で隣に座った時に穏やかな笑顔で挨拶してきたのがマコトだった。
マコトは穏やかな雰囲気から目立ちはしないけれど、それなりに容姿が整った優しげな印象の男性だった。


入社後の配属先が一緒になってよく話すようになれば、お互い地方出身と知って『東京駅では人の歩く速さについていけない。』『乗りたい路線のホームにたどり着け無い』なんてお互い笑い合ったり『ス○バに入るのは緊張する』からと言って、2人で一緒に行ってみたりと過ごしている内に気づけば付き合うようになっていた。


 平凡だけれど楽しかった日々は半年間程だっただろうか。芸能人をよく見かけると評判の高級住宅街育ちのマコトの部署の3つ上の先輩が、マコトをあちこち連れて歩く様になると先輩の知人友人たちと連むようになった。
髪型が変わり、着ている服装が変わり出歩く場所も変わっていった。


それはマコトにとっては良かった面もあったと思う。どんどん垢抜けていったマコトは元々の容姿の良さもあって女性にモテる様になった。
 そしてそれが自信に繋がり会社でも目立つ存在になって上からの覚えも良く仕事もどんどん評価されていったからだ。



 その反面、人を見下す様な言動や態度が見られる様になっていった。
勿論、会社ではそんな態度は見せなかったけれど私に対しての態度はかなり変わってしまった。

そして自分に似合う物を、と服装や行く店に拘る様になり自慢したい為としか思えないようなマンションに引っ越した。

その結果が私に行為に繋がっていった。


私と会う時は殆ど外出しないで私の家に居たのも、自分のお金を使いたくなかったからだろう。
もしかしたら使うお金も殆ど無かったのかも知れない。合鍵を渡されたものの彼の部屋に呼ばれるのは部屋の掃除や食事を作って欲しい時だけだった。


そんな扱いで何故、別れもせず言われるまま強請られた物をプレゼントしていたのかと言えば、プレゼントを貰った時、私が何かをしてあげた時の笑顔は最初に出会った時の笑顔と似ていたからだ。
 
出会った頃の付き合い始めの頃のマコトに会いたくて、私はマコトに尽くしていたのだ思う、愚かにも。



3年目以降はもう惰性と僅かな情だけだった。その3年の間に何度も浮気をされていた。確かな証拠は無いけれど、それとなく匂わせてくる女性は社内でも社外でも居た。

会う頻度も減ってきてもう元のマコトに戻る事はないだろうな、と諦め始めた時の親友との浮気現場遭遇、だったわけだ。



親友とは2、3度一緒に食事をした。勿論、親友の彼氏と一緒にだ。
 親友は美人でおまけに優秀で、だからこそ自分が一番でないと気が済ま無い性格だった。一緒に食事した彼氏が私たちが勤めている会社の子会社に勤務しているのをその時にお互い知った。


子会社と言ってもそれなりに知名度のある会社だったけれど、密かに親友からすれば屈辱と感じたのかも知れない。

 容姿もそれなりに良い彼氏だったが派手になっていったマコトの方が見栄えも良かったのだと思う。

ただの浮気だったのか二股だったのかも分からないけれどもう愛想も尽きた。もうその一言に尽きる。



そんな事をつらつらと考えながらも仕分けは完了し私は両肩にトートバッグとキャンプバッグ、背中にはリュックを背負って片手に箒を持って立ち上がった。

あ、ハタキはリュックに差し込んだ。うん、夜逃げするみたいな格好だな。



 まぁ、とりあえず出発だ。日が出ている内にこの森を抜けこの何が何だか分からない状況をはっきりさせよう!

こうしておよそ森の中を歩くような格好ではない大荷物を抱えた私は歩き出したのだった。














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