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真実が語られる日 2
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「お、俺は、、、ただ、、、俺の価値をちゃんと分かってくれる人に、、、。」
「それがカイウス殿下だったのか?それともガーランド公爵様か?」
ケインさんの言葉にバッと顔を上げたザイルはきっと初めて正面からケインさんとダニエルさんを見たのだろう。
一瞬泣きそうな表情を浮かべ、それから大きく身体を震わせた。
ガーランド公爵の名が出た事で、カイウスがハッとして辺りを見渡した。
ナターシャの父ガーランド公爵は貴族派筆頭であり重要な大臣職に就いていた筈だ。このような場に立ち会うほどの。
カイウスにとって義理父であり、このような場に呼ばれるべき筈のガーランド公爵が居ない事に彼は漸く気付いた。そしてその意味を悟ったのだろう。
彼はヘナヘナと腰が抜けたように両手をついて座り込んだ。
「カイウス様っ。どうなさったのです。わたくしのお父様がきっと、きっと良いように取り計らってくれる筈ですわっ。」
ナターシャが背後から抱き締めるようにカイウスの両肩に手を置いて必死に声を掛けるけれどカイウスは反応しない。
「私は、、、私は母上の無念を晴らし、、、母上の望みを叶えたかった。」
ポツリと呟いたカイウスの言葉に思わずアレクを見る。アレクは困ったような悲しむような表情を浮かべて私を見つめ返すだけだった。
「カイウスよ、お前が公爵から何を聞いたのかは知らぬが、お前はその言葉をただの一度も疑った事はなかったのか?
王妃が、アレクシスがお前を疎んだ事が一度でも有ったか?」
「ですがっ!」
「お前の母はガーランド一族の犠牲者だ。ただそれだけだった。お前に王位を望むような浅はかな者でも無い。
リディアはお前を命懸けで出産しこの世を去った。己が産んだ我が子が男か女かも知らずにこの世を去ったのだ。
リディアを冷遇した者も彼女を死に至らしめた者もこの城には居らぬ。
お前は言われた言葉を鵜呑みにせず、自分で確かめるべきだった。
そうすれば人の道を外れる事は無かったものを、、、。」
国王陛下の言葉に隣に座る王妃様も悲しげな表情を浮かべている。
「そんなっ!母上は私にこの国の王となる事を望んだと。だから私は、、、。」
項垂れるカイウスを悲しげ見つめる若い女性が居る事に私以外の誰も気付く事は無い。私の視線に気付いた彼女は私を見て儚げな微笑と共に首を横に小さく振った。
ずっとこの場に居た彼女は私がケインさんたちに力を貸しているのも見ていた。そして自分にはその必要は無い、と私に伝えているのだ。
私はカイウスが実の母の事をどのように聞かされたのか知らないしカイウスと陛下たちがどのように過ごしてきたのかも知らない。
もしカイウスがもっと陛下たちと心の内を曝け出して話し合えていたら、ガーランド公爵という人がカイウスに近づかなかったら、そんな事を今更思っても意味がない事は分かっている。
けれど違う未来があった筈なのに、とそう思ってしまう。
自分の為ではなく母の為に国王となる事を望んだカイウスを皆悲しげに見つめているから。
「殿下、どうか犯した罪に向き合い反省しこれからの人生を生きて下さい。
例え陽の当たる場所には戻れずとも貴方に出来る事がきっとある筈です。
それが私たちへの償いであり貴方を想う御母上のたった一つの望みでもあるでしょう。」
ケインさんはカイウスにそう言ってから私を見た。
「ケインさん、ダニエルさん。
私の所為で、ごめー。」
「サーヤ様、貴女の所為ではございません。」
謝ろうとした私の言葉を遮ってケインさんは私に優しく微笑んだ。
「俺たちが生き残る道はあったのです。
貴方が元の世界に戻った時、俺たちはやっと騙された事に気付きました。
ザイルや殿下の護衛騎士たちに食ってかかった俺たちに殿下は言ったんです。
" 私につけば出世させてやる。ただ言う通りにしているだけでいい。"と。
アイツらと同じように、ってね。」
ダニエルさんは苦笑すると、青褪めてただ立ち尽くすだけの状態になった魔術師や騎士たちを見た。
「王城へはあと少しの距離でした。その間だけ従うフリをして入れば良かっただけなのです。
ですが私たちにはそれが我慢出来なかった。だから口封じの為に殺されたのです。
大事な者が居るならばそうする事が正しい事だったかも知れません。けれど私たちは貴方の頑張りを知っていました。
初めての馬車旅というだけでも疲れるのに貴女はコッソリと我々にも結界を張り続けてくれていた。そして深夜に穢れを祓い神殿に祈りを捧げ、誰にも感謝される事なく次の目的地に向かう。
その繰り返しを貴女はどんなに疲れていても厭う事なくやり続けた。まだ十四歳の子どもだったのに。
私たちは貴女の成し遂げた事を例えひと時でも無かった事にはしたくなかった。
殿下に騙されていたとも知らずに、笑顔で『またすぐに戻ってくる』と消えた貴女が二度と戻って来る事は無いとしても。
だから私たちが殺されたのは貴女の所為ではありません。それでも気が済まないというならば私たちの為に祈って下さい。
この城に戻って私たちは己を取り戻しましたが、在るべき場所に戻るには力が足りないかもしれない。だから私たちの為に浄化して下さい。」
ケインさんはそう言ってダニエルと顔を見合わせて、それから二人は傍で見守っていたルフェさんとリンダさんに笑顔で大きく頷いた。
「分かりました。ケインさん、ダニエルさん。
旅の間、ずっと私を気に掛けて下さってありがとうございました。
本当に、、、本当にありがとうございました。」
謝罪の言葉を感謝の言葉に変えて、私はケインさんたちの為に祓うのではなく目を閉じ手を合わせ祈りを捧げる。
どうか安らかに。
いつかまた大事な人と巡り逢えますように。
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
「それがカイウス殿下だったのか?それともガーランド公爵様か?」
ケインさんの言葉にバッと顔を上げたザイルはきっと初めて正面からケインさんとダニエルさんを見たのだろう。
一瞬泣きそうな表情を浮かべ、それから大きく身体を震わせた。
ガーランド公爵の名が出た事で、カイウスがハッとして辺りを見渡した。
ナターシャの父ガーランド公爵は貴族派筆頭であり重要な大臣職に就いていた筈だ。このような場に立ち会うほどの。
カイウスにとって義理父であり、このような場に呼ばれるべき筈のガーランド公爵が居ない事に彼は漸く気付いた。そしてその意味を悟ったのだろう。
彼はヘナヘナと腰が抜けたように両手をついて座り込んだ。
「カイウス様っ。どうなさったのです。わたくしのお父様がきっと、きっと良いように取り計らってくれる筈ですわっ。」
ナターシャが背後から抱き締めるようにカイウスの両肩に手を置いて必死に声を掛けるけれどカイウスは反応しない。
「私は、、、私は母上の無念を晴らし、、、母上の望みを叶えたかった。」
ポツリと呟いたカイウスの言葉に思わずアレクを見る。アレクは困ったような悲しむような表情を浮かべて私を見つめ返すだけだった。
「カイウスよ、お前が公爵から何を聞いたのかは知らぬが、お前はその言葉をただの一度も疑った事はなかったのか?
王妃が、アレクシスがお前を疎んだ事が一度でも有ったか?」
「ですがっ!」
「お前の母はガーランド一族の犠牲者だ。ただそれだけだった。お前に王位を望むような浅はかな者でも無い。
リディアはお前を命懸けで出産しこの世を去った。己が産んだ我が子が男か女かも知らずにこの世を去ったのだ。
リディアを冷遇した者も彼女を死に至らしめた者もこの城には居らぬ。
お前は言われた言葉を鵜呑みにせず、自分で確かめるべきだった。
そうすれば人の道を外れる事は無かったものを、、、。」
国王陛下の言葉に隣に座る王妃様も悲しげな表情を浮かべている。
「そんなっ!母上は私にこの国の王となる事を望んだと。だから私は、、、。」
項垂れるカイウスを悲しげ見つめる若い女性が居る事に私以外の誰も気付く事は無い。私の視線に気付いた彼女は私を見て儚げな微笑と共に首を横に小さく振った。
ずっとこの場に居た彼女は私がケインさんたちに力を貸しているのも見ていた。そして自分にはその必要は無い、と私に伝えているのだ。
私はカイウスが実の母の事をどのように聞かされたのか知らないしカイウスと陛下たちがどのように過ごしてきたのかも知らない。
もしカイウスがもっと陛下たちと心の内を曝け出して話し合えていたら、ガーランド公爵という人がカイウスに近づかなかったら、そんな事を今更思っても意味がない事は分かっている。
けれど違う未来があった筈なのに、とそう思ってしまう。
自分の為ではなく母の為に国王となる事を望んだカイウスを皆悲しげに見つめているから。
「殿下、どうか犯した罪に向き合い反省しこれからの人生を生きて下さい。
例え陽の当たる場所には戻れずとも貴方に出来る事がきっとある筈です。
それが私たちへの償いであり貴方を想う御母上のたった一つの望みでもあるでしょう。」
ケインさんはカイウスにそう言ってから私を見た。
「ケインさん、ダニエルさん。
私の所為で、ごめー。」
「サーヤ様、貴女の所為ではございません。」
謝ろうとした私の言葉を遮ってケインさんは私に優しく微笑んだ。
「俺たちが生き残る道はあったのです。
貴方が元の世界に戻った時、俺たちはやっと騙された事に気付きました。
ザイルや殿下の護衛騎士たちに食ってかかった俺たちに殿下は言ったんです。
" 私につけば出世させてやる。ただ言う通りにしているだけでいい。"と。
アイツらと同じように、ってね。」
ダニエルさんは苦笑すると、青褪めてただ立ち尽くすだけの状態になった魔術師や騎士たちを見た。
「王城へはあと少しの距離でした。その間だけ従うフリをして入れば良かっただけなのです。
ですが私たちにはそれが我慢出来なかった。だから口封じの為に殺されたのです。
大事な者が居るならばそうする事が正しい事だったかも知れません。けれど私たちは貴方の頑張りを知っていました。
初めての馬車旅というだけでも疲れるのに貴女はコッソリと我々にも結界を張り続けてくれていた。そして深夜に穢れを祓い神殿に祈りを捧げ、誰にも感謝される事なく次の目的地に向かう。
その繰り返しを貴女はどんなに疲れていても厭う事なくやり続けた。まだ十四歳の子どもだったのに。
私たちは貴女の成し遂げた事を例えひと時でも無かった事にはしたくなかった。
殿下に騙されていたとも知らずに、笑顔で『またすぐに戻ってくる』と消えた貴女が二度と戻って来る事は無いとしても。
だから私たちが殺されたのは貴女の所為ではありません。それでも気が済まないというならば私たちの為に祈って下さい。
この城に戻って私たちは己を取り戻しましたが、在るべき場所に戻るには力が足りないかもしれない。だから私たちの為に浄化して下さい。」
ケインさんはそう言ってダニエルと顔を見合わせて、それから二人は傍で見守っていたルフェさんとリンダさんに笑顔で大きく頷いた。
「分かりました。ケインさん、ダニエルさん。
旅の間、ずっと私を気に掛けて下さってありがとうございました。
本当に、、、本当にありがとうございました。」
謝罪の言葉を感謝の言葉に変えて、私はケインさんたちの為に祓うのではなく目を閉じ手を合わせ祈りを捧げる。
どうか安らかに。
いつかまた大事な人と巡り逢えますように。
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
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