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断罪する日 2
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謁見の間にアレクと二人で足を踏み入れると、上座には玉座と思われる椅子に座る国王陛下と王妃様、そして陛下の一歩後ろに立っている宰相は視線だけを、それ以外の人たちは徐に私たちに顔を向けた。
当然、国王陛下と対峙するように正面に立っていたカイウスも。
「これは兄上、遅れてやって来たばかりか婚約者とはいえ無関係の者をこの場に連れてくるとは。
兄上は今回の事態の深刻に受け止められておられぬようですね。」
「・・・・理解しているから連れてきたのだが?
それに王太子である私の婚約者ならば、国の一大事を知らぬまま、というのもおかしいだろう。」
アレクが私の肩に手を置きそっと自分の方へと引き寄せる。
「はっ!その者は聖女召喚の儀でこちらの世界へ来たとはいえ、聖女ではないのですよ。何の役にも立ちはしない。
あぁ、でも聖女サーヤも旅に出た途端、勝手に元の世界へ逃げ帰った役立たずでしたね。
その聖女の所為で我々は昨日酷い目に遭ったのですがね。」
アレクに突っかかるような態度をしながらサラッとこの騒ぎを聖女サーヤの所為だと印象付けようとするカイウスは悪知恵だけは働くらしい。
「でもその聖女を召喚させたのはカイウス殿下なのでしょう?
彼女が勝手に逃げ帰ったのだとしたら、それもカイウス殿下の監督責任なのでは?」
流石に今までの事も含めて我慢の限界で思わず口からポロッと言葉が出てしまった。
「なにっ?王子であるこの私に意見するとは生意気な女だな!
兄上の婚約者になった事で思い上がったのだな。ただの平民風情が。
確かに聖女サーヤが逃げ帰ったのは私とて予想外の出来事であった。だが、それを私の妃であり聖女となったナターシャが健気にも聖女の役目を代わりに引き受け、瘴気溜まりを水晶に封印してくれたのだ。
だから" 穢れを祓う旅 "は成功だったんだ。今回の事は" ザラ神殿での祈りは捧げた "と嘘をついて逃げ帰った聖女サーヤの所為だ。
嘘を鵜呑みにした私にも多少の責任はあるが、あの時の我々は聖女が居なくなった事で混乱していたんだ。
だから穢れが残っていた事に気付かなくても仕方の無い事だった。そして旅を終えてまだ半年ではナターシャも魔術師たちも本来の力を発揮出来なかったのも仕方の無い事なのです。」
最初の方は私に、そして後半の言い訳は国王陛下に向かって話すカイウスはどこまでも自分には一切、非は無いのだ、と言いたいらしい。言い訳は言い訳でしか無いのに。
「ふむ、半年前の旅の影響でまだ聖女の力は戻ってはいないと言うのは本当か、ナターシャよ。」
国王様がカイウスの隣で、具合の悪そうにも見える姿で、何かに怯えて俯いているナターシャに向かって問いただす。
彼女が怯えているように見えるのは、今回のザラ神殿での事か、それともこの場に居る何かについてなのかどちらだろう。
カイウスの後ろに立っている、以前にザイルと呼ばれていた男を含めた魔術師であろう六人と四人の騎士たちも皆、一様に青褪めた顔をしている。
中には小刻みに震えている者もいて、ザラ神殿で相当怖い目にあったのかも知れない。
「は、はい。私は" 穢れを祓う旅 "に同行し聖女として覚醒する前は、光魔法の力はそれほど強くは無かったのです。
聖女様が逃げ帰ったと知って、" なんとかしてカイウス様のお役に立ちたい!"と神に強く願ったら聖魔法が使えるようになったのです。
ですからまだ聖魔法の力は不安定で、今の体調ではあれ程の穢れを祓うのは、、、、。」
言い訳から始まったナターシャの言葉の最後が昨日のザラ神殿での事なのだろう。
「と言う事は、ザラ神殿の辺りで穢れが現れた、というのは事実なのか?
それを聖女ナターシャだけでなく魔術師六人と騎士もいたのに祓いきれなかった、と?」
私が思っていた事をアレクが聞いてくれるので私は黙ってナターシャを見つめ続ける。
彼女には視えていない。けれど一応でも光魔法の属性がある者として、この城の異変に多少は気付いているのかも知れない。それほどナターシャは怯えているように私には見えた。
それはアレクの母である王妃様も同じだ。国王様の隣の椅子に何事もない態度で座っているけれど、やはり顔色が悪いように見える。
昨夜からの城の異変は王城から一番離れている筈の白亜宮にも直ぐに分かる程、眠れぬ夜を過ごす程のものだった。
聖女の血筋であり多少なりとも巫女の能力を受け継いでいるという王妃様が、アレクと同じく異変に気付かない訳が無い。
「っ!兄上はそうやって私を貶めようとして何がしたいのですか!
私の活躍と聖女を娶った事で自身の立場が揺らぐのがそんなに怖かったのですか?
ザイルたちだってまだ旅の疲れが残っているのですよ。それにそこの出来損ないを召喚した際の魔力だって戻ってはいないのです。
旅にもザラ神殿にも行きもしなかったあなたが偉そうに言う事ですか!」
出来損ない、かぁ。
勝手に呼んでおいてそれは無いよねぇ。
まぁ、私的にはアイツと結婚しなくて済んだから別にいいけどね。
でも、カイウスはいい加減、自分が何をしたのかをよぉ~く改めて考えた方がいいんじゃないかな。
「でも、" 穢れを祓う旅 ”では、聖女サーヤにだけやらせて魔術師も騎士も何もしていなかったでしょう?
あぁ、一つだけ。
瘴気溜まりを封印し王都に戻る途中に立ち寄ったザラ神殿で、聖女を元の世界に戻した後、ケインさんとダニエルさんを口封じの為に殺したんでしたっけ?」
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
また、新しくお気に入りに登録して下さった方、エールでの応援をしていた方もありがとうございます。
書く上で非常に励みになっております。
緩い更新頻度ですが、あと少しで完結予定です。もう暫くお付き合い下さいませ。
当然、国王陛下と対峙するように正面に立っていたカイウスも。
「これは兄上、遅れてやって来たばかりか婚約者とはいえ無関係の者をこの場に連れてくるとは。
兄上は今回の事態の深刻に受け止められておられぬようですね。」
「・・・・理解しているから連れてきたのだが?
それに王太子である私の婚約者ならば、国の一大事を知らぬまま、というのもおかしいだろう。」
アレクが私の肩に手を置きそっと自分の方へと引き寄せる。
「はっ!その者は聖女召喚の儀でこちらの世界へ来たとはいえ、聖女ではないのですよ。何の役にも立ちはしない。
あぁ、でも聖女サーヤも旅に出た途端、勝手に元の世界へ逃げ帰った役立たずでしたね。
その聖女の所為で我々は昨日酷い目に遭ったのですがね。」
アレクに突っかかるような態度をしながらサラッとこの騒ぎを聖女サーヤの所為だと印象付けようとするカイウスは悪知恵だけは働くらしい。
「でもその聖女を召喚させたのはカイウス殿下なのでしょう?
彼女が勝手に逃げ帰ったのだとしたら、それもカイウス殿下の監督責任なのでは?」
流石に今までの事も含めて我慢の限界で思わず口からポロッと言葉が出てしまった。
「なにっ?王子であるこの私に意見するとは生意気な女だな!
兄上の婚約者になった事で思い上がったのだな。ただの平民風情が。
確かに聖女サーヤが逃げ帰ったのは私とて予想外の出来事であった。だが、それを私の妃であり聖女となったナターシャが健気にも聖女の役目を代わりに引き受け、瘴気溜まりを水晶に封印してくれたのだ。
だから" 穢れを祓う旅 "は成功だったんだ。今回の事は" ザラ神殿での祈りは捧げた "と嘘をついて逃げ帰った聖女サーヤの所為だ。
嘘を鵜呑みにした私にも多少の責任はあるが、あの時の我々は聖女が居なくなった事で混乱していたんだ。
だから穢れが残っていた事に気付かなくても仕方の無い事だった。そして旅を終えてまだ半年ではナターシャも魔術師たちも本来の力を発揮出来なかったのも仕方の無い事なのです。」
最初の方は私に、そして後半の言い訳は国王陛下に向かって話すカイウスはどこまでも自分には一切、非は無いのだ、と言いたいらしい。言い訳は言い訳でしか無いのに。
「ふむ、半年前の旅の影響でまだ聖女の力は戻ってはいないと言うのは本当か、ナターシャよ。」
国王様がカイウスの隣で、具合の悪そうにも見える姿で、何かに怯えて俯いているナターシャに向かって問いただす。
彼女が怯えているように見えるのは、今回のザラ神殿での事か、それともこの場に居る何かについてなのかどちらだろう。
カイウスの後ろに立っている、以前にザイルと呼ばれていた男を含めた魔術師であろう六人と四人の騎士たちも皆、一様に青褪めた顔をしている。
中には小刻みに震えている者もいて、ザラ神殿で相当怖い目にあったのかも知れない。
「は、はい。私は" 穢れを祓う旅 "に同行し聖女として覚醒する前は、光魔法の力はそれほど強くは無かったのです。
聖女様が逃げ帰ったと知って、" なんとかしてカイウス様のお役に立ちたい!"と神に強く願ったら聖魔法が使えるようになったのです。
ですからまだ聖魔法の力は不安定で、今の体調ではあれ程の穢れを祓うのは、、、、。」
言い訳から始まったナターシャの言葉の最後が昨日のザラ神殿での事なのだろう。
「と言う事は、ザラ神殿の辺りで穢れが現れた、というのは事実なのか?
それを聖女ナターシャだけでなく魔術師六人と騎士もいたのに祓いきれなかった、と?」
私が思っていた事をアレクが聞いてくれるので私は黙ってナターシャを見つめ続ける。
彼女には視えていない。けれど一応でも光魔法の属性がある者として、この城の異変に多少は気付いているのかも知れない。それほどナターシャは怯えているように私には見えた。
それはアレクの母である王妃様も同じだ。国王様の隣の椅子に何事もない態度で座っているけれど、やはり顔色が悪いように見える。
昨夜からの城の異変は王城から一番離れている筈の白亜宮にも直ぐに分かる程、眠れぬ夜を過ごす程のものだった。
聖女の血筋であり多少なりとも巫女の能力を受け継いでいるという王妃様が、アレクと同じく異変に気付かない訳が無い。
「っ!兄上はそうやって私を貶めようとして何がしたいのですか!
私の活躍と聖女を娶った事で自身の立場が揺らぐのがそんなに怖かったのですか?
ザイルたちだってまだ旅の疲れが残っているのですよ。それにそこの出来損ないを召喚した際の魔力だって戻ってはいないのです。
旅にもザラ神殿にも行きもしなかったあなたが偉そうに言う事ですか!」
出来損ない、かぁ。
勝手に呼んでおいてそれは無いよねぇ。
まぁ、私的にはアイツと結婚しなくて済んだから別にいいけどね。
でも、カイウスはいい加減、自分が何をしたのかをよぉ~く改めて考えた方がいいんじゃないかな。
「でも、" 穢れを祓う旅 ”では、聖女サーヤにだけやらせて魔術師も騎士も何もしていなかったでしょう?
あぁ、一つだけ。
瘴気溜まりを封印し王都に戻る途中に立ち寄ったザラ神殿で、聖女を元の世界に戻した後、ケインさんとダニエルさんを口封じの為に殺したんでしたっけ?」
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
また、新しくお気に入りに登録して下さった方、エールでの応援をしていた方もありがとうございます。
書く上で非常に励みになっております。
緩い更新頻度ですが、あと少しで完結予定です。もう暫くお付き合い下さいませ。
応援ありがとうございます!
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