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何か異変が起きていると感じた日
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「・・・そうか。」
穢れを祓う旅が始まって、カイウスの言われるままに二人だけで穢れを祓い、無事に瘴気溜まりを水晶に封印する事に成功した後は、王都の側近くのザラ神殿まで戻りカイウスに頼まれて元の世界へと戻った、と私は淡々と話した。
ただ事実だけを話し、私が旅の間に思った事、考えた事は省いて話した。
今、そんな事を言えばきっと私は感情が揺さぶられてまた泣き出していたと思う。
アレクは私の話を最後まで黙って聞いていた後、暫くしてから一言そう言った。
穢れを祓う旅について部外者は当事者たちの話でしかその様子を伺い知る事は出来ない。
旅の責任者でありこの国の第二王子の口から語られる話は、真実として疑う事なく受け入れられただろう。
だって嘘を吐く理由なんてない筈だから。
例え真実が、自分の愛する者と結婚する為に聖女を召喚し、利用するだけ利用して功績を掠め取り、計画を知らなかった二人を口封じで殺したのだとしても。
もしそうだとしたら絶対に許せない!
そう思った瞬間、目の端でユラリと何かが揺れた気がして視線を城の方へと向けた。
「アレクシス殿下っ!緊急の報告が入りましたので至急会議の間にお越し下さい。」
アレク付きの侍従が小走りにやって来る。
「・・・・分かった。クリス、話の途中で済まないが続きはまた後日に。」
アレクはそう言うとやって来た侍従と共に城へと戻って行った。
話の続きだけではなく、私にはもう一つ、アレクに聞きたい事があった。
次に会う時に聞こう、そう思っていたのだけれど、その日以降、アレクはとても忙しいようでお茶会をする暇もなく会えていない。
これまでも忙しそうにしていたアレクは、それでも二、三日に一度、短い時間でもお茶会の時間を設けてくれていた。
けれどもうあれから一週間は経っている。そうなってくるとあの日の緊急の報告が何だったのか、気になってきた。
本当はあの日から気になってはいた事ではあったのだけれど。
普段、私は王宮内をあまりウロウロと出歩かない様にしている。
再びこの世界へ召喚された直後は王宮の王族専用フロアに案内されたけれど、正式にアレクの婚約者となった今は王宮の裏手、国王陛下の家族、つまり王妃様や側室、子、それぞれに与えられた宮殿の一つ、白亜宮という宮殿の一室に部屋を用意されて住んでいる。
この白亜宮はアレクのお母様、つまり王妃様が国王陛下の婚約者だった頃に住んでいた宮殿なのだそうだ。
婚姻後、王妃様は白銀宮にお移りになり、私が来るまでは白亜宮は全く使われる事はなかった。
王妃様とは一度、アレクと婚約後に王族総出の会食の席で顔を合わせているけれど、挨拶をした程度で個人的にまだ会話をした事はない。
黒髪に深い青い色の瞳を持つ王妃様は、とてもお美しくアレクのような大きな子どもを持つ母親とは思えないほど若々しくも神秘的な雰囲気を感じさせる女性に見えた。
そんな方が住んでいた、というフィルターが掛かっているのか、宮殿の周囲はとても澄んだ空気を漂わせ、神々しいとさえ感じる宮殿だと、初めて見た時はそう思った。
それに二十年以上使われていなかった白亜宮はそうとは思えない程、全く老朽化しておらず宮殿の隅々までまるで新築の建物のようだった。
私にとっては王宮よりも居心地の良い宮殿だった。
それから更に数日が経ち、王宮の長い回廊を歩いていると前方からカイウスたち一行がガヤガヤと大きな声で話しながら歩いて来た。
いつもの煌びやか服装よりも少し抑えめの、それでも赤と金色が目立つ服装は一応は旅に出るスタイルなのか、カイウスの後ろを歩く魔術師たちを見て何となくそう思った。
よく見れば彼らの後ろからはナターシャと侍女らしき集団もこちらに歩いてくる。
壁際に寄り、頭を下げて彼らが通り過ぎるのを待つ事にしたが、残念ながらカイウスに気付かれてしまった。
「フンッ。お前がアイツではなくとも、聖女の力を持っていたならば私がこうしてザラ神殿に出向かずとも良かったものを。」
私の前で立ち止まったカイウスは苛立ちを隠そうともせずにそう言った。
ザラ神殿?
どうしてカイウスたちが?
そう思ったけれど、余計な事を言えば、面倒な事になる事は分かっている。だったら後でアレクから聞いた方がいい。
そう思っていると、カイウスたちに追いついたナターシャが私に近付いて来た。
「本当に。ただのハズレ者が図々しくも王太子の婚約者になるなんて。
まぁ、この件が片づけば王太子の座も、、、ねぇ?」
ナターシャはそこまで言うと、意味ありげにカイウスに顔を向けた。
「あぁ、そうだな。ザラ神殿の事もどうせアイツのやり残しだろう。
さっさと用事を済ませたら、近くの湖で観光でもしよう。」
カイウスはそう言いながらナターシャの肩に手をかけると自分の方へと抱き寄せ、いつもの様に言うだけ言ったら気が済んだのか、カイウスたち一行はまた歩き出した。
暫くカイウスたちの後ろ姿を見つめていたけれど、それは彼らの事が気になったからじゃない。
カイウスの言葉の意味を考えていたから。
カイウスの言ったアイツとは、聖女サーヤの事なのだと思う。
では何故、サーヤが居ないからカイウスたちがザラ神殿に行かなければ行けないのだろう?
しかも聖女サーヤのやり残し?
もしかしてアレクが呼び出された緊急の報告に関係のある事なの?
アレクに会って聞きたいけれど、忙しくても毎朝届いていたメッセージカードもここ二日ほどは来なくなった。それぐらい忙しいって事だ。
なら、連絡あるまで私は待っているべき?
そう結論付けて、私は白亜宮に戻っていつも通り静かに過ごしていた。
すると深夜にそれなりに距離のある筈の王宮の方からやけに賑やかな声や音が響いてきて目が覚めた。
それは歓声や楽しげな声などではなく、緊急事態が起きた事を思わせるような慌ただしさを感じる声や音だった。
不安になるような声や音に、その夜は眠れずただじっとベッドの中で夜が明けるのを私は待っていた。
穢れを祓う旅が始まって、カイウスの言われるままに二人だけで穢れを祓い、無事に瘴気溜まりを水晶に封印する事に成功した後は、王都の側近くのザラ神殿まで戻りカイウスに頼まれて元の世界へと戻った、と私は淡々と話した。
ただ事実だけを話し、私が旅の間に思った事、考えた事は省いて話した。
今、そんな事を言えばきっと私は感情が揺さぶられてまた泣き出していたと思う。
アレクは私の話を最後まで黙って聞いていた後、暫くしてから一言そう言った。
穢れを祓う旅について部外者は当事者たちの話でしかその様子を伺い知る事は出来ない。
旅の責任者でありこの国の第二王子の口から語られる話は、真実として疑う事なく受け入れられただろう。
だって嘘を吐く理由なんてない筈だから。
例え真実が、自分の愛する者と結婚する為に聖女を召喚し、利用するだけ利用して功績を掠め取り、計画を知らなかった二人を口封じで殺したのだとしても。
もしそうだとしたら絶対に許せない!
そう思った瞬間、目の端でユラリと何かが揺れた気がして視線を城の方へと向けた。
「アレクシス殿下っ!緊急の報告が入りましたので至急会議の間にお越し下さい。」
アレク付きの侍従が小走りにやって来る。
「・・・・分かった。クリス、話の途中で済まないが続きはまた後日に。」
アレクはそう言うとやって来た侍従と共に城へと戻って行った。
話の続きだけではなく、私にはもう一つ、アレクに聞きたい事があった。
次に会う時に聞こう、そう思っていたのだけれど、その日以降、アレクはとても忙しいようでお茶会をする暇もなく会えていない。
これまでも忙しそうにしていたアレクは、それでも二、三日に一度、短い時間でもお茶会の時間を設けてくれていた。
けれどもうあれから一週間は経っている。そうなってくるとあの日の緊急の報告が何だったのか、気になってきた。
本当はあの日から気になってはいた事ではあったのだけれど。
普段、私は王宮内をあまりウロウロと出歩かない様にしている。
再びこの世界へ召喚された直後は王宮の王族専用フロアに案内されたけれど、正式にアレクの婚約者となった今は王宮の裏手、国王陛下の家族、つまり王妃様や側室、子、それぞれに与えられた宮殿の一つ、白亜宮という宮殿の一室に部屋を用意されて住んでいる。
この白亜宮はアレクのお母様、つまり王妃様が国王陛下の婚約者だった頃に住んでいた宮殿なのだそうだ。
婚姻後、王妃様は白銀宮にお移りになり、私が来るまでは白亜宮は全く使われる事はなかった。
王妃様とは一度、アレクと婚約後に王族総出の会食の席で顔を合わせているけれど、挨拶をした程度で個人的にまだ会話をした事はない。
黒髪に深い青い色の瞳を持つ王妃様は、とてもお美しくアレクのような大きな子どもを持つ母親とは思えないほど若々しくも神秘的な雰囲気を感じさせる女性に見えた。
そんな方が住んでいた、というフィルターが掛かっているのか、宮殿の周囲はとても澄んだ空気を漂わせ、神々しいとさえ感じる宮殿だと、初めて見た時はそう思った。
それに二十年以上使われていなかった白亜宮はそうとは思えない程、全く老朽化しておらず宮殿の隅々までまるで新築の建物のようだった。
私にとっては王宮よりも居心地の良い宮殿だった。
それから更に数日が経ち、王宮の長い回廊を歩いていると前方からカイウスたち一行がガヤガヤと大きな声で話しながら歩いて来た。
いつもの煌びやか服装よりも少し抑えめの、それでも赤と金色が目立つ服装は一応は旅に出るスタイルなのか、カイウスの後ろを歩く魔術師たちを見て何となくそう思った。
よく見れば彼らの後ろからはナターシャと侍女らしき集団もこちらに歩いてくる。
壁際に寄り、頭を下げて彼らが通り過ぎるのを待つ事にしたが、残念ながらカイウスに気付かれてしまった。
「フンッ。お前がアイツではなくとも、聖女の力を持っていたならば私がこうしてザラ神殿に出向かずとも良かったものを。」
私の前で立ち止まったカイウスは苛立ちを隠そうともせずにそう言った。
ザラ神殿?
どうしてカイウスたちが?
そう思ったけれど、余計な事を言えば、面倒な事になる事は分かっている。だったら後でアレクから聞いた方がいい。
そう思っていると、カイウスたちに追いついたナターシャが私に近付いて来た。
「本当に。ただのハズレ者が図々しくも王太子の婚約者になるなんて。
まぁ、この件が片づけば王太子の座も、、、ねぇ?」
ナターシャはそこまで言うと、意味ありげにカイウスに顔を向けた。
「あぁ、そうだな。ザラ神殿の事もどうせアイツのやり残しだろう。
さっさと用事を済ませたら、近くの湖で観光でもしよう。」
カイウスはそう言いながらナターシャの肩に手をかけると自分の方へと抱き寄せ、いつもの様に言うだけ言ったら気が済んだのか、カイウスたち一行はまた歩き出した。
暫くカイウスたちの後ろ姿を見つめていたけれど、それは彼らの事が気になったからじゃない。
カイウスの言葉の意味を考えていたから。
カイウスの言ったアイツとは、聖女サーヤの事なのだと思う。
では何故、サーヤが居ないからカイウスたちがザラ神殿に行かなければ行けないのだろう?
しかも聖女サーヤのやり残し?
もしかしてアレクが呼び出された緊急の報告に関係のある事なの?
アレクに会って聞きたいけれど、忙しくても毎朝届いていたメッセージカードもここ二日ほどは来なくなった。それぐらい忙しいって事だ。
なら、連絡あるまで私は待っているべき?
そう結論付けて、私は白亜宮に戻っていつも通り静かに過ごしていた。
すると深夜にそれなりに距離のある筈の王宮の方からやけに賑やかな声や音が響いてきて目が覚めた。
それは歓声や楽しげな声などではなく、緊急事態が起きた事を思わせるような慌ただしさを感じる声や音だった。
不安になるような声や音に、その夜は眠れずただじっとベッドの中で夜が明けるのを私は待っていた。
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