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日常が非日常になった日
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元の世界へと戻った紗夜は度肝を抜かれたあの嫌がらせ以外は何事もなく、今まで通りの日常生活へと戻っていった、ハズだった。
三年の先輩たちが中体連で県大会まで進んだ後に引退した。これからは紗夜たち二年生が一年生を引っ張って秋季大会を目指すのだ。
連日の猛暑日で練習は早朝と夕方に変更され、暑い時間帯を避けての練習ではあるが、それでも汗だくになる事には変わりない。
生温い風を受けながら自転車で家路を急ぐ紗夜は、不意に周囲の空気がひんやりとしたのを感じた。
そう言えば、昨日もこの辺りは涼しかったなぁ。今まで気が付かなかったけれど、この辺りは風の通り道なのかも。
そんな事を考えながら止まる事なく自転車で紗夜は通り過ぎる。
そうして何事もなく夏休みは過ぎて行った。
夏休みもあと数日となったある日、クラスの有志で肝試しが企画され、紗夜も友人に誘われて参加する事になった。
肝試し場所は、学区内の小学校の裏手にある神社だった。この神社は祭事の時以外は無人の小さな神社だった。
小さな鳥居の先に三十段ほどの石段があり、登ったその先にはそう広くはない境内と神社が鬱蒼とした木々に囲まれていた。
この神社は小学校の側近くではあるが、木々に囲まれている為か日中でも薄暗く子どもたちも滅多に遊びに行く事はない。
子どもたちからすると少し不気味に感じるこの神社に纏わる噂話が幾つかあった。
こどもたちの間から発生した妖怪の類の噂話から、又聞きの又聞きで嘘か本当かわからない殺人事件があった、という話など。
兎に角、大人も滅多に近付かないこの神社が肝試しの場所に選ばれたのは、ちょっとした思いつきで行うには準備も要らず、小さな神社だけあって時間もさほど掛からずに終わる事が出来るだろう、という理由で選ばれた様だった。
参加者は丁度クラスの半分ぐらい、二十人ほどが集まっていた。その殆どの生徒が学校ジャージだったのには皆で笑ってしまった。
二人一組で階段下からスタートし、神社をぐるりと一周した後に、賽銭箱の横に線香花火を一つ置いて来る。
そうして階段下に戻って来たら次の組が階段を登って行くという肝試しは、前の組が戻って来るのに五分もあれば足りるだろう簡単なものだった。
最後の組が戻ってきたら全員で階段を登って境内で花火をして終了するこの肝試しは、夏休みの最終日にクラスメイトと会って一緒に何かをしたい、というのが本音の企画だったのだろう。
肝試し自体は何事もなくサクサクと進んだ。最後の組が戻ると、皆で用意した花火と水の入ったバケツを持ってワイワイと話しながら階段を登り、線香花火を回収して花火を始めた。
狭い境内はクラスメイトたちでいっぱいになり、花火で辺りが明るくなると、先程まで肝試しをしていた事などすっかり忘れてしまうほど賑やかな場所へと変わっていた。
私はこの時まで何かに気づく事も何の違和感も感じず友だちと一緒に楽しんでいた。
けれど、不意に寒気を感じる程に周囲の温度が急激に下がった、と感じた。
真夏でも深夜に外にい続ければ体が冷えてくる。
けれどそういうのじゃない。
紗夜の周囲の子たちはタンクトップや半袖Tシャツの子もいるけれど寒いと感じてはいない。
それにこの感覚には覚えがある。
私がそう意識した時、クラスメイトしか居ない筈の境内に見知らぬ顔が幾つもクラスメイトたちの間から見えた。
見知らぬ顔は一つや二つではない。若い人も歳を取った人も子どもも大人も。
よくよく耳を澄ませば、クラスメイトたちの賑やかな声だけではない違う声も聞こえてくる。
今はまだ花火で辺りが明るいからいい。けれど、花火をやり終わってこの場が暗くなってしまったらどうなるのだろう。
私はそれを想像してゴクリと喉が鳴った。
皆はまだ気付いていない。でも不安を煽るような事を言ったらどうなる?
石の階段は二人が並んでギリギリ歩けるぐらいの幅しかない。しかも私たちはそれを登って今ここに居る。
あの狭い石段を大した灯りも無しに駆け下りるのは危険だ。
皆が気付く前に何とかしなければ!
私がどうにか出来るとか思っていた訳では無い。
けれどどうにかしなければ!とい気持ちで一杯だった私は、気付けば祈る様に両手を組んで一年間唱え続けていた言葉を呟いた。
「うわっ!」
「えっ、ちょっとやだ、何?」
「うおっ、風で火が消えるっ!」
紗夜を中心に外へと広がっていく白い光は、カイウスの時と同様、誰の目にも見えていない様だった。
けれど白い光がクラスメイトたちを通り越して外へと向かっていく時に風が吹いたような感覚があったらしい。
白い光はそのまま広がり境内だけでなく神社もすっぽりと包む様に広がって、そして消えた。
私だけに見えていた見知らぬ人たちと一緒に。
・・・・穢れを祓った時と一緒だった。
見えていたのは幽霊?
その後は何事もなく解散となり、無事に家に着いた私は今夜の出来事を思い出していた。
何とかしなければ、と何も考えず無意識の内に、異世界で聖女をしていた時と同じ事をした。
そして聖女の力も使えてしまった。
聖女の力を持ったまま元の世界に戻った、という事?
やっぱり穢れは死者の魂が瘴気と同化したものだった?
この世界では瘴気というモノがないから黒い霧のようにはなったりしないのかな。
と、いうか、、、、アレって幽霊だったよねぇぇぇ~!
そこまで考えて今更ながらに私は驚いてしまったが、然程恐怖は感じなかった。
境内で見た幽霊たちに悪意の様なものを感じなかったからだろうか?
ーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
三年の先輩たちが中体連で県大会まで進んだ後に引退した。これからは紗夜たち二年生が一年生を引っ張って秋季大会を目指すのだ。
連日の猛暑日で練習は早朝と夕方に変更され、暑い時間帯を避けての練習ではあるが、それでも汗だくになる事には変わりない。
生温い風を受けながら自転車で家路を急ぐ紗夜は、不意に周囲の空気がひんやりとしたのを感じた。
そう言えば、昨日もこの辺りは涼しかったなぁ。今まで気が付かなかったけれど、この辺りは風の通り道なのかも。
そんな事を考えながら止まる事なく自転車で紗夜は通り過ぎる。
そうして何事もなく夏休みは過ぎて行った。
夏休みもあと数日となったある日、クラスの有志で肝試しが企画され、紗夜も友人に誘われて参加する事になった。
肝試し場所は、学区内の小学校の裏手にある神社だった。この神社は祭事の時以外は無人の小さな神社だった。
小さな鳥居の先に三十段ほどの石段があり、登ったその先にはそう広くはない境内と神社が鬱蒼とした木々に囲まれていた。
この神社は小学校の側近くではあるが、木々に囲まれている為か日中でも薄暗く子どもたちも滅多に遊びに行く事はない。
子どもたちからすると少し不気味に感じるこの神社に纏わる噂話が幾つかあった。
こどもたちの間から発生した妖怪の類の噂話から、又聞きの又聞きで嘘か本当かわからない殺人事件があった、という話など。
兎に角、大人も滅多に近付かないこの神社が肝試しの場所に選ばれたのは、ちょっとした思いつきで行うには準備も要らず、小さな神社だけあって時間もさほど掛からずに終わる事が出来るだろう、という理由で選ばれた様だった。
参加者は丁度クラスの半分ぐらい、二十人ほどが集まっていた。その殆どの生徒が学校ジャージだったのには皆で笑ってしまった。
二人一組で階段下からスタートし、神社をぐるりと一周した後に、賽銭箱の横に線香花火を一つ置いて来る。
そうして階段下に戻って来たら次の組が階段を登って行くという肝試しは、前の組が戻って来るのに五分もあれば足りるだろう簡単なものだった。
最後の組が戻ってきたら全員で階段を登って境内で花火をして終了するこの肝試しは、夏休みの最終日にクラスメイトと会って一緒に何かをしたい、というのが本音の企画だったのだろう。
肝試し自体は何事もなくサクサクと進んだ。最後の組が戻ると、皆で用意した花火と水の入ったバケツを持ってワイワイと話しながら階段を登り、線香花火を回収して花火を始めた。
狭い境内はクラスメイトたちでいっぱいになり、花火で辺りが明るくなると、先程まで肝試しをしていた事などすっかり忘れてしまうほど賑やかな場所へと変わっていた。
私はこの時まで何かに気づく事も何の違和感も感じず友だちと一緒に楽しんでいた。
けれど、不意に寒気を感じる程に周囲の温度が急激に下がった、と感じた。
真夏でも深夜に外にい続ければ体が冷えてくる。
けれどそういうのじゃない。
紗夜の周囲の子たちはタンクトップや半袖Tシャツの子もいるけれど寒いと感じてはいない。
それにこの感覚には覚えがある。
私がそう意識した時、クラスメイトしか居ない筈の境内に見知らぬ顔が幾つもクラスメイトたちの間から見えた。
見知らぬ顔は一つや二つではない。若い人も歳を取った人も子どもも大人も。
よくよく耳を澄ませば、クラスメイトたちの賑やかな声だけではない違う声も聞こえてくる。
今はまだ花火で辺りが明るいからいい。けれど、花火をやり終わってこの場が暗くなってしまったらどうなるのだろう。
私はそれを想像してゴクリと喉が鳴った。
皆はまだ気付いていない。でも不安を煽るような事を言ったらどうなる?
石の階段は二人が並んでギリギリ歩けるぐらいの幅しかない。しかも私たちはそれを登って今ここに居る。
あの狭い石段を大した灯りも無しに駆け下りるのは危険だ。
皆が気付く前に何とかしなければ!
私がどうにか出来るとか思っていた訳では無い。
けれどどうにかしなければ!とい気持ちで一杯だった私は、気付けば祈る様に両手を組んで一年間唱え続けていた言葉を呟いた。
「うわっ!」
「えっ、ちょっとやだ、何?」
「うおっ、風で火が消えるっ!」
紗夜を中心に外へと広がっていく白い光は、カイウスの時と同様、誰の目にも見えていない様だった。
けれど白い光がクラスメイトたちを通り越して外へと向かっていく時に風が吹いたような感覚があったらしい。
白い光はそのまま広がり境内だけでなく神社もすっぽりと包む様に広がって、そして消えた。
私だけに見えていた見知らぬ人たちと一緒に。
・・・・穢れを祓った時と一緒だった。
見えていたのは幽霊?
その後は何事もなく解散となり、無事に家に着いた私は今夜の出来事を思い出していた。
何とかしなければ、と何も考えず無意識の内に、異世界で聖女をしていた時と同じ事をした。
そして聖女の力も使えてしまった。
聖女の力を持ったまま元の世界に戻った、という事?
やっぱり穢れは死者の魂が瘴気と同化したものだった?
この世界では瘴気というモノがないから黒い霧のようにはなったりしないのかな。
と、いうか、、、、アレって幽霊だったよねぇぇぇ~!
そこまで考えて今更ながらに私は驚いてしまったが、然程恐怖は感じなかった。
境内で見た幽霊たちに悪意の様なものを感じなかったからだろうか?
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
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