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王太子の婚約者候補になった日
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アレクシス殿下はお姫様抱っこのまま王宮内を歩いた事で、私が着ている衣装のせいもあってか、後日、『アレクシス殿下が運命の人と出会い花嫁を拐ってきた。』という噂になっていた。
ある意味、花嫁を異世界から拐ってきたのはカイウスなんだけれどね。
私をお姫様抱っこしたまま、国王陛下と会ったアレクシス殿下は、あっという間に国王陛下から私の処遇をアレクシス殿下に一任する、という言質を取り、私を彼の婚約者候補としてしまったのだ。
何故こうなった!?
多分、アレクシス殿下が私をお姫様抱っこしたままだったのは相手を混乱させる目的もあったのだと思う。
だって国王陛下は普段は無表情なアレクシス殿下が、私をお姫様抱っこしている姿に度肝を抜かれていた。
呆気に取られた国王陛下のお顔は口をポカン大きく開いていてちょっと面白かった。
国王陛下も側に居た宰相や大臣たちも、アレクシス殿下にお姫様抱っこをされている私をただただ凝視していたので非常に居た堪れなかったけれど。
そして国王陛下だけでなく、人生初のお姫様抱っこと周囲の視線にテンパっていた私もアレクシス殿下が国王陛下に何と言っていたのか、殆ど聞いていなかった。
最後に同意を促す様な言葉と笑顔をしていたので、早くお姫様抱っこから解放されたくて『はい。』と返事をして頷いた。
それがどうやら彼の婚約者候補となる事に同意していたらしい。
本当に、、、何故こうなった!?
そうして気付けば、王太子の部屋と一部屋挟んで私の部屋が用意されていた。
いやいやいや、ちょっと待って!?
一年という短い間の異世界生活で殆ど旅に出ていた無知な十四歳の私でもこの部屋の意味を知ってたよ?
間に挟まれた部屋はただの部屋じゃ無い、夫婦の寝室だっていう事を!
実際、用意された部屋に入ったら内扉が有ったからね。
王太子の部屋がある方向の壁にね。
普通、婚約者候補というだけの関係でこの部屋に案内する?
しかもいきなりの婚約者候補って。
何、その肩書き、必要?
「貴女は仮にも聖女として召喚されたんだ。召喚に手違いがあったとしても表向きは聖女として扱われる。
そうなると貴女を狙う不届き者が現れるかも知れない。
何の後ろ盾もない貴女を守るには私の婚約者候補という肩書きがあった方が何かと安心だろう。」
あれっ?前回、召喚された時に聖女の地位は王族に匹敵するって言われた様な、、、、?
なら聖女の肩書きだけで十分なんじゃないかな。
そう聞こうとしてよくよく考えたら、私は前に召喚された聖女と同一人物と思われていない事を思い出した。
なんていったって、この世界の一年が元の世界では十年だったんだからね。
確か、アレクシス殿下とは十一歳差だった筈だ。それが今は一歳差になっているのだ。
いやぁ~、ビックリだねぇ。
歳は取りたくないもんだね。
などと私は呑気にそう思っていたけれど、そう言えばどうやらカイウスは私の功績を奪っていたようだった。
そして私の事を無責任で使命を放棄した聖女と言っていたような、、、。
そうだとするならば、私が同一人物である、と言ってしまうのはマズイのでは?と漸く思い至った。
それなら別人だと思われた方が都合が良い気がする。
十四歳の頃と比べて、実はそんなに顔立ちは変わっていない筈だけれど、写真を見返してみると当時は太ってはいないものの頬が丸みを帯びた子ども顔だったんだよね。
あっ!それでチンチクリン?
そして当時の、私は中学でソフトテニス部に入っていた。日焼け止めは欠かさず塗ってはいたけれど、全体的に肌はこんがり焼けていた。
いや、真っ黒に近い焦げ具合だったと言っていいだろう。
勿論、半袖の部活Tシャツを肩まで捲り上げ短パン姿での練習だったから隠れている部分は日に焼けてはいない。けれど、そういう部分は早々人に見せる場所では無い。
だからこの国の人たちは日焼けしている私の肌の色を元からの色と認識していた筈だ。湯浴みも着替えも私は自分一人でしていたから、侍女たちも気づいてはいなかったと思う。
比べて元の世界で十年間過ごした私の肌は色白という程ではないけれど日焼けはしていない。
おまけにこの一年は結婚式に向けて、今まで以上に日焼けをしない様に注意して生活していた。
それに大人になって自然と頬の丸みはなくなり少しだけシュッとした上、ブライダルエステに通っていた影響で、肌艶もここ数年の中で最高に良い状態だと思う。
そう考えるとカイウスたちが私を聖女だと認識出来なかったのも頷ける。
命拾いしたってやつかなぁ。
でも無責任聖女と認識されるのと王太子の婚約者候補として認識されるのでは、どちらの方が嫌がらせはマシなのかな。
前回の召喚では殆ど王宮では過ごしていないけれども、紗夜の側にはいつもカイウスがいた。
人当たりが良く快活で社交的なカイウスは王宮の侍女にとても人気が高かった様だ。そのカイウスが主導して聖女召喚を行ったとはいえ、カイウスを独り占めしている私を快く思っていない者はかなり居た様だった。
身の回りの物を隠される、態とぶつかってくる者など、周囲から鈍感と言われていた私でも『これは嫌がらせだな。』と気付くぐらいの事はされていた。
その後、直ぐに穢れを祓う旅に出たので悩む程では無かったんだけれどね。
けれど一つだけ、あの嫌がらせだけは十年経った今でも忘れられない。
もしかしたら犯人は旅から戻って来た私に恥を掻かす為に準備していたのかも知れない。
けれどカイウスの策略で王宮に戻る前に私は元の世界に戻された。
だから嫌がらせは不発に終わる筈だったのだ。
けれど、何故だか紗夜とともにベッドも召喚された時と同じ様に元の世界に戻って来た。
そして私は何気なく開けたベッド下の引き出しの中身に非常に驚いた。
焦って、困って、その嫌がらせの品をどうすれば良いのか悩みに悩んだ。
実際に処分するまで一か月掛かった。その間、家族に見つかったらどうすればよいのか、と生きた心地がしなかった、というのは大袈裟では無いと思う。
それだけ十四歳の私には衝撃的な物が引き出しの中に入れられていたのだった。
それを思うと王太子の婚約者候補となった今、どんな嫌がらせが待ち受けているのだろうか。
歳を取って昔以上に神経が太くなった今の私ならば、大抵の嫌がらせも軽く受け流せるとは思う。あんな嫌がらせだって上手くやり過ごせるだろう。
でも出来れば、嫌がらせなど受ける事なく、穏やかに過ごしたい。
そして今回はもし叶うならば元の世界に戻る時、結婚式の半年ぐらい前に戻らせて欲しいな、と思う。
その時期はまだ会社にも友人たちにもまだ招待状も話もしていなかったから、婚約解消するのもそう難しくはない筈だ。
そう考えれば期間限定の婚約者候補という立場も深く考えなくても良いかも知れないな。
まだ起きぬ嫌がらせを不安に思うよりも、戻った時の事を考えて私はの気持ちは少しだけ上向きになった。
ある意味、花嫁を異世界から拐ってきたのはカイウスなんだけれどね。
私をお姫様抱っこしたまま、国王陛下と会ったアレクシス殿下は、あっという間に国王陛下から私の処遇をアレクシス殿下に一任する、という言質を取り、私を彼の婚約者候補としてしまったのだ。
何故こうなった!?
多分、アレクシス殿下が私をお姫様抱っこしたままだったのは相手を混乱させる目的もあったのだと思う。
だって国王陛下は普段は無表情なアレクシス殿下が、私をお姫様抱っこしている姿に度肝を抜かれていた。
呆気に取られた国王陛下のお顔は口をポカン大きく開いていてちょっと面白かった。
国王陛下も側に居た宰相や大臣たちも、アレクシス殿下にお姫様抱っこをされている私をただただ凝視していたので非常に居た堪れなかったけれど。
そして国王陛下だけでなく、人生初のお姫様抱っこと周囲の視線にテンパっていた私もアレクシス殿下が国王陛下に何と言っていたのか、殆ど聞いていなかった。
最後に同意を促す様な言葉と笑顔をしていたので、早くお姫様抱っこから解放されたくて『はい。』と返事をして頷いた。
それがどうやら彼の婚約者候補となる事に同意していたらしい。
本当に、、、何故こうなった!?
そうして気付けば、王太子の部屋と一部屋挟んで私の部屋が用意されていた。
いやいやいや、ちょっと待って!?
一年という短い間の異世界生活で殆ど旅に出ていた無知な十四歳の私でもこの部屋の意味を知ってたよ?
間に挟まれた部屋はただの部屋じゃ無い、夫婦の寝室だっていう事を!
実際、用意された部屋に入ったら内扉が有ったからね。
王太子の部屋がある方向の壁にね。
普通、婚約者候補というだけの関係でこの部屋に案内する?
しかもいきなりの婚約者候補って。
何、その肩書き、必要?
「貴女は仮にも聖女として召喚されたんだ。召喚に手違いがあったとしても表向きは聖女として扱われる。
そうなると貴女を狙う不届き者が現れるかも知れない。
何の後ろ盾もない貴女を守るには私の婚約者候補という肩書きがあった方が何かと安心だろう。」
あれっ?前回、召喚された時に聖女の地位は王族に匹敵するって言われた様な、、、、?
なら聖女の肩書きだけで十分なんじゃないかな。
そう聞こうとしてよくよく考えたら、私は前に召喚された聖女と同一人物と思われていない事を思い出した。
なんていったって、この世界の一年が元の世界では十年だったんだからね。
確か、アレクシス殿下とは十一歳差だった筈だ。それが今は一歳差になっているのだ。
いやぁ~、ビックリだねぇ。
歳は取りたくないもんだね。
などと私は呑気にそう思っていたけれど、そう言えばどうやらカイウスは私の功績を奪っていたようだった。
そして私の事を無責任で使命を放棄した聖女と言っていたような、、、。
そうだとするならば、私が同一人物である、と言ってしまうのはマズイのでは?と漸く思い至った。
それなら別人だと思われた方が都合が良い気がする。
十四歳の頃と比べて、実はそんなに顔立ちは変わっていない筈だけれど、写真を見返してみると当時は太ってはいないものの頬が丸みを帯びた子ども顔だったんだよね。
あっ!それでチンチクリン?
そして当時の、私は中学でソフトテニス部に入っていた。日焼け止めは欠かさず塗ってはいたけれど、全体的に肌はこんがり焼けていた。
いや、真っ黒に近い焦げ具合だったと言っていいだろう。
勿論、半袖の部活Tシャツを肩まで捲り上げ短パン姿での練習だったから隠れている部分は日に焼けてはいない。けれど、そういう部分は早々人に見せる場所では無い。
だからこの国の人たちは日焼けしている私の肌の色を元からの色と認識していた筈だ。湯浴みも着替えも私は自分一人でしていたから、侍女たちも気づいてはいなかったと思う。
比べて元の世界で十年間過ごした私の肌は色白という程ではないけれど日焼けはしていない。
おまけにこの一年は結婚式に向けて、今まで以上に日焼けをしない様に注意して生活していた。
それに大人になって自然と頬の丸みはなくなり少しだけシュッとした上、ブライダルエステに通っていた影響で、肌艶もここ数年の中で最高に良い状態だと思う。
そう考えるとカイウスたちが私を聖女だと認識出来なかったのも頷ける。
命拾いしたってやつかなぁ。
でも無責任聖女と認識されるのと王太子の婚約者候補として認識されるのでは、どちらの方が嫌がらせはマシなのかな。
前回の召喚では殆ど王宮では過ごしていないけれども、紗夜の側にはいつもカイウスがいた。
人当たりが良く快活で社交的なカイウスは王宮の侍女にとても人気が高かった様だ。そのカイウスが主導して聖女召喚を行ったとはいえ、カイウスを独り占めしている私を快く思っていない者はかなり居た様だった。
身の回りの物を隠される、態とぶつかってくる者など、周囲から鈍感と言われていた私でも『これは嫌がらせだな。』と気付くぐらいの事はされていた。
その後、直ぐに穢れを祓う旅に出たので悩む程では無かったんだけれどね。
けれど一つだけ、あの嫌がらせだけは十年経った今でも忘れられない。
もしかしたら犯人は旅から戻って来た私に恥を掻かす為に準備していたのかも知れない。
けれどカイウスの策略で王宮に戻る前に私は元の世界に戻された。
だから嫌がらせは不発に終わる筈だったのだ。
けれど、何故だか紗夜とともにベッドも召喚された時と同じ様に元の世界に戻って来た。
そして私は何気なく開けたベッド下の引き出しの中身に非常に驚いた。
焦って、困って、その嫌がらせの品をどうすれば良いのか悩みに悩んだ。
実際に処分するまで一か月掛かった。その間、家族に見つかったらどうすればよいのか、と生きた心地がしなかった、というのは大袈裟では無いと思う。
それだけ十四歳の私には衝撃的な物が引き出しの中に入れられていたのだった。
それを思うと王太子の婚約者候補となった今、どんな嫌がらせが待ち受けているのだろうか。
歳を取って昔以上に神経が太くなった今の私ならば、大抵の嫌がらせも軽く受け流せるとは思う。あんな嫌がらせだって上手くやり過ごせるだろう。
でも出来れば、嫌がらせなど受ける事なく、穏やかに過ごしたい。
そして今回はもし叶うならば元の世界に戻る時、結婚式の半年ぐらい前に戻らせて欲しいな、と思う。
その時期はまだ会社にも友人たちにもまだ招待状も話もしていなかったから、婚約解消するのもそう難しくはない筈だ。
そう考えれば期間限定の婚約者候補という立場も深く考えなくても良いかも知れないな。
まだ起きぬ嫌がらせを不安に思うよりも、戻った時の事を考えて私はの気持ちは少しだけ上向きになった。
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