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再び召喚された日
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「おいっ、ザイル。あの聖女ではないではないか。」
結婚を回避出来た嬉しさに浸っていると不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
床に両手をついて前のめりに屈んでいた私はバッと声をする方に顔を向けた。
カイウス殿下だ!
初めて会った時よりも更に豪奢な衣装に着飾ったカイウス殿下が笑いながら、ローブを身に纏った男性に話し掛けている。
懐かしいとか憎らしいとかそういう感情の前に私は思わず自分の隣に目を向けた。
・・・・良かった。
魔法陣の中に居たけれど、婚約者は隣には居ない。
あ、でも新郎が着ていた衣装や靴は落ちている、、、、。
ざまぁみろ、浮気男!!!
今頃、アイツは全裸で皆の前に居る筈だ。
というか、異世界召喚って割と大雑把なモノ?
「折角、私的な祝いの席だからと余興でやらせてやったのに、あのチンチクリンの聖女を召喚出来なかったではないか。」
は?
私はこの男の命令で行われた余興で、もう一度この世界に召喚されたの?
随分軽い異世界召喚だなぁ、本当に。
「あれぇ~、おっかしいですね。半年たって俺たちの魔力も元通りになったので失敗する筈はないんですけどねぇ。」
ザイルと呼ばれた男が軽い口調で言った。
私が元の世界に帰って半年?
それだけしか経っていないの?
まさか、カイウスは私との約束を守って、、、、。
チョロい私がそう思いかけた時、カイウスが大きな声で言った。
「あの勘違いチンチクリン聖女に、私とこの美しいナターシャの結婚の祝いの席を見せつけてやりたかったのになぁ。」
・・・・再びの異世界召喚の理由が下衆だった。
私がかつて恋した男性は、想像以上に下衆だったらしい。
勘違いも何も、あなたから告ってきただろうがっ!
そう言いながらカイウスに腹パンをキメたかったけれど、グッと我慢した。
ついでにカイウスの隣で馬鹿にした様に私を見て笑っている金髪翠目のスレンダーな美女にもデコピンをかましたかったんだけどね、本当は。
その笑み、婚約者の浮気をバラしに来た親友の笑い顔にそっくりなんだけど!
我慢が出来る私って大人だな。伊達に十も歳を取ってないよね。
「アイツじゃないなら、、、おいお前。何で聖女みたいな格好をしているんだ?」
「・・・・いえ、コレは花嫁衣装です。結婚式の最中だったので。」
お前ね。カイウスは私に気づいてない訳だ。
まぁ、カイウスたちからすればたった半年だけれど、私からすれば十年だ。今じゃ私の方が彼よりも年上になっている。
全然嬉しくない。嬉しくはないけれど彼への悪口のセリフは増えたね。
このくそガキがっ!!
いや、本当にくだらない、下衆な召喚理由だったけど、結婚せずに済んだのはラッキーだった。
今すぐ元の世界に戻されたらアウトだけど。
「ぶはっ。結婚式の最中に召喚されるとは滑稽だな。しかも結婚祝いの席での余興に、だぞ?」
本当に、本当にカイウスにはこれ以上喋って欲しくはない。
私の初恋の思い出がガラガラと音を立てて崩れていくだけじゃなくて、バシャバシャと墨汁をかけまくられて黒歴史へと今、塗り替えられていってるんですけど?
騙されたかなぁ~、とは思っていた。思ってはいたけれどそれを本当の事として受け止めるのって今更だけどキツい。
それも思った以上にクズだった初恋の相手と同じ日に結婚しようとしていたこの偶然が、まだ縁が切れていなかったのかと不安に感じてしまう。
この世界に再召喚されている時点で縁はまだ繋がっていたんだね、とは思うけど!
切って捨てたい縁の方だけどね!!
「カイウス殿下、それでこの女、どうしましょうか?」
「ん~、あの聖女が驚いて悲しむ姿を酒の肴にして飲みたかったんだけどなぁ。
お前じゃ意味ないしな。お前、聖女でも無いんだろう?」
何が酒の肴だ!悪趣味にも程がある。
しかもいきなり異世界に紹介されて、『お前、聖女か。』と聞かれて『はい、そうです!』と答える馬鹿がどこにいるのだろう。
「ハイ、違います。只の一般人です。」
つくづく腹が立つから本当の事なんて何一つ言いたくはない。
初めて会った時の私がそうだった様に、カイウスをひと目見てぼぉーっとのぼせ上がる女性は多い。今となったら性格は大いに問題有りな男だがイケメンでしかも王子様だ。
そんな自分の価値をよく知っているカイウスは、初対面の筈の私の態度にオヤっというような表情をした。
「お前、名前は?」
「・・・・くりす、です。」
おっと、本当の事を言ってしまった。けれど紗夜と名乗る気は無い。
「ふ~ん。元の世界に戻りたいか?」
普通は戻りたい、と思うよね。私もあの場では無いなら戻りたい。
だけどカイウスがこういう風に聞いてくるという事は、何か良くない事を考えていそうだ。
大体、勝手に人を呼び出した側が『戻りたいか?』と聞いてくるのはおかしいでしょう。
けれど、私は帰りたくない、って思っているんだよねぇ。
嫌な事の先延ばしでしかないけれど。
だから、私は敢えてこう言った。
「はい、帰りたいです。今すぐ私を元の世界に返して下さいっ。」
結婚を回避出来た嬉しさに浸っていると不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
床に両手をついて前のめりに屈んでいた私はバッと声をする方に顔を向けた。
カイウス殿下だ!
初めて会った時よりも更に豪奢な衣装に着飾ったカイウス殿下が笑いながら、ローブを身に纏った男性に話し掛けている。
懐かしいとか憎らしいとかそういう感情の前に私は思わず自分の隣に目を向けた。
・・・・良かった。
魔法陣の中に居たけれど、婚約者は隣には居ない。
あ、でも新郎が着ていた衣装や靴は落ちている、、、、。
ざまぁみろ、浮気男!!!
今頃、アイツは全裸で皆の前に居る筈だ。
というか、異世界召喚って割と大雑把なモノ?
「折角、私的な祝いの席だからと余興でやらせてやったのに、あのチンチクリンの聖女を召喚出来なかったではないか。」
は?
私はこの男の命令で行われた余興で、もう一度この世界に召喚されたの?
随分軽い異世界召喚だなぁ、本当に。
「あれぇ~、おっかしいですね。半年たって俺たちの魔力も元通りになったので失敗する筈はないんですけどねぇ。」
ザイルと呼ばれた男が軽い口調で言った。
私が元の世界に帰って半年?
それだけしか経っていないの?
まさか、カイウスは私との約束を守って、、、、。
チョロい私がそう思いかけた時、カイウスが大きな声で言った。
「あの勘違いチンチクリン聖女に、私とこの美しいナターシャの結婚の祝いの席を見せつけてやりたかったのになぁ。」
・・・・再びの異世界召喚の理由が下衆だった。
私がかつて恋した男性は、想像以上に下衆だったらしい。
勘違いも何も、あなたから告ってきただろうがっ!
そう言いながらカイウスに腹パンをキメたかったけれど、グッと我慢した。
ついでにカイウスの隣で馬鹿にした様に私を見て笑っている金髪翠目のスレンダーな美女にもデコピンをかましたかったんだけどね、本当は。
その笑み、婚約者の浮気をバラしに来た親友の笑い顔にそっくりなんだけど!
我慢が出来る私って大人だな。伊達に十も歳を取ってないよね。
「アイツじゃないなら、、、おいお前。何で聖女みたいな格好をしているんだ?」
「・・・・いえ、コレは花嫁衣装です。結婚式の最中だったので。」
お前ね。カイウスは私に気づいてない訳だ。
まぁ、カイウスたちからすればたった半年だけれど、私からすれば十年だ。今じゃ私の方が彼よりも年上になっている。
全然嬉しくない。嬉しくはないけれど彼への悪口のセリフは増えたね。
このくそガキがっ!!
いや、本当にくだらない、下衆な召喚理由だったけど、結婚せずに済んだのはラッキーだった。
今すぐ元の世界に戻されたらアウトだけど。
「ぶはっ。結婚式の最中に召喚されるとは滑稽だな。しかも結婚祝いの席での余興に、だぞ?」
本当に、本当にカイウスにはこれ以上喋って欲しくはない。
私の初恋の思い出がガラガラと音を立てて崩れていくだけじゃなくて、バシャバシャと墨汁をかけまくられて黒歴史へと今、塗り替えられていってるんですけど?
騙されたかなぁ~、とは思っていた。思ってはいたけれどそれを本当の事として受け止めるのって今更だけどキツい。
それも思った以上にクズだった初恋の相手と同じ日に結婚しようとしていたこの偶然が、まだ縁が切れていなかったのかと不安に感じてしまう。
この世界に再召喚されている時点で縁はまだ繋がっていたんだね、とは思うけど!
切って捨てたい縁の方だけどね!!
「カイウス殿下、それでこの女、どうしましょうか?」
「ん~、あの聖女が驚いて悲しむ姿を酒の肴にして飲みたかったんだけどなぁ。
お前じゃ意味ないしな。お前、聖女でも無いんだろう?」
何が酒の肴だ!悪趣味にも程がある。
しかもいきなり異世界に紹介されて、『お前、聖女か。』と聞かれて『はい、そうです!』と答える馬鹿がどこにいるのだろう。
「ハイ、違います。只の一般人です。」
つくづく腹が立つから本当の事なんて何一つ言いたくはない。
初めて会った時の私がそうだった様に、カイウスをひと目見てぼぉーっとのぼせ上がる女性は多い。今となったら性格は大いに問題有りな男だがイケメンでしかも王子様だ。
そんな自分の価値をよく知っているカイウスは、初対面の筈の私の態度にオヤっというような表情をした。
「お前、名前は?」
「・・・・くりす、です。」
おっと、本当の事を言ってしまった。けれど紗夜と名乗る気は無い。
「ふ~ん。元の世界に戻りたいか?」
普通は戻りたい、と思うよね。私もあの場では無いなら戻りたい。
だけどカイウスがこういう風に聞いてくるという事は、何か良くない事を考えていそうだ。
大体、勝手に人を呼び出した側が『戻りたいか?』と聞いてくるのはおかしいでしょう。
けれど、私は帰りたくない、って思っているんだよねぇ。
嫌な事の先延ばしでしかないけれど。
だから、私は敢えてこう言った。
「はい、帰りたいです。今すぐ私を元の世界に返して下さいっ。」
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