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召喚された日

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元の世界に戻った私は驚くべき事に召喚された日、時間へと戻っていた。


全く同じ日時に戻されて、私自身も異世界での日々は白昼夢だったのでは?と思ってしまう程だった。




召喚された日は、夏休みが始まったばかりのとても暑い日だった。


何もする気が起きなかった私は、それはそれはダラけた格好で部屋のエアコンの冷房設定を23度で、環境に優しくないと思われる程ガンガンにエアコンを効かせて、更にうちわ片手にベッドで涼んでいたのだ。


自分の部屋で一人で涼んでいたはずなのに、突然の光に驚いて目を閉じた。
暫くすると何故だか人の気配と声が聞こえてきて、『これは夏に定番の心霊現象か?』と恐る恐る目を開けてみれば、そこには不思議な恰好をした人たちが私を取り囲む様に立っていた。


いや、周囲に居た人たちの恰好は理解出来てはいた。ザ・王様な格好の人や騎士姿の人、魔法が使えるんですか、という様なローブを着ている人たちだと認識したからこそ不思議だったのだ。



何が不思議って今は真夏で、此処は私の部屋で、なのに何故、その恰好で私の部屋に?と思った。


それがまさか!


まさかのまさか、私はベッドごと召喚されていただなんて!



ベッドの上にはうちわだけじゃない、読みかけの漫画やティーン向け雑誌、脱ぎっぱなしの部活Tシャツに、いつから置いてあったのかと思われる学校の制服まであったのだ。


そりゃ自分の部屋だと錯覚するよね。



けれど周囲に居る人たちの足元は私の部屋の床ではなかった。


大理石?よく分からないけれど、黒光りした石の床だった。


そして彼らの先に見える風景はどう見ても私の部屋じゃない。



それらに目がいくと、漸く私はパニックに陥った。

無意識に『ギャーギャー』と叫んでいた。
可愛らしく『キャー』と叫べなかったのはまだ子どもだったから、と思いたい。


ベッドの上で、呼び掛けてくる声にもガン無視で、タオルケットの中で叫ぶ私に彼らも困惑していた事だと思う。


ひとしきり叫んだ私は図太くもそのまま寝入ってしまった。


まだ子どもだったし朝練があった後だったし、、、、。



次に目を覚ました時にはベッドはそのままに、私は何処かの部屋に居た。けれどそれは私の部屋では無い。首を傾げる私に部屋の隅から声がした。


「お目覚めですか、聖女様。」



突然、聞こえた声にビクリと肩を揺らして声のした方を見れば、私の母ぐらいの年齢のメイド姿の女性が居た。エンタメ的なメイド姿ではなくて、何処かのお屋敷に居そうな感じの方のね。


「せい、、、じょ?」


相手が西洋人のような姿だったとか部屋の家具がホテルのスイートルーム以上の高級家具っぽかったとかそんな事よりも、彼女の言葉の方が意味が分からなくて気になった。



「・・・少々お待ち下さい。カイウス殿下に聖女様が目覚められた事を報告して参ります。」


私の姿を見て少し眉を顰めた彼女はそう言うと部屋を出て行った。


かいうすでんか?


そしも二度も言っていたという言葉。


本当に何から何まで意味が分からなかった。しかし、彼女は誰かに報告をしに行ってしまった。


もしかして誰かがこの部屋に来る?


私はタンクトップに短パン姿の自分を見る。自分の部屋ならば良いだろう。
けれど此処は私の部屋ではない上にこれから誰かが来る!


私は慌ててベッドの隅に畳まれて置かれている制服を上から着込んだ。私の通う中学校は今時珍しいセーラー服だった。


セーラー服は着たけれど足は裸足のままなのが少し格好がつかない。けれど真夏の暑い日に、部屋でだらけている私が靴下など履いている訳がなかった。


そう思って気が付いた。


私のベッドは収納用の引き出しが付いているじゃん、と。


その中には普段着などが入っていた筈だ。もしかしたら靴下も入れてあったかも知れない。


そう思って床にしゃがんで引き出しを漁っていると部屋の扉がガチャリと開く音がした。


反射的に振り向いた私の手には奮発して買ったブラジャーがあった。


当時、付き合っていた人も初恋すらまだの私が何故、奮発してお洒落ブラジャーを買っていたのか?


今となってはよく覚えてはいないけれど、たぶん友達と一緒に買いに行ったのだと思う。そして見栄を張ったのだ、謎の見栄を。



まぁ、そんな訳で私は入ってきた男性、それがカイウス殿下だったのだけれど。

私は初めて間近で見る金髪碧眼のイケメンにぎゅっと心を鷲掴みにされ、ついでにフリルのついた可愛らしいブラジャーをぎゅうっと握ったまま固まってしまった。



元の世界に戻ってから、異世界転生やら聖女や勇者召喚モノの漫画や小説を沢山読んだけれど、実際の異世界召喚なんてこんなものだ。


実際に召喚された人たちだって皆そんなもんだ、とそう思う。


いや、そうであって欲しい。


これは十年経った今でもそう願っている。


そして私はー。






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