ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑

文字の大きさ
上 下
44 / 51

第37話 やっぱりファンタジーって憧れるよな

しおりを挟む
 俺の発言の後、じゃあ戦うときにはどう戦えば良いか、強敵と戦うには、なんて質問の数が一気に増えた。
 おかげで俺は、移動しながらも戦い方の型やパターン、動きについて解説する羽目になってしまった。

 いやまあ無視しても良かったのだが、せっかく自分から焚き付けたのだからと少しばかり付き合ってしまったのだ。
 おかげで寝るまでドローンの前で様々な戦い方のレクチャーをする羽目になってしまった。

 だがそれも、翌日以降は旅の日程に絡むので全てを断って、ただただひたすらに歩を進め続けた。

 途中でロボが飽きて走っていっては獲物を取ってきたり、夜には俺がそれを捌かされたりはしたものの、日があるうちは旅を、日が落ちてからは夜営と配信での雑談を、というルーティーンが見事に出来上がった。

 おかげで日中にやたらと話すことを求められることも少なく、夜焚き火を灯し食事をしてから寝るまでの僅かな時間、視聴者と話すことを楽しめるようになってきた。

 :そう言えば、あの二人助けるときに10億ふっかけたのなんで
 :確かにジョン・ドゥなら自力で簡単に稼げそうだな
 :十億が微妙に大金すぎてわからん
 :スポーツ選手とかなら普通に貰ってる人多いもんな

「あれはまず二人に覚悟を求めたんだよ。『俺に助けて貰うって、そういうことだよ。俺の時間にはそれだけの価値があるのを奪うんだよ』って。金額についてはぶっちゃけ適当。その辺のギルドとか個人が俺に何かを依頼するのを躊躇う金額でかつ彼女らが将来的にはギリギリ返せそうな金額にした。ちゃんと説明してあげればよかったかな」

 あのときは深くは考えずにこんな金額設定にしてしまったけど、どうせなら面倒くさがらずに今みたいな説明ぐらいはしてやれば良かったかもしれない。
 いやでも完全に迷惑をかけられた側だったしな……やはりあのぐらいが妥当か。

「うん、やっぱり妥当だったな。俺が迷惑かけられた側だったし」

 :一体この一瞬に何があったのか
 :思考が急転換してて怖い
 :直前まで「説明してあげれば良かった」とか言ってたのに、やっぱあれで良かったって
 :実際に10億二人かた受け取るつもりなの?

「そりゃもちろん正当な報酬だし受け取るよ。むしろ受け取らなかったらそのために頑張ってる二人に失礼だろ。使い道は考えてないけど」

 本当に考えてないけど。
 10億とかどうしよう。
 地上にどこか広い土地でも買って豪邸でも建てるか?
 そんで敷地を広くすることで他の人と接触しないで良いようにするとか。

 それかその10億で探索者育成をしっかりやってくれる学校に投資するのも良いな。
 今みたいにダンジョンをただ経験させるだけの遊び程度みたいなのじゃなくて。

 :良い魔法具、は自分で手に入れるんだよなあ
 :強力なポーション! は自分で拾うよな
 :ガチでダンジョン最前線おじさんだから大金で買うものが無くて困る。
 :地上の名工に武器の依頼とかしてみたら? 素材次第だけど値段青天井だよ

「む、それはすごくありだな。ああ、いや、でもな……」

 その人ちゃんと魔力使えるだろうか。いや、使えないな。
 探索者でもちゃんと使える人は稀だし。
 でもいい武器を打つなら魔力が使えないとダンジョンでは通用しないんだよな。

 そこまで考えたところでひらめいた。
 ならば俺が教えてしまえばいいではないか、と。

「うん、ちょっと次地上に出たときには、武器打ってくれる凄い人探すわ。あ、自分で探すから今『この人がおすすめ!』とかいらないからな」

 :吉田滝津がおすすめ! っていらないかごめんなさい
 :また地上に出て知りたいときに配信で聞いてくれれば答える
 :人間国宝で探索者に打ってくれてる人が一人いるはず
 :探索者に打つと刀の数の制限無くなるらしいから、打ちやすいんだろ
 :だからそういうの今は良いって言われたやん

 まあ、一度話題に出てしまうと、こちらが止めようとしても色々とコメントが書かれてしまうのが、この視聴者が多くなった状態の配信だよな。

「じゃ、今夜はおやすみ。また明日な」

 :おやすみー
 :また明日
 :今から寝息配信か
 :少しドローンが離れるから寝息は拾えない定期
 



******




 徒歩で歩き続けて一週間程。

 :同じ風景飽きてきた
 :いや初日とは相当風景変わってるって
 :それでも流石に飽きる。空撮の映像でも10分とかで満足だし
 :堪え性なさすぎだろ
 :なんか面白いものないの? 
 :まだ緑豊かな方が楽しかった 

 以前世界樹に行ったときでさえ、歩いた期間は二日。
 それに比べて遥かに長い期間歩き続けているので、配信で見ている人たちも相当に減っている。
 まあ俺みたいによほど自然とその中を歩くのが好きだ、という類の人でないと、ずっと代わり映えのしない光景を見ているのは飽きるだろう。

 とはいえ、代わり映えがしない、というのは嘘である。
 旅に出て4日目ぐらいから、歩いている地面の様子や植生が大きく変わってきたのだ。
 そこまでは緑豊かな自然だったのが、次第と緑が少なくなり、代わりに茶色やオレンジの大地と砂や岩の地面がむき出しになってきた。

 荒れ地エリアに踏み込んだのだ。
 そして色々と文句を言われながらも俺がこっちに歩き続けているのには理由がある。

「もうしばらくしたら良いもの見れるから待ってろって」
  
 :そう言われて一日立つんですが
 :もう飽きたよ
 :というか自然よりモンスターとの戦闘見せてほしい
 :それな

 視聴者たちは不満たらたらだ。
 ちなみにここはあくまで通過点でしか無いし、今から彼らに紹介する良いものも横を通り過ぎるだけでそれ自体が目的地ではない。

 そうこうしているうちに、日が天頂に差し掛かる頃に、ようやく俺は、彼らに見せようとしていたものを、小高い岩の上から見下ろしていた。

「どうだ、凄いだろ」

 目の前に広がる光景を見ながら、ドローンにそれを示す。

 :でっか……
 :広いな
 :見渡す限り砂の色なんだが
 :見せたかったものってこれ?

「いや、砂漠自体ではないな。砂漠は地球にだってあるだろ?」

 :それはそう
 :なんかファンタジー要素が無いと
 :なにかあるの?

 俺の言葉にコメント欄からは肯定が返ってくる。
 確かに大砂漠はそれだけで日本人にとっては凄いものだが、とはいえ今どきはそれらはテレビや配信サイトなんかで見れるものでもある。

 そしてもちろん、俺が見せたかったものはそれだけではない。

 目の前に、ずっと奥の方まで続いている砂の海。
 ほとんど平坦に見えるそれを構成する砂は、実を言えば、何らかの力を受けてその全体が大きく動き続けている。
 ところどころでは波のように砂丘部分が動いているのが見て取れるだろう。

 :あれ、なんか動いてない?
 :動くってか……砂が流れてる?
 :なんだあれ、砂丘が波みたいに動いてるのか
 :流砂? でもあんな規模見たこと無いぞ

 まさしく海の如くうごめく砂。
 それがこの、俺が配信で流すためにやってきた場所だ。

 そしてそんな場所だからこそ、現実には存在しないような生物も存在している。

 のだが。

「まあ、そううまくはいかんか」

 残念ながら今日は見える範囲には顔を出してくれないらしい。
 まあ遥か彼方まで広がっている砂漠の中で、小高い岩の丘の上に立つとはいえ俺から見えている範囲はわずかだ。

「ほんとはな、もっととびっきりのものがあったんだけど──」

 そう言った直後、遥か遠くの砂丘の向こう側から、勢いよく砂の息吹が吹き出すのが見えた。
 それを確認した瞬間俺は、ドローンを掴んで、自身に魔法をかけて空を飛んだ。
 
 :どうしたどうした!?
 :また急にドローン掴む。
 :普通そんな掴んで動かすものじゃないんだが
 :ジョンの動きにドローンがついてこれないんだから仕方ない
 
「見えた──!」

 砂丘の向こう側遥か遠くにわずかにだが見えたそれに口角を上げる。

「配信に映ってるか?」

 :なんか砂丘の向こうに岩の塊みたいなのがある
 :遠くてほどんど見えないけどなにかあるのはわかる
 :何、あれ動いてね?
  
 直後に大山が鳴動した。
 砂の海を穏やかに泳いでいたその複数の生物が、体についた小さな動物を振り落とすためか、その身を捩らせながら大ジャンプを決めたのである。

 その様は、イルカやシャチが時折見せるそれに似ていたが、規模感が全く違った。
 遠く離れたここにまで、わずかに震動が伝わってくるほどの複数の大質量のジャンプ。
 
 以前もっと近くで見たときには、その迫力に俺は呑まれてしまった。
 でかく数が多いというのはそれだけでかっこいい。

「ちょっと遠かったなあ。もっと近かったらビビるぐらいかっこいいんだが」

 サイズ感としては50メートル以上80メートル未満。
 そんな大きさのクジラのような生物が、複数まとめて宙を舞う。
  
 その光景の迫力は推して知るべしだ。

 :遠くて小さく見えるけど、あれめっちゃでかくね?
 :距離感がわからねえ……
 :ジョン、もっと近づいて見せてくれ! 俺達はああいうのが見たい!
 :ああいうファンタジーなのを求めてるんですよ!
 :砂の海とかもうそれだけでぐああああってくるのに、それを泳ぐ生物がいるとか、何?
 
 視聴者の一部には俺が見せたものの凄さが伝わったらしい。
 ならばよかった。
 それにしてもドローンのカメラ結構性能が良いんだな。
 流石に遠くて碌に映像では捉えられないかと思った。

 だが残念。
 あれを見るのはここで終わりだ。

「あれを見るのはまた今度な。いつか俺が、この流砂の海を渡れるだけの船を作ることが出来たら、そのときこそ見に行こう」

 :船、ふね!?
 :一人で作るとか完成しないやつじゃん
 :ジョン他にもやりたいことあるんだろ?
 :取り敢えず完成しない覚悟だけはした
 
「見たければ、君等も来て自分たちの目で見たら良い。だろ?」

 :そう言われると……
 :ぬあああ! ダンジョン行ってくる!
 :そっち行くまでに爺さんになってそうなんだよなあ
 :ある程度先が攻略されて効率化されないと、今のままのペースじゃ厳しいかな
 :でもあれは見たい! ファンタジー見たい!
 
「まあそこは諸君の頑張りしだいってことで。後は帰りにも立ち寄るから、そのとき運が良ければな」

 そう言って、俺は大砂漠に背を向けて小高い岩を降りる。
 ここは道中にあったから見に来たが、今回の目的地ではない。
 
 もともと今回の冒険に目的地は無くひたすら歩き続け、気になるものがあったらそれを探索する、と決めているのだが、あの砂漠については事前からその存在については知っていたのである。
 だから今回の冒険の対象としては不適格なのだ。

「さて、それじゃあ旅を続けるとするか」

 故にまだまだ、旅は続くのである。



しおりを挟む
──【いずれ配信要素あり】死んで覚える異世界探索~幾度倒れても目指す道は最強のみ~https://www.alphapolis.co.jp/novel/444931402/316872226作者の別小説です。こちらはアルファポリスで書籍化にチャレンジしてみようと思って出しております。序盤数話一気に投稿していますので、是非読んでみてください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...