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第32話 地上のお話
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ダンジョンの遥か底。
100層以上の深淵の先に広がる世界からの情報。
1人の探索者の配信という形で伝えられたそれは、世界に小さな、けれど無視出来ない衝撃をもたらした。
「ダンジョンの先に人がいる、か。デマの可能性は無いのか?」
「考えるだけキリがありません。あの探索者が今最強の実力者だとするならば、仮に幻影魔法や幻術を使われたところで見抜くすべがない」
「真実だと考えて行動するべきでしょう。いなかったらいなかったで良い」
アメリカ、ホワイトハウス。
情報部からあげられた情報を受けて、大統領を始めとした政府の要人による緊急会議が行われていた。
「そうだな。備えるに越したことはない」
ダンジョンの先に、地球人類ではない人類が存在する。
配信内では直接の明言はされなかったものの、ネットに網を張っていた者たちからあげられた報告に今世間は大騒ぎだ。
情報の流れ方も悪かった。
おそらくずっと見ることが出来るアカウントを制限した状態で配信をしていたのだろう。
チャンネルに保存されていた複数のアーカイブには、それだけで垂涎の的となるほどの情報が詰まっており、一気に拡散したことで情報統制をする暇もなかった。
ダンジョン探索において進撃を開始していたアメリカもまた、その情報によって大きく揺れている。
「情報源とはコンタクトは取れないのか?」
「向こうが動画サイトで配信するのを待っている状態です。ダンジョン内なので配信以外の連絡手段がありませんからな」
《ジョン・ドゥ》と自ら名乗った得体のしれない探索者。
一方的に配信される情報に頼るしか今のアメリカに、否、地上の人間にダンジョンの先の世界を知る術は無い。
「他の通信手段も確立しておくべきだったか……」
「既にGo-guruが研究を急ピッチですすめています」
今ダンジョン産業は、かつて無いほどの活発化を見せている。深層の奥に至れば終点、先はない。
そう考えられていたところに、それよりはるか先にあるゴールと、そのさきの未開拓の世界が示された。
足踏みをしていた国内の実力者達も本腰を上げてダンジョン探索に乗り出し始め、一気にダンジョン深層を突破して第5層まで到達している。
特にアメリカの探索者達は世界的に見ても実力者揃いだったのだが、終点が見えていることと突出してしまうことのデメリットを考えて適度に先行する程度に留めていた者が大勢いた。
そんな実力者達が一斉に動き始めた。
当然アメリカとしても、新しい世界への到達に他国に遅れを取るわけにはいかないのでこの動きを支援すると同時に、政府としてもダンジョン探索をこれまで以上に推進しているところだ。
「取り込みは難しいだろうな。とすれば対価を示して情報を出来る限り出してもらうか」
「コンタクトは取りますが、あまり頼りに出来る相手ではないかと」
今最も先に進んでいる《ジョン・ドゥ》だが、その使用言語からも利用しているダンジョンからも、彼が日本人であるということは明らかだ。
大統領の頭には一瞬日本に圧力をかけようかという思考が浮かんだが、すぐにそれを打ち消す。
ジョン・ドゥの言葉を言葉を信じるならば、日本にあれを制御できるとはとてもでないが思えない。
おそらく国という権力に縛られることを一番嫌うタイプだ。
そして本人にその力があり、ダンジョンに逃げ込まれてしまえば数の暴力も使えない。
触れ得ざる者であり触れてはならない者。
それが情報部のジョン・ドゥに対する評価だ。
それにいくら押しに弱く優柔不断の日本とて、あれを手放す程愚かではないだろう。
世界で今各国が最も大切にしているのが有力な探索者だ。
あるいはその価値は、戦力的には一発の核ミサイルにまさる威力を持ち、経済的には1つの大企業に並びうる。
「そうだな。やはり国内の探索者の強化が最優先だ。軍の方はどうなっている?」
「部隊の編成は済んでおります。探索部隊の者を教官とした教導部隊を中心に、軍の中からもダンジョン探索に挑めるものを育成します」
狭く限られた空間であるダンジョン。
深層で終点となると考えられていたが故に、アメリカでは軍の参入は最低限で他は民間や公人問わず探索者という独立した個人による探索にまかせていた。
だが、遥か広大なる展望が開かれたことでそれも大きく変わる。
これからは単体での大きな戦力と同時に、均一に量をこなす集団の力が必要になってくる。
特にジョン・ドゥが唱えるダンジョン内での前線拠点の建築や、ダンジョンの先の世界での開拓ともなれば大量の実力者が必要となる。
そこに向けて軍を動かすのは当然の話だ。
アメリカは今も昔も最強の国家である。
それはダンジョンが生まれる前も生まれた後も変わらないのだ。
様々なサポートをするとはいえ、結局探索者が成長し、ダンジョンを攻略を待つしか無い。
その結論に落ち着きかけたところで、会議室のドアがいつもより心なしか強く、速いリズムでノックされた。
「入れ」
大統領も信頼する秘書官の男は、ドアを開けて一礼をした後彼に近づき、耳元で報告をする。
「……下がって良い。情報収集に努めてくれ」
「かしこまりました」
一瞬息を詰めた大統領は、しかし落ち着いた声で指示を出す。
「どのような報告で?」
報告を受けて、眼鏡を外して拭き外した大統領を待った後に1人が問いかけた。
大統領が眼鏡を拭いているときは彼が思考を巡らせているときだというのは、側近であれば誰もが知っていることだ。
「“彼”からの報告だ」
“彼”。
大統領の言葉に緊張が走る。
アメリカのダンジョン探索において、他の説明を持たず“彼”とのみ呼ばれる者は1人しかいない。
たった1人の“超人”。
唯一にして最強のアメリカが誇る探索者。
ジョン・ドゥという別の最強が現れたが、アメリカとして頼れるのは“彼”を置いて他にいない。
表には出ていないが、深層を一番最初に攻略したのも彼なのだ。
その報告は必ずいつも、ダンジョン探索に大きな影響を及ぼすものだった。
「第6層は、モンスターが出現しない安全な空間であるそうだ」
「なんと……」
これでまた1つ、ジョン・ドゥの言葉が正しいことが証明された。
ダンジョン内の前線拠点を設立可能な空白地帯の存在。
「では……」
「“彼”には探索を継続してもらう。一刻も早く後続が到達出来るように支援を進めてくれ」
「ただちに。情報公開についてはいかがされますか?」
情報公開。
昨今ではそれぞれの探索者が情報発信の手段を持っていることで、最前線の情報でも普通に配信サイトなどに公開されている。
だが特に重要な情報を持つであろうトップクラスの探索者たちには、国からの情報統制の指示がくだされることもある。
「探索者の中には映像配信をしているものはいるか?」
「第5層到達者の中にはおりません」
「では空白地帯については情報統制を厳に。他の探索者が到達する前に部隊を派遣して拠点を設置してくれ。その後に情報の公開を行う」
「かしこまりました」
ダンジョン内に安全な前線拠点を築くことが出来る。
真偽の定かではないジョン・ドゥの情報ではなくアメリカがその情報を発信することで、力のある探索者を抱える国は一気に動き始める。
その前に少しでもリードをとっておきたい。
「探索能力の高い者を中心に拠点建設のための部隊を編成します」
「可能ならば前線の探索者から護衛を集めてくれ」
ダンジョンを通して大きく世界が動き始める。
その中でも先頭に立てるように、アメリカは行動を活発化させていくことになる。
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1人の探索者の配信という形で伝えられたそれは、世界に小さな、けれど無視出来ない衝撃をもたらした。
「ダンジョンの先に人がいる、か。デマの可能性は無いのか?」
「考えるだけキリがありません。あの探索者が今最強の実力者だとするならば、仮に幻影魔法や幻術を使われたところで見抜くすべがない」
「真実だと考えて行動するべきでしょう。いなかったらいなかったで良い」
アメリカ、ホワイトハウス。
情報部からあげられた情報を受けて、大統領を始めとした政府の要人による緊急会議が行われていた。
「そうだな。備えるに越したことはない」
ダンジョンの先に、地球人類ではない人類が存在する。
配信内では直接の明言はされなかったものの、ネットに網を張っていた者たちからあげられた報告に今世間は大騒ぎだ。
情報の流れ方も悪かった。
おそらくずっと見ることが出来るアカウントを制限した状態で配信をしていたのだろう。
チャンネルに保存されていた複数のアーカイブには、それだけで垂涎の的となるほどの情報が詰まっており、一気に拡散したことで情報統制をする暇もなかった。
ダンジョン探索において進撃を開始していたアメリカもまた、その情報によって大きく揺れている。
「情報源とはコンタクトは取れないのか?」
「向こうが動画サイトで配信するのを待っている状態です。ダンジョン内なので配信以外の連絡手段がありませんからな」
《ジョン・ドゥ》と自ら名乗った得体のしれない探索者。
一方的に配信される情報に頼るしか今のアメリカに、否、地上の人間にダンジョンの先の世界を知る術は無い。
「他の通信手段も確立しておくべきだったか……」
「既にGo-guruが研究を急ピッチですすめています」
今ダンジョン産業は、かつて無いほどの活発化を見せている。深層の奥に至れば終点、先はない。
そう考えられていたところに、それよりはるか先にあるゴールと、そのさきの未開拓の世界が示された。
足踏みをしていた国内の実力者達も本腰を上げてダンジョン探索に乗り出し始め、一気にダンジョン深層を突破して第5層まで到達している。
特にアメリカの探索者達は世界的に見ても実力者揃いだったのだが、終点が見えていることと突出してしまうことのデメリットを考えて適度に先行する程度に留めていた者が大勢いた。
そんな実力者達が一斉に動き始めた。
当然アメリカとしても、新しい世界への到達に他国に遅れを取るわけにはいかないのでこの動きを支援すると同時に、政府としてもダンジョン探索をこれまで以上に推進しているところだ。
「取り込みは難しいだろうな。とすれば対価を示して情報を出来る限り出してもらうか」
「コンタクトは取りますが、あまり頼りに出来る相手ではないかと」
今最も先に進んでいる《ジョン・ドゥ》だが、その使用言語からも利用しているダンジョンからも、彼が日本人であるということは明らかだ。
大統領の頭には一瞬日本に圧力をかけようかという思考が浮かんだが、すぐにそれを打ち消す。
ジョン・ドゥの言葉を言葉を信じるならば、日本にあれを制御できるとはとてもでないが思えない。
おそらく国という権力に縛られることを一番嫌うタイプだ。
そして本人にその力があり、ダンジョンに逃げ込まれてしまえば数の暴力も使えない。
触れ得ざる者であり触れてはならない者。
それが情報部のジョン・ドゥに対する評価だ。
それにいくら押しに弱く優柔不断の日本とて、あれを手放す程愚かではないだろう。
世界で今各国が最も大切にしているのが有力な探索者だ。
あるいはその価値は、戦力的には一発の核ミサイルにまさる威力を持ち、経済的には1つの大企業に並びうる。
「そうだな。やはり国内の探索者の強化が最優先だ。軍の方はどうなっている?」
「部隊の編成は済んでおります。探索部隊の者を教官とした教導部隊を中心に、軍の中からもダンジョン探索に挑めるものを育成します」
狭く限られた空間であるダンジョン。
深層で終点となると考えられていたが故に、アメリカでは軍の参入は最低限で他は民間や公人問わず探索者という独立した個人による探索にまかせていた。
だが、遥か広大なる展望が開かれたことでそれも大きく変わる。
これからは単体での大きな戦力と同時に、均一に量をこなす集団の力が必要になってくる。
特にジョン・ドゥが唱えるダンジョン内での前線拠点の建築や、ダンジョンの先の世界での開拓ともなれば大量の実力者が必要となる。
そこに向けて軍を動かすのは当然の話だ。
アメリカは今も昔も最強の国家である。
それはダンジョンが生まれる前も生まれた後も変わらないのだ。
様々なサポートをするとはいえ、結局探索者が成長し、ダンジョンを攻略を待つしか無い。
その結論に落ち着きかけたところで、会議室のドアがいつもより心なしか強く、速いリズムでノックされた。
「入れ」
大統領も信頼する秘書官の男は、ドアを開けて一礼をした後彼に近づき、耳元で報告をする。
「……下がって良い。情報収集に努めてくれ」
「かしこまりました」
一瞬息を詰めた大統領は、しかし落ち着いた声で指示を出す。
「どのような報告で?」
報告を受けて、眼鏡を外して拭き外した大統領を待った後に1人が問いかけた。
大統領が眼鏡を拭いているときは彼が思考を巡らせているときだというのは、側近であれば誰もが知っていることだ。
「“彼”からの報告だ」
“彼”。
大統領の言葉に緊張が走る。
アメリカのダンジョン探索において、他の説明を持たず“彼”とのみ呼ばれる者は1人しかいない。
たった1人の“超人”。
唯一にして最強のアメリカが誇る探索者。
ジョン・ドゥという別の最強が現れたが、アメリカとして頼れるのは“彼”を置いて他にいない。
表には出ていないが、深層を一番最初に攻略したのも彼なのだ。
その報告は必ずいつも、ダンジョン探索に大きな影響を及ぼすものだった。
「第6層は、モンスターが出現しない安全な空間であるそうだ」
「なんと……」
これでまた1つ、ジョン・ドゥの言葉が正しいことが証明された。
ダンジョン内の前線拠点を設立可能な空白地帯の存在。
「では……」
「“彼”には探索を継続してもらう。一刻も早く後続が到達出来るように支援を進めてくれ」
「ただちに。情報公開についてはいかがされますか?」
情報公開。
昨今ではそれぞれの探索者が情報発信の手段を持っていることで、最前線の情報でも普通に配信サイトなどに公開されている。
だが特に重要な情報を持つであろうトップクラスの探索者たちには、国からの情報統制の指示がくだされることもある。
「探索者の中には映像配信をしているものはいるか?」
「第5層到達者の中にはおりません」
「では空白地帯については情報統制を厳に。他の探索者が到達する前に部隊を派遣して拠点を設置してくれ。その後に情報の公開を行う」
「かしこまりました」
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──【いずれ配信要素あり】死んで覚える異世界探索~幾度倒れても目指す道は最強のみ~https://www.alphapolis.co.jp/novel/444931402/316872226作者の別小説です。こちらはアルファポリスで書籍化にチャレンジしてみようと思って出しております。序盤数話一気に投稿していますので、是非読んでみてください。
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