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第6話 駆け引き
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──────────────────────────────────
両親の家で5日ほど過ごした俺は、その後再度東京へと帰った。いる間も農業や木こりの手伝いをしていたので休んだかと言われると首をかしげるが。父母にはまたいずれ顔を出すと言っておいたので、数年のうちには顔を出そうと思っている。
実家は九州にあるので、一度福岡にあるダンジョンによってみようかとも思ったが、実家のパソコンで調べてみたところ、日本国内のダンジョンは、今のところは大きな違いは無いらしい。出現するモンスターはほとんど変わらず、内部の地形が多少違う程度のようだ。あんまり価値は感じなかったので行くのはやめておいた。
(あ、でも深奥の先はどうなんだろ)
新幹線の中でそんな気づきを得たが、別に良いかとほうっておくことにした。九州ダンジョンの深奥の先が新宿ダンジョンからたどり着けるのとは別世界だったとして、ろくな用意もしてないし、今たどり着いている新宿ダンジョンの先ですら全く探索しきれていないのだ。
(まあ、そのうち機会があったら行ってみるか)
そう結論づけておいて、俺は乗る前に買ってきた大手チェーンのハンバーガーにかぶりついた。思ってたよりうまい。やっぱり調味料は偉大だ。
******
東京に戻ってまずするのは、最初に訪れたダンジョン産の素材の買取ショップを訪れることだ。
「いらっしゃい。買い取りはこっちで受けますよ」
「ああ、いや。オーナーに用があってきた。ジョン・ドゥが来たと伝えてくれ」
「あ、はあ。オーナーですか? ちょっと待っててくださいね」
不思議そうにしつつも店員が奥に戻っていく。しばらくして、奥から店員と一緒に、先日来たときに対応してくれた男が出てきた。
「いらっしゃいジョンさん。裏手で聞きますよ」
「悪いな。世話をかける」
言われるままに裏手に回ると、先日買い取りしてもらった時と同様に、表からはアクセス出来ない室内に案内された。
「いらっしゃい、今日も買い取りですかね?」
「いや、今日はこの前言ってた『お手伝い』の方なんだが」
そう告げると、陽気な好青年然とした雰囲気を出しているオーナーの目の奥の色がわずかに変わる。
「ほう、なるほど。ちなみにどう言った内容ですかね?」
「ん、まあこういう仕事やってるとあんたも気づいてるかもしれないが、今の俺は身分証明書関係が一切無いのよ」
「いやいや、俺たちは探索者の皆さんをサポートしたいだけですから。それで、なるほど。身分証明書ですか。ジョンさんが欲しいのは身元の保証ですかね?」
ここの買取ショップ、表ではしっかりと買取を行っているが、裏では少々黒い商売をしている。例えば、俺のように身分証明書や探索許可証の無い相手からの素材やアイテムの買取であるとか。本来はダンジョンから持ち帰った素材の売却を行えない未成年からの買取であるとか。
あるいは、そう。本来は試験だったり、探索者大学、探索者養成の専門学校に入学して課程をこなすことでようやく発行される探索許可証の用意とか。
そういう非合法的なことをして利益を得ている。裏にはもっと大きな組織、それこそヤクザか何かがいるのだろうが、利用する側からすれば得られるものと対価が全てだ。後は余計な干渉をしてこないように釘をぶっ刺しておけば良い。
「いや、それは別に良い。どうせ身分証明書とか更新し忘れてまた使えなくしそうだし。手伝って欲しいのは、ダンジョン内でも使用可能な端末、スマホが良いかな? それと配信に使えるドローン。後は俺個人だと通販が使えないから、そういう品の用意だな。主に酒類とジュース、調味料、穀物あたりか。量はそれなりになると思ってくれ。業務用で仕入れてもらいたい」
「なるほど。それならそこまで手間はかからなそうですね。ちょっと待ってくださいね。あ、仕入れるものは量が決まってるなら、えーと、ここに書いといてください」
示されたメモ帳に指紋を残さないように調味料類、醤油や味噌、酢、みりんなど基礎的なものから、かつおだしやコンソメ、鶏ガラなどの顆粒だし、砂糖や片栗粉なども漏れが無いように書いておき、続いて米や小麦粉等の穀物類についても量を書き込んでおく。麺類も乾麺を一応書いておくか。流石にロボは麺は厳しいと思うが。酒に関しては詳しくないので、『あんまり高くないのを色々、少なくとも50本は欲しい』と書いておく。これは俺一人じゃないので量が割といる。樽でも良いか?
「身分証が無いってことは、スマホの契約もあれですかね?」
「ああ、そう言えばそうか。あれダンジョン内で繋がるのも扱いとしては普通のスマホなんだ?」
「まあ、そうですね。ダンジョン内で配信をするなら、それに対応している携帯会社と契約して、って感じですかね。大体の携帯会社は普通のプランに組み込む形でダンジョン内での配信をサポートしてるので」
ダンジョン内での配信、つまり動画の生放送、生中継だが、その実態はかなり複雑だ。まずそもそもダンジョン内は電波が通じないし、中継機を置くのもモンスターがいる以上は安全が保障出来ない。少なくとも現段階で、俺を除いてダンジョン内に前線拠点を築けたという話は無いらしい。
そこでじゃあどうするかというと、ダンジョンから得られた技術やスキル群を活用したらしい。遠距離でのテレパシーを可能とする魔法の原理を応用し、それをスマホに搭載する。ついでにダンジョン内では電池が切れないように、周囲の魔力を回収し、持ち主の魔力と合わせることで動力源としている。
そんなダンジョン産のあれこれと現代科学の融合がダンジョン配信ということらしい。なんで配信なんだよ。ちなみに現行の技術だと配信以外のインターネットの利用、検索だとかソシャゲだとかは無理らしい。配信に関しても大手動画配信サイトが協力して技術を組み込んでくれたので可能とかなんとか。やっぱ世界最大クラスの企業だけあってフットワーク軽いよなほんと。
「スマホとドローンってことは、ダンジョン配信やってみるつもりなんですか?」
「考えてる程度だけどな。まあ、一応」
「なるほど。となると契約はこっちで受け持っておきましょうか」
「それで頼む。ああ、それと」
「なんです?」
手首に巻いてある収納用の魔法具を魔力で操作し、深層50層以深でしか入手出来ないポーションを取り出して机の上に置く。
「上の方には余計なちょっかいを出さないように言っておいてくれないか? 言った通り、俺はそういうのは好きじゃないんだ」
そう告げると、オーナーは一瞬驚いた顔をした後、苦笑へと表情を変える。
「やっぱりわかります?」
「流石にな。これでもネットで目立ってるのは自覚してるよ。この前も妙な視線を感じたぞ? やるならもうちょいうまくやってくれよ。うちまでついてこられちゃうと流石にさ、こっちもなんかせんといかんくなるだろ」
「あはは、そう言われちゃうと彼らも形無しですね」
最初来た時に、いきなり対応が妙に丁寧だなと思ったのだ。というか割りと有名な配信者の配信にがっつり映り込んで、その上最前線よりはるか先の話を語って目立たないと考える方がおかしい。
そしてこういう後ろ暗いことをしている店ほど情報に敏い。
この店、あるいはオーナーのバックにあるのが何かわからないが、そこが俺を利用するか、あるいは何らかの形で囲い込もうとでもしているのだろう。それ自体は当然想定していた。ただまあはっきり言って不快でもある。少しぐらいなら付き合ってやってもいいが、しつこくなると面倒くさい。
「まあ、こうやって無理を聞いてもらってるんだ。依頼の1つや2つ受けるのはやぶさかじゃないし、今後も世話になる可能性もある。調味料とか使えばなくなるしな。とはいえ、そっちの対応次第なんだが」
「っ! なるほど、それもそうですね。今後ともご贔屓にしてもらえれば助かります」
「深層より下のアイテムも、こっちに迷惑がかからないのであれば卸すのは別に嫌なわけじゃない。騒ぎになったときは俺は地下に潜って出てこなくなるだけだしな」
適度に関わるのが良いのだ何事も。自由にやっててたまにお話する。それぐらいの付き合いがちょうどいいし、それ以上になってしまっても今の俺は逃げ込む先がある。
「……こっちとしても、ジョンさんに迷惑をかけるのは本意じゃないですね。なんといっても、うちが一番リード出来てるわけですし」
「そう言ってもらえると助かるよ」
これ、触っても? と聞かれるので、うなずいてオーナーの方にポーションを差し出す。
「ポーション、ですか。これは?」
「深層より下……勝手に深界って呼んでるけど、深界の50層より深いところで拾えるポーションだ。体力の回復と骨折以下の傷の治癒と、魔力の回復かな。骨折も骨の位置を整えたら治ったけど詳しいことはわからん。勝手な妄想だけど、それぐらいのレベルのポーションだと回数制限のあるスキルのクールタイムも回復するんじゃないかと思ってる。俺はそういうスキルはもってないからな」
「なる、ほど。それはすごいですね。複合ポーションって感じですかね」
「ああ、それが近いか。まあ、俺と仲良くしてればそういうものが提供出来るってことだな」
今後の予定としては、特に用がない限り1年から2年に一度程度の頻度で地上に出てくる予定だ。その度に取引相手を探すよりは、色々とやってくれるマネージャーのような相手がいたほうが楽なのである。
「即効性はどの程度ですかね?」
「30秒から5分ぐらいだったと思う。あんま覚えてねーな」
「……はい?」
聞き間違いか? という表情をしているが、聞き間違いではない。
「30秒から5分だよ。深いところで拾えるポーションほど、回復までの時間が早くなる。最深部のポーションだとそれなりの傷が1秒とかで治るし、腕が無くなっても1分ぐらいで生えてくる」
「なんて?」
爽やか君装ってたのに口調乱れてんのウケる。
まあ信じがたいのもわかる。確か下層レベルで使えるポーションだと、多少の切り傷やえぐれた傷を治すだけで30分から1時間はかかる。中層、上層となるともっと時間がかかるし、治せる傷の規模も小さくなる。ダンジョン産のアイテムでも万能ではない。それが一般の認識だ。
「……すぅー……そんなもの貰っても困りますね」
「だろ? 絶対揉めるのが目に見えてる。ってことで、そのポーションを10本と、口止め料で最深部のポーション一本。これでどうだ?」
「……これら全部で、あなたに対する余計なちょっかいをやめてほしい、と?」
「おう。物資の代金とか手間賃、ここの利用料は別で払うよ」
俺の問いかけに、数秒悩んでいたオーナーは顔を上げていつも通りの爽やかな笑顔で承諾してくれた。
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両親の家で5日ほど過ごした俺は、その後再度東京へと帰った。いる間も農業や木こりの手伝いをしていたので休んだかと言われると首をかしげるが。父母にはまたいずれ顔を出すと言っておいたので、数年のうちには顔を出そうと思っている。
実家は九州にあるので、一度福岡にあるダンジョンによってみようかとも思ったが、実家のパソコンで調べてみたところ、日本国内のダンジョンは、今のところは大きな違いは無いらしい。出現するモンスターはほとんど変わらず、内部の地形が多少違う程度のようだ。あんまり価値は感じなかったので行くのはやめておいた。
(あ、でも深奥の先はどうなんだろ)
新幹線の中でそんな気づきを得たが、別に良いかとほうっておくことにした。九州ダンジョンの深奥の先が新宿ダンジョンからたどり着けるのとは別世界だったとして、ろくな用意もしてないし、今たどり着いている新宿ダンジョンの先ですら全く探索しきれていないのだ。
(まあ、そのうち機会があったら行ってみるか)
そう結論づけておいて、俺は乗る前に買ってきた大手チェーンのハンバーガーにかぶりついた。思ってたよりうまい。やっぱり調味料は偉大だ。
******
東京に戻ってまずするのは、最初に訪れたダンジョン産の素材の買取ショップを訪れることだ。
「いらっしゃい。買い取りはこっちで受けますよ」
「ああ、いや。オーナーに用があってきた。ジョン・ドゥが来たと伝えてくれ」
「あ、はあ。オーナーですか? ちょっと待っててくださいね」
不思議そうにしつつも店員が奥に戻っていく。しばらくして、奥から店員と一緒に、先日来たときに対応してくれた男が出てきた。
「いらっしゃいジョンさん。裏手で聞きますよ」
「悪いな。世話をかける」
言われるままに裏手に回ると、先日買い取りしてもらった時と同様に、表からはアクセス出来ない室内に案内された。
「いらっしゃい、今日も買い取りですかね?」
「いや、今日はこの前言ってた『お手伝い』の方なんだが」
そう告げると、陽気な好青年然とした雰囲気を出しているオーナーの目の奥の色がわずかに変わる。
「ほう、なるほど。ちなみにどう言った内容ですかね?」
「ん、まあこういう仕事やってるとあんたも気づいてるかもしれないが、今の俺は身分証明書関係が一切無いのよ」
「いやいや、俺たちは探索者の皆さんをサポートしたいだけですから。それで、なるほど。身分証明書ですか。ジョンさんが欲しいのは身元の保証ですかね?」
ここの買取ショップ、表ではしっかりと買取を行っているが、裏では少々黒い商売をしている。例えば、俺のように身分証明書や探索許可証の無い相手からの素材やアイテムの買取であるとか。本来はダンジョンから持ち帰った素材の売却を行えない未成年からの買取であるとか。
あるいは、そう。本来は試験だったり、探索者大学、探索者養成の専門学校に入学して課程をこなすことでようやく発行される探索許可証の用意とか。
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「いや、それは別に良い。どうせ身分証明書とか更新し忘れてまた使えなくしそうだし。手伝って欲しいのは、ダンジョン内でも使用可能な端末、スマホが良いかな? それと配信に使えるドローン。後は俺個人だと通販が使えないから、そういう品の用意だな。主に酒類とジュース、調味料、穀物あたりか。量はそれなりになると思ってくれ。業務用で仕入れてもらいたい」
「なるほど。それならそこまで手間はかからなそうですね。ちょっと待ってくださいね。あ、仕入れるものは量が決まってるなら、えーと、ここに書いといてください」
示されたメモ帳に指紋を残さないように調味料類、醤油や味噌、酢、みりんなど基礎的なものから、かつおだしやコンソメ、鶏ガラなどの顆粒だし、砂糖や片栗粉なども漏れが無いように書いておき、続いて米や小麦粉等の穀物類についても量を書き込んでおく。麺類も乾麺を一応書いておくか。流石にロボは麺は厳しいと思うが。酒に関しては詳しくないので、『あんまり高くないのを色々、少なくとも50本は欲しい』と書いておく。これは俺一人じゃないので量が割といる。樽でも良いか?
「身分証が無いってことは、スマホの契約もあれですかね?」
「ああ、そう言えばそうか。あれダンジョン内で繋がるのも扱いとしては普通のスマホなんだ?」
「まあ、そうですね。ダンジョン内で配信をするなら、それに対応している携帯会社と契約して、って感じですかね。大体の携帯会社は普通のプランに組み込む形でダンジョン内での配信をサポートしてるので」
ダンジョン内での配信、つまり動画の生放送、生中継だが、その実態はかなり複雑だ。まずそもそもダンジョン内は電波が通じないし、中継機を置くのもモンスターがいる以上は安全が保障出来ない。少なくとも現段階で、俺を除いてダンジョン内に前線拠点を築けたという話は無いらしい。
そこでじゃあどうするかというと、ダンジョンから得られた技術やスキル群を活用したらしい。遠距離でのテレパシーを可能とする魔法の原理を応用し、それをスマホに搭載する。ついでにダンジョン内では電池が切れないように、周囲の魔力を回収し、持ち主の魔力と合わせることで動力源としている。
そんなダンジョン産のあれこれと現代科学の融合がダンジョン配信ということらしい。なんで配信なんだよ。ちなみに現行の技術だと配信以外のインターネットの利用、検索だとかソシャゲだとかは無理らしい。配信に関しても大手動画配信サイトが協力して技術を組み込んでくれたので可能とかなんとか。やっぱ世界最大クラスの企業だけあってフットワーク軽いよなほんと。
「スマホとドローンってことは、ダンジョン配信やってみるつもりなんですか?」
「考えてる程度だけどな。まあ、一応」
「なるほど。となると契約はこっちで受け持っておきましょうか」
「それで頼む。ああ、それと」
「なんです?」
手首に巻いてある収納用の魔法具を魔力で操作し、深層50層以深でしか入手出来ないポーションを取り出して机の上に置く。
「上の方には余計なちょっかいを出さないように言っておいてくれないか? 言った通り、俺はそういうのは好きじゃないんだ」
そう告げると、オーナーは一瞬驚いた顔をした後、苦笑へと表情を変える。
「やっぱりわかります?」
「流石にな。これでもネットで目立ってるのは自覚してるよ。この前も妙な視線を感じたぞ? やるならもうちょいうまくやってくれよ。うちまでついてこられちゃうと流石にさ、こっちもなんかせんといかんくなるだろ」
「あはは、そう言われちゃうと彼らも形無しですね」
最初来た時に、いきなり対応が妙に丁寧だなと思ったのだ。というか割りと有名な配信者の配信にがっつり映り込んで、その上最前線よりはるか先の話を語って目立たないと考える方がおかしい。
そしてこういう後ろ暗いことをしている店ほど情報に敏い。
この店、あるいはオーナーのバックにあるのが何かわからないが、そこが俺を利用するか、あるいは何らかの形で囲い込もうとでもしているのだろう。それ自体は当然想定していた。ただまあはっきり言って不快でもある。少しぐらいなら付き合ってやってもいいが、しつこくなると面倒くさい。
「まあ、こうやって無理を聞いてもらってるんだ。依頼の1つや2つ受けるのはやぶさかじゃないし、今後も世話になる可能性もある。調味料とか使えばなくなるしな。とはいえ、そっちの対応次第なんだが」
「っ! なるほど、それもそうですね。今後ともご贔屓にしてもらえれば助かります」
「深層より下のアイテムも、こっちに迷惑がかからないのであれば卸すのは別に嫌なわけじゃない。騒ぎになったときは俺は地下に潜って出てこなくなるだけだしな」
適度に関わるのが良いのだ何事も。自由にやっててたまにお話する。それぐらいの付き合いがちょうどいいし、それ以上になってしまっても今の俺は逃げ込む先がある。
「……こっちとしても、ジョンさんに迷惑をかけるのは本意じゃないですね。なんといっても、うちが一番リード出来てるわけですし」
「そう言ってもらえると助かるよ」
これ、触っても? と聞かれるので、うなずいてオーナーの方にポーションを差し出す。
「ポーション、ですか。これは?」
「深層より下……勝手に深界って呼んでるけど、深界の50層より深いところで拾えるポーションだ。体力の回復と骨折以下の傷の治癒と、魔力の回復かな。骨折も骨の位置を整えたら治ったけど詳しいことはわからん。勝手な妄想だけど、それぐらいのレベルのポーションだと回数制限のあるスキルのクールタイムも回復するんじゃないかと思ってる。俺はそういうスキルはもってないからな」
「なる、ほど。それはすごいですね。複合ポーションって感じですかね」
「ああ、それが近いか。まあ、俺と仲良くしてればそういうものが提供出来るってことだな」
今後の予定としては、特に用がない限り1年から2年に一度程度の頻度で地上に出てくる予定だ。その度に取引相手を探すよりは、色々とやってくれるマネージャーのような相手がいたほうが楽なのである。
「即効性はどの程度ですかね?」
「30秒から5分ぐらいだったと思う。あんま覚えてねーな」
「……はい?」
聞き間違いか? という表情をしているが、聞き間違いではない。
「30秒から5分だよ。深いところで拾えるポーションほど、回復までの時間が早くなる。最深部のポーションだとそれなりの傷が1秒とかで治るし、腕が無くなっても1分ぐらいで生えてくる」
「なんて?」
爽やか君装ってたのに口調乱れてんのウケる。
まあ信じがたいのもわかる。確か下層レベルで使えるポーションだと、多少の切り傷やえぐれた傷を治すだけで30分から1時間はかかる。中層、上層となるともっと時間がかかるし、治せる傷の規模も小さくなる。ダンジョン産のアイテムでも万能ではない。それが一般の認識だ。
「……すぅー……そんなもの貰っても困りますね」
「だろ? 絶対揉めるのが目に見えてる。ってことで、そのポーションを10本と、口止め料で最深部のポーション一本。これでどうだ?」
「……これら全部で、あなたに対する余計なちょっかいをやめてほしい、と?」
「おう。物資の代金とか手間賃、ここの利用料は別で払うよ」
俺の問いかけに、数秒悩んでいたオーナーは顔を上げていつも通りの爽やかな笑顔で承諾してくれた。
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──【いずれ配信要素あり】死んで覚える異世界探索~幾度倒れても目指す道は最強のみ~https://www.alphapolis.co.jp/novel/444931402/316872226作者の別小説です。こちらはアルファポリスで書籍化にチャレンジしてみようと思って出しております。序盤数話一気に投稿していますので、是非読んでみてください。
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