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しおりを挟む一週間が経ち終業式の日。明日から高校は夏休み。学校へ行かなくていいと思うと、直の憂鬱な気持ちは軽くなった。
けれども他の学生のように『高校最後の夏休みに心はずむ』という感じとも違う。
帰りのホームルーム後、荷物をまとめていると、声をかけられた。美結だった。
「直、やっぱり夏期講習いかないの?」
「うん。あんまりむいてなくて、逆に学習時間うばわれちゃうんだよね」
「そっか。志望校一緒なんだよね。お互いがんばろうね」
「ありがとう。美結もがんばれ」
「あのさ、直」と教室を出ようとした直は、引きとめられた。
「恋人できたんでしょ。そのひと、危ないひとじゃないの……?」
「そんなひといないよ。じゃあね」
直は、少し投げやりに答えた。席を立とうとする彼女を再び足止めしたのは、美結ではない。
「あの、日向直さんっていますか?」
その見知らぬ女子生徒は、教室後方のドアから訊ねた。
図らずも、クラス中の視線が直に向けられたので、彼女は必然的に特定された。
「あの、あなた日向さん?」
「そう、ですけど」
「校門で日向さんのこと待ってる人がいて、『呼んできて』って頼まれたんですけど」
「待ってる人?」
「えっと。カレシとか……じゃないの?」
その女子生徒の一言に、再びクラス中が、じっとりとした眼差しを直にむけた。まったく心当たりがないが、逃げも隠れもできない直は、しかたなく確認した。
「それ本当に私ですか?」
間違いない、と相手はうなずいている。
「『荷物まとめて早くきてほしいって伝えて』って。てっきり彼氏かと。それか、お兄さん?」
——お兄さん。
「あのっ、もしかして銀髪の男の人ですか?」
『銀髪、男』という謎めいた発言に教室内は過剰反応し、ざわっとなった。
「ち、違います。ふつうに黒髪だけど」
「……わかりました。ありがとうございます」
「あの。バイク止めてたし、先生達に知られる前に急いだほうがいいと思います」
「……バイク?」
・・・
直は昇降口を出た。
校門目指して一直線。そして視線の先に立っていた人は、直に気がつくと、安堵したように少し口元を引いた。
「なんで……」と、直はやっとのことで声をだす。
「仕方ないじゃないか。君の連絡先知らないんだし」
「なんで。その髪」
「銀髪で来たら目立つからわざわざ染めたわけじゃないよ。学会に出てたのと、来週は、院試の面接だから」
「十分、目立ってるよ。そのバイク」
「わかってるよ。もう早くきてほしくて。待ってたんだよ」
「どこいくの?」
「あぁ、これ、かぶってくれる?」
そういわれて、彼からフルフェイスヘルメットをもらう。
直は、彼の背後の漆黒のバイクをまじまじとみた。幼い頃に、あこがれた仮面ライダーの俳優が乗っていた黒い車体を彷彿とさせる。たまらず彼女は、歯を見せた。
「なぜ笑う?」
「バイク、乗るのはじめてだから」
「わるいけど、僕もはじめてだから。うしろに人を乗せるの」
「うそ。だったらどうしてヘルメットふたつもってるの?」
「君のそれは、知り合いのおさがり」
「君じゃないよ。直ってよんで」
直がそういうと、真は視線を逸らした。
「はじめてなのに怖くないの? 死ぬかもよ」
「怖いのは私じゃなくて。あなたのほうでしょう?」
「へぇ。それは、つまり?」
「私の命を預かってる。あなたには普段以上に気をくばって安全運転する義務がある。私が絶対、絶対、絶対死なないようにしないといけないでしょ。それってプレッシャーでしょ。だから、うしろに乗せるのこわいでしょ?」
「うーん。なるほど。でも、ひとつ反論するよ」
「……な、なに」
「『あなた』じゃない。名前で、よんでみてくれる?」
「じゃあ、私のことも直ってよんでくれる?」
「いいからはやく。よんで」
「……真」
「ぜんぜん聞こえない」
真は小さく笑い、直のか細いをからかった。直は笑わず、緊張したおももちでいう。
「真は、私のことが好きじゃない? それとも、好きになってくれる。どっち?」
「それを確かめてどうするの?」
「パートナーになってください。私は、真のことが好きです」
それをいまここでいう? といいたげな真は目を丸くした。
「あの日から、毎日がとってもとっても長く感じた。このまま、二度と会えなくなると思った」
「君は、会いたければ自分から会いに来ると思ってたよ。でも来なかったじゃないか」
「嫌われてしまったと思ったから」
「僕は一度も、君のことを嫌いとも好きともいった覚えはないよ」
「じゃあ、いま答えて。教えて。私のことが、嫌いですか」
「好きだよ」
——嘘だ。いま、彼は、なんといったの?
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