17 / 45
17
しおりを挟む一週間が経ち終業式の日。明日から高校は夏休み。学校へ行かなくていいと思うと、直の憂鬱な気持ちは軽くなった。
けれども他の学生のように『高校最後の夏休みに心はずむ』という感じとも違う。
帰りのホームルーム後、荷物をまとめていると、声をかけられた。美結だった。
「直、やっぱり夏期講習いかないの?」
「うん。あんまりむいてなくて、逆に学習時間うばわれちゃうんだよね」
「そっか。志望校一緒なんだよね。お互いがんばろうね」
「ありがとう。美結もがんばれ」
「あのさ、直」と教室を出ようとした直は、引きとめられた。
「恋人できたんでしょ。そのひと、危ないひとじゃないの……?」
「そんなひといないよ。じゃあね」
直は、少し投げやりに答えた。席を立とうとする彼女を再び足止めしたのは、美結ではない。
「あの、日向直さんっていますか?」
その見知らぬ女子生徒は、教室後方のドアから訊ねた。
図らずも、クラス中の視線が直に向けられたので、彼女は必然的に特定された。
「あの、あなた日向さん?」
「そう、ですけど」
「校門で日向さんのこと待ってる人がいて、『呼んできて』って頼まれたんですけど」
「待ってる人?」
「えっと。カレシとか……じゃないの?」
その女子生徒の一言に、再びクラス中が、じっとりとした眼差しを直にむけた。まったく心当たりがないが、逃げも隠れもできない直は、しかたなく確認した。
「それ本当に私ですか?」
間違いない、と相手はうなずいている。
「『荷物まとめて早くきてほしいって伝えて』って。てっきり彼氏かと。それか、お兄さん?」
——お兄さん。
「あのっ、もしかして銀髪の男の人ですか?」
『銀髪、男』という謎めいた発言に教室内は過剰反応し、ざわっとなった。
「ち、違います。ふつうに黒髪だけど」
「……わかりました。ありがとうございます」
「あの。バイク止めてたし、先生達に知られる前に急いだほうがいいと思います」
「……バイク?」
・・・
直は昇降口を出た。
校門目指して一直線。そして視線の先に立っていた人は、直に気がつくと、安堵したように少し口元を引いた。
「なんで……」と、直はやっとのことで声をだす。
「仕方ないじゃないか。君の連絡先知らないんだし」
「なんで。その髪」
「銀髪で来たら目立つからわざわざ染めたわけじゃないよ。学会に出てたのと、来週は、院試の面接だから」
「十分、目立ってるよ。そのバイク」
「わかってるよ。もう早くきてほしくて。待ってたんだよ」
「どこいくの?」
「あぁ、これ、かぶってくれる?」
そういわれて、彼からフルフェイスヘルメットをもらう。
直は、彼の背後の漆黒のバイクをまじまじとみた。幼い頃に、あこがれた仮面ライダーの俳優が乗っていた黒い車体を彷彿とさせる。たまらず彼女は、歯を見せた。
「なぜ笑う?」
「バイク、乗るのはじめてだから」
「わるいけど、僕もはじめてだから。うしろに人を乗せるの」
「うそ。だったらどうしてヘルメットふたつもってるの?」
「君のそれは、知り合いのおさがり」
「君じゃないよ。直ってよんで」
直がそういうと、真は視線を逸らした。
「はじめてなのに怖くないの? 死ぬかもよ」
「怖いのは私じゃなくて。あなたのほうでしょう?」
「へぇ。それは、つまり?」
「私の命を預かってる。あなたには普段以上に気をくばって安全運転する義務がある。私が絶対、絶対、絶対死なないようにしないといけないでしょ。それってプレッシャーでしょ。だから、うしろに乗せるのこわいでしょ?」
「うーん。なるほど。でも、ひとつ反論するよ」
「……な、なに」
「『あなた』じゃない。名前で、よんでみてくれる?」
「じゃあ、私のことも直ってよんでくれる?」
「いいからはやく。よんで」
「……真」
「ぜんぜん聞こえない」
真は小さく笑い、直のか細いをからかった。直は笑わず、緊張したおももちでいう。
「真は、私のことが好きじゃない? それとも、好きになってくれる。どっち?」
「それを確かめてどうするの?」
「パートナーになってください。私は、真のことが好きです」
それをいまここでいう? といいたげな真は目を丸くした。
「あの日から、毎日がとってもとっても長く感じた。このまま、二度と会えなくなると思った」
「君は、会いたければ自分から会いに来ると思ってたよ。でも来なかったじゃないか」
「嫌われてしまったと思ったから」
「僕は一度も、君のことを嫌いとも好きともいった覚えはないよ」
「じゃあ、いま答えて。教えて。私のことが、嫌いですか」
「好きだよ」
——嘘だ。いま、彼は、なんといったの?
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる