妹×メイド~ある日突然俺の妹がメイドになったんだが~

junhon

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三人寄れば文殊の知恵?

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「さて、作戦を練り直す必要がありますわね」

 栗色の髪を綺麗な縦ロールにセットした巻島仁美が二人に告げる。
 
「何かいいアイディアがあるの?」

 そう訊ねるのは長い黒髪の美少女、俺の妹――竹中綾乃だ。
 
「メイドという存在自体の魅力は、お兄様に十分伝わったと思います。特にナナリーさんにはメロメロなようでしたし」

「そ、そんな事は……」

 そうおずおずと口を挟むのは金髪の天使の様な少女――ナナリーだ。
 
「そうなんだよねー。よし分かった! 私も金髪にしてみよう!」

 綾乃の発言に傍らで話を聞いていた俺はギョッとする。
 
 ここはメイド喫茶『メイド・イン・ヘブン』。午後の昼下がりに綾乃と仁美、そしてナナリーはテーブルでケーキと紅茶を囲んでいた。
 
 そして俺はその傍らにメイドの姿をして立っている。
 
 ただし、綾乃たちは俺が話題に上がっている竹中宗介だとは気付いてはいない。
 
 今の俺の姿は完璧に女性なのだ。長い黒髪のウィッグを被り、うっすら化粧もしている。
 
 『メイド・イン・ヘブン』は従業員が全員男性というちょっと変わったメイド喫茶だ。俺はここで休日にバイトをしているのだった。
 
 どうやら前回仁美に気に入られてしまった様で、接客するメイドが指名出来るゴールドカードを持つ彼女に指名を受け、ケーキとお茶を運んだ後もこうしてここに残っていた。
 
 下がっていいと言われるまではお客様のお相手をする、それもこの店のサービスなのだ。
 
「綾乃さん、見た目を真似すればいいと言うものではありませんわよ」

「そ、そうだよ。そんな綺麗な黒髪を染めるなんてもったいない」

 仁美とナナリーが止めてくれて俺はホッと胸をなで下ろした。

「えー、ナナちゃんの金髪の方が断然綺麗だよ」

「私は、綾乃ちゃんの黒髪の方がうらやましいです」

 ナナリーは俯きながらそう言った。
 
 もしかしたら、この子は自分の髪の色が好きではないのかもしれない。
 
 両親はイギリス人だが生まれも育ちも日本と言っていたから、奇異の目で見られる事も多かったのだろう。それは彼女の愛らしさに対する好意的な視線だとは思うが、周りと違うというのはそれだけで他人との距離に溝を感じさせるものだ。
 
「ねぇ、ソフィアさんは黒髪と金髪どっちが好き?」

 綾乃が俺に話を振ってくる。ちなみにソフィアとはこの店での俺の仮名――いわゆる源氏名だ。
 
「そ、そうですね……」

 俺の頭の中にはメイド姿の綾乃とナナリーが浮かぶ。
 
 黒髪の良さは清楚さ、清純さ、神秘的なイメージを与えるところだろう。……あれ? 綾乃には当てはまらないぞ。
 
 いや、まあ黙っていればそんな感じだ。
 
 そして金髪の魅力はその希少性だろう。実は地毛が金髪の割合は人類全体でも2%しかないらしい。特に日本人にとって金髪は外国人の象徴でもあるし、明るく美しい髪の色は高貴で豊かなイメージを与えてくれる。
 
 正直どっちも大好きだ!
 
 だから俺は質問に質問で返す。
 
「綾乃様はカレーとラーメン、どちらがお好きですか?」

 それはどちらも綾乃の大好物だ。

「え? ……う、そ、それは……両方!」

「そう言う事です。黒髪には黒髪の良さが、金髪には金髪の良さがあるのですよ」

「そうかー。あっ、だったら髪を一房ずつ金色に染めればいいんじゃない!? 黒髪と金髪のコラボだよ! カレーラーメンだよ!」

 俺の頭の中に虎縞ヘアーの綾乃の姿が浮かぶ。ヘビメタロックバンドのごとく手にしたギターをかき鳴らしていた。
 
「綾乃さん、それはどちらの良さも殺してしまっていますわ」

「そうかなぁ。いい考えだと思ったんだけど」

 仁美が止めてくれて助かった。相変わらず思考がぶっ飛んでる。
 
「わたくし思うのですが、ナナリーさんにはメイドとしての内面的な魅力があるのではないでしょうか?」

「どゆこと?」

「格好だけ真似てもダメと言う事です。メイドに求められるのはまず従順さでしょう。ご主人様の命令には決して逆らわず、甲斐甲斐しく尽くすのがフィクションにおけるメイドの姿です。ナナリーさんの大人しくて気弱そうな所にお兄様は惹かれたのではないでしょうか?」

 仁美のやつ、なかなか鋭いところを突いてきた。
 
「つまり、ナナちゃんの真似をすればいいと」

「そう言う事ですわ」

「え? え? え?」

 当の本人は目を白黒させている。
 
「よし、分かった! やってみるよ!」

 綾乃は立ち上がると拳を握った。
 
 そしてこの作戦会議、対象たる俺に筒抜けなのだが……。
 
 俺は顔を逸らせて苦笑いを浮かべるのだった。
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