仮面P-MAN~序章~

junhon

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仮面P-MAN誕生秘話

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「う……」

 まぶたつらぬまぶしい光におれは目を覚ました。
 
「お目覚めかな? 本郷弘ほんごうひろし

 しわがれた声が俺の耳に届く。俺は光から顔を背けながらうっすらと瞼を開いた。
 
 見ればアームにつながれた照明が上から俺を照らしている。どうやら手術台の様なベッドにかされている様だ。
 
「ここは……? 俺は一体……?」

 必死に記憶きおく辿たどるが、大学を出てから先の記憶が無い。
 
「ここは秘密結社ゲミューゼ、その秘密基地だ」

 答える声の方へと目を向ければ、ほおのこけた白髪はくはつの老人が笑みをかべていた。黄色がかった赤い色のスーツの上から裏地が赤い黒のマントを羽織っている。枯れ木の様にせた姿は死を連想させるが、その一方で爛々らんらんかがや双眸そうぼうからはみなぎる生命力を感じさせた。
 
「秘密結社? ふん、何を馬鹿ばかな……」

 そんなものは子供向けのヒーロー番組の世界の話だ。嘲笑ちようしようと共に俺は身体を起そうとするが、両手両足が金属のかせでベッドに固定されている。
 
「光栄に思いたまえ。君は選ばれたのだ。我が組織の一員として」

 そんな俺に構わず、老人は続けた。
 
城北じようほく大学農学部、本郷弘。君は今から生まれ変わるのだ! この人神ひとがみ博士の手によって!」

 老人――人神博士は両うでを広げ、高らかに宣言する。
 
「ま、まさか……俺をバッタをモチーフにした怪人かいじんに改造するつもりか?」

 人神博士の鬼気ききせまる様子に、俺は思わずそう聞き返してしまった。ならば脳改造を受ける前にすきを見て脱出だつしゆつを……。
 
「クククッ……それでは子供達に恐怖きようふあたえられまい。子供は虫が大好きだからな。お前は子供達がおそれるおぞましき姿に改造されるのだ」

 くっ……まさかゴキブリではないだろうな。いや、それでもデザイン次第では格好良くなるか?

「次に目が覚めた時、君は新たな命を与えられる」

 人神博士が手にした酸素吸入器のマスクを俺の口元へとあてがった。そしてそこから白いガスが噴出ふんしゆつし――
 
 俺は再び意識を失うのだった。
 
 
       ◆
       
       
 どのくらいの時間が経ったのだろう。俺は意識を回復する。
 
 俺は――俺だ。まだ脳改造はされていないらしい。安堵あんど吐息といきをはいた後、自分の姿を確認する。
 
 腕や足は黒いスーツに緑色の長手ぶくろとブーツを着けていた。どうやら人の姿は保っている様だ。
 
 そして恐る恐る胴体どうたいへと目を向ければ――
 
 縦方向に段差がついた緑色の身体、俺の記憶にある元の姿よりだいぶ太くなっている。な、なんだ? この姿は?
 
「クククッ……改造手術は成功だ。どうだね、生まれ変わった気分は?」

 人神博士がしわくちゃの顔に笑みを浮かべ、俺をのぞみながらたずねた。
 
「くっ……鏡だ! 鏡をよこせ!」

「良かろう。己が姿に恐怖するがよい」

 人神博士が手元のパネルを操作すると、アームに繋がれた鏡が目の前へと運ばれた。そこに映っていたのは――
 
 ピーマンだった!
 
 そう、あの野菜のピーマンだ。それに手足が生えている。顔の部分には目と口があり、改造人間と言うよりもゆるキャラだった。
 
 ……。
 
「クククッ……その姿を見れば子供達は恐怖に震え上がることだろう。なにせ子供がきらいな野菜の上位だからな。近年はゴーヤにされているが、身近さから言えばやはりピーマンだろう」

 絶句する俺に人神博士は愉快ゆかいそうに口上を述べる。
 
「……き」

 メキ!
 
「き」

 メキ!
 
「貴様ぁあああああ!!」

 メキメキメキ!!
 
 いかりのパワーが俺を拘束こうそくする鉄枷を引きちぎる。
 
「ばっ、馬鹿な!? 鋼鉄の枷を!?」

「馬鹿はお前だぁあああ!」

 驚愕きようがくする人神博士に俺は絶叫ぜつきようでツッコんだ。
 
「こんなのどう見てもゆるキャラじゃないか! 逆にピーマン嫌いが治りそうだぞ! もっとこう! 格好いいデザインにしろよ! ああもう!」

「ええい! 戦闘せんとう員ども、やつを押さえ込め!」

 俺のツッコミを無視して人神博士がけたたましいアラームを鳴らす。ドアの外に待機していたのか五人の戦闘員がなだれ込んできた。
 
「うぉおおお!」

 俺は怒りにまかせてその戦闘員たちをなぎ払う。見た目はアレだがかなりの戦闘能力だ。
 
「さすがはわしが改造しただけはある。しかし!」

 人神博士はあせりもせずに俺と対峙たいじする。そしてさけんだ。
 
「変身!」

 人神博士の身体が赤く発光し、その姿が膨張ぼうちようする。そして現れたのは――
 
 ニンジンだった!
 
 黄色がかった赤の細長い逆三角形、頭頂からびる緑の葉。そして俺と同じように手足が生えている。なぜか黒いマントだけは元のままだ。
 
「クククッ……最近は子供の嫌いな野菜10位以内には入らぬが、まだまだニンジンも負けてはおらんぞ。らえ! β-カロテンビーーーム!!」

 両目から放たれる赤い光が俺に迫る。
 
「なにを! ビタミンCビーーーム!!」

 俺も両目から緑の光線を発射した。睡眠すいみん学習でも受けたのか、俺はこの身体の使い方を理解している。
 
 ドォオオオーーーン!!
 
 ぶつかり合う二つのビームは大爆発ばくはつを引き起こす。
 
「クククッ……やるな、ピーマンよ。いやP-MANと呼ぼうか」

「発音よくしてもカッコよくはならねぇよ!」

 爆風ばくふうに吹き飛ばされながら、俺たちはお互いに距離きよりをとった。
 
「ならば我が最大の技をらうが良い。必殺! ニンジンドリルアターーーク!!」

 人神博士はジャンプすると、身体を回転させながら俺めがけて突っ込んできた。それはまさに赤いドリルだ。
 
「だったら俺も必殺技で迎え撃つ!」

 俺はピーマンの身体の胸へと両手を突き刺した。そして緑の皮を引きちぎる。
 
「シードスマッシャー!!」

 俺の身体の中にある種がマシンガンの様に打ち出された。それは人神博士の身体に無数の穴をうがつ。
 
「ぐはぁあああ!」

 全身穴だらけになった人神博士の身体が吹っ飛ばされ、ゆかへと落ちる。
 
「ふっ、ピーマンの種は栄養豊富なんだぜ。実はワタもな。忘れるな」

 俺は人神博士に背を向け、そうつぶやいた。
 
「クククッ……見事だ、P-MANよ。しかし、儂をたおしたところでゲミューゼはほろびぬ。ここは数ある拠点きよてんの一つに過ぎんからな」

 人神博士はふらつく身体を起し、背筋をばす。
 
「ゲミューゼに栄光あれ!」

 そう叫んで人神博士は爆発四散した。
 
――その後、俺は仮面P-MANとしてゲミューゼの野菜怪人たちとの死闘しとうを繰り広げるのだが、それはまた別の物語である!
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