お菓子の拳

junhon

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前編

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 199X年、フランスは革命の炎に包まれた! ミルクは枯れ、バターは裂け、すべてのお菓子が全滅したかのように見えた。だが、パティシエは全滅していなかった!

「ヒャッハー!」

「調理場は消毒だ!」

「お菓子をよこせ!」

 半裸にモヒカンのマッチョな男たちが街を襲っていた。革命軍の「お菓子狩り」だ。その政権下では一般市民がお菓子を食べることも作る事も禁じられている。
 
「おいジジイ! なんだその首から提げた小袋は?」

 ジープから降りた男の一人ひとりが老人に目をつけ、小袋をひもごと引きちぎった。
 
「おうおう、ご禁制のあめ玉が入ってやがるな」

「ま、待ってくれ! それは孫の誕生日に――ぐはっ!」

 男に殴られ、老人の言葉はそこで途切れる。
 
「ああん? お前らはパンくずに砂糖でもかけて食ってればいいんだよ!」

「うううっ……」

 周囲の人々がおびえて遠巻きに見守る中、地面で泣き崩れる老人にひとりの人物が声をかけた。
 
「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……ありがとう。じゃが離れなされ。お前さんまでやつらに――」

 しかし、フード付きのマントを身に着けた人物は老人を守るかのように背後にかばい、男たちに向かって言う。
 
「人はパンのみにて生くるにあらず。お菓子は心にやしを与えてくれるもの。それを奪うお前たちをわたしは許さない!」

 啖呵たんかを切った人物は身にまとったマントを脱ぎ捨てた。
 
 現れたのはコックコートを着た十代後半の少女。長めの金髪を頭の後ろで引っ詰めている。美しい少女であったが、その瞳に宿る意志の強さがまず精悍せいかんさを感じさせた。
 
「ああん? 女じゃねぇか」

「しかもすこぶる上玉だ」

「ちょっと遊んでやるぜ」

 男たちが下卑た笑いをあげる。その大きく開けた口に少女の手から放たれたモノが突き刺さった。
 
「ぐはぁ!」

「うぐっ!」

「ごわっ!」

 くぐもった叫びを上げる男たちが膝から崩れ落ちる。そして口の中に投げ込まれたモノを飲み込んで至福の表情を浮かべた。
 
「「あんまぁあああい~~~~♥」」

 電光石火の早業で放たれたのは、まさに「稲妻」の名を冠したお菓子「エクレア」だった。
 
「あ、あれはまさか!?」

 群衆の一人がコックコートをいびつな並びで留める金のボタンに気づいた。その数は七つ、そしてその配置は北斗七星を思わせる。
 
「〈パテスリー・グランシャリオ〉の……」

 そう! 彼女こそ「北斗七星」の名を持つ洋菓子店のパティシエール、グレーテル・シャリオだったのだ!
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