私の〇〇〇犬

junhon

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女子プロゴルファー猿谷恭子と不思議な犬

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 コン!
 
 軽い音と共に打ち出された白いボールが緑のしばの上を転がっていく。
 
 目指すはグリーンに開いた4.25インチ(108mm)の穴――カップだ。
 
 しかし、ボールはグリーンの傾斜けいしやと芝目に翻弄ほんろうされ、カップから30cmもはなれた位置で止まった。
 
「あーーー! もう!」

 そうくやしげな声を上げるのは女子プロゴルファー猿谷さるや恭子きようこ(28さい)。女子ながらも250ヤード以上のドライバーショットをたたき出す飛ばし屋だが、パターでのアプローチを苦手としていた。
 
 それを克服こくふくしようと練習中だが、まったく上手くいかない。
 
 ゴルフはボールを打った回数で勝敗が決まるスポーツだ。いくら遠くまでボールを飛ばせようが最後のパターで失敗しては意味がない。おかげで恭子の国内ランキングは下位に留まっている。
 
「くそ!」

 毒づきながら、外したボールを一応カップに入れようと打った恭子だったが、集中力が乱れているせいでそれすらもカップのふちギリギリで止まった。
 
「きぃいいい!」

 歯ぎしりしながら今度こそボールをカップに叩き込むと、再び距離きよりをとってコースを読もうとする。
 
 と、そこへどこからか一ぴきの犬が現れた。茶色の毛並みに顔の下半分、腹や足先が白の中型犬だ。おそらく柴犬しばいぬだろう。
 
「ちょっと! 邪魔じやまよ! シッシッ!」

 恭子は手にしたパターをってその犬を追い払おうするが、犬はお構いなしにグリーンに入り込み、カップの近くで身体をせた。
 
「どきなさい!」

 大声を上げる恭子だったが、犬は馬耳東風でその場から動こうとしない。
 
「くぅううう、人を馬鹿ばかにして!」

 恭子はショットの構えをとった。ボールを打っておどかしてやろうと犬の鼻先にねらいを定める。
 
 とは言え、動物を虐待ぎやくたいするつもりはないので軽くボールを打ち出した。
 
 ボールは犬に向かって転がっていくが、途中とちゆう軌道きどうを変え――
 
 カコーン!
 
 偶然ぐうぜんにも見事カップインする。
 
うそ……」

 唖然あぜんとする恭子に向かい、犬は一声「ワン!」と鳴く。
 
「なによ、単なる偶然でしょ」

 犬の表情がどこか得意げに見え、恭子はそう言い返す。
 
 なんにせよ、犬の方は動く様子がないので恭子はホールを変えようと歩き始めた。すると犬がその後をついてくる。
 
 次のホールに移り、グリーンの芝目を読もうと身をかがめていると、またしても犬はグリーンに入り込みカップの近くに陣取じんどった。
 
「……」

 恭子はもう一度、犬の鼻先めがけてボールを打ってみる。
 
 するとボールは複雑な軌道をえがきながらカップへと吸い込まれた。
 
「ワン!」
 
「ま……まさか……」

 再びホールを移すと、またもや犬は後についてきてグリーンに陣取じんどる。
 
 恭子がその鼻先めがけてボールを打つと、必ず一打でボールはカップへと消えた。そんな事が何度も繰り返されるので、さすがの恭子もこの犬が持つ不思議な力を信じ始める。
 
 そして恭子が練習にゴルフ場を訪れるたび、彼女かのじよを導くかのように犬も現れるのだ。
 
 いつしか恭子自身のパットのうでも上達し、とうとう次の大会において念願の初優勝を果たす。
 
「おめでとうございます、猿谷選手。今大会の勝因はなんですか?」

 その勝利者インタビューに恭子は満面の笑顔でこう答えた。
 
「はい、パター犬のおかげです!」
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