1 / 1
女子プロゴルファー猿谷恭子と不思議な犬
しおりを挟む
コン!
軽い音と共に打ち出された白いボールが緑の芝の上を転がっていく。
目指すはグリーンに開いた4.25インチ(108mm)の穴――カップだ。
しかし、ボールはグリーンの傾斜と芝目に翻弄され、カップから30cmも離れた位置で止まった。
「あーーー! もう!」
そう悔しげな声を上げるのは女子プロゴルファー猿谷恭子(28歳)。女子ながらも250ヤード以上のドライバーショットを叩き出す飛ばし屋だが、パターでのアプローチを苦手としていた。
それを克服しようと練習中だが、まったく上手くいかない。
ゴルフはボールを打った回数で勝敗が決まるスポーツだ。いくら遠くまでボールを飛ばせようが最後のパターで失敗しては意味がない。おかげで恭子の国内ランキングは下位に留まっている。
「くそ!」
毒づきながら、外したボールを一応カップに入れようと打った恭子だったが、集中力が乱れているせいでそれすらもカップの縁ギリギリで止まった。
「きぃいいい!」
歯ぎしりしながら今度こそボールをカップに叩き込むと、再び距離をとってコースを読もうとする。
と、そこへどこからか一匹の犬が現れた。茶色の毛並みに顔の下半分、腹や足先が白の中型犬だ。おそらく柴犬だろう。
「ちょっと! 邪魔よ! シッシッ!」
恭子は手にしたパターを振ってその犬を追い払おうするが、犬はお構いなしにグリーンに入り込み、カップの近くで身体を伏せた。
「どきなさい!」
大声を上げる恭子だったが、犬は馬耳東風でその場から動こうとしない。
「くぅううう、人を馬鹿にして!」
恭子はショットの構えをとった。ボールを打って脅かしてやろうと犬の鼻先に狙いを定める。
とは言え、動物を虐待するつもりはないので軽くボールを打ち出した。
ボールは犬に向かって転がっていくが、途中で軌道を変え――
カコーン!
偶然にも見事カップインする。
「嘘……」
唖然とする恭子に向かい、犬は一声「ワン!」と鳴く。
「なによ、単なる偶然でしょ」
犬の表情がどこか得意げに見え、恭子はそう言い返す。
なんにせよ、犬の方は動く様子がないので恭子はホールを変えようと歩き始めた。すると犬がその後をついてくる。
次のホールに移り、グリーンの芝目を読もうと身をかがめていると、またしても犬はグリーンに入り込みカップの近くに陣取った。
「……」
恭子はもう一度、犬の鼻先めがけてボールを打ってみる。
するとボールは複雑な軌道を描きながらカップへと吸い込まれた。
「ワン!」
「ま……まさか……」
再びホールを移すと、またもや犬は後についてきてグリーンに陣取る。
恭子がその鼻先めがけてボールを打つと、必ず一打でボールはカップへと消えた。そんな事が何度も繰り返されるので、さすがの恭子もこの犬が持つ不思議な力を信じ始める。
そして恭子が練習にゴルフ場を訪れるたび、彼女を導くかのように犬も現れるのだ。
いつしか恭子自身のパットの腕も上達し、とうとう次の大会において念願の初優勝を果たす。
「おめでとうございます、猿谷選手。今大会の勝因はなんですか?」
その勝利者インタビューに恭子は満面の笑顔でこう答えた。
「はい、パター犬のおかげです!」
軽い音と共に打ち出された白いボールが緑の芝の上を転がっていく。
目指すはグリーンに開いた4.25インチ(108mm)の穴――カップだ。
しかし、ボールはグリーンの傾斜と芝目に翻弄され、カップから30cmも離れた位置で止まった。
「あーーー! もう!」
そう悔しげな声を上げるのは女子プロゴルファー猿谷恭子(28歳)。女子ながらも250ヤード以上のドライバーショットを叩き出す飛ばし屋だが、パターでのアプローチを苦手としていた。
それを克服しようと練習中だが、まったく上手くいかない。
ゴルフはボールを打った回数で勝敗が決まるスポーツだ。いくら遠くまでボールを飛ばせようが最後のパターで失敗しては意味がない。おかげで恭子の国内ランキングは下位に留まっている。
「くそ!」
毒づきながら、外したボールを一応カップに入れようと打った恭子だったが、集中力が乱れているせいでそれすらもカップの縁ギリギリで止まった。
「きぃいいい!」
歯ぎしりしながら今度こそボールをカップに叩き込むと、再び距離をとってコースを読もうとする。
と、そこへどこからか一匹の犬が現れた。茶色の毛並みに顔の下半分、腹や足先が白の中型犬だ。おそらく柴犬だろう。
「ちょっと! 邪魔よ! シッシッ!」
恭子は手にしたパターを振ってその犬を追い払おうするが、犬はお構いなしにグリーンに入り込み、カップの近くで身体を伏せた。
「どきなさい!」
大声を上げる恭子だったが、犬は馬耳東風でその場から動こうとしない。
「くぅううう、人を馬鹿にして!」
恭子はショットの構えをとった。ボールを打って脅かしてやろうと犬の鼻先に狙いを定める。
とは言え、動物を虐待するつもりはないので軽くボールを打ち出した。
ボールは犬に向かって転がっていくが、途中で軌道を変え――
カコーン!
偶然にも見事カップインする。
「嘘……」
唖然とする恭子に向かい、犬は一声「ワン!」と鳴く。
「なによ、単なる偶然でしょ」
犬の表情がどこか得意げに見え、恭子はそう言い返す。
なんにせよ、犬の方は動く様子がないので恭子はホールを変えようと歩き始めた。すると犬がその後をついてくる。
次のホールに移り、グリーンの芝目を読もうと身をかがめていると、またしても犬はグリーンに入り込みカップの近くに陣取った。
「……」
恭子はもう一度、犬の鼻先めがけてボールを打ってみる。
するとボールは複雑な軌道を描きながらカップへと吸い込まれた。
「ワン!」
「ま……まさか……」
再びホールを移すと、またもや犬は後についてきてグリーンに陣取る。
恭子がその鼻先めがけてボールを打つと、必ず一打でボールはカップへと消えた。そんな事が何度も繰り返されるので、さすがの恭子もこの犬が持つ不思議な力を信じ始める。
そして恭子が練習にゴルフ場を訪れるたび、彼女を導くかのように犬も現れるのだ。
いつしか恭子自身のパットの腕も上達し、とうとう次の大会において念願の初優勝を果たす。
「おめでとうございます、猿谷選手。今大会の勝因はなんですか?」
その勝利者インタビューに恭子は満面の笑顔でこう答えた。
「はい、パター犬のおかげです!」
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
北斗の犬〈ホクトのケン〉
junhon
大衆娯楽
199X年、世界は核の炎に包まれた。海は枯れ地は裂け、全ての生物が死滅したかのように見えた。
だが、人類は死滅していなかった。そしてまた犬も……。
これは主を求めて彷徨う柴犬、犬四郎の物語である!
北斗の犬〈ホクトのケン〉Ⅱ
junhon
大衆娯楽
聖犬バウザー対犬四郎! だが聖犬には北斗忍拳すら通じぬ恐るべき秘密があった!! 次回、北斗の犬Ⅱ! 「我は聖犬バウザー! 愛も情も許さない!!」――乱世の怒りが俺を呼ぶ。
あきらめなさいよ!女子大生だから恋愛も男も思いのままにできると挑発してくる夫の浮気相手にお仕置きを
白崎アイド
大衆娯楽
女子大生だからと、恋愛も男も思いのままになると思っている勘違いの浮気相手。
10歳年上の私を見下す女に、とうとう我慢できなくなったのでお仕置きを考えた。
女性画家と秘密のモデル
矢木羽研
大衆娯楽
女性画家と女性ヌードモデルによる連作です。真面目に絵を書く話で、百合要素はありません(登場人物は全員異性愛者です)。
全3話完結。物語自体は継続の余地があるので「第一部完」としておきます。
モブ太郎のロストボール
モブ太郎
大衆娯楽
ありふれた埼玉の大学生の太郎は自分がモブキャラみたいで嫌だった。誰もやらない趣味を見つけたく、ゴルフ場でロストボールを回収することを趣味にしようと考えた。いざ行動に移す太郎だが、そこで起きたゴルフ場で起こったハプニングとは!!!
徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……
紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz
徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ!
望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。
刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる