夢精獣

junhon

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前編

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「ごめん。勃たない……」

 裸で彼女の上に覆い被さりながら、工藤はうなだれる。

「何よ! 私じゃ不満なの!?」

「ち、違うんだ。何故か最近毎晩夢精をしていて……」

「はぁ? 中学生じゃあるまいし」

「本当なんだ。だから……」

「へぇ~、どんな美人と夢の中でセックスしているのかしら?」

 彼女はベッドの上から身を起こし、背中を向けて脱いでいた下着を着け始める。

「じゃあ今日はもう帰るから!」

 服を着た彼女はプリプリしながら部屋を出て行った。

「くそっ、一体どうしちまったんだ? 俺のチンコは……」

 工藤は自分の萎えた男根を見下ろし、そう呟くのだった。
 
 
       ◆ 
 
 
 ラブホテルを出た工藤は夜の公園でビールをあおる。
 
 工藤はごく普通のサラリーマンだ。年齢は二十八歳。そろそろ彼女との結婚を考えていたのだが、このままでは破局だろう。
 
「くそっ」
 
 何度目になるかも分からない悪態を吐きながら、工藤は缶を傾けたのだが中身は空となっていた。

「ちくしょうめ!」

 工藤は手にしていた缶を地面に叩きつける。

 ビール缶は何回かバウンドし、転がった後、一人の少女の足下で止まった。

「見つけたわよ」

 少女は地面の空き缶を拾い、工藤を見つめたまま腕を振った。

 見てもいないのに、空き缶は見事ゴミ箱の中に叩き込まれる。

「キミは……?」

 工藤は顔を上げて少女を見た。

 少し茶色がかった髪をポニーテールに結わえている。白い半袖のブラウスに紺色のプリーツスカート。胸元には赤いネクタイが締められていた。どうやら女子高生のようだ。

 しかし、工藤に女子高生の知り合いはいない。初めて見る顔だった。

「あなたに用はないわ。出てきなさい、“マラサイト”」

 少女は険しい視線を工藤に向けた。

「マラなんとかって……うっ!?」

 少女の言葉に疑問を返そうとした工藤が、苦しむような声を上げて頭を押さえる。

 その頭ががくりと前に倒れた。

 そして再び頭を上げた時、工藤は満面に笑みを浮かべていた。目も口も弓を描いた恵比須顔というやつだ。

 だが、その顔からはどこか邪な雰囲気を感じさせる。

「マラサイトって俺の事かい? お嬢ちゃん」

 応える声は先ほどと同じ工藤のものだ。しかし、その口調が異なっている。
 
「なるほど。誰が名付けたかは知らないが、なかなか俺たちの事を上手く表現しているな」
 
「そう言えば最近次々と仲間が狩られているって聞くが……お嬢ちゃんの仕業かな?」

「そうよ。冥土の土産に教えてあげるわ。私の名前は新野泉にいのいずみ。あなた達の親戚みたいなものね」

 少女――泉は忌々しそうにそう言った。

「確かに仲間の反応は感じるが……お嬢ちゃんは女だろう?」

「だから“親戚”なのよ」

 そう言いながら泉は着ていたブラウスを脱ぎ出す。着痩せするタイプの様でその胸はなかなか大きい。
 
「ん~~~ん。何の真似かな? もしかしておじさんと遊んでくれるのかい?」

 工藤――いや“マラサイト”という謎の存在もズボンのチャックを下ろしていく。
 
「ええ、遊びましょう」

 泉は不敵に微笑んだ。

「よーし、おじさん頑張っちゃうぞ!」

 その言葉と同時に“何か”がマラサイトの股間から飛び出す。
 
 少女はそれを素早くかわし、フロントホックのブラを外して叫ぶ。
 
「マサムネ!」

「承知!」

 泉でもマラサイトでもない男の声が答える。
 
 一旦かわした“何か”が方向を変えて横から泉に迫った。
 
 それは黒ずんだ肌色の肉の棒――いや、その先端が鋭利に尖っているので肉の槍だ。
 
 そしてブラを外した泉の右の乳房――その胸に螺旋状の切れ目が入る。
 
 それはリンゴの皮がむける様に一本となってほどけ、迫る槍を迎え撃った。
 
 キーーーン!
 
 肉同士がぶつかり合ったというのに、まるで金属の様な音が響く。
 
 泉の胸から伸びた肉の触手は、その先が刀の様な形状となって槍を受け止めたのだ。
 
「そ、それは!?」

 余裕の態度をとっていたマラサイトの目が驚愕に見開かれる。
 
「拙者、マサムネと申す」

 よく見れば肉の触手の根元辺りに小さな口があった。それが言葉を発しているのだ。
 
「言ったでしょ、“親戚”だってね」

 泉は不敵に微笑むのだった。
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