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猫の正体
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猫が、鳴いた。
「GRRRRROOOOAAAARRR!!」
それは雷の如く大気を震わせ、魂すら削られそうなものだった。
🐱
俺は異世界からの転移者だ。
ある日、突然足下に出現した魔方陣によってこの西洋ファンタジー風の世界へと飛ばされた。
かと言って特別に使命を与えられたわけでもなく、噂によれば大昔の勇者召喚システムの誤動作らしい。俺のような転移者は時々現れるという。
もちろんチート能力も与えられなかった。言葉が通じるようにはなっていたが。
途方に暮れる俺だったが、この世界には冒険者ギルドというものがある。そこに登録すれば最低限の衣食住は保証され、一通りの訓練を受けて冒険者になることが出来た。何らかのワケアリや食い詰めた者が就くことが多いが、名を上げれば英雄として厚遇もされる。
そんなわけで、俺は地道に小さな依頼をこなし、日銭を稼いでいた。
冒険者の生活にも慣れた頃、俺はギルド支部に貼られていた一枚の依頼書を目にする。
『猫退治』
猫に村を荒らされて困っています。追い払ってくれる方を募集中。報酬は100万ソル。
「100万ソル!?」
高額すぎる報酬に思わず声を上げる。余程大量の猫でも現れるのだろうか? しかし、手間ではあるが所詮は猫。この報酬を逃す手はない。
依頼を受ける旨をカウンターの受付に告げると、すでに二人の同業者がこの依頼に登録していた。
「よう! 俺は戦神ゾルディスの神官戦士、レイランド。よろしく!」
ゾルディスの聖印が施された鈍色の鎧の中年男性が手を上げて俺を迎える。黒い髭を蓄えた精悍な男だ。
「私はイシュタリア。精霊魔術師」
もう一人は銀色の髪を後頭部で結った二十歳半ばの美人だ。金糸で縁取られた紫色のローブを身にまとい、精霊召喚用の宝石飾りを首から提げていた。
俺も名乗って二人と握手を交わす。
「お前さん、猫を相手にする自信はあるのか?」
「ああ、多少手こずるだろうが問題ないさ」
俺はレイランドの問いに軽く答える。
そして三人で依頼主の村を訪れ――
今、俺の目の前には巨大なトカゲに似た怪物がいた。
全身は赤銅色の鱗で覆われ、肩から翼竜のような皮膜の翼が大きく広がっている。なのにちゃんと前足はあり、鋭い爪を備えていた。頭部には短い角が生え、大きな口には無数の牙が並んでいる。
それはファンタジー世界における最強の生物、竜と呼ばれるものの姿だった。
「ちょちょちょっ!! 猫じゃないじゃん!? ドラゴンじゃん!!」
「何を言っている? こいつこそ猫だろう」
「ドラゴンってなに?」
レイランドとイシュタリアは不思議そうな顔で俺を見る。
え? え? え?
これは俺が転移時に習得した翻訳機能のバグか?
「くるぞ! ブレスだ!」
レイランドが叫び、俺たちは咄嗟にその場から飛び退く。イシュタリアが水の精霊魔法で牆壁を張ってくれるが、それでも髪の毛がチリチリと焦げた。
「今よ! 次にブレスを吐けるまでには間があるわ!」
ドラゴン――いや猫に立ち向かっていくレイランドとイシュタリアの背中を見ながら、俺はあることに気づくのだった。
そう言えば、この世界で猫|(に似た生き物)って見たことがないなぁ。
~END~
「GRRRRROOOOAAAARRR!!」
それは雷の如く大気を震わせ、魂すら削られそうなものだった。
🐱
俺は異世界からの転移者だ。
ある日、突然足下に出現した魔方陣によってこの西洋ファンタジー風の世界へと飛ばされた。
かと言って特別に使命を与えられたわけでもなく、噂によれば大昔の勇者召喚システムの誤動作らしい。俺のような転移者は時々現れるという。
もちろんチート能力も与えられなかった。言葉が通じるようにはなっていたが。
途方に暮れる俺だったが、この世界には冒険者ギルドというものがある。そこに登録すれば最低限の衣食住は保証され、一通りの訓練を受けて冒険者になることが出来た。何らかのワケアリや食い詰めた者が就くことが多いが、名を上げれば英雄として厚遇もされる。
そんなわけで、俺は地道に小さな依頼をこなし、日銭を稼いでいた。
冒険者の生活にも慣れた頃、俺はギルド支部に貼られていた一枚の依頼書を目にする。
『猫退治』
猫に村を荒らされて困っています。追い払ってくれる方を募集中。報酬は100万ソル。
「100万ソル!?」
高額すぎる報酬に思わず声を上げる。余程大量の猫でも現れるのだろうか? しかし、手間ではあるが所詮は猫。この報酬を逃す手はない。
依頼を受ける旨をカウンターの受付に告げると、すでに二人の同業者がこの依頼に登録していた。
「よう! 俺は戦神ゾルディスの神官戦士、レイランド。よろしく!」
ゾルディスの聖印が施された鈍色の鎧の中年男性が手を上げて俺を迎える。黒い髭を蓄えた精悍な男だ。
「私はイシュタリア。精霊魔術師」
もう一人は銀色の髪を後頭部で結った二十歳半ばの美人だ。金糸で縁取られた紫色のローブを身にまとい、精霊召喚用の宝石飾りを首から提げていた。
俺も名乗って二人と握手を交わす。
「お前さん、猫を相手にする自信はあるのか?」
「ああ、多少手こずるだろうが問題ないさ」
俺はレイランドの問いに軽く答える。
そして三人で依頼主の村を訪れ――
今、俺の目の前には巨大なトカゲに似た怪物がいた。
全身は赤銅色の鱗で覆われ、肩から翼竜のような皮膜の翼が大きく広がっている。なのにちゃんと前足はあり、鋭い爪を備えていた。頭部には短い角が生え、大きな口には無数の牙が並んでいる。
それはファンタジー世界における最強の生物、竜と呼ばれるものの姿だった。
「ちょちょちょっ!! 猫じゃないじゃん!? ドラゴンじゃん!!」
「何を言っている? こいつこそ猫だろう」
「ドラゴンってなに?」
レイランドとイシュタリアは不思議そうな顔で俺を見る。
え? え? え?
これは俺が転移時に習得した翻訳機能のバグか?
「くるぞ! ブレスだ!」
レイランドが叫び、俺たちは咄嗟にその場から飛び退く。イシュタリアが水の精霊魔法で牆壁を張ってくれるが、それでも髪の毛がチリチリと焦げた。
「今よ! 次にブレスを吐けるまでには間があるわ!」
ドラゴン――いや猫に立ち向かっていくレイランドとイシュタリアの背中を見ながら、俺はあることに気づくのだった。
そう言えば、この世界で猫|(に似た生き物)って見たことがないなぁ。
~END~
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