仮面P-MAN

junhon

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第18話 驚異! スーパー野菜怪人!

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 その冬、人々の食卓しよくたくからなべが消えた。
 
 原因は鍋料理のかげの主役とも言える白菜の値段高騰こうとうだ。一玉一万円以上という信じられない高値となり、庶民しよみんの手の届かない高級食材となってしまった。
 
におうな……もしや、やつらが」

 新聞の記事を読んだ本郷ほんごうひろしつぶやく。
 
 本郷は新聞をたたんでコートのポケットに仕舞しまうと、愛用の大型バイクにまたがった。
 
 城北大学農学部二年生、しかし、かれにはもう一つ秘密の肩書かたがきがある。
 
 目指すは白菜の一大産地、茨城いばらき県だ。冬は茨城、夏は長野県が白菜の生産量日本一である。この二つの県だけで全生産量の半分をめていた。
 
 常磐自動車道から茨城県に入った本郷は、県内でも白菜の生産が盛んな八千代町へと向かう。
 
 みように車の往来が少ない国道を走っていると、前方から軽トラックがもうスピードでやって来る。そしてその後ろを三台のバイクが追っていた。
 
 バイクに乗った男達は異様な出で立ちだった。全身を緑色のタイツで包み、目と口の部分にだけ丸い穴が開いた仮面をかぶっている。
 
「ゲミューゼの戦闘せんとう員!」

 本郷は己の推測が当たったことを確信した。軽トラックとバイクの間に割り込み、戦闘員の進路に立ち塞がる。
 
「ゲミューゼども! おれが相手だ!」

 本郷はバイクを降りて構えを取った。
 
「イー!」

「イー!」

「イー!」

 戦闘員達は奇声きせいを上ながら本郷におそいかかるが、あっという間にたおされてしまう。
 
「あ、ありがとうございます」

 軽トラックを運転していた女性が本郷の背に声をかける。長いかみを首の後ろで結んだ二十さいくらいの美人だ。
  
大丈夫だいじようぶでしたか? お嬢さん。なぜこいつらに追われていたのです?」

「はい。私は白菜農家のむすめ白井しらい菜々なな。茨城はかれらゲミューゼに支配されているのです。私はすきを見て逃げ出してきたのですが……」

「やはり……しかし、一体どうやって?」

「彼らは納豆の中に洗脳薬を混ぜんでいたのです。みんなそれを食べてしまって……」

「なるほど。茨城県民なら三食納豆を食べるのが普通ふつうでしょう。でも、なぜあなたは無事だったのです?」

「その……私は子供のころから納豆が苦手で……」

 菜々は茨城県民としてずかしいと、顔をせながら答えた。

「ははっ、分かります。実は俺も苦手なんですよ。関西の出なんでね」

 本郷はそんな菜々をフォローするかの様に笑顔をかべる。

「さて、奴らの本拠地ほんきよちを知っていますか?」

 表情を引き締めながら本郷はたずねた。

「え、ええ。でも、どうする気なんです?」

「もちろん、たおします。この俺がね」

 本郷は自信たっぷりに言い放つのだった。
 
       ◆
 
「ふぅ……こう毎日鍋だときてくるな」

 眼帯に口ひげの男が鍋を前にため息をらす。軍服を着た精悍せいかんそうな男だったが、その表情には嫌気いやけかんでいた。
 
「「イー! イー!」」

 ゲミューゼの戦闘員達もその意見に賛同する。軍服の男を上座に十数人の戦闘員達が集い、鍋パーティーが行われているのだ。
 
 ここは八千代町にあるJA常総ひかり、その大広間だった。
 
 と、外から何やら争う様な物音が聞こえてくる。
 
「ん? 外がさわがしい様だが?」

 軍服の男がそう口にした瞬間しゆんかんふすまと共に戦闘員が吹き飛んできた。
 
「何事だ!」

「白菜を独り占めにして鍋パーティーとはいいご身分だな、ゲミューゼ!」

 そう言いながら現れたのは本郷だ。
 
「き、貴様は本郷弘! なぜここに!?」

「もちろん、貴様らゲミューゼの野望を打ち砕くため!」

「……くっ、やれやってしまえ!」

 軍服の男の命令に、戦闘員達が本郷に襲いかかる。
 
 本郷は素手で次々と戦闘員達を倒していった。なぜか場面は屋外へ、そして採石場へと移動する。その時には軍服の男ただ一人となっていた。
 
「むぅ、さすがだ本郷弘。だが、このネバ大佐たいさに勝てると思うな!」

 ネバ大佐は両うでをクロスし、「変身!」とさけぶ。
 
 大佐の身体が光を発し、その輪郭りんかくが変わっていく。そして現れたのは――
 
「ネバネバ~」

 ワラに包まれた納豆に手足が生えた姿だった。独特のにおいが辺りに立ちこめる。
 
「ひぃ!」

 戦いを陰から見守っていた菜々が、その異形と匂いに悲鳴を上げる。
 
「くっ……」

 本郷も匂いにたじろぐが、チラリと背後の菜々を振り返った後、両腕を右へとばした。
 
「変!」

 伸ばした腕を右から左へと回し、肘を曲げてポーズを決める。本郷の腹にはいつの間にかゴテゴテとしたベルト――Pドライバーが現れていた。
 
「身!」

 本郷の身体が緑の渦巻うずまく風と光に包まれる。そして現れたのは――
 
 縦方向に段のついた緑色のいびつな円柱、ピーマンに手足が生えた姿だった。表面にはつぶらな目と口が付いており、目の部分にはV字型の赤い仮面を被っている。
 
「仮面P-MAN!」

 本郷――いや、P-MANは堂々と名乗りを上げた。
 
「ほ、本郷さん……その姿は……」

 菜々はおどろきに目を見開きながらたずねる。
 
「菜々さん、あなたにはこんな姿を見られたくなかった」

 背中を向けたまま、P-MANは続ける。
 
「俺もゲミューゼに改造された野菜怪人ベジーターの一人。しかし、正義のために奴らと戦っているのです」

「ふん、裏切り者め。今日こそ引導をわたしてくれるわ」

 そう言い放ち、ネバ大佐はP-MANに襲いかかる。
 
「ネバネバ~」

「くっ!」

 改造手術により、人間をえた超人ちようじん達の戦いが始まった。しかし、納豆の匂いにP-MANの動きは精彩せいさいを欠き、迂闊うかつに相手をなぐればネバネバとした糸にらわれそうで手が出せない。いや、それを考慮こうりよしてもネバ大佐の強さは圧倒的あつとうてきだった。
 
「くぅ。つ、強い……」

「はははっ、所詮しよせん貴様は生野菜。しかし、加工品となった納豆の我には二次産業の力が加えられているのだ。スーパー野菜怪人に勝てると思うな」

 ネバ大佐の猛攻もうこうにP-MANはひざをつく。
 
「トドメだ! 納豆マシンガン!」

 ネバ大佐の身体から粒選つぶよりの大豆が放たれる。
 
「危ない!」
 
 そこへ菜々がP-MANの前へと飛び出した。
 
「あああああ!」

 菜々の全身が納豆まみれとなり糸を引く。
 
「菜々さん!」

「めっちゃくっさー……」

 菜々はそう呟き、地面へとたおれる。
 
「くっ、俺をかばったばかりに……うぉおおお! 許さんぞネバ大佐!!」

 いかりがP-MANに秘められた力を呼び覚ます。金色のオーラを放つその身体の色が緑から黄色へと変化した。
 
 それは〈パプリカモード〉――青臭あおくささと苦みが消えてあまくなり、ビタミンCは二倍、βカロチンは三倍にパワーアップだ。
 
「とぅおう! P-MANキーーーク!!」

 空高くへとジャンプしたP-MANが急降下してキックを放つ。納豆のつぶをまき散らしながら吹き飛ばされるネバ大佐だったが、そのねばつく糸さえ黄金のオーラをまとったP-MANにはれることはなかった。
 
「ぐはぁ!」

「とどめだ!」

 P-MANは両うでで自らの胸を開く。
 
「シードスマッシャー!!」

 その体内から放たれた無数の種がネバ大佐を蜂の巣にした。
 
「げ、ゲミューゼに栄光あれ!」

 そうさけび、ネバ大佐は爆発ばくはつ四散する。
 
――こうしてゲミューゼの野望は打ち砕かれ、ネバ大佐がたおれたことで茨城県民の洗脳は解けた。白菜も豊富に市場に出回る。

 しかし、ゲミューゼはほろびていない。仮面P-MANは人類の自由のために今日も戦い続けるのだ。
 
       ◆
 
「くぅ、このにおいがたまらない!」

 白井菜々は納豆をのせたご飯を口にかき込む。
 
 全身納豆まみれになったおかげで、菜々は納豆の匂いを克服こくふくしていた。
 
「納豆最高!」
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