僕の彼女は汗かき彼女

junhon

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夏と汗

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 高校二年生の春、僕は以前から想いを寄せていたクラスメイトの氷室涼子ひむろりようこさんに玉砕覚悟で告白し、奇跡的にいい返事をもらって付き合うこととなった。
 
 彼女は学校一の美人で、雪のように白い肌に生まれつきという銀色の髪を長く伸ばしている。平凡な僕なんかがお付き合いできたのはまさに奇跡だった。一生分の運を使い果たしてしまったのかもしれない。でも、彼女と付き合えるなら後悔なんてない。
 
 休日にはデートをしたりもしたが、いまだに手も握れていない。でも、彼女と一緒に居られるだけで僕は幸せ満点だった。
 
 告白から数ヶ月後、梅雨つゆが明けた辺りで体育祭が開催される。氷室さんは50m走に出場したのだが、順位はビリ。ゴールした後にその場でヘナヘナと座り込んだ。
 
 僕はすぐさま氷室さんの元に駆けつける。
 
「氷室さん、大丈夫?」

「は、はい。ちょっと暑さにやられてしまって……」

 彼女は汗っかきで、運動着もびっしょりれて肌に張り付いていた。そしてうっすらブラが透けて――
 
 僕はそちらに目を向けないようにしながら、彼女に肩を貸して保健室に連れて行く。ほのかに香る汗の匂いが芳しい。なんで女の子はこんなにいい匂いがするんだろう。
 
 そして夏となり、30℃越えの日々に突入したある日。
 
 学校からの帰り道、いつもは氷室さんと一緒に帰るのだが、今日きようは図書委員のミーティングがあって先に帰ってもらっていた。その道中、僕は道路が濡れているのに気づく。
 
 今日は雨も降っていないし、濡れた跡はナメクジがったように続いている。
 
 妙だな――と思いながらも歩いて行くと、道端で小さな女の子が倒れていた。
 
 僕は慌ててその子の元に駆け寄る。そこで変なことに気づく。その子の体格的には十歳くらいの小学生なのに、身に着けているのは僕が通っている高校の制服だった。サイズが合わなくてブカブカだ。
 
「大丈夫!? キミ!」

 うつ伏せに倒れているその子を抱き起こす。制服は汗でびっしょりと濡れている。
 
「……え!?」

 彼女の顔を見て僕は驚く。容姿は幼くなっているものの、その顔は氷室さんのものだった。雪のように白い肌も長い銀髪も。
 
 氷室さんの妹? とにかく熱中症の危険があるので、その子をおんぶしてファミレスに駆け込む。
 
 クーラーの効いた店内で座席に寝かすと、少女が目を覚ました。
 
「……夏目くん?」

 ボンヤリとした瞳の焦点が合い、少女は僕を見てその名前をつぶやく。
 
「氷室さん……なのか?」

 起き上がれるくらいに回復したところで、氷の詰まったオレンジジュースを飲みながら彼女は話し始める。
 
「夏目くん、助けてくれてありがとう。……実はわたしは人間じゃないんです」

「……は?」

 戸惑う僕にかまわず、彼女は話を続ける。
 
「私は『つらら女』という妖怪なんです。暑さに弱いので夏になると身体が溶けてこんな姿に……」

「……」

だましていてごめんなさい」

 言葉を失う僕に彼女は頭を下げる。
 
 そこで僕はこうこたえた。

「いや、むしろそっち姿の方がどストライクだね!」

 その言葉に氷室さんからは絶対零度の視線が浴びせられるのだった。
 
 
 
~END~
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