ギャル子さんと地味子さん

junhon

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ギャル子と告白②

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 バイト先に目星はつけてある。小町は赤井にその店へと電話を入れさせた。そして次の日――
「いらっしゃいませ~、って小町か」
 営業スマイルで迎えたのは早知であった。ここは早知のバイト先、ファミレス『マグノリア』である。
「どうですか。こんなスレた顔してるのにさっきの笑顔。これが接客ってものですよ」
「スレてねーよ! ってこいつどっかで見たことがあるような……」
 早知は小町の後ろに立つ赤井の顔を見上げて目を細める。
「ほら、例の暴走族のリーダーですよ」
「おお!? な、何でそんな野郎と一緒に居るんだよっ」
「バイトの面接に来たんですよ。この赤井さんが是非ともバイトをしたいそうです」
「……よろしく頼む」
 赤井は不服そうながらも軽く頭を下げた。
「お、おう。んじゃちょっと店長呼んでくるから」
 早知が奥に引っ込むとすぐに店長が現れ、赤井は事務所に通されて面接が始まった。小町はコーヒーを飲みながらその結果を待つ。
 しばらくして赤井が店の奥から現れた。
「どうでしたか?」
「ああ、無事採用された。早速明日から来てくれと言うことだ」
「おめでとうございます。んじゃ、頑張ってバイトして下さい。あなたの働きぶりはさっちゃんから聞かせてもらいますので」
 こうして赤井のファミレスでのバイトが始まるのだった。
 
 
 
「どうですか? 赤井さんの働きぶりは?」
 それから一週間後、時子たちと共に店を訪れた小町は早知に訊ねた。
「ああ、意外と真面目に働いてるな。顔が怖いんでちょっと客には引かれてるが……」
 今も赤井は客が去ったテーブルを丁寧に拭いている。よっぽど時子と付き合いたいのか、それとも結構根は真面目なのか……。
「や、やめて下さい!」
 と、女の子の嫌がる声が上がった。見れば客の一人がウェイトレスのスカートを摘まんでいた。ウェイトレスは大学生くらいの巨乳のお姉さんだ。
「いいじゃんかよぉ。こっちに来て座れよ」
 二十歳過ぎくらいの男三人連れだった。まだ夕方だというのにテーブルにはビールのジョッキが載っかっている。その中身は大分減っていた。
「奈々さん!? あいつら……ちょっとぶん殴ってくる」
「ちょっとちょっとちょっと!」
 腕まくりをして大股で歩み出そうとする早知を小町は慌てて止めた。
「そんな事したらバイトクビになっちゃいますよっ」
「ああ? マナーを守らない奴は客じゃねーんだよ」
 早知は座った目で振り返る。
「お客様、手をお離し下さい」
 そこへ赤井が動いた。
「あん? てめーなんかお呼びじゃないんだよ」
 普通なら強面の赤井にビビるところだが、男は酔って気が大きくなっているようだ。
「当店ではそのようなサービスは行っておりません」
 赤井の手がウェイトレスのスカートを摘まむ男の腕を握った。グッと力を込めると男の手が緩む。その隙にウェイトレスは赤井の背後に隠れた。
「てててっ、離しやがれ!」
「失礼しました」
 赤井はすぐさま手を離し、頭を下げる。
「この野郎!」
 男は手をつけていなかったお冷やの入ったコップを赤井に投げつけた。それは赤井の頭に直撃し、赤い坊主頭を濡らす。床に落ちたコップはガチャンと割れた。
「ざまあみろ。ははっ」
 男は愉快そうに笑い声を上げる。同じ席の男達もそれに追従した。
 赤井は頭を下げたままだ。しかしその背後には――
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
 そんな擬音が浮かんで見えた。強く握った拳に血管が浮いている。しかし、酔っぱらい達はそれに気がつかない。
「お客様、これは暴力行為に器物破損ですよ。警察に連絡してもよろしいでしょうか?」
 そこへ騒ぎを聞きつけた店長が現れた。床に散乱したガラス片を眺めながら言う。
「な!? こいつが先に俺の手を……」
 警察という言葉に男も少し酔いが覚めたようだ。
「ちっ、覚えてろよ」
 捨て台詞を残して男達は席を立った。さすがにちゃんと会計を済ませて店を出る。
「よく我慢しましたね、赤井さん」
 小町は赤井に駆け寄った。男を見せてもらってちょっと感動している。
「ああ、あんな奴らを殴る拳は持っちゃいないからな」
 赤井はキメ顔でそう答えた。
「でもあいつらがまた店に来たらどうしましょう……」
「大丈夫。手は打っておいたから」
 小町の不安げな言葉にスマホを手にした時子はそう答えるのだった。
 
 
 
 そして、店を出た男達は路地裏で強羅たちに囲まれていた。なんちゃって番長集団である。
 しかし、男達はそんな事を知らない。強羅の強面とその体格に震え上がっていた。
「あの店は俺のシマだ。もし今後近付くようなことがあったら……」
 強羅は得意のクルミ割りを男達に見せる。
「こうなる」
「「ひぃいいいいいいっ」」
 男達は我先にと強羅の前から遁走するのだった。
 
 
 
「合格ですよ、赤井さん。さあ、遠慮なくギャル子さんに告白して下さい」
 赤井のバイトのあがりを待って、小町達は近くの公園へとやって来ていた。早知はこの後もバイトで居ないが、和花、渚、友理も固唾をのんで告白を見守る。
「ギャル子さん、あなたが好きです。俺と付き合って下さい」
 赤井は校門前と同じように頭を下げ、片手を差し出した。飾り気のないストレートな告白である。
「……」
 時子はそんな赤井を無言で見つめていたが――
「ごめんなさい」
 そう言って頭を下げるのだった。
「そ、そうか……よければ理由を教えてもらえるか?」
「私……好きな人がいるの」
「そうか……なら仕方がないな。そいつと幸せにな」
 赤井はあっさりと身を引き、時子に背中を向けた。しかしその背中は泣いている。
「ちょっ、ギャル子さん!? 好きな人って誰ですか? 初耳なんですがっ」
 時子は詰め寄る小町の腰に手を回し、その片手を握った。手のひらを合わせて指を絡める。
「小町」
「はい?」
「私は小町のことが好き」
 時子は真剣なまなざしで小町を見つめる。
「「えええええええええーーーーー!?」」
 時子以外の四人は素っ頓狂な声を上げるのだった。
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