30 / 34
ギャル子と告白①
しおりを挟む
「大変です! ギャル子番長!」
放課後、いつものように文芸部の活動をしているところに魚津が飛び込んできた。
「……番長はやめて」
編集者モードの眼鏡をかけた時子は半眼で魚津を迎える。この男、どうしても時子を番長に祭り上げたいらしい。
「そんな事を言っている場合ではありません! ギャル子番長! 烈怒馬論の総長・赤井が校門前に来てるんですよ!」
「え!? もしかしてお礼参りに……」
その言葉に小町が不安げな声を上げる。赤井は先日時子にぶちのめされたのだ。その事を恨みに思っているのかもしれない。
「いいわ。ちょっと行ってくる」
時子は顔色一つ変えずに立ち上がる。眼鏡を胸ポケットに仕舞った。
「おお! それでこそギャル子番長です」
魚津は喜びを露わにする。魚津にとってはこれでまた一つ、時子の番長としての既成事実を作ることになるのだ。
「ちょっ、ギャル子さん。大丈夫ですか?」
小町は時子の背中に声をかけた。
「ま、パンツを見せればイチコロでしょ」
「……それはそうかもしれませんが。って言うかギャル子さん、もう少し恥じらいを持ちましょうよ」
「でも、実力はあっちの方が上だしね」
そう言って時子は部室を出て行った。
「う~、心配ですね。私もちょっと様子を見に行ってきます」
小町は友理や渚に声をかけ、時子の後に続いた。魚津も一緒についてくる。
時子が玄関を出ると、赤井は腕を組んで校門の真ん中に立っていた。強面に獅子の鬣のような赤く染めた蓬髪の赤井に、帰宅する生徒たちは怯えながら校門の隅を通っていく。
時子の姿を見つけると、赤井は視線を逸らさずに時子が近付いてくるのを待つ。
「もしかして私に用なのかしら?」
赤井の前に来た時子は臆することなくその顔を見上げた。
「ああ、今日はお前に用があってきた」
「この間の仕返しかしら?」
「俺をそんな小さな男だと思うなよ。烈怒馬論は解散した。女とジジイにやられたとあっては面目が立たないからな。その事はもういい」
「じゃあ、何の用なの?」
「……ギャル子さん」
赤井は真剣な目で時子を見つめる。
「あなたに惚れました! 俺と付き合って下さい!」
一気呵成に告げると赤井は頭を下げて手を差し出した。
「なんですとーーー!?」
校門の陰に隠れて様子をうかがっていた小町は思わず声を上げる。予想を裏切る展開である。
「……」
時子が言葉に詰まっているところに小町が飛び出す。
「ちょっと待ったぁー-ー!」
小町は時子を庇うかのように前に出た。
「ギャル子さんと付き合いたいなら、まずは私に話を通してもらいましょうか」
「何だお前は? 関係ない奴は引っ込んでいろ」
「私はギャル子さんの……マネージャーみたいなものです。あなたがギャル子さんに相応しい男かどうか判断させてもらいます」
「ま、そう言う事だから」
困惑の表情を浮かべる赤井に、時子はさらりと告げる。
「まずは自己紹介でもしてもらいましょうか」
「……来堂学園二年、赤井健一郎だ」
偉そうに胸を張りながら見上げる小町に憮然としながら赤井が名乗る。
「来堂っていいところの学校じゃないですか。なんで暴走族なんてやってたんです?」
「元々は一人で走ってたんだがな……いつの間にか仲間が増えたんだ」
ふむ――と小町は胸中で頷く。族の頭をやっていただけあってリーダーシップはあるだろうし、人を惹きつける魅力もあるのだろう。確か元暴走族がビジネスマンとして成り上がっていくマンガがあったような……。
族からは足を洗ったことだし、将来は有望かもしれないと小町は判断を下す。
「いいでしょう。ではギャル子さんと付き合いたいという覚悟のほどを見せてもらいましょうか」
小町は赤井を試すことにした。
「まずはその鬱陶しい頭を坊主にしてきなさい!」
ビシリと赤井の頭に指を突きつけ、小町は告げる。
「なっ!?」
小町の言葉に赤井は気色ばむ。しかし、グッと堪えて頷いた。
「……分かった。ではまた明日」
そう言って赤井は背中を向ける。
小町と時子はその後ろ姿を見送るのだった。
「これでいいだろう」
次の日の放課後、再び校門前に現れた赤井の頭は見事な坊主頭だった。
赤毛の坊主頭、そして強面――
「ちょっと『左手はそえるだけ……』って言ってみて下さい」
「何を言ってるんだ? お前は」
わけの分からないことを言う小町に赤井は半眼で返す。
「こほん……いいでしょう。あなたの覚悟は分かりました」
正直小町もこんなにあっさりと赤井が坊主にしてくるとは思わなかった。本気で時子に惚れているようだ。
「次はあなたがギャル子さんを幸せに出来る男かどうか見せてもらいます」
小町はキラリと眼鏡を光らせる。
「アウトローの社会不適合者では困りますからね。あなたにはバイトをしてもらいましょう」
「バイトなら経験があるぞ。バイクを買うためにやったからな」
「ふっ、あんな頭で出来るバイトなんて肉体労働系でしょう。しかし、あなたには接客業をやってもらいます」
「なに!?」
「あなたがプライドを捨ててお客様に媚びへつらえるか――見せてもらいましょうか」
小町は不敵に微笑むのだった。
放課後、いつものように文芸部の活動をしているところに魚津が飛び込んできた。
「……番長はやめて」
編集者モードの眼鏡をかけた時子は半眼で魚津を迎える。この男、どうしても時子を番長に祭り上げたいらしい。
「そんな事を言っている場合ではありません! ギャル子番長! 烈怒馬論の総長・赤井が校門前に来てるんですよ!」
「え!? もしかしてお礼参りに……」
その言葉に小町が不安げな声を上げる。赤井は先日時子にぶちのめされたのだ。その事を恨みに思っているのかもしれない。
「いいわ。ちょっと行ってくる」
時子は顔色一つ変えずに立ち上がる。眼鏡を胸ポケットに仕舞った。
「おお! それでこそギャル子番長です」
魚津は喜びを露わにする。魚津にとってはこれでまた一つ、時子の番長としての既成事実を作ることになるのだ。
「ちょっ、ギャル子さん。大丈夫ですか?」
小町は時子の背中に声をかけた。
「ま、パンツを見せればイチコロでしょ」
「……それはそうかもしれませんが。って言うかギャル子さん、もう少し恥じらいを持ちましょうよ」
「でも、実力はあっちの方が上だしね」
そう言って時子は部室を出て行った。
「う~、心配ですね。私もちょっと様子を見に行ってきます」
小町は友理や渚に声をかけ、時子の後に続いた。魚津も一緒についてくる。
時子が玄関を出ると、赤井は腕を組んで校門の真ん中に立っていた。強面に獅子の鬣のような赤く染めた蓬髪の赤井に、帰宅する生徒たちは怯えながら校門の隅を通っていく。
時子の姿を見つけると、赤井は視線を逸らさずに時子が近付いてくるのを待つ。
「もしかして私に用なのかしら?」
赤井の前に来た時子は臆することなくその顔を見上げた。
「ああ、今日はお前に用があってきた」
「この間の仕返しかしら?」
「俺をそんな小さな男だと思うなよ。烈怒馬論は解散した。女とジジイにやられたとあっては面目が立たないからな。その事はもういい」
「じゃあ、何の用なの?」
「……ギャル子さん」
赤井は真剣な目で時子を見つめる。
「あなたに惚れました! 俺と付き合って下さい!」
一気呵成に告げると赤井は頭を下げて手を差し出した。
「なんですとーーー!?」
校門の陰に隠れて様子をうかがっていた小町は思わず声を上げる。予想を裏切る展開である。
「……」
時子が言葉に詰まっているところに小町が飛び出す。
「ちょっと待ったぁー-ー!」
小町は時子を庇うかのように前に出た。
「ギャル子さんと付き合いたいなら、まずは私に話を通してもらいましょうか」
「何だお前は? 関係ない奴は引っ込んでいろ」
「私はギャル子さんの……マネージャーみたいなものです。あなたがギャル子さんに相応しい男かどうか判断させてもらいます」
「ま、そう言う事だから」
困惑の表情を浮かべる赤井に、時子はさらりと告げる。
「まずは自己紹介でもしてもらいましょうか」
「……来堂学園二年、赤井健一郎だ」
偉そうに胸を張りながら見上げる小町に憮然としながら赤井が名乗る。
「来堂っていいところの学校じゃないですか。なんで暴走族なんてやってたんです?」
「元々は一人で走ってたんだがな……いつの間にか仲間が増えたんだ」
ふむ――と小町は胸中で頷く。族の頭をやっていただけあってリーダーシップはあるだろうし、人を惹きつける魅力もあるのだろう。確か元暴走族がビジネスマンとして成り上がっていくマンガがあったような……。
族からは足を洗ったことだし、将来は有望かもしれないと小町は判断を下す。
「いいでしょう。ではギャル子さんと付き合いたいという覚悟のほどを見せてもらいましょうか」
小町は赤井を試すことにした。
「まずはその鬱陶しい頭を坊主にしてきなさい!」
ビシリと赤井の頭に指を突きつけ、小町は告げる。
「なっ!?」
小町の言葉に赤井は気色ばむ。しかし、グッと堪えて頷いた。
「……分かった。ではまた明日」
そう言って赤井は背中を向ける。
小町と時子はその後ろ姿を見送るのだった。
「これでいいだろう」
次の日の放課後、再び校門前に現れた赤井の頭は見事な坊主頭だった。
赤毛の坊主頭、そして強面――
「ちょっと『左手はそえるだけ……』って言ってみて下さい」
「何を言ってるんだ? お前は」
わけの分からないことを言う小町に赤井は半眼で返す。
「こほん……いいでしょう。あなたの覚悟は分かりました」
正直小町もこんなにあっさりと赤井が坊主にしてくるとは思わなかった。本気で時子に惚れているようだ。
「次はあなたがギャル子さんを幸せに出来る男かどうか見せてもらいます」
小町はキラリと眼鏡を光らせる。
「アウトローの社会不適合者では困りますからね。あなたにはバイトをしてもらいましょう」
「バイトなら経験があるぞ。バイクを買うためにやったからな」
「ふっ、あんな頭で出来るバイトなんて肉体労働系でしょう。しかし、あなたには接客業をやってもらいます」
「なに!?」
「あなたがプライドを捨ててお客様に媚びへつらえるか――見せてもらいましょうか」
小町は不敵に微笑むのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彗星と遭う
皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】
中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。
その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。
その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。
突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。
もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。
二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。
部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。
怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。
天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。
各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。
衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。
圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。
彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。
この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。
☆
第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》
第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》
第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》
登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる