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ギャル子と番長①
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その男が部屋に入ってくると、喧噪に包まれていた室内が一瞬で静まりかえった。
「……」
男は部屋の中を一睨し、無言のまま一段高い場所にしつらえられた己の席へと腰を下ろす。そこが男の玉座だった。
部屋の中に居るのは、いずれも髪を染めたり奇抜な髪型だったりするガラの悪そうな男達である。彼らは一斉に席を立ち、現れた男に頭を下げる。
「「強羅さん、お疲れ様ッス!」」
強羅と呼ばれた男は鷹揚に頷く。大きい――座っていてさえその偉丈夫さが見て取れた。そしてその身体を包む筋肉が制服を押し上げている。
短く刈り込んだ髪は金色に染められ、眉間にしわを刻んだ顔はかなりの強面だった。額の十字傷がさらにその顔を恐ろしく見せている。
「強羅さん、少しお耳に入れたいことが……」
強羅の前に一人の男が進み出た。男の名は魚津――この集団の中で参謀的な立ち位置にいる男だ。一見優等生のように見えるが、眼鏡の奥の切れ長の目が酷薄な光をたたえている。
「烈怒馬論が壊滅したそうです」
魚津の言葉に男達の間にどよめきが広がる。しかし、強羅は眉一つ動かさなかった。
「それを成したのは我が校の生徒――しかも女です」
「ほう」
強羅は初めて興味ありげに声を上げた。
「この学校にそんな女傑がいたとはな」
「その女は〝四天王〟と呼ばれる配下を従え、最近ずいぶんと名を上げているようです」
「で、その女と四天王とやらの調べはついているんだろうな?」
「もちろん。まずは〝破裂の指先〟結城友理――四天王の中では最弱と言われていますが、ネットの情報を自在に操りターゲットにした相手を社会的に抹殺します」
「次に〝魔術師の黒〟中西渚――黒魔術に精通し、その眼帯の下の瞳を見た者は三日後に命を落とし、右腕には暗黒邪龍が封じられているとのことです」
「そして〝特攻の虎〟橘早知――四天王一の武闘派にして、夜な夜な繁華街で不良狩りをしているとか」
「最後に〝影の智将〟藤見小町――決して表だっては動きませんが、実は彼女こそが四天王のみならずリーダーすら操っているとの噂があります」
「ふむ、なかなか手強そうな連中だな。そんな奴らの頭なら余程の人物なのだろう」
強羅は不敵な笑みを浮かべる。
「はい。リーダーは〝金色夜叉のギャル子〟――その名をギャリソン時子という一年生です」
「ギャリソン?」
その名前に強羅の眉がピクリと動いた。
「日英ハーフだそうです。前々から色々噂のあった女ですが、烈怒馬論の総長を一対一で倒し、部下も全員病院送りにしたとか」
「そ、そうか……」
強羅の言葉がどこか歯切れが悪くなり始める。
「どうします? これ以上奴らが調子に乗る前に早めに叩いた方がいいかもしれません。そして我が校の番長が強羅さんであることを思い知らせるべきかと」
「そ、そうだな……よし、ならばそのギャル子とやらを我が軍門に下してやろう!」
「さすがです、強羅さん」
「強羅さんカッケー!」
「強羅さんがサイキョーだぜ!」
魚津に追従し、周りの男達も口々に強羅を称える。
しかし、強羅のその顔はどこか強ばっているように見えるのだった。
「知ってる? 最近あなたたちの変な噂が流れているんだけど」
昼休み、いつものメンバーでダベっていたところに和花が言った。
「変なって……どんな?」
「えーとね。何でも〝ギャリソン四天王〟だって」
小町の問いに和花は答える。
「なにそれ?」
「ギャル子さんがリーダーで、あなたたちが四天王らしいわよ」
和花は噂を詳しく説明した。内容的には魚津が言っていたのとほぼ同じである。
「ちょっ、なんでそんな噂が……」
「う~ん。こないだ烈怒馬論とか言う連中をやっつけちゃったのが影響してるのかしらね」
「私らは別になにもしてないんだけど……」
戸惑う小町だったが、勝手に四天王にされた他の三人はというと――
「「か、格好いい」」
早知、渚、友理は瞳をキラキラさせながら声をそろえるのだった。
「いいねいいね。まあ、ギャル子の下ってのは気に入らねーが」
「クックックッ……ついに我が力が万人に知れ渡ることになったか」
「すごい、です。なんか正義の、味方、みたい」
「いや~、どっちかって言うと悪役っぽいですけどね」
そう言って小町はため息をつく。
「なんかごめんね。私のせいでみんなにまで変な噂が流れちゃって」
時子は無表情ながら肩を落とした。
「いやいや、ギャル子さんのせいじゃないですよ。それに人の噂も七十五日――すぐにみんな忘れちゃいますって」
そう楽観的に考えていた小町だったが、彼女は番長たちがすでに動き始めているのを知らなかった。そして――
「……」
男は部屋の中を一睨し、無言のまま一段高い場所にしつらえられた己の席へと腰を下ろす。そこが男の玉座だった。
部屋の中に居るのは、いずれも髪を染めたり奇抜な髪型だったりするガラの悪そうな男達である。彼らは一斉に席を立ち、現れた男に頭を下げる。
「「強羅さん、お疲れ様ッス!」」
強羅と呼ばれた男は鷹揚に頷く。大きい――座っていてさえその偉丈夫さが見て取れた。そしてその身体を包む筋肉が制服を押し上げている。
短く刈り込んだ髪は金色に染められ、眉間にしわを刻んだ顔はかなりの強面だった。額の十字傷がさらにその顔を恐ろしく見せている。
「強羅さん、少しお耳に入れたいことが……」
強羅の前に一人の男が進み出た。男の名は魚津――この集団の中で参謀的な立ち位置にいる男だ。一見優等生のように見えるが、眼鏡の奥の切れ長の目が酷薄な光をたたえている。
「烈怒馬論が壊滅したそうです」
魚津の言葉に男達の間にどよめきが広がる。しかし、強羅は眉一つ動かさなかった。
「それを成したのは我が校の生徒――しかも女です」
「ほう」
強羅は初めて興味ありげに声を上げた。
「この学校にそんな女傑がいたとはな」
「その女は〝四天王〟と呼ばれる配下を従え、最近ずいぶんと名を上げているようです」
「で、その女と四天王とやらの調べはついているんだろうな?」
「もちろん。まずは〝破裂の指先〟結城友理――四天王の中では最弱と言われていますが、ネットの情報を自在に操りターゲットにした相手を社会的に抹殺します」
「次に〝魔術師の黒〟中西渚――黒魔術に精通し、その眼帯の下の瞳を見た者は三日後に命を落とし、右腕には暗黒邪龍が封じられているとのことです」
「そして〝特攻の虎〟橘早知――四天王一の武闘派にして、夜な夜な繁華街で不良狩りをしているとか」
「最後に〝影の智将〟藤見小町――決して表だっては動きませんが、実は彼女こそが四天王のみならずリーダーすら操っているとの噂があります」
「ふむ、なかなか手強そうな連中だな。そんな奴らの頭なら余程の人物なのだろう」
強羅は不敵な笑みを浮かべる。
「はい。リーダーは〝金色夜叉のギャル子〟――その名をギャリソン時子という一年生です」
「ギャリソン?」
その名前に強羅の眉がピクリと動いた。
「日英ハーフだそうです。前々から色々噂のあった女ですが、烈怒馬論の総長を一対一で倒し、部下も全員病院送りにしたとか」
「そ、そうか……」
強羅の言葉がどこか歯切れが悪くなり始める。
「どうします? これ以上奴らが調子に乗る前に早めに叩いた方がいいかもしれません。そして我が校の番長が強羅さんであることを思い知らせるべきかと」
「そ、そうだな……よし、ならばそのギャル子とやらを我が軍門に下してやろう!」
「さすがです、強羅さん」
「強羅さんカッケー!」
「強羅さんがサイキョーだぜ!」
魚津に追従し、周りの男達も口々に強羅を称える。
しかし、強羅のその顔はどこか強ばっているように見えるのだった。
「知ってる? 最近あなたたちの変な噂が流れているんだけど」
昼休み、いつものメンバーでダベっていたところに和花が言った。
「変なって……どんな?」
「えーとね。何でも〝ギャリソン四天王〟だって」
小町の問いに和花は答える。
「なにそれ?」
「ギャル子さんがリーダーで、あなたたちが四天王らしいわよ」
和花は噂を詳しく説明した。内容的には魚津が言っていたのとほぼ同じである。
「ちょっ、なんでそんな噂が……」
「う~ん。こないだ烈怒馬論とか言う連中をやっつけちゃったのが影響してるのかしらね」
「私らは別になにもしてないんだけど……」
戸惑う小町だったが、勝手に四天王にされた他の三人はというと――
「「か、格好いい」」
早知、渚、友理は瞳をキラキラさせながら声をそろえるのだった。
「いいねいいね。まあ、ギャル子の下ってのは気に入らねーが」
「クックックッ……ついに我が力が万人に知れ渡ることになったか」
「すごい、です。なんか正義の、味方、みたい」
「いや~、どっちかって言うと悪役っぽいですけどね」
そう言って小町はため息をつく。
「なんかごめんね。私のせいでみんなにまで変な噂が流れちゃって」
時子は無表情ながら肩を落とした。
「いやいや、ギャル子さんのせいじゃないですよ。それに人の噂も七十五日――すぐにみんな忘れちゃいますって」
そう楽観的に考えていた小町だったが、彼女は番長たちがすでに動き始めているのを知らなかった。そして――
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