ギャル子さんと地味子さん

junhon

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ギャル子と暴走族②

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「どこだ? 見えねーぞ」
 未だに空を見上げる男達であったが、一人が小町たちが逃げ出した事に気が付いた。
「おいっ、逃げられたぞ!」
「いや、でもUFOが……」
「馬鹿野郎! 騙されたんだよ!」
 さすがに虚言に釣られた事に男達も理解が及ぶ。
「くそっ、待ちやがれ!」
「あなたたちの相手は私よ」
 後を追おうとする男達の行く手を時子が阻む。だが、およそ半数が小町たちの後を追った。
「ひぃいいい~~~」
 小町たちは死に物狂いで走る。しかし、男の脚には敵わなかった。運動が苦手な小町、渚、友理の三人が追いつかれそうになる。
「助けてぇ~~~!! 誰か~~~!!」
 すぐ後ろに男達が迫る。時子の合気道の師匠、玄が居るはずの広場まではまだまだ遠い。
「玄ちゃ~~~ん!!」
 小町は届かないと思いながらもその名を呼んだ。
「きゃっ」
 友理がつまずいて転ぶ。そこへ男達が追いついた。
「友理ちゃん!?」
「捕まえたぞ、オラ!」
 男が友理を引き起こし、その身体に腕を回す。
「止まれ! こいつがどうなってもいいのか?」
 その言葉に小町たちは足を止める。
 男に捕まった友理の顔は真っ青だ。以前の事件のせいで友理は男性に対して激しい恐怖心を抱いている。
「お、お姉様……逃げて、逃げて、下さい!」
 それでも震えながら友理は叫んだ。
「くっ……」
 そう言われても友理を見捨てることなど出来ない。小町たちが逡巡しているその時――
「がっ!」
 友理を捕まえていた男が頭を仰け反らした。
 拘束していた腕の力が緩む。友理は腕を振りほどいて小町の元へと駆け寄る。
「お姉様~~~」
 友理は小町の胸に飛び込んだ。
「友理ちゃん、大丈夫でしたか?」
「はい」
 友理は目に涙をたたえながらも頷く。
「つ……な、なにが……?」
 友理を捕まえていた男は額を押さえながら呻いた。何かが頭に当たったのは確かなのだが、何が起きたのか理解出来ない。
「ちっ、とにかく捕まえるぞ!」
 別の男の声に再び男達が小町たちへと迫る。しかし、近付いた端からみな頭を押さえて足を止める。
「ど、どうなってるの?」
 疑問を浮かべる小町の足下に、何かが転がってきた。
「……五百円玉?」
「まさか……羅漢銭!?」
 渚が驚きに声を上げる。
「おうおう、女の子を襲おうとは感心せんのう」
 その言葉に振り向けば、いつの間にか背後に玄が立っていた。
「ふふふ、女の子のピンチに颯爽と現れる儂。格好いいじゃろ? 惚れてもいいんじゃよ」
「玄ちゃん!!」
 小町は喜びもあらわにその名を呼ぶ。
「何だこのジジイは?」
「引っ込んでろ」
「怪我するぞ。オラ!」
 男達の恫喝にもひるまず、玄は軽やかな足取りで前へと進む。
「やれやれ、目上の者に対する礼儀がなってないのう。ま、つべこべ言わずにかかってこんかい」
「死ねや! ジジイ!」
 男達は玄へと襲いかかる。だが、玄はその攻撃をひょいひょいとかわし、腕を振ったと思った次の瞬間、男達は地面に転がされていた。遠目で見ている小町にさえ何がどうなっているのか分からない。
「テメエ……ぶっ殺してやる」
 仲間が次々とやられる様を見て、残った男がポケットからナイフを取り出した。
「阿呆がっ」
 玄は離れた位置から腕を振る。何かが手の中から放たれ、次の瞬間、男はナイフを取り落として手を押さえる。
「やはり羅漢銭!」
「おう、よく知っとるの。合気道の技じゃないんじゃが、ま、手品みたいなもんじゃよ」
 渚の言う通り、玄は五百円玉をつぶてとして放ったのだ。中国拳法で暗器として使用される技である。
「ひいいっ」
 男は悲鳴を上げて走り去った。残った全員は地面に叩きつけられて呻き声を上げている。
「これで片付いたの。どうじゃ、お礼に電話番号とメールアドレスを教えてくれんかの?」
「ま、待って下さい。ギャル子さんが……ギャル子さんが危ないんです!」
「ギャル子?」
 小町の言葉に玄は疑問符を浮かべた。
「時子さんですよ! あっちの方で大勢に囲まれているはずです!」
「それを早く言わんか!」
 玄はすぐさま駆けだした。小町たちも後に続くがとても追いつけない。老人の脚とは思えない速さである。
「時子ちゃん!」
 玄がその場に駆けつけた時、時子はなんとか無事だった。五人もの男達を相手に善戦している。だが合気道の技は投げと極めだ。極めである関節技は多対一では使えないし、投げ飛ばしてもとどめを刺す暇が与えられず、しばらくすれば復活してくる。時子の顔も疲労の色が濃い。
「ええい! 儂の弟子に何をしよるか!」
 しかし、そこへ玄が乱入したことにより形勢は逆転した。投げ飛ばされた後に肘を打ち込まれ、全員呻き声を上げて地面に転がる。
「ふ、やるじゃないか。女――それにジジイ」
 時子たちを襲う輪の中には加わらず、傍観していた男が立ち上がった。
「へ……ヘツド
 地面に転がされた男が呟く。
「お前さんがこいつらの大将かの?」
「ああ、烈怒馬論レツドバロン総長――赤井健一郎あかいけんいちろうだ」
 玄の問いに男が答える。身長は一九○センチ近く、筋骨隆々とした男であった。赤く染めた蓬髪が獅子の鬣のようである。
「ここでタバコを吸ったのはこちらに非があったが、ここまでされちゃあ大人しく引き下がれないな」
「ふん、軽く捻ってやるわい」
「いえ師匠、この男の相手は私がします」
 前に出ようとする玄を時子の腕が押しとどめる。
「ふむ、大丈夫かの? こいつそこそこやるようじゃぞ」
「任せて下さい」
 そう言って時子は赤井と対峙した。
「女、名前を聞いておこうか」
「ギャリソン時子ことギャル子よ」
 時子は赤井の迫力にも臆することなく答える。
「私が勝ったら二度と私の友達に手を出さないと誓いなさい」
「いいだろう。だが俺が勝ったらどうするつもりだ?」
「そうね。私を自由にしていいわよ。何でも言うことを聞いてあげる」
「な、なに言ってるんだ!? お前は!?」
 その言葉に頬を赤くする赤井であった。意外と純情そうである。
「と、とにかく。落とし前はつけさせて貰うぜ。女だからって容赦はしねぇ」
「どこからでもかかってきなさい」
 時子は構えを取った。赤井も拳を持ち上げステップを踏み始める。
(ボクシング?)
 そのフットワークと構えから時子はそう判断した。玄の言う通り何らかの心得があるようだ。
「ふっ」
 赤井がジャブを放つ。その腕を取ろうとした時子だが引きが速くて果たせない。
「オラオラオラオラ!」
 赤井はマシンガンのようにジャブを連打した。速い――かわすのだけで精一杯である。
「ギャル子さん!」
 そこへ遅ればせながら小町たちも駆けつけた。素人目に見ても時子が押されているように見える。
「ちょっと、玄ちゃん! なんでギャル子さんを助けてあげないんですか!?」
「いや、時子ちゃんが一人でやるっていうからのう」
「だったら何かアドバイスを!」
「う~ん、そうじゃのう……時子ちゃん、武器を使うんじゃ!」
「武器?」
 そのアドバイスに首を捻る時子である。時子は武器など持ってはいない。
「女の武器を!」
 玄はそう付け加えた。
「!」
 時子は赤井との距離を取った。武器という言葉に警戒してか、赤井も距離を詰めてこない。
 そして時子はおもむろにジャージのズボンを脱いだ。
「ちょっ、おまっ、何を!?」
 赤井は思いっきり狼狽する。
 上着の裾に隠れてかろうじて下着は見えない状態だ。それでも男のさがで見えそうで見えない場所に目が吸い寄せられる。
 時子は棒立ちになった赤井の前に進むと――
「ギャル子キッーーーク!!」
 そう言いながら回し蹴りを放つ。
 当然、大きく広げられた脚の間から黒い下着が覗くわけで……。
 目を奪われた赤井はもろにキックを食らってKOされたのだった。
 
 
 
「俺の負けだ……約束は守ろう」
 地面に倒れ伏し、鼻血を流しながら赤井は言った。
「男って悲しい生き物ですね……」
 その様を見ながら小町はしみじみと呟くのだった。
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