ギャル子さんと地味子さん

junhon

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ギャル子と暴走族①

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「全く、なんで私がゴミ拾いなんか……」
 そうこぼすのはクラスの女王様、高杉涼子である。
「悪かったわね。私のせいで」
 その言葉に別段悪びれもせず和花は応じた。
「ま、まあ、たまには地域に貢献するのもいいものですよ」
 間に入って涼子をなだめる小町である。
「ふんっ」
 涼子はそっぽを向いて歩み去った。自分の取り巻きの女子たちと合流する。
 日曜の朝、小町たちのクラスは学校近くの公園のゴミ拾いにかり出されていた。全員学校指定のジャージ姿だ。
 先日の文化祭において羽目を外しすぎた結果である。『ロミオとジュリエット』のラストを大幅に改変したゾンビパニックによって生徒会に苦情が寄せられたのだ。胸やお尻を触られたという訴えに加えて軽傷者数名――生徒会からのお叱りを受け、クラス全員の連帯責任と言うことで奉仕活動を言い渡された。
「皆さん、これも日頃お世話になっている地域への社会貢献です。張り切っていきましょう」
「「おーーーーー」」
 クラス委員長の女の子、長沢の言葉に一同はあまりやる気のなさそうな声を上げ三々五々散っていく。
 小町たちのグループも公園の奥へと足を進めた。
「みんなごめんなさいね」
 ショートヘアの真面目そうな少女――野田和花のだのどかは今度は本当にすまなそうに言う。
「いやいや、わかちゃんのせいじゃないって」
 和花とは十年近い付き合いの藤見小町ふじみこまちはそう言って肩を叩いた。長い黒髪を首の後ろで束ねた地味な少女であるが、赤いフレームの眼鏡がワンポイントだ。
「全くだ。あの素晴らしいラストにケチを付けるとは……」
 どんよりとした雰囲気をまとわせたワカメ頭の少女が追従する。眼帯に包帯を巻いた中二病全開の中西渚なかにしなぎさである。
「お前はちょっとは反省しろ。ふぁあ……」
 そう言ってあくびをかみ殺すのは、ウェーブのかかった茶髪の一見ヤンキー風の少女――橘早知たちばなさちだった。深夜のバイト明けで眠そうである。
「私は、休みの日も、お姉様と一緒で、嬉しいです」
 途切れ途切れに言って頬を赤らめるのはおかっぱ頭の小柄な少女――結城友理ゆうきゆうりである。とある事件がきっかけで小町をお姉様と慕っていた。
「ま、さっさと済ませてその後はみんなでどっかに遊びに行こうか」
 そう提案したのは自前の金髪をショートカットにした派手な少女である。瞳もほんのり青みがかった日英ハーフ――ギャリソン時子ときこであった。人は彼女を〝ギャル子さん〟と呼ぶ。
 小町たちはゆっくり歩きながら周囲を見回してゴミを探す。一見綺麗な公園であったが、茂みの裏を覗いてみれば空き缶が転がっていたりした。
 そしてよーく注意深く見れば、意外と落ちているのがタバコの吸い殻である。この公園は禁煙のはずなのだが……。
 と、公園の中心辺りの広場にさしかかった時だ。
「おーい、時子ちゃーん」
 そう声を上げ、広場でゲートボールをしていた老人が手を振った。
「……師匠?」
 ゲートボールのスティックを肩に乗せて駆け寄ってくるのは、白い髪を引っ詰め髭を蓄えた人物である。背筋はしゃんと伸び、一見痩せているように見えるがしっかりと筋肉がついた細マッチョの老人であった。
「おうおう、朝早くからゴミ拾いとは感心じゃのう」
「おはようございます。小泉師匠」
 時子はきちんと腰を折り、礼儀正しく挨拶した。
「この方は私がお世話になっている合気道の道場のお師匠さんです」
 そう言って時子は皆に老人を紹介する。
「「おはようございます」」
 一同も挨拶を交わす。人見知りの渚と友理はそれぞれ早知と小町の後ろに隠れながらの小声であったが。
「おはよう。儂は小泉玄こいずみげん。気軽に玄ちゃんと呼んでくれ」
 玄は好々爺といった笑みを浮かべた。そして一同を眺め回し――
「みんな可愛い子ばかりじゃのう。どうじゃ、儂の愛人にならんか?」
「師匠、私の友達にちょっかいをかけないで下さい」
 素早く背後に回った時子が玄の腕を捻りあげる。
「痛っ、痛いよ時子ちゃん」
「みんな気を付けて。この人は女の子に見境がないから」
「寂しいんじゃよぉ。婆さんが逝ってしまって寂しいんじゃよぉ」
 玄はポロポロと涙をこぼす。
「奥様はずいぶん昔に亡くなられたはずですよね。それ以前から何人も愛人を抱えていたとみやこさんが言っていましたが……」
 ちなみに京は玄の娘の名だ。
「だって儂はまだまだ現役じゃよ。若いとイチャイチャしたいんじゃあ」
「もし私の友達に手を出したら……玉を潰します」
 時子の目はマジだった。
「ひぃいっ。怖いっ、怖いよ時子ちゃん!」
 そんな風に師弟がじゃれ合っていると、玄のゲートボール仲間も何事かと周囲に集まってくる。
「いいのぉ、若い娘はいいのぉ」
「飴ちゃん食べるかい?」
「オッパイ大きいのぉ。儂の孫の嫁にならんか?」
「よしこさん、飯はまだかいのぉ?」
 なんとなくゾンビの群れに襲われている気分になる小町たちだった。
「ほらほら皆の衆。娘さんたちが困っておるじゃろ」
 時子に腕を掴まれていたはずの玄が間に割って入る。時子はわずかばかりの驚きを滲ませながら自分の両手を見た。完璧に腕の関節を極めていたはずなのにあっさり外されたのが信じられないのだ。
「で、では私達はこれで……」
 時子は軽く会釈してその場を離れる。小町たちも後に続いた。
 公園を横断し、反対側の出口近くに来た小町たちはギョッとなって足を止める。
 自販機の前に白い長ラン――いわゆる〝特攻服〟を着た若者たちが十数人たむろしているのだ。
 うんこ座りしながらタバコを吹かし、足下にはコーヒーの缶が並んでいる。おそらく一晩走り回った後の休憩中といったところか。
「げげっ」
 小町は慌ててその集団から目を逸らし、引き返そうと回れ右をしたのだが――
「ちょっと、あなたたち! この公園は禁煙よ!」
 和花が声を上げながらツカツカと歩み寄っていった。
(わかちゃーーーん!!)
 小町は心の中で悲鳴を上げる。
「あん? なんだテメエ?」
「どこでモクふかそうが俺らの勝手だろ」
「何様だよ、ああ?」
 案の定、和花の注意などどこ吹く風だ。
「ここに禁煙って書いてあるでしょうが!」
 和花は注意書きが書かれた看板を叩いた。
「オゥ、ワタシニホンゴワカリマセーン」
 一人がエセ外国人の真似をし、周囲が笑い声を上げる。
「くぅ~~~」
 和花が地団駄踏みそうな様子を見せたその時だった。
 ドボドボドボ――
 早知がその男の頭の上でコーヒーの缶を傾ける。
「だったら、その足りないおつむをコーヒーですっきりさせるんだな」
「さっちゃーーーーーん!!」
 小町が今度は声に出して悲鳴を上げた。
「なに喧嘩売ってるんですか!?」
「あ? 口で言っても分からねーなら身体に教えてやるまでだ」
 早知は臆する事なく答える。
「このアマ!」
「舐めやがって!」
「俺らを烈怒馬論レツドバロンと知ってんのか? ああ?」
 当然ながら男達は色めき立つ。小町たちの周囲をぐるりと取り囲んだ。
「ひぇえええ!」
「お、お姉様……」
 渚と友理が身を縮こませる。
「……ギャル子さん、なんとか出来ますか?」
 一縷の望みをかけて小町は問いかけた。
「う~ん、さすがに厳しいかな」
 一同を守るように前に出る時子だったが、さすがにこの数が相手ではみんなを守り切れそうにはないようだ。
「ここは私がなんとかするから、みんなは師匠の所まで逃げて。師匠ならなんとかしてくれるわ」
「助太刀するぜ、ギャル子」
 そう言って早知がその隣に並ぶ。
「早知、喧嘩の経験は?」
「全くねぇ」
 時子の問いに自信満々に答える早知だった。
「足手まといだから、さっさと逃げて」
「つれねーな、おい!」
「いいから逃げますよっ」
 小町は早知の手を引く。しかし、周りを取り囲まれて逃げる隙をうかがえない。
「仕方ない。ここは我の必殺奥義を放つ時……」
 そう言って渚が一歩前に出る。
「あ! UFO!」
 渚は空を指差し上を向いた。
「なに!?」
「どこだ? どこだ?」
 釣られて空を仰ぐ男達だった。馬鹿の集まりである。
「今だ!!」
 渚のかけ声と共に小町たちは包囲をすり抜けて駆け出すのだった。
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