ギャル子さんと地味子さん

junhon

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ギャル子と『ロミオとジュリエット』②

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 そして放課後を使って劇の準備が進められる。
 早知、渚、友理――それまでぼっちだった彼女たちもクラスの皆との共同作業の中でだんだんと打ち解けていく。
 そして小町と時子も劇の練習に精を出すのだった。
「こらっ小町。目を細めない!」
 監督・和花の叱責が飛ぶ。意外と熱血監督である。
「いや、でもメガネないとよく見えなくて……」
「ジュリエットはメガネなんかしていないっ。本番ではメガネ無しでいくんだから今から慣れとくのよ!」
「うう……」
 そんなこんなでついに文化祭当日がやってきた。
「お姉様、お綺麗、です」
 ジュリエットの衣装を身に着けた小町をうっとりと友理が見つめる。
「えー、変じゃないですかね」
「綺麗だよ、小町」
 そう言うのはロミオに扮した時子である。こちらはまさに男装の麗人。バッチリ決まっていた。すでに役に入りきっているのか男言葉である。
「ふんっ、あんたらなんかには絶対に負けないんだから」
 こちらもドレスを身にまとった涼子が宣戦布告する。ジュリエットよりは『シンデレラ』の意地悪なお姉さんの方が似合いそうだ。
「さあみんな。気合い入れていくわよ」
 監督・和花が役者達の顔を見回した。いよいよ舞台の幕が上がるのだった。



『ザッピング演劇』とは――
 ロミオとジュリエットに扮した池川・高杉ペアとギャリソン・藤見ペアが交互に舞台を演じるシステムである。
 そして序盤の名場面――誰でも知っている「どうしてあなたはロミオなの?」とクライマックスの二つの場面をどちらのペアが演じるか観客に決めてもらうのだ。
 投票するためのサイトはポスターや文化祭のパンフレットに印刷されたQRコードからアクセス出来る。
「結果が、出ました。次の場面は、小町お姉様たち、です」
 ノートパソコンの画面を見ながら嬉しそうに友理が告げる。
 最初の名場面はギャリソン・藤見ペアが演じることとなった。宝塚スタイルがウケたようだ。
「ええーーー」
「ほら、いくよ小町」
 小町と時子は舞台に立った。
「ああ、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの?」
 メガネを外しているのが逆にプラスに働いた。観客席の顔など全然見えないので小町は堂々とジュリエットを演じる。
「黙って、もっと聞いていようか、それとも声を掛けたものか?」
 時子の方の演技は完璧である。情感たっぷりに台詞を放つ。ただしいつもの無表情のままであったが。それでも男装の麗人姿に女の子達の黄色い声が上がる。
 この場面を取ったことでほぼ勝負はついたと言って良かった。最後のクライマックスもギャリソン・藤見ペアが大差で勝ち取る。
「きぃい、この私が負けるなんて」
 涼子は舞台袖から悔しげに二人の演技を見つめるのだった。
 小町演じるジュリエットは特別な毒で仮死状態となり、それを知った時子演じるロミオはジュリエットが本当に死んだものと思い込み、嘆きのあまり自ら毒をあおって死んでしまう。
 そして仮死状態から目覚めたジュリエットはロミオを追って短剣で自らの胸を貫くのだった。
 こうして舞台は幕を閉じる――はずだったのだが。
「二人を哀れに思った神様は、なんと彼らをゾンビとして蘇らせたのでした」
 ナレーションが本来の筋にないことを言い出した。ちなみにナレーターは渚である。
 死んだはずのロミオとジュリエットが起き上がった。二人の死を悲しんでいた両家の面々はゾンビとして蘇った彼らを祝福する。
「ところがゾンビは生者を襲うのがその本能。二人に襲われた人々もゾンビと化し、ゾンビがゾンビを生んでいきます」
 舞台の上は呻き声を上げながら徘徊するゾンビで埋まった。
「都市ヴェローナは阿鼻叫喚のパニックシティとなるのでした」
 ここであらかじめ客席に潜んでいたエキストラ達が立ち上がる。その顔はドーランで青く塗られ、血を流していた。彼らが無差別に観客達に襲いかかる。舞台の上の役者達も壇上から飛び降りてそれに加わった。
 暗闇の中襲いかかられ、客席はパニックとなる。男子はどさくさに紛れて女の子の胸を触っちゃったりするもんだからそこら中で悲鳴が上がった。
「うんうん、素晴らしいラストだわ」
「クククッ、見たか我の脚本の冴えを」
 和花と渚は満足げに頷く。二人の趣味が多分に入った展開だった。
「……僕らがやらされなくて良かったね」
 優也が涼子の肩に手を置く。
「そうね……」
 二人は冷めた目でその様子を眺めるのだった。
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