ギャル子さんと地味子さん

junhon

文字の大きさ
上 下
25 / 34

ギャル子と『ロミオとジュリエット』②

しおりを挟む
 そして放課後を使って劇の準備が進められる。
 早知、渚、友理――それまでぼっちだった彼女たちもクラスの皆との共同作業の中でだんだんと打ち解けていく。
 そして小町と時子も劇の練習に精を出すのだった。
「こらっ小町。目を細めない!」
 監督・和花の叱責が飛ぶ。意外と熱血監督である。
「いや、でもメガネないとよく見えなくて……」
「ジュリエットはメガネなんかしていないっ。本番ではメガネ無しでいくんだから今から慣れとくのよ!」
「うう……」
 そんなこんなでついに文化祭当日がやってきた。
「お姉様、お綺麗、です」
 ジュリエットの衣装を身に着けた小町をうっとりと友理が見つめる。
「えー、変じゃないですかね」
「綺麗だよ、小町」
 そう言うのはロミオに扮した時子である。こちらはまさに男装の麗人。バッチリ決まっていた。すでに役に入りきっているのか男言葉である。
「ふんっ、あんたらなんかには絶対に負けないんだから」
 こちらもドレスを身にまとった涼子が宣戦布告する。ジュリエットよりは『シンデレラ』の意地悪なお姉さんの方が似合いそうだ。
「さあみんな。気合い入れていくわよ」
 監督・和花が役者達の顔を見回した。いよいよ舞台の幕が上がるのだった。



『ザッピング演劇』とは――
 ロミオとジュリエットに扮した池川・高杉ペアとギャリソン・藤見ペアが交互に舞台を演じるシステムである。
 そして序盤の名場面――誰でも知っている「どうしてあなたはロミオなの?」とクライマックスの二つの場面をどちらのペアが演じるか観客に決めてもらうのだ。
 投票するためのサイトはポスターや文化祭のパンフレットに印刷されたQRコードからアクセス出来る。
「結果が、出ました。次の場面は、小町お姉様たち、です」
 ノートパソコンの画面を見ながら嬉しそうに友理が告げる。
 最初の名場面はギャリソン・藤見ペアが演じることとなった。宝塚スタイルがウケたようだ。
「ええーーー」
「ほら、いくよ小町」
 小町と時子は舞台に立った。
「ああ、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの?」
 メガネを外しているのが逆にプラスに働いた。観客席の顔など全然見えないので小町は堂々とジュリエットを演じる。
「黙って、もっと聞いていようか、それとも声を掛けたものか?」
 時子の方の演技は完璧である。情感たっぷりに台詞を放つ。ただしいつもの無表情のままであったが。それでも男装の麗人姿に女の子達の黄色い声が上がる。
 この場面を取ったことでほぼ勝負はついたと言って良かった。最後のクライマックスもギャリソン・藤見ペアが大差で勝ち取る。
「きぃい、この私が負けるなんて」
 涼子は舞台袖から悔しげに二人の演技を見つめるのだった。
 小町演じるジュリエットは特別な毒で仮死状態となり、それを知った時子演じるロミオはジュリエットが本当に死んだものと思い込み、嘆きのあまり自ら毒をあおって死んでしまう。
 そして仮死状態から目覚めたジュリエットはロミオを追って短剣で自らの胸を貫くのだった。
 こうして舞台は幕を閉じる――はずだったのだが。
「二人を哀れに思った神様は、なんと彼らをゾンビとして蘇らせたのでした」
 ナレーションが本来の筋にないことを言い出した。ちなみにナレーターは渚である。
 死んだはずのロミオとジュリエットが起き上がった。二人の死を悲しんでいた両家の面々はゾンビとして蘇った彼らを祝福する。
「ところがゾンビは生者を襲うのがその本能。二人に襲われた人々もゾンビと化し、ゾンビがゾンビを生んでいきます」
 舞台の上は呻き声を上げながら徘徊するゾンビで埋まった。
「都市ヴェローナは阿鼻叫喚のパニックシティとなるのでした」
 ここであらかじめ客席に潜んでいたエキストラ達が立ち上がる。その顔はドーランで青く塗られ、血を流していた。彼らが無差別に観客達に襲いかかる。舞台の上の役者達も壇上から飛び降りてそれに加わった。
 暗闇の中襲いかかられ、客席はパニックとなる。男子はどさくさに紛れて女の子の胸を触っちゃったりするもんだからそこら中で悲鳴が上がった。
「うんうん、素晴らしいラストだわ」
「クククッ、見たか我の脚本の冴えを」
 和花と渚は満足げに頷く。二人の趣味が多分に入った展開だった。
「……僕らがやらされなくて良かったね」
 優也が涼子の肩に手を置く。
「そうね……」
 二人は冷めた目でその様子を眺めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

俯く俺たちに告ぐ

青春
【第13回ドリーム小説大賞優秀賞受賞しました。有難う御座います!】 仕事に悩む翔には、唯一頼りにしている八代先輩がいた。 ある朝聞いたのは八代先輩の訃報。しかし、葬式の帰り、自分の部屋には八代先輩(幽霊)が! 幽霊になっても頼もしい先輩とともに、仕事を次々に突っ走り前を向くまでの青春社会人ストーリー。

人形の冒涜(ぼうとく) 

あーす。
青春
ファントレイユとレイファスの、初めての出会い。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

坊主の誓い

S.H.L
青春
新任教師・高橋真由子は、生徒たちと共に挑む野球部設立の道で、かけがえのない絆と覚悟を手に入れていく。試合に勝てば坊主になるという約束を交わした真由子は、生徒たちの成長を見守りながら、自らも変わり始める。試合で勝利を掴んだその先に待つのは、髪を失うことで得る新たな自分。坊主という覚悟が、教師と生徒の絆をさらに深め、彼らの未来への新たな一歩を導く。青春の汗と涙、そして覚悟を描く感動の物語。

処理中です...