ギャル子さんと地味子さん

junhon

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ギャル子と『ロミオとジュリエット』①

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「では、クラスの出し物は演劇――『ロミオとジュリエット』で決まりです」
 クラス委員長の女子・長沢が黒板に書かれた文字に丸をつける。
 今日はホームルームを使って文化祭でのクラスの出し物を決定する話し合いが行われていた。
「ついでに主役二人の配役と監督なども決めちゃいましょう」
 その言葉に一人の女生徒が手を挙げた。
「はいっ、ジュリエットは高杉さんがいいと思います」
 名前のあがった高杉涼子たかすぎりようこはリア充グループの頂点、クラスの女王様的存在だ。推薦した女生徒はその取り巻きの一人である。
 涼子はさも当然といった顔で髪をかき上げた。
「他に推薦、立候補などはありませんか?」
 委員長が皆を見渡すが、手を挙げる者はいない。
「では続いてロミオの役を決めたいと思います」
 ここは当然もう一人のクラスの頂点、イケメン池川優也いけがわゆうやの名があがるところであったが、それより早く小町は手を挙げた。
「藤見さん」
「はいっ、ロミオはギャリソンさんがいいと思います」
 その言葉にクラス中にどよめきが広がる。
 これは演劇の出し物が決まった時に咄嗟に思いついた事だ。時子をもっとクラスのみんなに知ってもらいたいという思いからの発言である。ジュリエットの方に名前をあげなかったのは涼子と敵対したくなかったのだ。女の子のコミュニティは怖いのである。
「あの藤見さん、ロミオは男の役よ?」
 委員長は戸惑いながら小町を見る。
「そこはそれ、宝塚的な感じで」
「私は嫌よ。ロミオは優也がいいわ」
 涼子が立ち上がって声を上げた。
「では候補者はギャリソンさんと池川くん。他にいませんか?」
 と、そこに時子が手を挙げる。
「私もジュリエットが高杉さんじゃ嫌だわ。小町がいい」
 ざわり――と先ほど以上のどよめきがクラスに広がる。
「ぎゃ、ギャル子さん!?」
 小町は思わず立ち上がって声をかけた。
「な!? 私じゃ不満だって言うの?」
「うん」
「くっ」
 涼子は顔を歪める。予想外の展開に小町は頭を抱えるのだった。
「困りましたね。ジュリエットはもう高杉さんに決まったんですが……」
「委員長。だったら池川・高杉ペアとギャリソン・藤見ペアで投票をしたらどうかしら」
 そこへ和花が手を挙げて助け船を出す。
「成る程、いいですね。皆さんどうですか?」
 異論はあがらなかった。急遽投票箱が用意され、無記名投票が行われる。
 その結果は――
 クラスの人数は三十六人。そして票は十八対十八で真っ二つに割れた。
 小町にとっては予想外の結果である。自分の名がジュリエットにあがった時点で負けだと思っていたのだが、面白半分と高飛車な涼子を快く思わない隠れアンチ高杉派の票が伸びたようだ。ちなみに小町は涼子の方に投票した。劇の主役なんて真っ平御免である。
「う~ん、これはどうしたら……」
 困惑する委員長に再び和花の手が差し伸べられる。
「なら両方のペアに演じてもらいましょう」
「どういう事ですか?」
「場面場面で二つのペアを入れ替えて演じてもらうのよ。名付けて『ザッピング演劇』――クライマックスはどちらのペアが見たいか観客に選んでもらいましょう」
「でも、それだと衣装を余分に用意しなければいけません。それに投票のために一旦劇を中断するのも……」
「橘さん、頼めるかしら?」
 そこで和花は早知に話を振る。
「おう、おもしれーな。衣装の件はオレに任せな」
 こう見えて早知は料理に裁縫と家事全般が得意であった。弟たちの服を手作りすることもあるらしい。
「あの、投票の件、でしたら、私がスマホで、投票出来る、システムを、作ります」
 続いて友理が手を挙げる。元パソコン部の友理にとってはお手のものだ。
「いいわね。そしてこの私が監督に立候補するわ」
 和花は映画マニアであった。特にアメリカのB級特撮映画が好みである。
「脚本は……中西さん、やってみない?」
 これは最近小説を書き始めたという渚を見込んでの人選だろう。
「クククッ、良かろう。我の力が必要というならば力を貸そうではないか」
 と、トントン拍子に話は進んでいく。特に反対意見も出ないまま、図らずも小町達のグループがクラスの出し物を牽引する形になった。
「――ちょっと、ギャル子さん。私ジュリエットなんて嫌ですよっ」
 ホームルームが終わった後、小町は時子に詰め寄る。
「うーん、半分は断るための方便だったんだけど……」
 時子も意外な展開に困惑しているようだ。
「ま、決まっちゃたからには仕方がない。頑張ろうよ、小町」
「いやぁあああ、目立ちたくなーーーいっ!!」
 小町は悲痛な叫びを上げるのだった。
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