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ギャル子と体育祭①
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「いい天気ですねぇ」
校庭の隅、雲一つない澄んだ青空を見上げ、小町は憂鬱そうに呟く。晴れやかな秋の空とは対照的な表情だ。
「フッ、闇に生きる身としては空の青さが目に染みるな」
その青空から視線を逸らし、眼前に手をかざしてポーズを付けるのは渚。
「絶好の、スポーツ日和です、ね」
そう口にしながらも浮かない顔をしているのは友理だった。
「なんだなんだ、お前ら。朝っぱらから辛気くさい面しやがって」
そんな三人に声をかけるのは珍しく朝から元気な早知である。
小町たちはそんな早知にどんよりとした視線を向け、
「「はぁあ~~~~~」」
と、仲良く盛大なため息を漏らすのだった。
「なんだよ? せっかくの祭りじゃねーか。もっとテンション上げていこうぜ」
早知の言うとおり、今日は小町たちが通う明華高校の体育祭が行われる日だ。みな運動服姿で頭にハチマキを巻いている。
「さっちゃんには分からないでしょうね。運動が苦手な私達の気持ちなんて……」
三人を代表して小町が答えた。
運動が苦手な者にとって体育祭とはもっとも忌諱すべき行事だった。退屈な授業を聞いている方が百倍マシである。
まあ、高校生にもなると個人競技は代表者が選出され、小町たちが参加するのは全体競技だけなのでまだいい。小学校の運動会などは全員に徒競走への参加が義務づけられていたりするので最悪である。
「渚さん、今からでも大雨を降らせる魔術とかないんですか?」
「うむ、実は一週間かけて龍神召喚の儀式を行っていたのだがな。どうやら我が右腕に宿る暗黒邪龍との相性が悪いようだ」
小町の言葉にマジレスする渚。
「こうなったら、学校に爆弾を、仕掛けたという、メールを……」
スマホを取り出し、目をグルグルさせながら指を伸ばす友理。
「やめい!」
物騒なことを呟く友理の手から、早知は素早くスマホを奪い取る。
「ああっ。返して、下さい! 返して、下さい!」
「そんなに嫌なもんかねぇ。身体を動かすのって気分がいいじゃねーか」
高く掲げたスマホにピョンピョンと飛びつこうとする友理をあしらいながら、早知は言った。
「苦手なのはともかく、小町はもう少し運動した方がいいよ。休日は家にこもってばかりじゃない」
そこへ時子も口を挟む。ちなみに和花は生徒会役員として運営に関わっているためこの場にはいない。
「うっ……確かに最近少し体重が気になっていますが……」
「そうじゃなくて、健康のために――」
そう時子が言いかけたところで、
「ギャリソンさん!」
その名が大声で呼ばれる。
「?」
そちらへと目を向ければ、一人の女子がビシリと時子に指を突きつけていた。
ショートカットと日に焼けた健康そうな肌。引き締まった手足はいかにもスポーツが得意そうだ。
「勝負よ!」
その少女は時子に向かってそう言い放つ。
「…………」
時子は少女の姿をじっと見つめる。そして首を捻ってこう言った。
「どちら様?」
ズコー!
軽くずっこける少女だったが、素早く身を起こして名乗る。
「東谷! 東谷翔子! 中学の時に同じクラスだったでしょうが!」
「東谷……」
時子は額に指を当てて記憶を呼び覚まそうとするが、すぐに諦めた。
「ああ、東田さん。久しぶり」
「東谷よ! あんた思い出してないでしょうが!」
「それはともかく、私に何か用?」
「くっ……ギャリソンさん。今日は以前あなたに負けた雪辱を晴らさせてもらうわ!」
「それを言うなら『雪辱を果たす』ですね。あるいは『屈辱を晴らす』です」
横から小町が口を挟む。
「とにかく! 今日は私の汚名挽回の日よ!」
「それも『汚名返上』か『名誉挽回』です」
「うるさいわね! メガネは黙ってなさい!」
「ひっ……す、すみません」
翔子に怒鳴られ、小町は身をすくめて口を閉じた。
「……で、話が進んでないんだけど」
時子は小町を庇うように前に進み出て、翔子に話の続きを促す。
「中学三年の時、クラス対抗リレーでアンカーを選ぶ勝負をしたでしょ」
気を取り直し、翔子は話題を軌道修正する。
「……」
「私は陸上部のエースだった。それなのにギャリソンさん、あなたに負けてアンカーの座を奪われたのよ」
「……あっ」
時子は小さく声を漏らした。
「思い出したようね」
翔子はニヤリと笑い話を続ける。
「体育祭の最終競技、クラス対抗男女混合リレー。もちろんギャリソンさんも出場するのよね。何番手なの? 私と勝負しましょう」
「ん? 私リレーには出ないけど」
「え!? え!? え!? じゃあ何に出場するの?」
「二人三脚」
「な! なんでよ!? あなたの足なら男にだって負けないでしょうが!」
「それは……もうそんなに速く走れないってことだよ。私、陸上部じゃないし」
そう答える時子だったが、それには彼女なりの理由があった。
「くっ……なら私も二人三脚に出場する。お互いに実力を出し切れるかどうかだけど、勝負は勝負。首を洗って待ってなさい!」
一方的にまくし立て、翔子は背を向けると足早に去っていく。
「よーし、ギャル子。あんな奴はオレらでコテンパンにしてやろうぜ!」
ペアを組む早知が時子の肩に腕を回して言う。
「う、うん……」
しかし、時子の返事はどこか気乗りしないものだった。
校庭の隅、雲一つない澄んだ青空を見上げ、小町は憂鬱そうに呟く。晴れやかな秋の空とは対照的な表情だ。
「フッ、闇に生きる身としては空の青さが目に染みるな」
その青空から視線を逸らし、眼前に手をかざしてポーズを付けるのは渚。
「絶好の、スポーツ日和です、ね」
そう口にしながらも浮かない顔をしているのは友理だった。
「なんだなんだ、お前ら。朝っぱらから辛気くさい面しやがって」
そんな三人に声をかけるのは珍しく朝から元気な早知である。
小町たちはそんな早知にどんよりとした視線を向け、
「「はぁあ~~~~~」」
と、仲良く盛大なため息を漏らすのだった。
「なんだよ? せっかくの祭りじゃねーか。もっとテンション上げていこうぜ」
早知の言うとおり、今日は小町たちが通う明華高校の体育祭が行われる日だ。みな運動服姿で頭にハチマキを巻いている。
「さっちゃんには分からないでしょうね。運動が苦手な私達の気持ちなんて……」
三人を代表して小町が答えた。
運動が苦手な者にとって体育祭とはもっとも忌諱すべき行事だった。退屈な授業を聞いている方が百倍マシである。
まあ、高校生にもなると個人競技は代表者が選出され、小町たちが参加するのは全体競技だけなのでまだいい。小学校の運動会などは全員に徒競走への参加が義務づけられていたりするので最悪である。
「渚さん、今からでも大雨を降らせる魔術とかないんですか?」
「うむ、実は一週間かけて龍神召喚の儀式を行っていたのだがな。どうやら我が右腕に宿る暗黒邪龍との相性が悪いようだ」
小町の言葉にマジレスする渚。
「こうなったら、学校に爆弾を、仕掛けたという、メールを……」
スマホを取り出し、目をグルグルさせながら指を伸ばす友理。
「やめい!」
物騒なことを呟く友理の手から、早知は素早くスマホを奪い取る。
「ああっ。返して、下さい! 返して、下さい!」
「そんなに嫌なもんかねぇ。身体を動かすのって気分がいいじゃねーか」
高く掲げたスマホにピョンピョンと飛びつこうとする友理をあしらいながら、早知は言った。
「苦手なのはともかく、小町はもう少し運動した方がいいよ。休日は家にこもってばかりじゃない」
そこへ時子も口を挟む。ちなみに和花は生徒会役員として運営に関わっているためこの場にはいない。
「うっ……確かに最近少し体重が気になっていますが……」
「そうじゃなくて、健康のために――」
そう時子が言いかけたところで、
「ギャリソンさん!」
その名が大声で呼ばれる。
「?」
そちらへと目を向ければ、一人の女子がビシリと時子に指を突きつけていた。
ショートカットと日に焼けた健康そうな肌。引き締まった手足はいかにもスポーツが得意そうだ。
「勝負よ!」
その少女は時子に向かってそう言い放つ。
「…………」
時子は少女の姿をじっと見つめる。そして首を捻ってこう言った。
「どちら様?」
ズコー!
軽くずっこける少女だったが、素早く身を起こして名乗る。
「東谷! 東谷翔子! 中学の時に同じクラスだったでしょうが!」
「東谷……」
時子は額に指を当てて記憶を呼び覚まそうとするが、すぐに諦めた。
「ああ、東田さん。久しぶり」
「東谷よ! あんた思い出してないでしょうが!」
「それはともかく、私に何か用?」
「くっ……ギャリソンさん。今日は以前あなたに負けた雪辱を晴らさせてもらうわ!」
「それを言うなら『雪辱を果たす』ですね。あるいは『屈辱を晴らす』です」
横から小町が口を挟む。
「とにかく! 今日は私の汚名挽回の日よ!」
「それも『汚名返上』か『名誉挽回』です」
「うるさいわね! メガネは黙ってなさい!」
「ひっ……す、すみません」
翔子に怒鳴られ、小町は身をすくめて口を閉じた。
「……で、話が進んでないんだけど」
時子は小町を庇うように前に進み出て、翔子に話の続きを促す。
「中学三年の時、クラス対抗リレーでアンカーを選ぶ勝負をしたでしょ」
気を取り直し、翔子は話題を軌道修正する。
「……」
「私は陸上部のエースだった。それなのにギャリソンさん、あなたに負けてアンカーの座を奪われたのよ」
「……あっ」
時子は小さく声を漏らした。
「思い出したようね」
翔子はニヤリと笑い話を続ける。
「体育祭の最終競技、クラス対抗男女混合リレー。もちろんギャリソンさんも出場するのよね。何番手なの? 私と勝負しましょう」
「ん? 私リレーには出ないけど」
「え!? え!? え!? じゃあ何に出場するの?」
「二人三脚」
「な! なんでよ!? あなたの足なら男にだって負けないでしょうが!」
「それは……もうそんなに速く走れないってことだよ。私、陸上部じゃないし」
そう答える時子だったが、それには彼女なりの理由があった。
「くっ……なら私も二人三脚に出場する。お互いに実力を出し切れるかどうかだけど、勝負は勝負。首を洗って待ってなさい!」
一方的にまくし立て、翔子は背を向けると足早に去っていく。
「よーし、ギャル子。あんな奴はオレらでコテンパンにしてやろうぜ!」
ペアを組む早知が時子の肩に腕を回して言う。
「う、うん……」
しかし、時子の返事はどこか気乗りしないものだった。
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