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ギャル子と中二病②
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それからというもの、放課後になると渚は文芸部を訪れ、守と構想を練り上げた。
そんなある日、いつも通りに登校し、下駄箱を開けた渚だったが――
「……靴がない」
渚の下駄箱から上履きが消えていた。
誰かが間違えて履いていったのかとも思ったが、代わりの下足も入ってもいない。首を捻りながらも仕方なく来賓用のスリッパを履いて教室へ向かった。
そして授業が始まる。渚は特に宿題でも出ていない限り、机の中に教科書やノートを置きっぱなしにしているのだが――
取り出したノートがビリビリに破かれていた。
(こ、これは……明らかに悪意ある所業……組織か……組織の仕業なのか?)
周囲を見回す。もしかしてこの中に組織のエージェントが――そう思うと心安まらない。
とりあえず、無事な別の教科のノートを使ってその授業はやり過ごす。
誰かに相談するべきだろう。しかし、ぼっちの渚はクラスに友達もいない。
――いや、最近少し言葉を交わすようになったあの二人がいる。あちらの頼み事を聞いてやったのだから、こちらの話も聞いてもらえるはずだ。これは等価交換である。
授業が終わると、渚は早速時子と小町にこの一件を話した。
「いじめかしら?」
「いじめ――とまではいかないかもですが、酷い嫌がらせですね」
証拠品のノートを見て、時子と小町は眉をひそめる。
「と、言うわけで、我は組織の妨害工作を受けている。どうすれば良いだろうか?」
「おそらく犯行が行われたのは昨日の放課後ね。もしかすると今日も何かしらの動きがあるかもしれない」
時子は己の推測を述べる。
「放課後、教室を見張っていましょう」
時子の提案に二人は頷いた。
放課後、三人はそれぞれの配置についた。
時子は掃除用具の入ったロッカーの中、渚は教卓に隠れ、小町は別棟の校舎から教室を覗いていた。
しばらく待つと、誰も居ない教室に一人の女生徒が現れた。同じクラスの石川泉である。
泉はキョロキョロと辺りを見回し、周囲を確認すると渚の机の中に手を入れた。ノートを取り出し、手にしたカッターナイフでノートを裂こうとした瞬間――
「石川さん、何をしようとしてるのかしら?」
ロッカーの中から時子が姿を現す。
「石川! 貴様が犯人か!」
渚も教卓の陰から飛び出した。
「な!? くっ!」
泉はノートを放り出し、踵を返して駆け出す。
「逃がさない」
「待てーい」
時子と渚はすぐさまその後を追った。
時子は足も速い。すぐに泉を捕まえる。
「なんでこんな真似をしたの?」
「……」
泉はそっぽを向く。
「貴様、どこの組織のエージェントだ?」
「何が組織よ。バッカじゃないの、この邪気眼! アンタが気に入らなかったのよ」
渚の問いに泉は顔を逸らしたまま言い返した。
「なっ、貴様我を愚弄するのかっ」
「でも、それなら何故今なの? その理由があるはず」
二人の言い争いに時子が口を挟む。
「……」
それには答えようとしない泉。
「仕方ない。こういうのは根本原因を取り除くのが肝心。――拷問してでも口を割ってもらうわ」
時子は非情に言い放つのだった。
「さあ、何故だ? 何故我を狙う?」
手にした〝凶器〟を泉の目の前にかざし、渚が問いかける。
「ひっ、やめっ」
あまりの恐ろしさに目を逸らす事も出来ず、泉は目の前の〝凶器〟から少しでも遠ざかろうとする。しかし、後ろ手に関節を極めた時子がそれを許さない。
「言え、言わねばこの〝便器ブラシ〟がお前の顔にくっつく事になるぞ」
女子トイレの中で時子と渚の拷問は行われていた。
「あのー、これだと私たちが石川さんを苛めているようなんですが」
追いついてきた小町がおずおずと口を挟む。
「ほ~ら、ほら。後三センチだぞ。んん? まだ口を割らないのか」
小町の言葉を無視し、渚は便器ブラシを泉の顔に近づける。ノリノリであった。
「なんかギャラリーも集まってますよ。そのくらいで許してあげませんか?」
小町は周囲を見回して言う。放課後だというのに、女子トイレの前にはそれなりの人数が集まっていた。
「何やってるの?」
「いじめ?」
「先生に言った方がいいんじゃ……」
そんな声が聞こえてくる。
「ふふふ、復讐するは我にあり。ほーら、あと一センチ。どうする?」
泉の目が恐怖で見開かれる。その時――
「やめてーーー!!」
ひときわ大きな声がギャラリーの中から上がった。人垣をかき分け、一人の少女が姿を現す。
「泉ちゃんは悪くない! 悪いのはあんたよ!」
「ムッ、何だ貴様は?」
自分に指を突きつけられ、渚は戸惑いながら訊ねる。
「片岡さん?」
現れたのは小町と同じく文芸部に所属する片岡香織だった。
「泉ちゃんを離しなさいよ! この泥棒猫!」
渚を睨みつけて香織が言う。
「は? 誰が泥棒猫だ。言いがかりはやめてもらおう」
「白々しい。あんたが馬本くんに色目を使っているのは知ってるんだからっ」
「何を言っている? 我は単に相談に乗っていただけで……」
身に覚えのない糾弾に渚は当惑した。
「ふむ……あなた馬本くんの事が好きなの?」
と、そこへ時子が口を挟む。
「うっ……それは、その」
顔を赤くし、言葉に詰まる香織。
「あなたたち付き合っているんだっけ?」
「いえ、そんな話は聞いてませんが」
時子の問いに香織に代わって小町が答えた。
「つまりこういう事かしら? 馬本くんと仲良くしているように見えた中西さんに対して、片岡さんの友達の石川さんが嫌がらせをしたと」
「……そうよ! アンタみたいな邪気眼が生意気なのよ! この気違い!」
「言い過ぎ」
「痛、痛たたたたた!」
泉の暴言に時子が関節を極めた腕に力を込める。
「それと片岡さん。好きなら好きでさっさと告白する事ね」
「そ、そ、そ、それが出来れば苦労しないわよーーー!!」
時子の忠告に香織は泣きながら走り去った。
「石川さんもこれ以上私の〝友達〟にちょっかいをかけたら許さないから」
そう念を押し、時子は泉を開放する。
「ギャリソンさん……」
友達という言葉に渚は瞳を潤ませた。
「ギャル子って呼んで」
「ギャル子さん……我と、友達になってくれるのか?」
「私たちもう友達でしょ?」
「そうですよ」
時子の言葉に小町も頷く。
「ありがとう」
渚は素直に礼を言うのだった。
「どけーい、ヤンキーが」
昼休み、いつものように人の席でダベる早知に渚が言い放つ。
「ああっ? 誰がヤンキーだコラっ」
「見るからにヤンキーですよ」
そう、つっこむ小町。
「そこは我が王座、貴様ごときが座るなど千年早い」
「何言ってんだ? こいつ」
そう言いながらも早知は席を移した。
「――紹介する必要もないと思うけど、中西さん。友達になったの」
時子が皆に渚を紹介する。
「我が名は中西渚。真名は秘密だ。――コンゴトモヨロシク」
そして馬本の小説の方がどうなったかというと――
「ボツね」
「何故だ? 世界設定は完璧なはずだ!」
時子の言葉に渚が反論する。
「設定だけで全体の半分を占めているのはどうなのかしら。こういうのは小出しに、匂わせる程度でいいと思うんだけど」
素人が陥りやすい罠であった。
そんなある日、いつも通りに登校し、下駄箱を開けた渚だったが――
「……靴がない」
渚の下駄箱から上履きが消えていた。
誰かが間違えて履いていったのかとも思ったが、代わりの下足も入ってもいない。首を捻りながらも仕方なく来賓用のスリッパを履いて教室へ向かった。
そして授業が始まる。渚は特に宿題でも出ていない限り、机の中に教科書やノートを置きっぱなしにしているのだが――
取り出したノートがビリビリに破かれていた。
(こ、これは……明らかに悪意ある所業……組織か……組織の仕業なのか?)
周囲を見回す。もしかしてこの中に組織のエージェントが――そう思うと心安まらない。
とりあえず、無事な別の教科のノートを使ってその授業はやり過ごす。
誰かに相談するべきだろう。しかし、ぼっちの渚はクラスに友達もいない。
――いや、最近少し言葉を交わすようになったあの二人がいる。あちらの頼み事を聞いてやったのだから、こちらの話も聞いてもらえるはずだ。これは等価交換である。
授業が終わると、渚は早速時子と小町にこの一件を話した。
「いじめかしら?」
「いじめ――とまではいかないかもですが、酷い嫌がらせですね」
証拠品のノートを見て、時子と小町は眉をひそめる。
「と、言うわけで、我は組織の妨害工作を受けている。どうすれば良いだろうか?」
「おそらく犯行が行われたのは昨日の放課後ね。もしかすると今日も何かしらの動きがあるかもしれない」
時子は己の推測を述べる。
「放課後、教室を見張っていましょう」
時子の提案に二人は頷いた。
放課後、三人はそれぞれの配置についた。
時子は掃除用具の入ったロッカーの中、渚は教卓に隠れ、小町は別棟の校舎から教室を覗いていた。
しばらく待つと、誰も居ない教室に一人の女生徒が現れた。同じクラスの石川泉である。
泉はキョロキョロと辺りを見回し、周囲を確認すると渚の机の中に手を入れた。ノートを取り出し、手にしたカッターナイフでノートを裂こうとした瞬間――
「石川さん、何をしようとしてるのかしら?」
ロッカーの中から時子が姿を現す。
「石川! 貴様が犯人か!」
渚も教卓の陰から飛び出した。
「な!? くっ!」
泉はノートを放り出し、踵を返して駆け出す。
「逃がさない」
「待てーい」
時子と渚はすぐさまその後を追った。
時子は足も速い。すぐに泉を捕まえる。
「なんでこんな真似をしたの?」
「……」
泉はそっぽを向く。
「貴様、どこの組織のエージェントだ?」
「何が組織よ。バッカじゃないの、この邪気眼! アンタが気に入らなかったのよ」
渚の問いに泉は顔を逸らしたまま言い返した。
「なっ、貴様我を愚弄するのかっ」
「でも、それなら何故今なの? その理由があるはず」
二人の言い争いに時子が口を挟む。
「……」
それには答えようとしない泉。
「仕方ない。こういうのは根本原因を取り除くのが肝心。――拷問してでも口を割ってもらうわ」
時子は非情に言い放つのだった。
「さあ、何故だ? 何故我を狙う?」
手にした〝凶器〟を泉の目の前にかざし、渚が問いかける。
「ひっ、やめっ」
あまりの恐ろしさに目を逸らす事も出来ず、泉は目の前の〝凶器〟から少しでも遠ざかろうとする。しかし、後ろ手に関節を極めた時子がそれを許さない。
「言え、言わねばこの〝便器ブラシ〟がお前の顔にくっつく事になるぞ」
女子トイレの中で時子と渚の拷問は行われていた。
「あのー、これだと私たちが石川さんを苛めているようなんですが」
追いついてきた小町がおずおずと口を挟む。
「ほ~ら、ほら。後三センチだぞ。んん? まだ口を割らないのか」
小町の言葉を無視し、渚は便器ブラシを泉の顔に近づける。ノリノリであった。
「なんかギャラリーも集まってますよ。そのくらいで許してあげませんか?」
小町は周囲を見回して言う。放課後だというのに、女子トイレの前にはそれなりの人数が集まっていた。
「何やってるの?」
「いじめ?」
「先生に言った方がいいんじゃ……」
そんな声が聞こえてくる。
「ふふふ、復讐するは我にあり。ほーら、あと一センチ。どうする?」
泉の目が恐怖で見開かれる。その時――
「やめてーーー!!」
ひときわ大きな声がギャラリーの中から上がった。人垣をかき分け、一人の少女が姿を現す。
「泉ちゃんは悪くない! 悪いのはあんたよ!」
「ムッ、何だ貴様は?」
自分に指を突きつけられ、渚は戸惑いながら訊ねる。
「片岡さん?」
現れたのは小町と同じく文芸部に所属する片岡香織だった。
「泉ちゃんを離しなさいよ! この泥棒猫!」
渚を睨みつけて香織が言う。
「は? 誰が泥棒猫だ。言いがかりはやめてもらおう」
「白々しい。あんたが馬本くんに色目を使っているのは知ってるんだからっ」
「何を言っている? 我は単に相談に乗っていただけで……」
身に覚えのない糾弾に渚は当惑した。
「ふむ……あなた馬本くんの事が好きなの?」
と、そこへ時子が口を挟む。
「うっ……それは、その」
顔を赤くし、言葉に詰まる香織。
「あなたたち付き合っているんだっけ?」
「いえ、そんな話は聞いてませんが」
時子の問いに香織に代わって小町が答えた。
「つまりこういう事かしら? 馬本くんと仲良くしているように見えた中西さんに対して、片岡さんの友達の石川さんが嫌がらせをしたと」
「……そうよ! アンタみたいな邪気眼が生意気なのよ! この気違い!」
「言い過ぎ」
「痛、痛たたたたた!」
泉の暴言に時子が関節を極めた腕に力を込める。
「それと片岡さん。好きなら好きでさっさと告白する事ね」
「そ、そ、そ、それが出来れば苦労しないわよーーー!!」
時子の忠告に香織は泣きながら走り去った。
「石川さんもこれ以上私の〝友達〟にちょっかいをかけたら許さないから」
そう念を押し、時子は泉を開放する。
「ギャリソンさん……」
友達という言葉に渚は瞳を潤ませた。
「ギャル子って呼んで」
「ギャル子さん……我と、友達になってくれるのか?」
「私たちもう友達でしょ?」
「そうですよ」
時子の言葉に小町も頷く。
「ありがとう」
渚は素直に礼を言うのだった。
「どけーい、ヤンキーが」
昼休み、いつものように人の席でダベる早知に渚が言い放つ。
「ああっ? 誰がヤンキーだコラっ」
「見るからにヤンキーですよ」
そう、つっこむ小町。
「そこは我が王座、貴様ごときが座るなど千年早い」
「何言ってんだ? こいつ」
そう言いながらも早知は席を移した。
「――紹介する必要もないと思うけど、中西さん。友達になったの」
時子が皆に渚を紹介する。
「我が名は中西渚。真名は秘密だ。――コンゴトモヨロシク」
そして馬本の小説の方がどうなったかというと――
「ボツね」
「何故だ? 世界設定は完璧なはずだ!」
時子の言葉に渚が反論する。
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