ギャル子さんと地味子さん

junhon

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ギャル子と海②

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 そんなこんなで波打ち際へやって来た三人。
「うおおおおお!」
 沖の方では早知が思いっきり泳いでいた。
「……海水浴場でマジ泳ぎしている人初めて見たよ」
「ま、私たちはマッタリ楽しみましょう」
 小町と和花は浮き輪を手に海へと入る。
「ギャル子さん、行かないんですか?」
「ふふ、私は今波を感じている」
 足を波に浸して呟く時子。どうやら波が寄せるたび、足下の砂が崩れていく感触を楽しんでいるようだ。
「……じゃ、私たちは先に行きますんで」
 小町は和花と二人、浮き輪に入って波に揺られる。
 見上げれば青い空に白いカモメが飛んでいる。遠くに聞こえる喧噪も心地いい。和花とたわいないお喋りをしながらゆっくりと時を過ごした。
 ふと海岸に目を向けると、何やら人だかりが出来ている。
「何だろ?」
 気になった小町は海岸へ引き返した。人だかりの後ろから爪先を伸ばしてみれば、時子が真剣な表情で砂の山と向き合っている。
「ギャル子さん、何やってるんですか?」
「砂遊び」
 見れば砂の山はお城の形になっていた。しかも西洋の城ではなく日本の城だ。立派な天守閣が出来上がっている。
「そこで寝ている人たちは?」
 何故か周囲にはチャラい男が三人、寝転がっていた。
「しつこかったから寝てもらったの」
 事も無げに答える時子。今度は二の丸に着手し始める。
「あら、サンドアートね。すごいじゃない」
「おー、ギャル子器用だな」
 和花と早知も戻ってきて感嘆の声を上げた。
「よし、私たちも定番のアレをやりましょうか」と、小町は提案した。
 じゃんけんで生贄は早知となる。二人は寝転んだ早知の身体を砂で覆っていく。
「ふふふ、巨乳にしてあげますよ。橘さん」
 盛り上がった砂の上、胸に二つの山を作る小町だった。
「イヤミかっ、おいコラ」
 と、三の丸まで完成させた時子がやって来た。早知の股間の辺りに砂を盛り上げ始める。
「巨根、巨根」
「やめろーーー!! ショッ〇ー!!」
 本気で嫌がる早知であった。



「ふぅ、遊んだ、遊んだ」
「そろそろお昼にしない?」
「そうだね。おーい、ギャル子さん」
 和花の提案に、小町は早知をもてあそぶ時子に声をかける。
「ふふ、橘さんたらこんなに大きくしちゃって」
「うう……もうお嫁に行けない」
 砂に埋まってさめざめと泣く早知。
「二人とも、お昼ご飯にしましょう」
「うん」
「つーか、オレは動けないっつーの。助けろ」
 三人がかりで早知を掘り起こし、海の家へと向かった。
「いらっしゃいませだべ」
 水着にエプロンを着けた少女が迎えてくれる。
「ラーメンお願いします」
「私も」
「カレー、超辛で」
「オレは甘口カレーだ」
 各々好きなものを注文する。少し待つと料理が運ばれてきた。
「お、美味しい」
「ほんと」
「辛い、けど美味しい」
「マジ美味いな」
 あまり期待していなかったのだが、料理はとても美味しかった。
「お姉さん方、みんな美人だべな。良かったらこれに出ないだべか?」
 食器を下げに来た少女が一枚のチラシを差し出した。
「白崎海水浴場ミスコンテスト?」と、首を傾げる小町。
「そうだべ。ちょうど今日の昼過ぎから開催されるべ。優勝賞品は家族での温泉旅行だべ」
「おお、なら出るぜ」
 瞳を輝かせる早知。
「私はパス」
 和花は興味なさげに応える。
「小町、一緒に出ましょう」
「え!? いやいや、私なんか無理ですって。ギャル子さんお一人でどうぞ」
 時子の誘いをやんわり断る小町だったが――
「大丈夫。変身しよう」
 時子がどこからともなくヘアブラシを取り出す。
「ギャル子クリスタルパワーメイクアッープ!」
 次の瞬間、そこには髪を下ろした小町ロングヘアバージョンが現れた。
「よし、いける」と、親指を立てる時子。
「えええーーーーー」
 小町は素っ頓狂な叫びを上げるのだった。


 小町は時子に引きずられ、ミスコンテストにエントリーした。
 集まった女性は総勢二十一名。さすがコンテストに出場するだけあって、みな美人揃いだ。場違い感に小町は小さくなっていた。
「さあ、いよいよ始まりました白崎海水浴場ミスコンテスト! いずれ劣らぬ美女揃い。勝ち残るのは一体誰だ? 知力体力時の運。最初の種目は〇Xクイズです!」
 司会の男がマイクを手に宣言する。
 ルールは簡単。問題の答えが〇かXかを選びそれぞれの陣地に分かれる。ここで早くも早知が脱落した。
「続いては体力! 反復横跳びをしてもらいます!」
 次はステージ上で二人ずつ組となり、それぞれに審判がついた。――揺れる揺れる、オッパイが揺れる。
 ここで脱落するかと思われた小町だったが――
「勝者、エントリーナンバー18、藤見小町さん!」
「ちょっと、明らかに私の方が跳んだ回数多かったでしょ!」
 小町の対戦相手が審判に抗議する。
「抗議は認めません。――藤見さん、素晴らしい揺れと弾力でした」
「はぁ……」
 どうやら競うのは回数ではなかったようだ。
「最後は時の運! ジャンケンで勝負して貰います!」
 ここでも小町はなんとか生き残った。そして最終選考に選ばれたのは、当然のように時子も含めた五人である。
「では順にインタビューして参りましょう」
 司会が端からマイクを向ける。そして時子の順番が回ってきた。
「外国の方ですか? お名前は?」
「ギャリソン時子ことギャル子です。父がイギリス人のハーフです」
「ギャル子さん、それ逆」
 つっこむのを忘れない小町であった。
「何か特技とかはありますか」
「そうですね。得意技は御所車です」
「えーと、何ですかそれ?」
「四十八手の一つです」
 皆がスマホでその言葉を検索する。少しの間を置き、男性の見物客から歓声が上がった。
(くっ、なんてあざといアピールを……)
 そう唇をかむのは時子の隣、三住澄子みすみすみこであった。フェロモンバリバリの女子大生である。数々のミスコンで優勝してきた彼女だったが、このままでは時子にその座を奪われてしまいそうだ。
(ならば、恥をかかせてやる)
 三住澄子は勝つためなら手段を選ばない女であった。
「では、お次の方、お名前は?」
「は、はいっ。藤見小町です」と、小町が名前を言った瞬間――
「やんっ、足がもつれちゃった」
 澄子の手が時子の胸へと伸びるが、時子はそれをひょいとかわす。
 たたらを踏んだ澄子の手はその隣の小町のブラを掴み、引きずり下ろした。
「え?」
 ぷるんと揺れる大きな胸が衆目に晒された。
 10点!
 10点!
 10点!
 審査員達が一斉に手にした札を上げる。
「ひっ、ひっ、いやあああああーーーーー!!」
 小町の絶叫がほとばしった。



「やったね小町。優勝だよ」
「うう……もうお嫁に行けない」
 海に沈む夕日を眺めながら、さめざめと泣く小町に時子が声をかける。
「大丈夫。私がもらってあげるから」
「ちょっ、なに言ってるんですかギャル子さん!?」
「冗談冗談。――さ、帰ろう。みんな待ってるよ」
 小町に手を差し出す時子。夕日の加減だろうか、その顔は笑っているように見えるのだった。
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