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ギャル子と捨て猫②
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次の日、珍しく朝早くから早知は教室に入っていた。
朝のホームルームが近くなり、それなりに人数が揃ったところで早知は教卓に立つ。
「お前ら、こっちを見やがれ!」
ざわついていた教室が静まりかえる。みな何事かと早知に目を向けた。
「捨てられた子猫がいるんだ。誰かこいつを貰ってやってくれ」
子猫の写ったスマホをかざし、早知は頭を下げた。
再びざわつく教室内。しかし、誰も早知に近づこうとしない。
「なあ、見てくれよ。すっごく可愛い子猫なんだ」
それでも返ってくるのは白い目か無視だ。
「――くっ。ちくしょう!」
早知は教室を飛び出す。
「橘さん!」
小町は慌ててその後を追った。
「くそ、くそっ」
廊下に出た早知が拳を壁に叩きつけている。
「橘さん……」
かわいそうだが当然の反応と言えた。小町だって橘の人柄に触れなければ無視を決め込んでいただろう。
「大丈夫よ。この学校には数百人の生徒がいるわ。もっと広く呼びかけましょう」
小町に続いて教室を出た時子が提案する。
「まずはポスターとチラシ作りね」
――放課後、文芸部に集まった三人はポスターの制作に取りかかった。
部のパソコンを借り、DTPソフトを使ってポスターを作る。ここでも時子が持ち前の器用さを発揮した。
「連絡先は小町にしておくわ。橘さんや私じゃヒかれちゃうだろうし」
「すまねぇ」
学校の備品の大判プリンターを使ってポスターを印刷し、さらに同じ図案のチラシを大量に用意する。
ポスターは和花を通じて許可を貰い、掲示板に貼り付けた。
「明日の朝、みんなでチラシを配りましょう」
時子の言葉に小町と早知は頷くのだった。
「お願いしまーす」
「子猫の飼い主を探しています」
「お願いしまーす」
翌朝、三人は校門前でチラシを配った。
しかし、小町や時子はそこそこ受け取って貰えるのだが、早知はみんなに避けられる。
「くっ、またか……」
己の不甲斐なさに打ちひしがれる早知。
「そんな橘さんにいい物を用意したわ。これを付ければ親しみやすさ当社比一・五倍よ」
そう言って、時子が紙袋から取り出した物を早知の頭に乗せる。
早知の頭に猫耳が生えた。
「ぷっ……お似合いですよ、橘さん」
小町は笑いを堪えながら言う。ヤンキー風の見た目とのギャップがすごい。
「うん、可愛い可愛い」と、頷く時子。
「くそ、子猫ちゃんのためなら何でもやってやらぁ!」
猫耳効果か、早知もポツポツとチラシを受け取って貰えるようになる。
用意したチラシは配り終えた。後は吉報を待つだけだ。
しかし、放課後になっても何の連絡も来ない。三人に和花が加わり、教室で輪になって話し合う。
「うーん、お母さんとお兄ちゃんにも知り合いに聞いてもらうように頼んだんだけど……駄目だったみたいね」
スマホの画面を見ながら小町は肩を落とす。
「私も友達に聞いてみたんだけど、いい返事は返ってこなかったわね」
和花が申し訳なさそうに言った。
「オレも昨日バイト先の連中に当たったんだがな」
早知はため息をついた。
「こうなったら何か特典を付けるというのはどうかな。例えば子猫を貰ってくれたら私とセッ〇スできるとか」
「ギャル子さん! そういうのは駄目ですよ!」
「お前ぶっ飛んでやがるな……」
小町が時子を止め、早知はその言葉に戦慄する。
「そんな破廉恥な真似は許しませんっ」
和花も顔を赤くして時子をたしなめる。
四人は角突き合わせて思案するが、何もいいアイディアは出てこない。
「……私に一人心当たりがあるわ」
そんな中、途方に暮れる三人に時子は告げた。
「誰ですか?」
「私の頼みなら絶対に断れない人よ」
小町の問いに時子は自信を持って答えるのだった。
「時子~、帰ってきてくれたんだな」
玄関から飛び出してきた男が時子に抱きつこうとする。
「そんなわけないでしょうが! 離れなさいよ! あんたの顔なんか二度と見たくなかったですよっ」
小町は間に入って二人を引き剥がした。
「時子~、時子~」
それでも男は涙を流しながら手を伸ばす。
「誰だ、このオッサン?」
「ギャル子さんのお父さんです。理由あって絶縁してますが」
早知の問いに小町が答える。
「パパ、今日は話があってきたの」
時子は手の届かない距離を保ちながら父親に向かって言う。
「なんだい? 時子の言う事なら何でも聞くよ」
「パパ、猫が飼いたいわよね?」
「いや、別に?」
「飼いたいわよね」
「あっ……あー、うん。そうだな、飼いたい飼いたい」
「ちょうどいい事にここに捨て猫がいるの。パパが飼って」
「いや、しかし、私は動物なんて飼った事がないんだが……」
「飼ってくれるわよね」
「はい、飼います」
時子は早知から子猫の入った段ボール箱を受け取ると、それをロバートに渡した。
「じゃあ、お願いするわ。ちゃんと可愛がってね。もし酷い事をしたら許さないから」
「あ、ああ。分かったよ」
「頼んだぜ、オッサン。子猫ちゃんになんかあったらぶっ殺すからな」
凄みをきかせて早知も念を押す。
「じゃあ、さよなら」
時子はロバートに背を向けた。
「時子~~」
ロバートがその背中を涙ながらに見送る。
「あの人なんかに任せて大丈夫でしょうか?」
小町としては不安でならない。
「多分。パパも私がいなくなって寂しがっていると思うから」
「そうだといいんですがねぇ」
「世話になったな。お前ら」
帰りの道すがら、早知が小町たちに礼を言う。
「これはほんのお礼だ」
早知は懐から取り出した紙切れを三人に手渡す。
「夕方からなら大体いるからよ。良かったら来てくれよな」
そう言って早知は去って行った。
「ファミレスのドリンクサービス券?」
貰った紙片を見て小町は首を捻った。
翌日、学校帰りに小町たち三人は繁華街にあるそのファミレスへやって来た。
「いらっしゃいませ。三名様でよろしいでしょうか?」
ウェイトレスに案内されて席に着き、メニューを決めて呼び出しベルを鳴らす。
「よう。よく来たな。お前ら」
やって来たウェイトレスが乱暴な口調で言った。
「え? 橘さん?」
驚く小町。眼鏡をかけ、髪をポニーテールにしていたので一瞬分からなかったが、その顔と口調は確かに早知だった。
「こんな所でバイトしてたんですか?」
「ああ、ウチは母子家庭なんでな。金を稼がなきゃならねぇ」
「高校生の夜のバイトは禁止されてるはずだけど」と、和花が眉をひそめる。
「だからこうして変装して歳も誤魔化してるんだ。夜の方が割がいいからな。学校には内緒にしてくれよ。弟たちにうまいもん食わしてやりてぇんだ」
「……仕方ないわね」
家計が苦しい事を察し、渋々和花は折れた。
「もしかして、夜な夜な繁華街をうろついてるって噂、このバイトが原因なんじゃないんですか」
「あー、そうかもしれねぇな。こちとら遊ぶ金なんか無いってのによ」
小町の言葉に早知は苦笑する。
また一つ、早知に対する誤解が解けたのだった。
「昨日の礼だ。今日は一品だけ何でもおごってやる」
「じゃあ、サーロインステーキで」と、時子。
「一番高い奴じゃねぇか! ちょっとは遠慮しろよ!」
そして子猫はどうなったかというと――
「ただいま帰りましたよー。いい子にしてまちたか? トッキーちゃん」
「さぁ、ご飯を食べまちょうね~。いっぱい食べて早く大きくなるんでちゅよ~」
「ほんとにトッキーちゃんは可愛いでちゅね~」
めっちゃ可愛がられていたのであった。
朝のホームルームが近くなり、それなりに人数が揃ったところで早知は教卓に立つ。
「お前ら、こっちを見やがれ!」
ざわついていた教室が静まりかえる。みな何事かと早知に目を向けた。
「捨てられた子猫がいるんだ。誰かこいつを貰ってやってくれ」
子猫の写ったスマホをかざし、早知は頭を下げた。
再びざわつく教室内。しかし、誰も早知に近づこうとしない。
「なあ、見てくれよ。すっごく可愛い子猫なんだ」
それでも返ってくるのは白い目か無視だ。
「――くっ。ちくしょう!」
早知は教室を飛び出す。
「橘さん!」
小町は慌ててその後を追った。
「くそ、くそっ」
廊下に出た早知が拳を壁に叩きつけている。
「橘さん……」
かわいそうだが当然の反応と言えた。小町だって橘の人柄に触れなければ無視を決め込んでいただろう。
「大丈夫よ。この学校には数百人の生徒がいるわ。もっと広く呼びかけましょう」
小町に続いて教室を出た時子が提案する。
「まずはポスターとチラシ作りね」
――放課後、文芸部に集まった三人はポスターの制作に取りかかった。
部のパソコンを借り、DTPソフトを使ってポスターを作る。ここでも時子が持ち前の器用さを発揮した。
「連絡先は小町にしておくわ。橘さんや私じゃヒかれちゃうだろうし」
「すまねぇ」
学校の備品の大判プリンターを使ってポスターを印刷し、さらに同じ図案のチラシを大量に用意する。
ポスターは和花を通じて許可を貰い、掲示板に貼り付けた。
「明日の朝、みんなでチラシを配りましょう」
時子の言葉に小町と早知は頷くのだった。
「お願いしまーす」
「子猫の飼い主を探しています」
「お願いしまーす」
翌朝、三人は校門前でチラシを配った。
しかし、小町や時子はそこそこ受け取って貰えるのだが、早知はみんなに避けられる。
「くっ、またか……」
己の不甲斐なさに打ちひしがれる早知。
「そんな橘さんにいい物を用意したわ。これを付ければ親しみやすさ当社比一・五倍よ」
そう言って、時子が紙袋から取り出した物を早知の頭に乗せる。
早知の頭に猫耳が生えた。
「ぷっ……お似合いですよ、橘さん」
小町は笑いを堪えながら言う。ヤンキー風の見た目とのギャップがすごい。
「うん、可愛い可愛い」と、頷く時子。
「くそ、子猫ちゃんのためなら何でもやってやらぁ!」
猫耳効果か、早知もポツポツとチラシを受け取って貰えるようになる。
用意したチラシは配り終えた。後は吉報を待つだけだ。
しかし、放課後になっても何の連絡も来ない。三人に和花が加わり、教室で輪になって話し合う。
「うーん、お母さんとお兄ちゃんにも知り合いに聞いてもらうように頼んだんだけど……駄目だったみたいね」
スマホの画面を見ながら小町は肩を落とす。
「私も友達に聞いてみたんだけど、いい返事は返ってこなかったわね」
和花が申し訳なさそうに言った。
「オレも昨日バイト先の連中に当たったんだがな」
早知はため息をついた。
「こうなったら何か特典を付けるというのはどうかな。例えば子猫を貰ってくれたら私とセッ〇スできるとか」
「ギャル子さん! そういうのは駄目ですよ!」
「お前ぶっ飛んでやがるな……」
小町が時子を止め、早知はその言葉に戦慄する。
「そんな破廉恥な真似は許しませんっ」
和花も顔を赤くして時子をたしなめる。
四人は角突き合わせて思案するが、何もいいアイディアは出てこない。
「……私に一人心当たりがあるわ」
そんな中、途方に暮れる三人に時子は告げた。
「誰ですか?」
「私の頼みなら絶対に断れない人よ」
小町の問いに時子は自信を持って答えるのだった。
「時子~、帰ってきてくれたんだな」
玄関から飛び出してきた男が時子に抱きつこうとする。
「そんなわけないでしょうが! 離れなさいよ! あんたの顔なんか二度と見たくなかったですよっ」
小町は間に入って二人を引き剥がした。
「時子~、時子~」
それでも男は涙を流しながら手を伸ばす。
「誰だ、このオッサン?」
「ギャル子さんのお父さんです。理由あって絶縁してますが」
早知の問いに小町が答える。
「パパ、今日は話があってきたの」
時子は手の届かない距離を保ちながら父親に向かって言う。
「なんだい? 時子の言う事なら何でも聞くよ」
「パパ、猫が飼いたいわよね?」
「いや、別に?」
「飼いたいわよね」
「あっ……あー、うん。そうだな、飼いたい飼いたい」
「ちょうどいい事にここに捨て猫がいるの。パパが飼って」
「いや、しかし、私は動物なんて飼った事がないんだが……」
「飼ってくれるわよね」
「はい、飼います」
時子は早知から子猫の入った段ボール箱を受け取ると、それをロバートに渡した。
「じゃあ、お願いするわ。ちゃんと可愛がってね。もし酷い事をしたら許さないから」
「あ、ああ。分かったよ」
「頼んだぜ、オッサン。子猫ちゃんになんかあったらぶっ殺すからな」
凄みをきかせて早知も念を押す。
「じゃあ、さよなら」
時子はロバートに背を向けた。
「時子~~」
ロバートがその背中を涙ながらに見送る。
「あの人なんかに任せて大丈夫でしょうか?」
小町としては不安でならない。
「多分。パパも私がいなくなって寂しがっていると思うから」
「そうだといいんですがねぇ」
「世話になったな。お前ら」
帰りの道すがら、早知が小町たちに礼を言う。
「これはほんのお礼だ」
早知は懐から取り出した紙切れを三人に手渡す。
「夕方からなら大体いるからよ。良かったら来てくれよな」
そう言って早知は去って行った。
「ファミレスのドリンクサービス券?」
貰った紙片を見て小町は首を捻った。
翌日、学校帰りに小町たち三人は繁華街にあるそのファミレスへやって来た。
「いらっしゃいませ。三名様でよろしいでしょうか?」
ウェイトレスに案内されて席に着き、メニューを決めて呼び出しベルを鳴らす。
「よう。よく来たな。お前ら」
やって来たウェイトレスが乱暴な口調で言った。
「え? 橘さん?」
驚く小町。眼鏡をかけ、髪をポニーテールにしていたので一瞬分からなかったが、その顔と口調は確かに早知だった。
「こんな所でバイトしてたんですか?」
「ああ、ウチは母子家庭なんでな。金を稼がなきゃならねぇ」
「高校生の夜のバイトは禁止されてるはずだけど」と、和花が眉をひそめる。
「だからこうして変装して歳も誤魔化してるんだ。夜の方が割がいいからな。学校には内緒にしてくれよ。弟たちにうまいもん食わしてやりてぇんだ」
「……仕方ないわね」
家計が苦しい事を察し、渋々和花は折れた。
「もしかして、夜な夜な繁華街をうろついてるって噂、このバイトが原因なんじゃないんですか」
「あー、そうかもしれねぇな。こちとら遊ぶ金なんか無いってのによ」
小町の言葉に早知は苦笑する。
また一つ、早知に対する誤解が解けたのだった。
「昨日の礼だ。今日は一品だけ何でもおごってやる」
「じゃあ、サーロインステーキで」と、時子。
「一番高い奴じゃねぇか! ちょっとは遠慮しろよ!」
そして子猫はどうなったかというと――
「ただいま帰りましたよー。いい子にしてまちたか? トッキーちゃん」
「さぁ、ご飯を食べまちょうね~。いっぱい食べて早く大きくなるんでちゅよ~」
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