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地味子とラブレター
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恥ずかしがる小町の手を引き、時子は登校した。
「うう……」
小町はみんなの視線が自分に集まっている気がした。もちろん自意識過剰だとは分かっているのだが。
スカートの裾を押さえ、顔を伏せて道を歩く。
「――あら小町。イメチェン?」
教室に入ると和花が声をかけてきた。
「見ないで! こんな私を見ないで!」
小町は思わず鞄で顔を隠す。
「いいじゃない。似合ってるわよ」
「……おかしくない?」
少し鞄をずらして顔を覗かせ、自信なさげに問いかけた。
「可愛い可愛い」
和花は親友の突然のイメチェンに笑顔を返す。その評価にとりあえず安心する小町だった。
とは言え、やはりクラスの皆の視線が気になる。小声で話しているのを見ると、自分の悪口を言われているのではないかと心配になった。
そわそわしながら一日を過ごした小町だったが、次の日も朝から時子に起こされて同じ格好をさせられる。そんな日々が一週間ほど続いたある日――
朝、下駄箱を開けると白い封筒が靴の上にのっていた。
小町は一旦下駄箱を閉め、自分の下駄箱かどうかを確認する。名札には間違いなく小町の名前がある。
下駄箱を再び開け、封筒を手に取った。宛名は小町宛、裏返してみるが差出人の名前はない。
「あら、ラブレターね」
一緒に登校していた時子がそれを見て言う。
「いやいやいや、待って下さい。実は果たし状という可能性も」
「いつから小町は武闘家になったの?」
とりあえず手紙を鞄にしまい、二人は教室に入る。
机についた小町は隠れるようにして手紙の封を切った。
「なんて書いてあるの?」
横から時子が覗き込む。
「話があるから放課後校舎裏まで来て下さい――とだけ。中にも名前はありませんね」
「良かったじゃない。これは告白されるわね」
「どうでしょうか。別に好きですとも書いてありませんし」
――おい、藤見。最近お前色気づいてるんじゃねーか。
――スカートそんなに短くしてよ。男誘ってるのか。
――ギャリソンに男回してもらってるんだろ。
小町の頭の中では自分がスケバンに囲まれている姿が浮かんでいた。ちなみに小町の高校の制服はブレザーだが、スケバンは長いスカートのセーラー服だ。
「ギャル子さんはそんな人じゃありません!」
自分の妄想に抗議する小町。
「いきなりどうしたの?」
「ああ、いえ。もしかするとスケバンにシメられるのかも」
「小町の頭の中は昭和なの?」
「ギャル子さん、ついてきて下さい。お願いします」
「うん。いいけど」
放課後、期待半分不安半分で小町は校舎裏へと向かった。その後ろを尾行するように時子が続く。
待っていたのは同じクラスの男子だった。名前は確か――真壁だったはずだ。
眼鏡をかけたあどけなさが残る少年である。クラスでも目立たず、小町と同じ地味グループだった。
「来てくれたんだねっ 藤見さん」
喜色満面、真壁は言った。
小町はキョロキョロと辺りを見回す。どうやらスケバンの姿はないようだ。となると、やはりこれは告白なのだろうか。
「ごめんね。こんな所に呼び出して」
顔を赤らめ、モジモジしながら真壁は謝る。
「それで、話って?」
「うん。その、僕は、その」
何かを言い出そうとしてなかなか言い出せない真壁だった。だが、深呼吸一つ――
「僕は藤見さんの事が好きです!!」
大声で真壁は言い放った。
その告白に小町の顔もみるみる赤くなる。
「それは、その、私が最近イメチェンしたから?」
「ううん。ずっと前から気になってたんだ。でも最近藤見さんすごく可愛くなっちゃたから、早く告白しないと誰かにとられちゃうと思って」
真壁の言葉に小町の胸は高鳴った。ずっと自分を見ていてくれた事を嬉しく思う。
「藤見さんっ、僕と付き合って下さい!」
真摯な瞳で真壁は小町を見る。
見たところ、とても悪い人には思えない。話した事もない相手だったが、それこそ付き合ってみなければ分からないだろう。それに告白されるなんて生まれて初めてだ。
――でも。
「ありがとう。でも、私はまだ男の人とは付き合えない」
小町は静かな声で告げた。
「どうしてですか?」
「大事な約束があってね。それを果たさなきゃいけないの。だから、ごめんなさい」
小町は頭を下げ、真壁に背を向けた。
校舎の角まで来ると、そこから覗いていた時子がいる。
「断っちゃったの?」
「ええ」
「どうして? いい人そうに見えたけど」
「ギャル子さんを幸せにするって約束がありますからね。ちゃんと任せられる彼氏を見つけてからですよ」
「ごめんね。私のせいで」
「いや、責めるつもりはないですよ。それにやっぱり私には彼氏は早いかなぁって」
小町は顔を俯かせる時子の手を握った。
「さあギャル子さん。明日からはもっと頑張りましょう」
そして次の日の朝――
「あら小町。元に戻しちゃったの?」
「おはよう、わかちゃん。ま、私にはこの姿が分相応だよ。スカート短いと落ち着かないし」
そう応える小町だったが、時子に買ってもらった赤い眼鏡はちゃんとかけているのだった。
「うう……」
小町はみんなの視線が自分に集まっている気がした。もちろん自意識過剰だとは分かっているのだが。
スカートの裾を押さえ、顔を伏せて道を歩く。
「――あら小町。イメチェン?」
教室に入ると和花が声をかけてきた。
「見ないで! こんな私を見ないで!」
小町は思わず鞄で顔を隠す。
「いいじゃない。似合ってるわよ」
「……おかしくない?」
少し鞄をずらして顔を覗かせ、自信なさげに問いかけた。
「可愛い可愛い」
和花は親友の突然のイメチェンに笑顔を返す。その評価にとりあえず安心する小町だった。
とは言え、やはりクラスの皆の視線が気になる。小声で話しているのを見ると、自分の悪口を言われているのではないかと心配になった。
そわそわしながら一日を過ごした小町だったが、次の日も朝から時子に起こされて同じ格好をさせられる。そんな日々が一週間ほど続いたある日――
朝、下駄箱を開けると白い封筒が靴の上にのっていた。
小町は一旦下駄箱を閉め、自分の下駄箱かどうかを確認する。名札には間違いなく小町の名前がある。
下駄箱を再び開け、封筒を手に取った。宛名は小町宛、裏返してみるが差出人の名前はない。
「あら、ラブレターね」
一緒に登校していた時子がそれを見て言う。
「いやいやいや、待って下さい。実は果たし状という可能性も」
「いつから小町は武闘家になったの?」
とりあえず手紙を鞄にしまい、二人は教室に入る。
机についた小町は隠れるようにして手紙の封を切った。
「なんて書いてあるの?」
横から時子が覗き込む。
「話があるから放課後校舎裏まで来て下さい――とだけ。中にも名前はありませんね」
「良かったじゃない。これは告白されるわね」
「どうでしょうか。別に好きですとも書いてありませんし」
――おい、藤見。最近お前色気づいてるんじゃねーか。
――スカートそんなに短くしてよ。男誘ってるのか。
――ギャリソンに男回してもらってるんだろ。
小町の頭の中では自分がスケバンに囲まれている姿が浮かんでいた。ちなみに小町の高校の制服はブレザーだが、スケバンは長いスカートのセーラー服だ。
「ギャル子さんはそんな人じゃありません!」
自分の妄想に抗議する小町。
「いきなりどうしたの?」
「ああ、いえ。もしかするとスケバンにシメられるのかも」
「小町の頭の中は昭和なの?」
「ギャル子さん、ついてきて下さい。お願いします」
「うん。いいけど」
放課後、期待半分不安半分で小町は校舎裏へと向かった。その後ろを尾行するように時子が続く。
待っていたのは同じクラスの男子だった。名前は確か――真壁だったはずだ。
眼鏡をかけたあどけなさが残る少年である。クラスでも目立たず、小町と同じ地味グループだった。
「来てくれたんだねっ 藤見さん」
喜色満面、真壁は言った。
小町はキョロキョロと辺りを見回す。どうやらスケバンの姿はないようだ。となると、やはりこれは告白なのだろうか。
「ごめんね。こんな所に呼び出して」
顔を赤らめ、モジモジしながら真壁は謝る。
「それで、話って?」
「うん。その、僕は、その」
何かを言い出そうとしてなかなか言い出せない真壁だった。だが、深呼吸一つ――
「僕は藤見さんの事が好きです!!」
大声で真壁は言い放った。
その告白に小町の顔もみるみる赤くなる。
「それは、その、私が最近イメチェンしたから?」
「ううん。ずっと前から気になってたんだ。でも最近藤見さんすごく可愛くなっちゃたから、早く告白しないと誰かにとられちゃうと思って」
真壁の言葉に小町の胸は高鳴った。ずっと自分を見ていてくれた事を嬉しく思う。
「藤見さんっ、僕と付き合って下さい!」
真摯な瞳で真壁は小町を見る。
見たところ、とても悪い人には思えない。話した事もない相手だったが、それこそ付き合ってみなければ分からないだろう。それに告白されるなんて生まれて初めてだ。
――でも。
「ありがとう。でも、私はまだ男の人とは付き合えない」
小町は静かな声で告げた。
「どうしてですか?」
「大事な約束があってね。それを果たさなきゃいけないの。だから、ごめんなさい」
小町は頭を下げ、真壁に背を向けた。
校舎の角まで来ると、そこから覗いていた時子がいる。
「断っちゃったの?」
「ええ」
「どうして? いい人そうに見えたけど」
「ギャル子さんを幸せにするって約束がありますからね。ちゃんと任せられる彼氏を見つけてからですよ」
「ごめんね。私のせいで」
「いや、責めるつもりはないですよ。それにやっぱり私には彼氏は早いかなぁって」
小町は顔を俯かせる時子の手を握った。
「さあギャル子さん。明日からはもっと頑張りましょう」
そして次の日の朝――
「あら小町。元に戻しちゃったの?」
「おはよう、わかちゃん。ま、私にはこの姿が分相応だよ。スカート短いと落ち着かないし」
そう応える小町だったが、時子に買ってもらった赤い眼鏡はちゃんとかけているのだった。
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