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地味子とイメチェン
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「よう、時子。オレと付き合わねーか?」
校舎裏、壁ドンしながら男は言った。
ガタイのいい体格で、耳にはピアス、首には金のネックレスをしたガラの悪そうな男である。
と、着信を告げるメロディーが時子のポケットから流れた。
「失礼」
一言断って、時子はスマホを耳に当てる。
「NGです。きっぱりフッてやって下さい。しつこいようならぶん投げていいですよ」
スマホから聞こえるのは小町の声だ。
「残念ですがあなたとはお付き合いできません」
時子は身体をずらして壁ドンから抜けると、男に背を向けた。
「あぁ、待てよ。オレのどこが気にいらねーんだ?」
男は時子の肩を掴む。
時子は再びスマホを耳に当てた。
「ガラが悪くて頭も悪そうで、ついでに足が臭そうと言ってます」
「なっ、ふざけんなよ。ヤリマンのくせにお高くとまってるんじゃねーよ」
「離してくれませんか」
「だったらせめて一発くらいヤらせ――」
最後まで言い終わる事なく、男の身体は地面に転がされる。
「ぐぁ!」
「では失礼します」
「ったく、なんであんなのばかり寄ってくるんでしょうね」
「仕方ないよ。あいつが言ってた事も事実だし」
時子は陰から見守っていた小町と合流する。
「相手はあんなのばっかりにしても、ギャル子さんはやっぱモテますねぇ」
「小町もモテたいの?」
「いやいや、私のような地味子が滅相もない」
「……」
「そうですよ。モテたいですよ。私だってバラ色の高校生活を送りたいんです」
「小町」
そう言って時子は小町の肩に手を置き、その顔をじっと見つめた。
「ギャル子さん?」
「うん。小町は充分に可愛いよ。それに胸も大きいし」
「身体目当てなのはちょっと……」
「任せて、私が小町をプロデュースしてあげる」
そして休日、小町と時子の二人は小町行きつけの眼鏡店へと足を運んだ。
「まずはその野暮ったい眼鏡をどうにかしよう」
「ええ!? これは私のアイデンティティーですよ。眼鏡が私、私が眼鏡。すでに眼鏡が本体と言っても過言ではありません」
時子の提案に小町は眼鏡をクイクイと動かしながら答える。
「コンタクトにしないの?」
「無理ですっ。目の中にあんな物を入れるなんて怖くて出来ませんっ」
「仕方ないなぁ。じゃあせめておしゃれな眼鏡を選ぶね」
時子は展示されている眼鏡を吟味する。
「うん、これがいい」
選んだのは真っ赤なフレームの眼鏡である。
「いや、そんな派手なの私に似合いませんよ」
「いいからかけてみて」
小町の眼鏡を奪うと、時子は赤いフレームの眼鏡をかけさせる。
「うん。似合う似合う」
「えー、やっぱ派手ですよ」
鏡を覗き込みながら小町が言う。
「大丈夫。これを買おう」
時子に言われ、小町はフレームについた値札を見た。
「いや、無理です。こんな高いの買えませんよ」
「ん? じゃあ私がプレゼントするね」
「そんな、悪いですよ」
「いいのいいの。小町にはお世話になったんだからそのお礼」
と言うわけで、小町はその眼鏡を購入した。一応視力検査もしてもらったが、悪くなってはいなかった。時子が一番いいレンズを指定し、出来上がりは一週間後だ。
そして一週間後に眼鏡を受け取り、休日が明けた月曜日の朝――
「起きて、起きて小町」
ベッドでまどろんでいた小町を時子が揺り起こす。
「うう……ギャル子さん?」
「おはよう小町」
「何ですか……こんな朝早くに」
時計を見るが、いつも起きる時間より三十分も早い。
「言ったでしょ。小町をプロデュースするって」
「はぁ……?」
「まずは先に朝食を食べてきて」
時子に言われるまま、小町は朝食を食べて歯を磨き、顔を洗って部屋に戻る。
「えーと、何をするんですか?」
「まずはそのボサボサの髪をなんとかしないとね。寝癖もついてるし」
「ああ、大丈夫です。後ろで結んじゃえば分かりませんから」
「駄目。せっかくの長い黒髪なんだからストレートで。さ、そこに座って」
時子は小町の背後に回り、整髪料を付けて髪を整え、ブラシを丁寧にかけた。
「ほんとはメイクもしたいところだけど、最低限これくらいわね」
そう言って小町の唇にリップクリームを塗る。
「よし、次は制服を着て」
小町がブレザータイプの制服を着ると、時子はベルトを取り出し、スカートを上へと上げて固定する。
「ちょっ、ギャル子さん。こんなに短いと恥ずかしいですよ」
「いいからいいから。ほら、可愛く出来た」
時子は姿見の前に小町を立たせた。
鏡に映った姿はいつもの小町ではなく、今時の女子高生と言った感じだった。赤い眼鏡もいいアクセントになっている。
「今日からはその格好で学校に行ってね」
「えええーーー!」
小町は素っ頓狂な声を上げるのだった。
校舎裏、壁ドンしながら男は言った。
ガタイのいい体格で、耳にはピアス、首には金のネックレスをしたガラの悪そうな男である。
と、着信を告げるメロディーが時子のポケットから流れた。
「失礼」
一言断って、時子はスマホを耳に当てる。
「NGです。きっぱりフッてやって下さい。しつこいようならぶん投げていいですよ」
スマホから聞こえるのは小町の声だ。
「残念ですがあなたとはお付き合いできません」
時子は身体をずらして壁ドンから抜けると、男に背を向けた。
「あぁ、待てよ。オレのどこが気にいらねーんだ?」
男は時子の肩を掴む。
時子は再びスマホを耳に当てた。
「ガラが悪くて頭も悪そうで、ついでに足が臭そうと言ってます」
「なっ、ふざけんなよ。ヤリマンのくせにお高くとまってるんじゃねーよ」
「離してくれませんか」
「だったらせめて一発くらいヤらせ――」
最後まで言い終わる事なく、男の身体は地面に転がされる。
「ぐぁ!」
「では失礼します」
「ったく、なんであんなのばかり寄ってくるんでしょうね」
「仕方ないよ。あいつが言ってた事も事実だし」
時子は陰から見守っていた小町と合流する。
「相手はあんなのばっかりにしても、ギャル子さんはやっぱモテますねぇ」
「小町もモテたいの?」
「いやいや、私のような地味子が滅相もない」
「……」
「そうですよ。モテたいですよ。私だってバラ色の高校生活を送りたいんです」
「小町」
そう言って時子は小町の肩に手を置き、その顔をじっと見つめた。
「ギャル子さん?」
「うん。小町は充分に可愛いよ。それに胸も大きいし」
「身体目当てなのはちょっと……」
「任せて、私が小町をプロデュースしてあげる」
そして休日、小町と時子の二人は小町行きつけの眼鏡店へと足を運んだ。
「まずはその野暮ったい眼鏡をどうにかしよう」
「ええ!? これは私のアイデンティティーですよ。眼鏡が私、私が眼鏡。すでに眼鏡が本体と言っても過言ではありません」
時子の提案に小町は眼鏡をクイクイと動かしながら答える。
「コンタクトにしないの?」
「無理ですっ。目の中にあんな物を入れるなんて怖くて出来ませんっ」
「仕方ないなぁ。じゃあせめておしゃれな眼鏡を選ぶね」
時子は展示されている眼鏡を吟味する。
「うん、これがいい」
選んだのは真っ赤なフレームの眼鏡である。
「いや、そんな派手なの私に似合いませんよ」
「いいからかけてみて」
小町の眼鏡を奪うと、時子は赤いフレームの眼鏡をかけさせる。
「うん。似合う似合う」
「えー、やっぱ派手ですよ」
鏡を覗き込みながら小町が言う。
「大丈夫。これを買おう」
時子に言われ、小町はフレームについた値札を見た。
「いや、無理です。こんな高いの買えませんよ」
「ん? じゃあ私がプレゼントするね」
「そんな、悪いですよ」
「いいのいいの。小町にはお世話になったんだからそのお礼」
と言うわけで、小町はその眼鏡を購入した。一応視力検査もしてもらったが、悪くなってはいなかった。時子が一番いいレンズを指定し、出来上がりは一週間後だ。
そして一週間後に眼鏡を受け取り、休日が明けた月曜日の朝――
「起きて、起きて小町」
ベッドでまどろんでいた小町を時子が揺り起こす。
「うう……ギャル子さん?」
「おはよう小町」
「何ですか……こんな朝早くに」
時計を見るが、いつも起きる時間より三十分も早い。
「言ったでしょ。小町をプロデュースするって」
「はぁ……?」
「まずは先に朝食を食べてきて」
時子に言われるまま、小町は朝食を食べて歯を磨き、顔を洗って部屋に戻る。
「えーと、何をするんですか?」
「まずはそのボサボサの髪をなんとかしないとね。寝癖もついてるし」
「ああ、大丈夫です。後ろで結んじゃえば分かりませんから」
「駄目。せっかくの長い黒髪なんだからストレートで。さ、そこに座って」
時子は小町の背後に回り、整髪料を付けて髪を整え、ブラシを丁寧にかけた。
「ほんとはメイクもしたいところだけど、最低限これくらいわね」
そう言って小町の唇にリップクリームを塗る。
「よし、次は制服を着て」
小町がブレザータイプの制服を着ると、時子はベルトを取り出し、スカートを上へと上げて固定する。
「ちょっ、ギャル子さん。こんなに短いと恥ずかしいですよ」
「いいからいいから。ほら、可愛く出来た」
時子は姿見の前に小町を立たせた。
鏡に映った姿はいつもの小町ではなく、今時の女子高生と言った感じだった。赤い眼鏡もいいアクセントになっている。
「今日からはその格好で学校に行ってね」
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