ギャル子さんと地味子さん

junhon

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ギャル子と部活②

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 次の日、小町と時子は部活巡りを開始した。
「ギャル子さん、確か運動も得意でしたよね」
「ええ、まあ」
「よし、じゃあまずは運動部から」
 時子に似合いそうと言う事で、まずはテニス部を訪れる。
 なんと言うか、いかにもキラキラしたリア充っぽい人たちばかりで、ここなら時子も浮いたりしないだろう。
 試しに試合をすることになり、時子は借りたラケットを握った。
「は!」
 時子は華麗にサーブを決める。その姿に周りの視線が集まった。特に男子。
「ギャル子さん! パンツ! パンツ見えてます!」
 サーブの瞬間、短いスカートがまくれ上がり、黒い下着が覗いたのだ。
「ん~、別にいいよ。減るもんじゃないし」
「駄目ですよっ」
 と言う事で一旦中断。時子はテニスウェアも借りてそれに着替えた。
「ふぉおおお! お似合いですよギャル子さん」
「そうかな?」
 時子はスカートを摘まんで首を傾げる。
 そして試合再開。時子は次々とサーブを決め、一セットをとった。
「ギャル子さん、テニスやってたんですか?」
「うん。子供の頃に別荘で」
「あなた筋がいいわね。良かったらテニス部に入らない?」
 女子テニス部の部長が声をかけてくる。
「う~ん、すみません。やめておきます」
 時子はそう答え、二人はお礼を言ってテニスコートを去った。
「どうして入らないんですか?」
 小町は時子に訊ねる。テニスも上手いしもったいないと思うのだ。
「うん。なんか勝敗がつくのって、嫌かなぁって感じがするの」
「そうですか。でも、そうなると運動部は駄目ですね」
 と言うわけで、次に二人は軽音楽部を訪れた。
 ここも派手な見た目の人たちばかりで、時子に合っていそうだ。
「部活見学? 歓迎するよ」
 金髪ツンツン頭の先輩が迎えてくれる。
「ウチはヴィジュアル系ハードロックでね。キミみたいな子はピッタリだ」
「ギター触ってもいいですか?」
「どうぞ」
 先輩の了承を得た時子は、壁に立てかけられているギターを手に取った。
 弦をつま弾き、チューニングを確かめると、おもむろにギターをかき鳴らす。
 ギュイィーーーン。
 続いていかにもハードな曲を奏でだした。小町の知らない曲だが、上手い事は分かる。
「おお! すごいじゃないか。是非ともウチの部へ入ってくれ」
 先輩は興奮気味に時子を勧誘する。
 と、その時、部室のドアが開いた。
「チース」
 現れたのは金髪ロン毛のチャラい男――かつて時子と関係を持っていた一人、金城であった。
「「「あ!?」」」
 三人の視線が絡み合う。
「ギャル子さん、ここは駄目です」
「そうね」
 二人は逃げるように軽音楽部を後にした。
 その後、合唱部で時子は綺麗な歌声を響かせ――
 美術部では見事なデッサンを仕上げ――
 書道部では達筆を披露した。
 落語研究会ではすらすらと『時そば』をそらんじ――
 ゲーム部ではハイスコアを叩き出し――
 茶道部では完璧な所作でお茶をいただいた。
「つーか、ギャル子さん何でも出来るじゃないですか」
 小町は時子のスペックに驚嘆する。
「まあ、子供の頃にママに色々教わったからね」
「で、何か気に入ったのはありましたか?」
「うーん、どれもしっくりこないんだよね」
「そうですか……」
「そう言えば、小町は何か部活やってるの?」
「ええ、私は文芸部ですが」
「じゃあ、私もそこにするわ」



「と言うわけで、入部希望のギャリソン時子さんです」
「おう、歓迎するよ」
 文芸部部長の三年生、菅野羽海かんのうみはノートパソコンのキーボードを叩きながら、顔も上げずに応じた。
 残りの部員たちは遠巻きに時子を眺めている。
 なにせ小町を含め、文芸に興味があるようなのは皆地味な生徒ばかりだ。派手な金髪美人の時子は浮きまくっていた。
「ギャリソン時子ことギャル子です。よろしくお願いします」
「ギャル子さん、それ逆」
「よろしく、私が部長の菅野羽海だ。まあ、楽にしてくれ」
 ここか、ここがいいのか?
 やめろ、ああ……そこは……。
 何やらブツブツと呟きながら、羽海はキーボードに指を走らせる。
「部長さんは何やってるの?」と、時子が横の小町に訊ねる。
「趣味で小説を書いてるんですよ。しかもエロいの」
「官能小説と言いたまえ、藤見くん」
「それはいいですけど、ブツブツと書いてる内容を声に出すのはやめて下さい」
「この方が筆がのるのだよ」
「へぇ、どんなの書いているんですか?」
「興味あるかい? 何だったらそこの棚に私が書いた同人誌が」
 時子は棚に手を伸ばし、薄い本を手に取った。
 表紙には裸の美青年同士が絡み合っている絵が描かれている。
「? 女の子がいないけど」
「部長の書いているのはボーイズラブ。つまり男同士の恋愛ものです」
 時子の問いに小町が答える。小町もまあ、嫌いではない。
「なるほど、新しい世界だわ」
 時子は立ったまま本を読み進めた。
「どうだい、濡れるかい?」
 羽海は少し期待を込めた顔で時子に問いかける。
「ちょっと部長、セクハラですっ」
 小町は羽海をたしなめるが、「いえ全然」と無表情なまま時子は答えた。
「くぅ、それは自信作だったのに」
「お気になさらないで下さい。私、心も不感症なので」
 肩を落とす羽海に時子は告げる。
「どういうことだい?」
「ギャル子さんは感情の起伏が極端に少ないんですよ。何を見ても心が動かないというか……」
 小町は補足説明を加えた。
「それよりここに誤字があります。それとここの表現はちょっとおかしいんじゃないでしょうか」
 時子は本を開いて羽海に見せる。
「確かに……。ふむ、文章を読み取る力はあるようだな。文芸部に入るのなら校正と編集をやってもらえないだろうか」
「いいですよ」
 こうして文芸部に新たな部員が加わった。



「さあ、部長。今日のノルマは原稿用紙二十枚分です。それと昨日の分は添削しておきましたので直して下さい」
 三角形の伊達眼鏡をかけた時子が赤ペンの入った紙束を羽海に渡す。
「うむ。しかし今日はいまいち筆がのらないのだが……」
「スケジュールは遅れています。それでは夏コミに間に合いませんよ」
「むむ、分かっているよ」
 羽海は顔をしかめながらもノートパソコンに向き直った。
「ギャル子さん、今度会誌に載せる僕の原稿も見てもらえないかな?」
「私のもお願いします」
 他の部員たちが次々と時子に声をかけてくる。
 敏腕編集者として、時子は文芸部での地位を確立したのであった。
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