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ギャル子とデート②
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「じゃあ、まずは映画でも」
大悟は時子を連れて映画館に入る。
帽子を目深に被った小町はその後を追った。
大悟が選んだ映画は『劇場版 軌道戦士ギャンダムNG~それは永遠の愛~』であった。
「あのロボオタ兄貴めぇ~」
柱の陰から見守りながら、小町が毒づく。
仕方なく、小町もチケットを買って後に続いた。
――そして映画が終わると、小町は目を潤ませながらパンフレットとポスターを手にしていた。
「はっ、いけない。つい感動の余韻で買ってしまった」
お宝をバッグにしまい、再び二人の後を追う。
二人はファミレスに入ってランチをとる。小町も離れた席からそれを見守った。
「いや~ さすが富田監督。素晴らしい出来だった」
「そうですね。手書きとCGを全く違和感なく融合させていました」
「そうだろう。なんと言っても作画監督が――」
それなりに会話は弾んでいるようだ。しかし、時子は話の内容については一切コメントしない――というより出来ないのだろう。
次に二人が訪れたのはゲームセンターだ。大悟はコックピットを模した筐体に入り、ロボット同士の対戦ゲームを始める。時子は店内の大型モニターでそれを眺めていた。
「つーか、ギャル子さんほっぽって何やってるのよっ」
完全に自分だけが楽しんでいる。
「彼女ー、一人?」
「オレらと遊ばない?」
案の定、一人の時子にチャラい男たち三人が声をかけてきた。
「ああもうっ、ギャル子さん目立つからな」
小町がどうしようか悩んでいると、ようやく一勝負終えた大悟が筐体から出てくる。
絡まれている時子を見つけ、しばし逡巡した後――
「あーキミたち。その子は俺の連れなんだが……」
弱々しく声をかける。
「あぁん?」
「引っ込んでろよ」
「こんな冴えないオッサンほっといてオレらと遊ぼうぜ」
一人が時子の肩に手を回そうとする。が、時子は体勢を入れ替えその腕を捻りあげた。
「なっ!? つ、痛、たたた」
「あなた方に用はありません。さっさと消えて下さい」
腕の関節を極めながら時子が言う。
「ちっ」
「ふん」
「ちょっ、待ってくれよ」
腕を極められていた男が慌てて後を追った。
「大丈夫だった? ギャルさん」
大悟はさすがに申し訳なさそうな顔で声をかける。
「ええ」
「すまん。頼りなくて……」
「いいですよ。私、こう見えて結構強いので」
「何かやってるのかい?」
「合気道を少々」
「へぇ」
そんな会話の後、二人はショッピングモールへと足を運ぶ。
やっとまともなデートになるかと思いきや、大悟が目指したのは大型の玩具店である。
時子そっちのけでギャンダムのプラモデルを吟味し、二つ買ってその店を後にした。
小町は頭が痛くなってきた。全くデートの相手を楽しませようという気遣いがない。
「そんなんだからモテないのよっ」
歯ぎしりしながら二人の後を追う。
と、繁華街にさしかかったところで時子が大悟の腕をとった。そのまま引きずるようにして裏手へと回る。
着いた先はネオンきらめく派手な建物――ラブホテルである。
「ちょっ、ギャル子さん!?」
大悟は腕を引きずられながら、その門をくぐった。
「な、な、な!?」
後を追いかけてきた小町が愕然とする。時子が何を考えているか全く分からない。
「もしかしてお兄ちゃんを気に入ったとか……」
そう呟く小町だったが、今日のデートを見る限りその可能性は低そうだ。
さすがに一人でラブホテルに入るわけにも行かず、やきもきしながらその場で待つ。
一分一秒がとても長く感じられたが、実際には十五分ほどして二人は門から出てきた。
「死ね! この変態兄貴!」
駆け寄った小町は大悟に向けてドロップキックをかまし、時子の腕をとる。
「大丈夫? ギャル子さん。何されたの?」
「ててて……おいこら、勝手に何かしたって決めつけるな! つーか何かしてたらこんなに早く出てこんわ!」
「お兄ちゃん……早漏だったのね」
「違う!」
「大丈夫。何もされてないわ」
時子はいつもの無表情で小町の問いに答える。
「本当?」
「ええ」
「一体何でこんな真似を?」
「そうね……お兄さんは私が今まで接してきた男の人とはずいぶんタイプが違うようだったから、少し試させてもらったの」
チラリと大悟を横目で見て、時子は続けた。
「裸になって誘惑したんだけど、フラれちゃったわ」
「酷い! ギャル子さんをフるなんて」
小町は大悟に顔を向け、文句を言う。
「お前は俺にどうしろって言うんだ!」
あまりの理不尽さに大悟も叫び返す。
「何でも好きな人がいるんだって」
そう言う時子だったが、残念なようにも傷ついているようにも見えない。
「……ふぅ。見直したよ、お兄ちゃん。好きな相手に操を立てるなんて」
小町の中で大悟の株が少し上がる。
「いいぞ。もっとこの兄を褒め称えろ」
妹に褒められ、大悟は気分良く答える。
「で、お兄ちゃんが好きな人って?」
「もちろん、ヒナコちゃんに決まっているだろ」
「……」
小町の尊敬のまなざしは哀れみへと変わったのだった。
大悟は時子を連れて映画館に入る。
帽子を目深に被った小町はその後を追った。
大悟が選んだ映画は『劇場版 軌道戦士ギャンダムNG~それは永遠の愛~』であった。
「あのロボオタ兄貴めぇ~」
柱の陰から見守りながら、小町が毒づく。
仕方なく、小町もチケットを買って後に続いた。
――そして映画が終わると、小町は目を潤ませながらパンフレットとポスターを手にしていた。
「はっ、いけない。つい感動の余韻で買ってしまった」
お宝をバッグにしまい、再び二人の後を追う。
二人はファミレスに入ってランチをとる。小町も離れた席からそれを見守った。
「いや~ さすが富田監督。素晴らしい出来だった」
「そうですね。手書きとCGを全く違和感なく融合させていました」
「そうだろう。なんと言っても作画監督が――」
それなりに会話は弾んでいるようだ。しかし、時子は話の内容については一切コメントしない――というより出来ないのだろう。
次に二人が訪れたのはゲームセンターだ。大悟はコックピットを模した筐体に入り、ロボット同士の対戦ゲームを始める。時子は店内の大型モニターでそれを眺めていた。
「つーか、ギャル子さんほっぽって何やってるのよっ」
完全に自分だけが楽しんでいる。
「彼女ー、一人?」
「オレらと遊ばない?」
案の定、一人の時子にチャラい男たち三人が声をかけてきた。
「ああもうっ、ギャル子さん目立つからな」
小町がどうしようか悩んでいると、ようやく一勝負終えた大悟が筐体から出てくる。
絡まれている時子を見つけ、しばし逡巡した後――
「あーキミたち。その子は俺の連れなんだが……」
弱々しく声をかける。
「あぁん?」
「引っ込んでろよ」
「こんな冴えないオッサンほっといてオレらと遊ぼうぜ」
一人が時子の肩に手を回そうとする。が、時子は体勢を入れ替えその腕を捻りあげた。
「なっ!? つ、痛、たたた」
「あなた方に用はありません。さっさと消えて下さい」
腕の関節を極めながら時子が言う。
「ちっ」
「ふん」
「ちょっ、待ってくれよ」
腕を極められていた男が慌てて後を追った。
「大丈夫だった? ギャルさん」
大悟はさすがに申し訳なさそうな顔で声をかける。
「ええ」
「すまん。頼りなくて……」
「いいですよ。私、こう見えて結構強いので」
「何かやってるのかい?」
「合気道を少々」
「へぇ」
そんな会話の後、二人はショッピングモールへと足を運ぶ。
やっとまともなデートになるかと思いきや、大悟が目指したのは大型の玩具店である。
時子そっちのけでギャンダムのプラモデルを吟味し、二つ買ってその店を後にした。
小町は頭が痛くなってきた。全くデートの相手を楽しませようという気遣いがない。
「そんなんだからモテないのよっ」
歯ぎしりしながら二人の後を追う。
と、繁華街にさしかかったところで時子が大悟の腕をとった。そのまま引きずるようにして裏手へと回る。
着いた先はネオンきらめく派手な建物――ラブホテルである。
「ちょっ、ギャル子さん!?」
大悟は腕を引きずられながら、その門をくぐった。
「な、な、な!?」
後を追いかけてきた小町が愕然とする。時子が何を考えているか全く分からない。
「もしかしてお兄ちゃんを気に入ったとか……」
そう呟く小町だったが、今日のデートを見る限りその可能性は低そうだ。
さすがに一人でラブホテルに入るわけにも行かず、やきもきしながらその場で待つ。
一分一秒がとても長く感じられたが、実際には十五分ほどして二人は門から出てきた。
「死ね! この変態兄貴!」
駆け寄った小町は大悟に向けてドロップキックをかまし、時子の腕をとる。
「大丈夫? ギャル子さん。何されたの?」
「ててて……おいこら、勝手に何かしたって決めつけるな! つーか何かしてたらこんなに早く出てこんわ!」
「お兄ちゃん……早漏だったのね」
「違う!」
「大丈夫。何もされてないわ」
時子はいつもの無表情で小町の問いに答える。
「本当?」
「ええ」
「一体何でこんな真似を?」
「そうね……お兄さんは私が今まで接してきた男の人とはずいぶんタイプが違うようだったから、少し試させてもらったの」
チラリと大悟を横目で見て、時子は続けた。
「裸になって誘惑したんだけど、フラれちゃったわ」
「酷い! ギャル子さんをフるなんて」
小町は大悟に顔を向け、文句を言う。
「お前は俺にどうしろって言うんだ!」
あまりの理不尽さに大悟も叫び返す。
「何でも好きな人がいるんだって」
そう言う時子だったが、残念なようにも傷ついているようにも見えない。
「……ふぅ。見直したよ、お兄ちゃん。好きな相手に操を立てるなんて」
小町の中で大悟の株が少し上がる。
「いいぞ。もっとこの兄を褒め称えろ」
妹に褒められ、大悟は気分良く答える。
「で、お兄ちゃんが好きな人って?」
「もちろん、ヒナコちゃんに決まっているだろ」
「……」
小町の尊敬のまなざしは哀れみへと変わったのだった。
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