ギャル子さんと地味子さん

junhon

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ギャル子とパパ①

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「時子、愛してるよ時子」
 ベッドの上、肌を晒した時子の上に覆い被さり男は呟く。
「お前は私を置いていなくなったりしないよな」
 いつもの繰り言だった。時子は無表情なままそれを聞き流す。
「お前は私だけのものだ。私だけの……」
 腰を激しく振りながら、同じ台詞を何度も繰り返す。
 時子は天井を見つめたまま、ただ時間が過ぎるのを待っていた。



「とりあえず男性問題の一人は片付いたわけですが」
 昼休みの屋上、お弁当を食べながら小町は切り出す。
「残りの四人ってどんな人なんですか?」
「写真ならあるよ。見る?」
 時子がスマホを取り出す。小町はそれを覗き込んだ。
 画面をスライドさせながら、時子が付き合っている男子生徒達の写真を見せていく。
「どいつもこいつもチャラそうな人たちですね……って、あわわわ」
 その中の一枚は裸の時子が後ろから男に抱きかかえられ、二人でピースサインを出していた。
「あ、ごめん。これはハメ撮りをした時の写真だ」
「ギャル子さーん」
 何とも言えない表情でつっこむ小町。
「とにかく、なんでこんな人たちと付き合ってるんですか?」
「告白されたからね。見た目はチャラくても付き合ってみないと分からないでしょう」
「で、その内面は?」
「うん、やっぱりチャラい」
「……すぐに別れて下さい」
 額に青筋を浮かべながら小町は言った。



 数日後、再び屋上にて――
「とりあえず、小町の言うとおり、他に好きな人が出来たからって理由で別れてきたけど」
「上出来です。いいですかギャル子さん。これからは告白されてもすぐにOKしないで下さい。まずは私に相談する事。私が相手を見極めます」
 小町自身、男を見極める目があるかは疑問だったが、時子よりはマシだろう。
「うん、分かった」
「ふぅ……これですっきりしましたね」
 晴れ晴れとした顔の小町に時子が口を挟む。
「……実はさ。他にもあと一人、関係を持っている人がいるんだよね」
「え? 誰ですか?」
「私のパパ」
「えーと、それは援助交際をしているパパではなく……」
「うん、血の繋がった実の父親」
――ひゅるるるるる。
 二人の間を風が吹き抜ける。
「どちくしょう! まだこんな重い設定が残っていたとは!」
 小町は拳を屋上の床に叩きつけた。



「一体何でそんな事に?」
 気を取り直し、小町は時子に訊ねる。
「そうね。ママが交通事故で死んでからパパ少しおかしくなってね。中一の時に無理矢理。それからずっとね」
「少しおかしいどころじゃないですよ! 鬼畜の所業です!」
「パパも寂しかったんじゃあないのかなぁ」
「それで済ませていいんですかっ?」
――ギャル子さんの人生ヘヴィすぎる。
「それこそ警察に通報するような事案ですよ」
「でもパパだから。罪に問われるような目に遭わせたくないのよね」
「とにかく、通報するにしても証拠が欲しいですね」
「それなら私の家に来る?」
「行きましょう」
 小町は時子を救うべく、大きく頷いた。



 時子の家は山の手の高級住宅街にあった。
「ギャル子さんの家ってお金持ちなんですか?」
 広い庭付きの立派な家を眺めながら小町が訊ねる。
「パパ、外資系の結構大きな会社の日本支部長だからね」
 そう言って時子が玄関の鍵を開ける。と言ってもドアハンドルのボタンを押すだけだ。最新式のスマートキー仕様になっていた。
「――ここがパパの書斎」
 時子に案内されたのは、重厚な木製のドアが備えられたとある一室だった。
「くっ、何ですかこの電子ロックは……よっぽど見られたくないものがありそうですね」
 小町は適当に数字を押してみた。しかし、当然ながら開かない。
「ギャル子さん、番号知らないんですか?」
「知らないけど……多分」
 そう言って時子は迷いなくキーを押した。
 ガチャリ――と鍵が開く音がする。
「すごい。よく分かりましたね」
「うん。ママの生まれた日だった」
「…………」
 ドアを開け、時子に続いて中に入った小町は思わず声を上げる。
「な、何なんですか。これ!?」
 四方の壁という壁に時子の写真が貼られている。普通のスナップ写真もあれば全裸の姿もあった。
 娘に対する異常なまでの偏愛と薄ら寒い狂気を感じさせる部屋だ。
 まだ幼い子供の頃から今に至るまで、ありとあらゆる時子の姿がそこにあった。
「ギャル子さん、昔は髪が長かったんですね。なんで切っちゃたんですか?」
 中学くらいまでの時子はロングヘアだった。
「別に理由はないよ。何となく気分転換で」
 と、小町は時子の家族写真を見つけた。ブロンドヘアの外国人男性と長い黒髪の日本人女性の間に挟まれ、今と同じ無表情な時子の姿があった。
「この人がギャル子さんのお父さんとお母さん?」
「うん。ママが死ぬ前の最後の一枚だね」
 それだけ見ればごく普通の家族の記念写真だ。きっと母親の死によってこの父娘おやこの運命は狂ってしまったのだろう。
 小町は壁の写真の中から、裸の時子の写真を何枚か選んでポケットにしまった。これだけで十分性的虐待の証拠にはなるだろう。
「ここを出ましょう。ギャル子さん」
 小町は吐き捨てるように言い放つ。長居をしていれば自分まで狂気に犯されそうだった。
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