メイプル・ハンティング

junhon

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私の名は

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 それは暦の上では秋といいながら、最高気温が二十五度を頻繁に越えていた十月が終わり、やっと肌寒くなった十一月半ばのことだった。
 
 登校して席に着いたわたしがカバンの中の教科書を机に移していると、勢いよく教室の扉を開いた金髪ツインテールの少女が大股でこちらへと向かってくる。その表情はこわばり何やら危なげだ。
 
「おはよう、マルカ」

 私はその様子を怪訝けげんに思いながらも、ドイツからの留学生マルカ・クリストフに声をかける。席が近かったのとオタク趣味という共通点から、今では一番の友人だ。
 
「あなたは私が守るわ」

 しかしマルカは挨拶に答えることなく、手のひらを私の机にたたきつけてそう言い放った。
 
「……え~と、どういうこと?」

 なにがどうしてそうなったのかまったく想像がつかないが、マルカの瞳は真剣そのものだ。
 
「大丈夫、私に任せておいて」

 なんの説明にもなっていない言葉を残し、マルカは男子の席を挟んだ一つ隣に腰を下ろす。問い詰めたかったが何やらせわしげにスマホであちこちへと連絡を取っているみたいで、話しかけるのも躊躇ためらわれた。
 
 一時限目の授業が終わり、私が朝のことをマルカにたずねようと席を立ったとき、外からパラパラとヘリコプターのローターが風を切る音が聞こえてくる。しかもその音はどんどん大きくなり、校舎の直上で停止した。男子生徒の何人かが様子を見ようと窓を開けたところで、ヘリから下ろされたロープを伝って迷彩服に身を包んだ三人の男性が教室へと飛び込んでくる。
 
 皆が呆気あつけにとられている中、マルカが進み出る。
 
「よく来てくれたわね」

「「イエス、マム!」」

 三人はマルカに向かって敬礼を返した。
 
「マルカ様の装備もこちらに」

 男の一人ひとりが肩に担いでいた大きなコンテナを下ろす。マルカはその中から取り出したベスト状のアーマーなどを制服の上から装備し、ライフルを手に取る。
 
「よし、これで準備はオッケーね」

「ちょ、ちょっと、マルカ。これは一体何なの?」

 突然の出来事に唖然あぜんとしていた私は、やっとここで口を挟むことが出来た。
 
「もう大丈夫よ、パパの伝手つてで最強の傭兵ようへいを手配してもらったわ」

 マルカは自信満々にそうこたえる。
 
「神業スナイパーにしてマルセイユの種馬の異名を持つ男、フィリップ・ラーソン!」

「あらゆる武器を使いこなす一騎当千の一人軍隊、ディヴィッド・ランポー!」

「任務達成率100%、どんな地獄からも生還する不死身の男、パトリツィオ・レモンサワー!」

 マルカが三人の男性を順に紹介していく。
 
「この最強の布陣であなたを守り抜くわ」

「えーとね、そもそもどうして私が守ってもらわないといけないの?」

 私は根本的な疑問を訊ねる。
 
「分かっているのよ、この季節になるとあなたに危害を加えようとするやつらが現れるんでしょう」

「は? いや、そんな事はないけど……」

「え? だって狩られるんでしょ?」

「……!?」

 しばしの間をおき、私はようやく合点がいく。
 
 私の名前は「秋野あきの紅葉もみじ」というのだった。
 
 
 
~END~
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