スプリングファイト!

junhon

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スプリングファイト! レディーーゴオゥ!

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「さて、いよいよ決勝戦です! 果たして勝利の栄光をつかむのはどちらの〈春〉か? 解説の小春こはるさん、この勝負どう見ますか?」

 アナウンサーの盛夏せいかは、放送席で隣に座る小春にたずねた。
 
「はい、情報によるとこの二人ふたりは〈春紫苑ハルシオン流〉の師弟関係にあります。もちろん技量や経験は師である回春かいしゆんが上回っているでしょうが、青春せいしゆんはその若さからパワーや耐久力、スタミナ面では有利でしょう。弟子が師を越える事ができるのか? そこが見物ですね」

〈春〉の文字を含みながらも季節的には秋であるため、この戦いに参加できなかった小春はそう分析した。

「ありがとうございます。おっと、いよいよ両選手の入場です!」

 盛夏は身を乗り出し、大声を上げる。闘技場の東門から現れたのは、一見細身に見えるが引き締まった筋肉のついた十代後半の少年――青春だ。濃いピンク色の髪を短く刈り込み胴着に身を包んでいる。愛嬌のある顔に笑みを浮かべ、両手を挙げて観客の声援にこたえた。
 
 西門から現れたのは白髪を結い上げた老婆――回春だった。顔には深いシワが刻まれているが、その眼光は鋭く背筋もピンと伸びている。青春と同じデザインの胴着を身にまとっていた。
 
 両者は闘技場の真ん中へと歩を進め、数メートル離れて向かい合う。
 
「悪いっスけど優勝は俺がいただきますよ、回春師匠」

「ふんっ、まだまだ弟子に負けるほど耄碌もうろくしておらんわい」

 二人が短く言葉を交わしたところで、レフリーの秋桜コスモスが試合開始を告げる。
 
「スプリングファイト! レディーーゴオゥ!」

 その合図と共に青春と回春のこぶしが交差した。
 
――ここで〈スプリングファイト〉について解説しよう!

 スプリングファイトとは〈春〉の名を持つ者たちが、戦って戦って戦い抜いて最後の一人となった者に栄光の称号〈春一番〉が与えられるトーナメントバトルだ。
 
 青春と回春の激しい攻防が続く。しかし、次第に回春が押され始めた。回春の技量を青春は若さの体力と手数でねじ伏せつつある。
 
「回春師匠、そろそろ降参したらどうっスか?」

「ちっ、我が弟子ながらなかなかやるではないか。仕方ないのう、わしの奥の手を見せてやろう」

 回春は青春から距離を取ると、まぶたを閉じて複雑な印を結ぶ。
 
「回り巡れ! 我が春よ!」

 回春の身体を眩いピンク色の光が包む。そしてその光が収まった時、そこには十代半ばくらいの少女の姿があった。
 
 青春をはじめ、観客一同も唖然あぜんとして目が点になる。
 
「儂は己の肉体年齢を若返らせることが出来るのじゃ。これこそ回春の名を持つ者の異能力よ」

 回春の結い上げていた白髪は薄い桃色の長髪となってその背に流れ、肌もピチピチ艶々の美少女になっている。
 
「くっくっくっ、こうなってはもはやお前に勝ち目はないぞ。だからお前はアオなのだ!」

 そう嘲笑する回春に向かい、青春は叫んだ。
 
「好きです! 結婚してください!」

「……は? お、おま、お前、何を言って」

 回春は頬を赤くしながら狼狽ろうばいする。
 
一目惚ひとめぼれっス! 愛してます!」

「え、ええい! なにを巫山戯ふざけたことを。ちょっとドキッとしたが、あいにく儂は自分より弱い男なぞ眼中にないわ!」

「だったら、俺が勝ったら結婚してください!」

 青春は瞳に炎を宿しながらそう言い放つ。

「はっ、そんな事など有り得んがな!」

 しかし、回春は青春の青さを、若さを侮っていた。その思春期パワーと恋愛パワー、ついでに性欲リビドーを――
 
「勝者、青春! 〈春一番〉の称号は彼に与えられました!」

 レフリーの秋桜はそう高らかに宣言するのだった。
 
 
 
~END~
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