パパLOVE

卯月青澄

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櫻井詩織

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それから馬頭公園に急いで向かった。

公園の駐車場に到着すると、黒色のロールスロイスが停まっていたので、横付けして原チャを下りた。

すると運転席のドアが開いて中から30代くらいのそこそこ顔の良い執事的な男が出てきた。

見たことのない顔だった。

新入りだろうか?

でもどこかで会ったような気がした。

どこだっけ?

何か雰囲気が違うんだけど、会ってると思うんだよなぁ…。

「初めましてではないですよね?」

「そうですか?よくある顔なので間違われることがあるんですよ」

そう言っていたけど、高身長でスタイルが良く顔の良い男なんてモデルくらいしか見たことない。

「どうぞ中に」

男が後部座席を開けて中に入るよう促してきたので、男の顔をジロジロ見ながら中に入って行った。

男は終始笑顔で私の対応にあたっていた。

やっぱりこの人、どこかで会ってる。

思い出せないけど…

「詩織さん、わざわざ来てくれてありがとう」

「蓮…」

笑顔で出迎えてくれた蓮の顔を見たら動けなくなってしまった。

「どうかしました?」

蓮から目を離せないでいると声をかけられた。

「どうもしてない!」

私は何かわからかないけどイラついていた。

怒りながら車に乗ると、蓮は私を心配そうに見ていた。

「何でもないから見ないでよ」

「そう…」

私の言葉で蓮が一瞬寂しそうな顔をしたので、慌てて気持ちを切り替えた。

「日本にはいつまでいられるの?」

「2時間後の飛行機でニューヨークに戻るんだ」

「直ぐじゃん。一体何しに日本に戻って来たの?」

「それは…」

「もしかして私に会うために?」

「ちっ‥違うよ」

蓮の嘘を見破れないほど、私たちは伊達に8年も親友でいた訳じゃない。

「私が会いたいって言ったから、わざわざ仕事の合間に来てくれたんでしょ?」

「僕も詩織さんのことが気になってたから」

「だからって無理して来なくても…目の下にクマもできてるし、顔色もあまり良くないじゃん」

「顔が白いのは生まれつきだよ。それに日本に戻る飛行機の中で少しは寝てるから心配しないで」

「バカっ」

蓮の優しさが嬉しくて抱きしめずにはいられなかった。

初めて抱きしめた蓮は思った以上にか細くて、強く抱きしめたら壊れてしまいそうだった。

「ごめん、痛かった?」

蓮を抱きしめていた腕を離してそう聞いた。

「だっ‥大丈夫。それで新しい生活はどうなの?」

「聞きたいの?」

「そりゃあ聞きたいよ」

「じゃあ聞いてくれる?」

「うん」

それから私はここ数ヶ月の私の苦労話をこと細かく蓮に聞いてもらった。

蓮には私が櫻井泉水として、香澄の母親として生きて行くことは伝えていたけど、賛成も反対もされていなかった。

蓮はいつもそう。

私がすることは黙って見ている。

でも、何かあれば直ぐに手を差し伸べてくれる。

そういう人だった。

「そんなことがあったんだ。大変だったね?」

「私が母親なんて無理なのかな?私なんかじゃいずみんの代わりは出来ないのかな?」

「詩織さんなら出来るよ」

「自信ないよ」

蓮の前だと甘えさせてくれるから少しばかり弱気になってしまった。

「絶対に大丈夫。僕の知ってる詩織さんはどんなに逆境にたっても諦めない強い人だから。自分を信じてやってみて。それでも迷ったら僕が必ず救い出してあげるから」

私はその言葉で安心したのか横にいる蓮に寄りかかった。

肩に頭を乗せると優しく髪を撫でてくれた。

「今日は戻らないと駄目なの?」

「大事な仕事があるんだ」

「親友と仕事のどっちが大事なの?」

恋人同士や夫婦が言うようなセリフを恥ずかしげもなく言ってる私って何てバカなんだろう…

「そんなの決まってる」

「決まってるってどっち?」

「それは…」

「それは何なの?」

「それは…親友の詩織さんじゃない。僕が大事なのっ‥」

「そうなんだ。仕事の方が大事なんだ。だったらさっさとニューヨークでもどこでも行けばいいじゃん!」

「詩織さん…」

どうして私の方が大事だって嘘でも言ってくれないの?

言ってくれれば嘘でも嬉しいのに…

親友でも大事だって言われればそれだけで幸せなのに…

「さよなら!わざわざ会いに来てくれてありがとう。でも、もう無理して来てくれなくていいから!」

私は車を下りると、後部座席のドアを力いっぱい締めてやった。

そして車の横に停めてあった原チャにまたがると、ノーヘルで走り去った。

車から出てきた蓮が何か言ってるようだったけど構わず走り去ってやった。

当然だ。

私の心を傷つけ、悲しませたんだから。
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