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櫻井詩織
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日本で芸能界を引退した時は全ての仕事を片付けてから引退をした。
でも今回は違う。
直ぐに決断し行動に移さなければならなかった。
今現在、私のピアノコンサートのワールドツアーがこのあと何十件と控えていたし、国家規模のイベントやパーティーでのピアノ演奏も決まっていた。
TV出演やCDの発売も決定していた。
つまり今この時点での突然の引退は全ての仕事をキャンセルしなければならないということだった。
これがどんなに許されないことかもわかっていた。
これを強行すれば、私は2度とピアノの世界に戻ってくることが絶望的なことなのかはわかってる。
それでも今、海外での輝かしい栄光を選んだとするならば、私は生涯このことを悔やみ続けると思った。
そんな思いはしたくない。
いずみんとの約束も守らなければならない。
だから私はピアノを捨てる覚悟を決めた。
「香澄は私が育てるわ。いずみんと瓜二つの私なら、香澄の母親を演じることが出来る。ちっ‥違う…私が今日から香澄の母親になる」
香澄の記憶の中に、いずみんが死んでしまったという記憶がないと聞いた時から、このことは考えていた。
でもそれを言葉にするのは相当な覚悟が必要だった。
「何をバカなことを…」
「いずみんが死んでしまったことを香澄には言わない。墓場まで持ってくつもりよ。それが香澄のためなんだから」
何が正しくて何が間違っているかなんて、わからないし、どの決断が未来に繋がる最高の選択なんてわからない。
それでも今出来ることをしてあげたい。
私が今出来ることは、私が櫻井泉水になって香澄を育てていくということ。
私が香澄の母親になってあげること。
これしかなかった。
「彰さん、このマンションには私と香澄で暮らします。いいですか?」
「それがあの子にとっていいのなら…」
彰さんは全てを諦めてしまった人間のように私の目には映った。
「だったら香澄のことは私に任せてもらえますよね?」
「はい…でも、詩織さんにはピアノが…」
「私はピアニストです。ピアノさえあればどこでも弾くことは出来ます。あいにく、この部屋にはいずみんが使っていたピアノがあります。これで私は十分です」
「そうですか…ありがとうございます…」
「だったら、快斗は私が預からせてもらうわ」
私と彰さんの会話を黙って聞いていたお母さんが突然そんなことを言い出した。
「お母さんにまで迷惑はかけられません」
「迷惑な訳ないでしょ。私の孫よ。私の娘の泉水の子供なのよ。この子達が幸せになってくれるなら何だってするつもりよ」
「お母さん、詩織さん…本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません。私の出来ることは何でもします。お母さんと詩織さんの人生を私たち家族のために巻き込んでしまったこと、一生かかって償って行きます」
彰さんは涙を流しながら、私とお母さんに土下座をしてきた。
「1つだけ条件があるわ。香澄には彰くんと泉水は離婚したことにしてちょうだい。そしてあなたは泉水と快斗と香澄を捨てた父親ということにさせてちょうだい。そうすれば香澄はあなたには会おうとしないし、会わなければ危険な目にあうことないわ」
お母さんは土下座をする彰さんにそう言うと、肩に優しく手を置いて慰めてあげていた。
「あの娘のためなら何でもします…」
「本当にツラいと思うわ。でも、会わなくても出来ることはあるし、影で見守ることは出来るんだから耐えてちょうだい」
「はい…」
「そしてもし、香澄の記憶がこの先戻らなかった時は、香澄が高校生になったら全てを話しましょう」
「わかりました…」
お母さんは、そう言ったけど私は反対だった。
高校生になった香澄に記憶が戻ってないなら、私はそのままでいいと思った。
真実を伝えることは大切だし、香澄も知る権利はあると思う。
でも伝えるというのは区切りをつけたいという大人の勝手な思いであって、知らされた本人がどれだけ苦しみ悲しみ絶望するかということは全く考えていない。
知らないで幸せなら知らないままでいさせてあげるのも本当の優しさであり愛情のような気がする。
だから私は、お母さんの意見に反対した。
香澄に真実を伝えたいお母さんと真実は闇の中に葬ってしまった方が良いという私の意見は真っ向から対立した。
何を言い合ったところで答えは出なかった。
だから話し合いは平行線のまま幕を閉じた。
そして私はその日から香澄の母親になった。
あの事件から4日後に通夜が行われ、翌日に葬儀が行われた。
その間、私は香澄の側から決して離れなかった。
これからは、いずみんに代わって私が香澄を守り、育てていく。
絶対に幸せにしてみせる。
でも今回は違う。
直ぐに決断し行動に移さなければならなかった。
今現在、私のピアノコンサートのワールドツアーがこのあと何十件と控えていたし、国家規模のイベントやパーティーでのピアノ演奏も決まっていた。
TV出演やCDの発売も決定していた。
つまり今この時点での突然の引退は全ての仕事をキャンセルしなければならないということだった。
これがどんなに許されないことかもわかっていた。
これを強行すれば、私は2度とピアノの世界に戻ってくることが絶望的なことなのかはわかってる。
それでも今、海外での輝かしい栄光を選んだとするならば、私は生涯このことを悔やみ続けると思った。
そんな思いはしたくない。
いずみんとの約束も守らなければならない。
だから私はピアノを捨てる覚悟を決めた。
「香澄は私が育てるわ。いずみんと瓜二つの私なら、香澄の母親を演じることが出来る。ちっ‥違う…私が今日から香澄の母親になる」
香澄の記憶の中に、いずみんが死んでしまったという記憶がないと聞いた時から、このことは考えていた。
でもそれを言葉にするのは相当な覚悟が必要だった。
「何をバカなことを…」
「いずみんが死んでしまったことを香澄には言わない。墓場まで持ってくつもりよ。それが香澄のためなんだから」
何が正しくて何が間違っているかなんて、わからないし、どの決断が未来に繋がる最高の選択なんてわからない。
それでも今出来ることをしてあげたい。
私が今出来ることは、私が櫻井泉水になって香澄を育てていくということ。
私が香澄の母親になってあげること。
これしかなかった。
「彰さん、このマンションには私と香澄で暮らします。いいですか?」
「それがあの子にとっていいのなら…」
彰さんは全てを諦めてしまった人間のように私の目には映った。
「だったら香澄のことは私に任せてもらえますよね?」
「はい…でも、詩織さんにはピアノが…」
「私はピアニストです。ピアノさえあればどこでも弾くことは出来ます。あいにく、この部屋にはいずみんが使っていたピアノがあります。これで私は十分です」
「そうですか…ありがとうございます…」
「だったら、快斗は私が預からせてもらうわ」
私と彰さんの会話を黙って聞いていたお母さんが突然そんなことを言い出した。
「お母さんにまで迷惑はかけられません」
「迷惑な訳ないでしょ。私の孫よ。私の娘の泉水の子供なのよ。この子達が幸せになってくれるなら何だってするつもりよ」
「お母さん、詩織さん…本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません。私の出来ることは何でもします。お母さんと詩織さんの人生を私たち家族のために巻き込んでしまったこと、一生かかって償って行きます」
彰さんは涙を流しながら、私とお母さんに土下座をしてきた。
「1つだけ条件があるわ。香澄には彰くんと泉水は離婚したことにしてちょうだい。そしてあなたは泉水と快斗と香澄を捨てた父親ということにさせてちょうだい。そうすれば香澄はあなたには会おうとしないし、会わなければ危険な目にあうことないわ」
お母さんは土下座をする彰さんにそう言うと、肩に優しく手を置いて慰めてあげていた。
「あの娘のためなら何でもします…」
「本当にツラいと思うわ。でも、会わなくても出来ることはあるし、影で見守ることは出来るんだから耐えてちょうだい」
「はい…」
「そしてもし、香澄の記憶がこの先戻らなかった時は、香澄が高校生になったら全てを話しましょう」
「わかりました…」
お母さんは、そう言ったけど私は反対だった。
高校生になった香澄に記憶が戻ってないなら、私はそのままでいいと思った。
真実を伝えることは大切だし、香澄も知る権利はあると思う。
でも伝えるというのは区切りをつけたいという大人の勝手な思いであって、知らされた本人がどれだけ苦しみ悲しみ絶望するかということは全く考えていない。
知らないで幸せなら知らないままでいさせてあげるのも本当の優しさであり愛情のような気がする。
だから私は、お母さんの意見に反対した。
香澄に真実を伝えたいお母さんと真実は闇の中に葬ってしまった方が良いという私の意見は真っ向から対立した。
何を言い合ったところで答えは出なかった。
だから話し合いは平行線のまま幕を閉じた。
そして私はその日から香澄の母親になった。
あの事件から4日後に通夜が行われ、翌日に葬儀が行われた。
その間、私は香澄の側から決して離れなかった。
これからは、いずみんに代わって私が香澄を守り、育てていく。
絶対に幸せにしてみせる。
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