パパLOVE

卯月青澄

文字の大きさ
上 下
408 / 475
櫻井詩織

408

しおりを挟む
日本で芸能界を引退した時は全ての仕事を片付けてから引退をした。

でも今回は違う。

直ぐに決断し行動に移さなければならなかった。

今現在、私のピアノコンサートのワールドツアーがこのあと何十件と控えていたし、国家規模のイベントやパーティーでのピアノ演奏も決まっていた。

TV出演やCDの発売も決定していた。

つまり今この時点での突然の引退は全ての仕事をキャンセルしなければならないということだった。

これがどんなに許されないことかもわかっていた。

これを強行すれば、私は2度とピアノの世界に戻ってくることが絶望的なことなのかはわかってる。

それでも今、海外での輝かしい栄光を選んだとするならば、私は生涯このことを悔やみ続けると思った。

そんな思いはしたくない。

いずみんとの約束も守らなければならない。

だから私はピアノを捨てる覚悟を決めた。

「香澄は私が育てるわ。いずみんと瓜二つの私なら、香澄の母親を演じることが出来る。ちっ‥違う…私が今日から香澄の母親になる」

香澄の記憶の中に、いずみんが死んでしまったという記憶がないと聞いた時から、このことは考えていた。

でもそれを言葉にするのは相当な覚悟が必要だった。

「何をバカなことを…」

「いずみんが死んでしまったことを香澄には言わない。墓場まで持ってくつもりよ。それが香澄のためなんだから」

何が正しくて何が間違っているかなんて、わからないし、どの決断が未来に繋がる最高の選択なんてわからない。

それでも今出来ることをしてあげたい。

私が今出来ることは、私が櫻井泉水になって香澄を育てていくということ。

私が香澄の母親になってあげること。

これしかなかった。

「彰さん、このマンションには私と香澄で暮らします。いいですか?」

「それがあの子にとっていいのなら…」

彰さんは全てを諦めてしまった人間のように私の目には映った。

「だったら香澄のことは私に任せてもらえますよね?」

「はい…でも、詩織さんにはピアノが…」

「私はピアニストです。ピアノさえあればどこでも弾くことは出来ます。あいにく、この部屋にはいずみんが使っていたピアノがあります。これで私は十分です」

「そうですか…ありがとうございます…」

「だったら、快斗は私が預からせてもらうわ」

私と彰さんの会話を黙って聞いていたお母さんが突然そんなことを言い出した。

「お母さんにまで迷惑はかけられません」

「迷惑な訳ないでしょ。私の孫よ。私の娘の泉水の子供なのよ。この子達が幸せになってくれるなら何だってするつもりよ」

「お母さん、詩織さん…本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません。私の出来ることは何でもします。お母さんと詩織さんの人生を私たち家族のために巻き込んでしまったこと、一生かかって償って行きます」

彰さんは涙を流しながら、私とお母さんに土下座をしてきた。

「1つだけ条件があるわ。香澄には彰くんと泉水は離婚したことにしてちょうだい。そしてあなたは泉水と快斗と香澄を捨てた父親ということにさせてちょうだい。そうすれば香澄はあなたには会おうとしないし、会わなければ危険な目にあうことないわ」

お母さんは土下座をする彰さんにそう言うと、肩に優しく手を置いて慰めてあげていた。

「あの娘のためなら何でもします…」

「本当にツラいと思うわ。でも、会わなくても出来ることはあるし、影で見守ることは出来るんだから耐えてちょうだい」

「はい…」

「そしてもし、香澄の記憶がこの先戻らなかった時は、香澄が高校生になったら全てを話しましょう」

「わかりました…」

お母さんは、そう言ったけど私は反対だった。

高校生になった香澄に記憶が戻ってないなら、私はそのままでいいと思った。

真実を伝えることは大切だし、香澄も知る権利はあると思う。

でも伝えるというのは区切りをつけたいという大人の勝手な思いであって、知らされた本人がどれだけ苦しみ悲しみ絶望するかということは全く考えていない。

知らないで幸せなら知らないままでいさせてあげるのも本当の優しさであり愛情のような気がする。

だから私は、お母さんの意見に反対した。

香澄に真実を伝えたいお母さんと真実は闇の中に葬ってしまった方が良いという私の意見は真っ向から対立した。

何を言い合ったところで答えは出なかった。

だから話し合いは平行線のまま幕を閉じた。


そして私はその日から香澄の母親になった。

あの事件から4日後に通夜が行われ、翌日に葬儀が行われた。

その間、私は香澄の側から決して離れなかった。

これからは、いずみんに代わって私が香澄を守り、育てていく。

絶対に幸せにしてみせる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

恥ずかしすぎる教室おねしょ

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
女子中学生の松本彩花(まつもと あやか)は授業中に居眠りしておねしょしてしまう そのことに混乱した彼女とフォローする友人のストーリー

処理中です...