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そして階段を駆け下りると、途中の踊り場で足を止めて泣き崩れてしまった。
お母さんは死を覚悟していた。
手術さえすれば治るのに、数千万円という莫大な医療費のせいで手術費用も準備できないために死を受け入れる他に選択肢がなかった。
1階の待合室に行ってみると、いずみんの姿がどこにもなかった。
あれ?
ここで待ってるように言ったつもりだったんだけど…。
勘違いをしてどこかに行っちゃったのかな?
「しっ‥しお…りん…」
「いずみん、どこに行ってたの?」
「とっ‥といれ…に…いっ…てた…」
トイレに行ってたと言ういずみんの顔を見ると目は充血し、腫れぼったいような気がした。
「大丈夫?」
「なっ‥なに…が?」
「何でもないけど…」
泣いてた?
だとしたら、その涙の理由ってもしかして…
「はっ‥はや…く…かえ…ろう…」
いずみんは私の手を掴むと、その場を逃げるかのように手を引っ張って連れていかれた。
その日は家に帰ると、いずみんは自分の部屋に閉じこもってしまい出てこなかった。
夕食の支度もしてもらえなかったので、近くのコンビニに行って2人分のカップ麺とサンドイッチを買って食べた。
いずみんには声をかけたけど、結局は食べないで眠ってしまったようだった。
翌日。
起きてキッチンに入ると、いつもと何ら変わりなく朝食を作っているいずみんがいた。
「いずみん、おはよう」
「おっ‥おは…よう…」
いつもと同じように見えたけど、全然違っていた。
私に悟られないように振る舞っているつもりでも、明らかに落ち込んでいる様子だった。
「いずみん、今日は病院に行くの?」
「いっ‥いか…ない」
「行かないの?何か用事でもあるの?」
「ちょ‥ちょっ…と…」
「そう…」
用事とは西島彰とのデートだろうか?
それとも他に何か予定があるというのだろうか?
何はともあれ、いずみんは朝食を済ませて学校の支度を終えると家を出て行った。
私は病院に行く前に寄るところがあった。
お母さんの職場…
吉野さんの経営するお店で吉野さんと会う約束をしていた。
それは、お金を少しでもいいから貸して下さいとお願いしに行くつもりだった。
そしてもう1つ、私を吉野さんのお店で雇ってくれるようお願いするつもりだった。
きっと高校生の私が夜のお店で働いていることが学校にバレたらタダじゃ済まないだろう。
間違いなく退学処分になるだろう。
それでもよかった。
お母さんのために何か出来るなら何でもしてあげたかった。
約束の11時に間に合うように原チャで八王子に向かった。
グーグルマップで案内されながら何とか1時間程度でお店の前に到着した。
お店の外観は想像していたものとは全然違っていた。
もっとネオンがキラキラしてド派手なイメージだったけど、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせるような高級感のある佇まいだった。
中に入るのを躊躇してしまうような威圧感があった。
でも、勇気を振り絞って中に入っていくと、私に気づいた吉野さんが直ぐに駆け寄って来てくれた。
お母さんは死を覚悟していた。
手術さえすれば治るのに、数千万円という莫大な医療費のせいで手術費用も準備できないために死を受け入れる他に選択肢がなかった。
1階の待合室に行ってみると、いずみんの姿がどこにもなかった。
あれ?
ここで待ってるように言ったつもりだったんだけど…。
勘違いをしてどこかに行っちゃったのかな?
「しっ‥しお…りん…」
「いずみん、どこに行ってたの?」
「とっ‥といれ…に…いっ…てた…」
トイレに行ってたと言ういずみんの顔を見ると目は充血し、腫れぼったいような気がした。
「大丈夫?」
「なっ‥なに…が?」
「何でもないけど…」
泣いてた?
だとしたら、その涙の理由ってもしかして…
「はっ‥はや…く…かえ…ろう…」
いずみんは私の手を掴むと、その場を逃げるかのように手を引っ張って連れていかれた。
その日は家に帰ると、いずみんは自分の部屋に閉じこもってしまい出てこなかった。
夕食の支度もしてもらえなかったので、近くのコンビニに行って2人分のカップ麺とサンドイッチを買って食べた。
いずみんには声をかけたけど、結局は食べないで眠ってしまったようだった。
翌日。
起きてキッチンに入ると、いつもと何ら変わりなく朝食を作っているいずみんがいた。
「いずみん、おはよう」
「おっ‥おは…よう…」
いつもと同じように見えたけど、全然違っていた。
私に悟られないように振る舞っているつもりでも、明らかに落ち込んでいる様子だった。
「いずみん、今日は病院に行くの?」
「いっ‥いか…ない」
「行かないの?何か用事でもあるの?」
「ちょ‥ちょっ…と…」
「そう…」
用事とは西島彰とのデートだろうか?
それとも他に何か予定があるというのだろうか?
何はともあれ、いずみんは朝食を済ませて学校の支度を終えると家を出て行った。
私は病院に行く前に寄るところがあった。
お母さんの職場…
吉野さんの経営するお店で吉野さんと会う約束をしていた。
それは、お金を少しでもいいから貸して下さいとお願いしに行くつもりだった。
そしてもう1つ、私を吉野さんのお店で雇ってくれるようお願いするつもりだった。
きっと高校生の私が夜のお店で働いていることが学校にバレたらタダじゃ済まないだろう。
間違いなく退学処分になるだろう。
それでもよかった。
お母さんのために何か出来るなら何でもしてあげたかった。
約束の11時に間に合うように原チャで八王子に向かった。
グーグルマップで案内されながら何とか1時間程度でお店の前に到着した。
お店の外観は想像していたものとは全然違っていた。
もっとネオンがキラキラしてド派手なイメージだったけど、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせるような高級感のある佇まいだった。
中に入るのを躊躇してしまうような威圧感があった。
でも、勇気を振り絞って中に入っていくと、私に気づいた吉野さんが直ぐに駆け寄って来てくれた。
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