パパLOVE

卯月青澄

文字の大きさ
上 下
363 / 404

363

しおりを挟む
そして階段を駆け下りると、途中の踊り場で足を止めて泣き崩れてしまった。

お母さんは死を覚悟していた。

手術さえすれば治るのに、数千万円という莫大な医療費のせいで手術費用も準備できないために死を受け入れる他に選択肢がなかった。

1階の待合室に行ってみると、いずみんの姿がどこにもなかった。

あれ?

ここで待ってるように言ったつもりだったんだけど…。

勘違いをしてどこかに行っちゃったのかな?

「しっ‥しお…りん…」

「いずみん、どこに行ってたの?」

「とっ‥といれ…に…いっ…てた…」

トイレに行ってたと言ういずみんの顔を見ると目は充血し、腫れぼったいような気がした。

「大丈夫?」

「なっ‥なに…が?」

「何でもないけど…」

泣いてた?

だとしたら、その涙の理由ってもしかして…

「はっ‥はや…く…かえ…ろう…」

いずみんは私の手を掴むと、その場を逃げるかのように手を引っ張って連れていかれた。

その日は家に帰ると、いずみんは自分の部屋に閉じこもってしまい出てこなかった。

夕食の支度もしてもらえなかったので、近くのコンビニに行って2人分のカップ麺とサンドイッチを買って食べた。

いずみんには声をかけたけど、結局は食べないで眠ってしまったようだった。

翌日。

起きてキッチンに入ると、いつもと何ら変わりなく朝食を作っているいずみんがいた。

「いずみん、おはよう」

「おっ‥おは…よう…」

いつもと同じように見えたけど、全然違っていた。

私に悟られないように振る舞っているつもりでも、明らかに落ち込んでいる様子だった。

「いずみん、今日は病院に行くの?」

「いっ‥いか…ない」

「行かないの?何か用事でもあるの?」

「ちょ‥ちょっ…と…」

「そう…」

用事とは西島彰とのデートだろうか?

それとも他に何か予定があるというのだろうか?

何はともあれ、いずみんは朝食を済ませて学校の支度を終えると家を出て行った。

私は病院に行く前に寄るところがあった。

お母さんの職場…

吉野さんの経営するお店で吉野さんと会う約束をしていた。

それは、お金を少しでもいいから貸して下さいとお願いしに行くつもりだった。

そしてもう1つ、私を吉野さんのお店で雇ってくれるようお願いするつもりだった。

きっと高校生の私が夜のお店で働いていることが学校にバレたらタダじゃ済まないだろう。

間違いなく退学処分になるだろう。

それでもよかった。

お母さんのために何か出来るなら何でもしてあげたかった。

約束の11時に間に合うように原チャで八王子に向かった。

グーグルマップで案内されながら何とか1時間程度でお店の前に到着した。

お店の外観は想像していたものとは全然違っていた。

もっとネオンがキラキラしてド派手なイメージだったけど、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせるような高級感のある佇まいだった。

中に入るのを躊躇してしまうような威圧感があった。

でも、勇気を振り絞って中に入っていくと、私に気づいた吉野さんが直ぐに駆け寄って来てくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最後の想い出を、君と。

青花美来
ライト文芸
その一ヶ月は、私にとっては宝物のようなものだった。

後宮の下賜姫様

四宮 あか
ライト文芸
薬屋では、国試という国を挙げての祭りにちっともうまみがない。 商魂たくましい母方の血を強く譲り受けたリンメイは、得意の饅頭を使い金を稼ぐことを思いついた。 試験に悩み胃が痛む若者には胃腸にいい薬を練りこんだものを。 クマがひどい若者には、よく眠れる薬草を練りこんだものを。 饅頭を売るだけではなく、薬屋としてもちゃんとやれることはやったから、流石に文句のつけようもないでしょう。 これで、薬屋の跡取りは私で決まったな!と思ったときに。 リンメイのもとに、後宮に上がるようにお達しがきたからさぁ大変。好きな男を市井において、一年どうか待っていてとリンメイは後宮に入った。 今日から毎日20時更新します。 予約ミスで29話とんでおりましたすみません。

会うたびにハグしてくる可憐な女の子は匂いフェチの変態だった

チドリ正明@不労所得発売中!!
恋愛
 サクサク読めます  僕に会うたびにギュッとハグをしてくる可憐な女の子の話

タイムカプセル

森羅秋
ライト文芸
今年二十歳になった牧田北斗は、週末にのんびりテレビを見ていたのだが、幼馴染の富士谷凛が持ってきた、昔の自分達が書いたという地図を元にタイムカプセルを探すことになって…? 子供の頃の自分たちの思い出を探す日の話。 完結しました。

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

サクラ舞い散るヤヨイの空に

志波 連
ライト文芸
くるくるにカールさせたツインテールにミニスカート、男子用カーデガンをダボっと着た葛城沙也は、学内でも有名なほど浮いた存在だったが、本人はまったく気にも留めず地下アイドルをやっている姉の推し活に勤しんでいた。 一部の生徒からは目の敵にされ、ある日体育館裏に呼び出されて詰問されてしまう沙也。 他人とかかわるのが面倒だと感じている飯田洋子が、その現場に居合わせつい止めに入ってしまう。 その日から徐々に話すことが多くなる二人。 互いに友人を持った経験が無いため、ギクシャクとするも少しずつ距離が近づきつつあったある日のこと、沙也の両親が離婚したらしい。 沙也が泣きながら話す内容は酷いものだった。 心に傷を負った沙也のために、洋子はある提案をする。 他のサイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより引用しました。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...