パパLOVE

卯月青澄

文字の大きさ
上 下
352 / 441

352

しおりを挟む
プルルルル――プルルルル――

私の携帯電話の着信音が鳴り始めた。

画面を見ると、お母さんからだった。

慌てて店の外に出て応答のボタンを押した。

『もしもし詩織、今どこにいるの?』

『カフェで食事してる』

『そうなの。泉水が風邪で学校を休んでるんだって』

『うん』

『帰る時にドラッグストアで風邪薬を買ってきて。それとスポーツ飲料とゼリー系の食べ物を買って行ってもらえる?』

『うん、いいよ』

『たぶん1人で不安だろうから早く帰ってあげて』

『出来るだけ早く帰るから安心して』

『よろしくね』

『お母さん、体の調子はどうなの?』

『何よ突然?』

『最近、具合悪そうだったから。顔色も悪いし、グッタリしてることも多いし…』

『大丈夫よ。ちょっと疲れがたまってるだけ』

『そうかもしれないけど…1度病院に行って診てもらった方がいいよ』

『そうね、今度休みの日にでも行ってみるわ。心配してくれてありがと。じゃあ、泉水のことよろしくね』

『うん、わかった…』

そう言って母は電話を切った。

母の声は元気そうに聞こえたけど、無理に元気を装っているように感じられたし、いつものお母さんの声とは違っていた。

何かもの凄く嫌な予感がした。

また、今のお母さんとの電話で私は遠い夢の世界から現実の世界に引き戻された。

私が彼と一緒にいて感じた幸せは全ていずみんのものだった。

本来ならいずみんが味わうはずだった幸せだった。

彼が私に見せる微笑みも優しい話し方も態度も全ていずみんに向けられたものだった。

その全てから彼のいずみんに対する想いを感じぜずにはいられなかった。

きっと彼はいずみんのことが好き。

好きという言葉では足りないくらいの愛さえ感じる。

そしてまた、いずみんも彼のことが好き。

だから内向的でおとなしい性格のいずみんが1人で電車を乗り継いで彼の出演する舞台を観に行った。

それと同時にもうひとつわかった。

いずみんが夏休みに毎週土日に休んでいたのは彼の舞台を観に行き、彼に会うためだった。

全てがわかった瞬間、天国から地獄へ突き落とされたような気持ちになった。

それから私は何事もなかったかのように彼の待つテーブル席に戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...