パパLOVE

卯月青澄

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開場時間になり席に着くと、舞台が余りにも目の前にあり過ぎて、何故か観客の私の方が緊張のボルテージがマックスになった。

そして公演時間の10分前になった時、うしろを振り返ってみると全ての席が埋まっていた。

超満員だった。

スゴい…

たった数ヶ月の間でこんなにも爆発的な人気になるなんて思ってもいなかった。

やっぱり素晴らしい役者さんたちと、天才的な演出家と脚本家が揃っている舞台は誰も放っておく訳がない。

定刻の時間になり、舞台が始まった。

目と鼻の先で演技をしている役者さんを見れるなんてそうそうない。

マジで演技が上手いし迫力のアクションシーンは私たち観客に瞬き1つさせてもらえないくらい目が離せなかった。

そしてとうとう彼の登場シーンがやって来た。

目の前で見る彼は役柄ということもあってクールでカッコ良かった。

彼のセリフもアクションも全てが最高で完璧で涙が溢れてきて止まらなかった。

声を出して叫びたいくらい彼に魅了され、死にたいくらい好きになった。

舞台が終わるとしばらくは席を立てなかった。

彼の声、彼の表情、彼の動き、どれもが私の目に焼きつき、頭から離れなかった。

心は舞台の世界にあり、現実世界とはかけ離れたところにあった。

トントンっ――

誰かに肩を叩かれて初めて自分が今どこにいるのかを認識した。

「しっ‥しお…りん…」

「えっ‥」

私の目の前に現れたのは黒い帽子をかぶり、地味目のTシャツにベージュのスラックスを履き、リュックを背負っている人物…

パッと見、男子にも見えるその人物は他の誰でもない“いずみん”だった。

「いずみん、どうしてここに?」

自分で聞いといて愚問だと直ぐに気づいた。

「そっ‥それは…」

「ごめん、変なことを聞いて。この舞台、今スゴく人気があるから観に来たんでしょ?」

「うっ‥うん」

「わっ‥私も前から気になってて、バイト休んで観に来ちゃったんだ」

「うん」

「まさか、いずみんまで観に来てると思わなかったからビックリだよ」

「わっ‥わた…しも」

「じゃあ、一緒に帰ろうか?」

「さっ‥さきに…かえ…って…いい…よ」

「どっか行くところでもあるの?」

「うっ‥うん」

「私も付き合おうか?」

「だっ‥だい…じょう…ぶ」

いずみんが1人で舞台を観に来たことも驚きだけど、私の誘いを断って1人でどこかに行こうとしていることにも驚かされた。
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