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「1つだけ条件があるわ。香澄には彰くんと泉水は離婚したことにしてちょうだい。そしてあなたは泉水と快斗と香澄を捨てた父親ということにさせてちょうだい。そうすれば香澄はあなたには会おうとしないし、会わなければ危険な目にあうことないわ」
おばあちゃんは土下座をするお父さんにそう言うと、肩に優しく手を置いて慰めてあげていた。
「あの娘のためなら何でもします…」
「本当にツラいと思うわ。でも、会わなくても出来ることはあるし、影で見守ることは出来るんだから耐えてちょうだい」
「はい…」
「そしてもし、香澄の記憶がこの先戻らなかった時は、香澄が高校生になったら全てを話しましょう」
「わかりました…」
香澄が高校生になるまで8年ある。
気の遠くなるような話だった。
だけど、それで香澄が安全に安心して暮らすことが出来るなら我慢しなくてはならない。
でも、1人だけそのことに反対の人間がいた。
詩織さんだ。
詩織さんは香澄の記憶が戻らなければ、お母さんの死を生涯伝えないと頑なに主張した。
確かに、詩織さんの言うことも最もだと思った。
記憶の戻らない香澄に本当のお母さんは8年前に殺されていて、今一緒に暮らしているお母さんは実は本当のお母さんじゃないと知ったら頭がおかしくなり、心が壊れてしまう可能性だって考えられる。
真実など何も知らない方が幸せなのかもしれない。
「快斗、おばあちゃん家は東京の青梅市ってところにあるんだよ。緑がいっぱいで自然に囲まれたいいところだよ。お父さんにも妹の香澄にも会おうと思えばいつでも会えるよ。おばあちゃんところに来てくれるかい?」
「うん」
おばあちゃんのところに行くということは引っ越しをして違う小学校に転校しなければならないということ。
今の学校の友達やサッカーのチームメイトともお別れをしなくてはならない。
嫌に決まってる。
転校をしないですむならしたくない。
行きたくない。
でも、僕のわがままで詩織さんやおばあちゃんの気持ちを無駄にする訳にはいかない。
だから僕は黙って頷いた。
その日から、目を覚ました香澄の側には詩織さんがずっと付きっきりでいてくれた。
香澄は何の疑いもなく詩織さんのことをお母さんだと思って接していた。
顔も声もソックリで言われなければ、僕だって詩織さんとお母さんを見分けることは出来ないだろう。
そしてあの事件から4日後に通夜が行われ、翌日に葬儀が行われた。
その間も、詩織さんは香澄の側から決して離れなかった。
詩織さんがいてくれたから何事もなく、また香澄に知られることもなく無事に通夜と葬儀を終えることが出来た。
おばあちゃんは土下座をするお父さんにそう言うと、肩に優しく手を置いて慰めてあげていた。
「あの娘のためなら何でもします…」
「本当にツラいと思うわ。でも、会わなくても出来ることはあるし、影で見守ることは出来るんだから耐えてちょうだい」
「はい…」
「そしてもし、香澄の記憶がこの先戻らなかった時は、香澄が高校生になったら全てを話しましょう」
「わかりました…」
香澄が高校生になるまで8年ある。
気の遠くなるような話だった。
だけど、それで香澄が安全に安心して暮らすことが出来るなら我慢しなくてはならない。
でも、1人だけそのことに反対の人間がいた。
詩織さんだ。
詩織さんは香澄の記憶が戻らなければ、お母さんの死を生涯伝えないと頑なに主張した。
確かに、詩織さんの言うことも最もだと思った。
記憶の戻らない香澄に本当のお母さんは8年前に殺されていて、今一緒に暮らしているお母さんは実は本当のお母さんじゃないと知ったら頭がおかしくなり、心が壊れてしまう可能性だって考えられる。
真実など何も知らない方が幸せなのかもしれない。
「快斗、おばあちゃん家は東京の青梅市ってところにあるんだよ。緑がいっぱいで自然に囲まれたいいところだよ。お父さんにも妹の香澄にも会おうと思えばいつでも会えるよ。おばあちゃんところに来てくれるかい?」
「うん」
おばあちゃんのところに行くということは引っ越しをして違う小学校に転校しなければならないということ。
今の学校の友達やサッカーのチームメイトともお別れをしなくてはならない。
嫌に決まってる。
転校をしないですむならしたくない。
行きたくない。
でも、僕のわがままで詩織さんやおばあちゃんの気持ちを無駄にする訳にはいかない。
だから僕は黙って頷いた。
その日から、目を覚ました香澄の側には詩織さんがずっと付きっきりでいてくれた。
香澄は何の疑いもなく詩織さんのことをお母さんだと思って接していた。
顔も声もソックリで言われなければ、僕だって詩織さんとお母さんを見分けることは出来ないだろう。
そしてあの事件から4日後に通夜が行われ、翌日に葬儀が行われた。
その間も、詩織さんは香澄の側から決して離れなかった。
詩織さんがいてくれたから何事もなく、また香澄に知られることもなく無事に通夜と葬儀を終えることが出来た。
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